天白家の日常(連載版)
うちの母親はぱない
父親が病院送りになろうが月曜日というのはやってくる。憂鬱だ、ああ憂鬱だ。
かく言う食う寝るサンダースな僕も憂鬱だ。
なぜなら朝は早く起きなきゃいけないし、着替えもしなくちゃいけない、なにより学校に行かなくちゃいけないからだ。
だから言おう。
「お前らがうちに授業をしにこいと!」
「うるさいわ、使郎。鼻の穴にわさびを注ぐわよ」
「やめろよ! 鼻がスースーするだろ!」
叫ぶ僕の横を天白然が通り過ぎる。全くこの妹は兄に対して口の聞き方がなってない。
いや、鼻詰まりが治るかもしれないな。
「マスターいつもの」
「待て、ここはBARじゃないんだぞ?」
然がリビングの椅子に座り当然のように告げる。するとスーと茶色の液体が入ったグラスが一滴も零れることもなくテーブルの上を滑り然の目の前で止まる。
「いつものよ〜」
「マスター⁉︎」
ニコニコ顏でコップを滑らしたのはうちの母親天白パルでした!
グラスに入っている氷がカランっと子気味のいい音を立てた。
「マスター、例のものを」
すると再びスーと大きめの封筒がテーブルの上を滑り然の前で再度停止する。
「宿題よ〜」
「そんなものまで⁉︎」
なんだうちの母親は何でも屋なのか⁉︎
「確かに、報酬はいつもの方法で」
「常連⁉︎ 常連なのか⁉︎」
然は封筒を受け取るとグラスに入っている。茶色の液体を一気飲みし席を立った。
まじか、うちの母親は何時もので通じるのか。
そう思った僕は椅子に座る。
「マスター、いつもの」
そう言うと然の時のようにテーブルの上をスーと滑り僕の前で止まる。ペットボトルが。
「なんでペットボトル⁉︎ グラスじゃないの⁉︎」
「だって、使郎のいつものなんてしらないもの〜」
「兄妹だよね⁉︎ 僕と然って! 扱い違いすぎない⁉︎」
「でもわからないなりに母さんがんばったのよ? ラベル見てみてよ〜」
母さんがなぜかウキウキとしたような表情(基本いつもニコニコしている)を浮かべながらこちらのリアクションを楽しみにしているようだ。
ラベルがなんだっていうん……だ⁉︎
「こ、このラベルは!」
「気づいたからしら?」
「『天白家の美味しい水』だと!」
市販品かと思ったらめちゃくちゃ手の込んだラベルだな! ちゃんと見なかったら気付かなかったよ。栄養成分表示とかも細かく書いてるし、何気にラベルに自分の顔写真入れてるし! バーコードまで! しかもなんだよこのフォト! 吹き出しで『我が家の水道水を心を込めて入れました』って、
「唯の水道水じゃないか!」
「ええ、片手間で入れたのよ〜」
「詐欺じゃん!」
「でもラベル作るのに3日かかったわ〜」
「めちゃくちゃ凝ってるな!」
これを3日とか我が母親ながら恐ろしい。
仕方なしにキャップを開け一気に飲む。心なしか酸っぱくないかな?
「……なんかこれ酸っぱくない?」
「体のことを考えてお酢を入れたのよ〜」
「……水に?」
「そうよ〜」
もうこのニコニコ顏の母さんにはツッコミは入れない。
そういえば然は宿題も貰ってたな。
「マスター、例のものを」
そういうと然の時とは違う小さな封筒が滑ってきた。はて? 宿題は歴史についてのレポートだったはずなんだけどな。
不審に思い母さんのほうを見るが既に洗い物をしているため背中しか見えない。
仕方なしに封筒を開けると三つ折りにされセロテープでつなぎ合わされた紙が出てきた。なんだろ? これ。
折られた紙を広げた瞬間、僕の背中に嫌な汗が流れた。いや、背中だけじゃない。見えはしないが顔もすごい脂汗が流れてきているだろう。
「な、なぜこれが……」
僕が震える手で握っていたのは以前受けたテストの答案用紙だ。前日まで漫画を読んだりゲームをしたりして全く勉強せずに受けたテストの答案用紙だ。
「これは確実に証拠隠滅さしたはずなのに!」
「本当〜 苦労したわ〜 まさかシュレッダーにかけてバラバラにするなんて〜 おかけで30分も時間を使っちゃったわ」
「ひぃ!」
いつの間にか目の前にいた母さんに驚き手にしていたテストの答案用紙が手から落ちた。
その答案用紙を床に落ちる前に母さんがすかさず拾い上げた。
シュレッダーにかけたものを30分で復元させるとかうちの母親おかしい!
「ところで使郎」
「は、はい」
「どうして答案用紙にドーナツが1つあるのかしら?」
「え、えーと」
「ドーナツが2つならいいのよ〜 ドーナツが2つなら横には1が必ずあるんだから〜」
「ごめんなさい」
すかさず頭を床に擦り付ける土下座スタイル。まさかあそこまでして処分した答案用紙を復元するなんて。
「まぁ、こんなこともあるわ〜」
顔を上げるとにこやかな笑みを浮かべた母さんがたっていた。
「次は頑張りなさ〜い」
「母さん……」
優しげな母さんの言葉に僕は安堵する。
だがしかし、僕は見てしまった。母さんの笑ってる顏の中で唯一笑っていない部分、眼を。瞳だけは怒りの炎が燃えていたのだ。
その眼が告げていた。
『ニドメガアルトオモウナヨ?』と
……天白家は今日も平和です。
余談
母さんに宿題をやってもらった然は(母さんは白紙のノートを封筒に入れていたらしい)歴史の授業中ひたすら廊下にバケツを持って立たされていた。
かく言う食う寝るサンダースな僕も憂鬱だ。
なぜなら朝は早く起きなきゃいけないし、着替えもしなくちゃいけない、なにより学校に行かなくちゃいけないからだ。
だから言おう。
「お前らがうちに授業をしにこいと!」
「うるさいわ、使郎。鼻の穴にわさびを注ぐわよ」
「やめろよ! 鼻がスースーするだろ!」
叫ぶ僕の横を天白然が通り過ぎる。全くこの妹は兄に対して口の聞き方がなってない。
いや、鼻詰まりが治るかもしれないな。
「マスターいつもの」
「待て、ここはBARじゃないんだぞ?」
然がリビングの椅子に座り当然のように告げる。するとスーと茶色の液体が入ったグラスが一滴も零れることもなくテーブルの上を滑り然の目の前で止まる。
「いつものよ〜」
「マスター⁉︎」
ニコニコ顏でコップを滑らしたのはうちの母親天白パルでした!
グラスに入っている氷がカランっと子気味のいい音を立てた。
「マスター、例のものを」
すると再びスーと大きめの封筒がテーブルの上を滑り然の前で再度停止する。
「宿題よ〜」
「そんなものまで⁉︎」
なんだうちの母親は何でも屋なのか⁉︎
「確かに、報酬はいつもの方法で」
「常連⁉︎ 常連なのか⁉︎」
然は封筒を受け取るとグラスに入っている。茶色の液体を一気飲みし席を立った。
まじか、うちの母親は何時もので通じるのか。
そう思った僕は椅子に座る。
「マスター、いつもの」
そう言うと然の時のようにテーブルの上をスーと滑り僕の前で止まる。ペットボトルが。
「なんでペットボトル⁉︎ グラスじゃないの⁉︎」
「だって、使郎のいつものなんてしらないもの〜」
「兄妹だよね⁉︎ 僕と然って! 扱い違いすぎない⁉︎」
「でもわからないなりに母さんがんばったのよ? ラベル見てみてよ〜」
母さんがなぜかウキウキとしたような表情(基本いつもニコニコしている)を浮かべながらこちらのリアクションを楽しみにしているようだ。
ラベルがなんだっていうん……だ⁉︎
「こ、このラベルは!」
「気づいたからしら?」
「『天白家の美味しい水』だと!」
市販品かと思ったらめちゃくちゃ手の込んだラベルだな! ちゃんと見なかったら気付かなかったよ。栄養成分表示とかも細かく書いてるし、何気にラベルに自分の顔写真入れてるし! バーコードまで! しかもなんだよこのフォト! 吹き出しで『我が家の水道水を心を込めて入れました』って、
「唯の水道水じゃないか!」
「ええ、片手間で入れたのよ〜」
「詐欺じゃん!」
「でもラベル作るのに3日かかったわ〜」
「めちゃくちゃ凝ってるな!」
これを3日とか我が母親ながら恐ろしい。
仕方なしにキャップを開け一気に飲む。心なしか酸っぱくないかな?
「……なんかこれ酸っぱくない?」
「体のことを考えてお酢を入れたのよ〜」
「……水に?」
「そうよ〜」
もうこのニコニコ顏の母さんにはツッコミは入れない。
そういえば然は宿題も貰ってたな。
「マスター、例のものを」
そういうと然の時とは違う小さな封筒が滑ってきた。はて? 宿題は歴史についてのレポートだったはずなんだけどな。
不審に思い母さんのほうを見るが既に洗い物をしているため背中しか見えない。
仕方なしに封筒を開けると三つ折りにされセロテープでつなぎ合わされた紙が出てきた。なんだろ? これ。
折られた紙を広げた瞬間、僕の背中に嫌な汗が流れた。いや、背中だけじゃない。見えはしないが顔もすごい脂汗が流れてきているだろう。
「な、なぜこれが……」
僕が震える手で握っていたのは以前受けたテストの答案用紙だ。前日まで漫画を読んだりゲームをしたりして全く勉強せずに受けたテストの答案用紙だ。
「これは確実に証拠隠滅さしたはずなのに!」
「本当〜 苦労したわ〜 まさかシュレッダーにかけてバラバラにするなんて〜 おかけで30分も時間を使っちゃったわ」
「ひぃ!」
いつの間にか目の前にいた母さんに驚き手にしていたテストの答案用紙が手から落ちた。
その答案用紙を床に落ちる前に母さんがすかさず拾い上げた。
シュレッダーにかけたものを30分で復元させるとかうちの母親おかしい!
「ところで使郎」
「は、はい」
「どうして答案用紙にドーナツが1つあるのかしら?」
「え、えーと」
「ドーナツが2つならいいのよ〜 ドーナツが2つなら横には1が必ずあるんだから〜」
「ごめんなさい」
すかさず頭を床に擦り付ける土下座スタイル。まさかあそこまでして処分した答案用紙を復元するなんて。
「まぁ、こんなこともあるわ〜」
顔を上げるとにこやかな笑みを浮かべた母さんがたっていた。
「次は頑張りなさ〜い」
「母さん……」
優しげな母さんの言葉に僕は安堵する。
だがしかし、僕は見てしまった。母さんの笑ってる顏の中で唯一笑っていない部分、眼を。瞳だけは怒りの炎が燃えていたのだ。
その眼が告げていた。
『ニドメガアルトオモウナヨ?』と
……天白家は今日も平和です。
余談
母さんに宿題をやってもらった然は(母さんは白紙のノートを封筒に入れていたらしい)歴史の授業中ひたすら廊下にバケツを持って立たされていた。
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