浮遊図書館の魔王様

るーるー

第十七話 喜ばれました

 浮遊図書館が着陸して五日。
 意外なことになにも起こらない。いや、言い方が悪かった。誰も来ない。
 当初のわたしの見込みでは冒険者なり騎士団なり貴族なりがある程度は来る予定だったんだけど。


「誰も来ないじゃないか」


 王座の間で一人、本を読みながら呟いた。
 魔王ってこんな感じなのかな〜。勇者が来るまで一人ポツンといるんだろうし。あ、勇者にあった時のセリフでも練習してるのか。とかなりどうでもいいことを考える。


「レクレ様、戻りましたー」
「「戻りましたー」」


 元気な声が先ほどまで静かだった王座に響く。
 本から視線を上げるとリュックサックを背負った三人組、アル、ビリアラ、マーテが広間に入って来る所だった。


「おかえり。町の様子はどうだった?」
「おいしかったです」


 ビリアラが口の周りに食べカスをたくさんつけて答えた。
 三人組にはお小遣いを上げるかわりに町の様子を見て来てもらったからね。まぁ、何を買ってもいいけど。


「えっとこの浮遊図書館についてはなんか貴族の人が喋るなって言ってるみたいです」
「貴族が?」
「あとなんか強そうな鎧がいっぱいいたぞ。かっこいい剣とかもったやつが!」
「鎧ねぇ」
「あと、本屋さん閉まってた」
「だよねー」


 わたしはマーテ、アル、ビリアラの見て来たものを聞いて腕を組み考える。
 本屋が閉まってた。これは仕方ない、魔法で吸い上げちゃったし。つまり売り物の在庫がなくなったのだろう。
 アルの言う鎧のほうは十中八九、騎士団ぽい。彼らなら空飛ぶ城を異形の物と思い攻撃を仕掛けてくるのはわかるんだけど。


「貴族が情報を隠す理由がわかならいな」
「単純なことじゃないですか?」
「どういうこと?」


 後ろに控えるアトラに問いかける。単純なことってなんだろ。


「ご主人は理解してないでしょうが、浮遊図書館というか浮遊魔法という奇跡の領域に近い魔法、そして莫大なる魔力、これだけでも十分魅力的ですよ」
「つまり、独占が目的ってこと?」
「おそらくですが」


 なるほど、確かにそう言われたらそうだ。
 未知の魔法というのは未知というだけで価値を持つ。
 そして魔力タンク、貯蔵する容量は人により違うがこの浮遊図書館の主になった場合、図書館の魔力は全て主のものとなる。


「手にはいれば莫大な力か」
「まぁ、国を作れるくらいなんじゃないですかね?」


 そりゃ、情報をださないようになるよね。
 独占したら国の主になれるわけだしね。
 そう考えたら特権階級意識が強い貴族はそうするだろうしね。


「なんか貴族が国をダメにしてる気がしないでもないね」
「貴族、滅ぼす?」
「滅ぼしちゃう?」
「やっちゃう?」


 冗談混じりに言った言葉に真面目に返事をしてくる妹三人組の頭をわたしは苦笑しつつ撫でる。すると三人は気持ち良さそうに目を細めた。


「滅ぼしはしないよ。世界の歯車としてまだ貴族という、位は必要なんだよ」
「どうして?」
「上に立つ位の人がいなくなったらどうしたらいいかわからない人が多いからだよ」


 わたしの答えにビリアラは尻尾を?の形に変える。横を見るとマーテもアルも同じようになっていた。


「まだ、君たちには早いかな」


 子供に政治の話というか国の話してもわからないよね。
 それに国の事考えるなんてらしくなかったし。


「それより、街で何を買ってきたの?」
「お菓子!」
「料理道具!」
「斧!」


 ……いろいろ買ってきて、喜んでもらえてお姉さんは嬉しいよ。
 喜々として買ってきた物をリュックサックから取り出してはこちらに笑顔で見せてくれる。


「あげたリュックサックは便利?」
「うん、すごく便利!」


 マーテが背負っていたリュックサックを頭の上に掲げニコニコと笑う。
 マーテが掲げているリュックサックは普通の物ではなく、いまでは製造法が解明され安く売られている古代魔導具アーティファクト魔法のカバンマジックバックだ。
 効果は見た目以上に物が入るという主婦に優しい家庭的な古代魔導具アーティファクトだ。


「喜んでくれるとわたしめ嬉しいよ」


 三人で買った物を見せ合っているのを眺めているとなんか癒しの空間にいるみたいだね。


「失礼いたします」


 大きな声が聞こえ、そちらに視線を向ける。
 扉を開け、レキが入って来る所だった。
 腰には見たことのない一振りの剣を下げていた。


「レキは買い物行かなかったの?」
「はい、相棒の手入れをしていました」


 そういうとレキは下げていた剣を軽く撫でる。
 なにか思い入れがある剣なのかな。
 レキは居住まいを正し、礼をする。


「それでなにかあった?」
「はい、貴族を名乗る者が謁見を申し出ています」


 ああ、また面倒ごとが向こうからやってきた。

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