床ぺろリスト! 魔法? 一発しか撃てませんが?

るーるー

エルフだって怖い

 魔法というのは相性というのが少なからず存在する。単純に言うと炎は水に弱く、水は雷に弱いといった具合である。ただし、これは基本である。火事が起きているような大火にコップ一杯の水で消せないことと同じようにあくまで少し有利になる程度のものである。
 そういう意味ではサブリナの使える唯一の魔法、吹き荒れる暴風の刃ゲヒャルトデルベスタは風属性の魔法では最上位に位置する魔法である。普通の炎なら切り裂き、消し飛ばすこともできたであろう。
 しかし、サブリナはもう一つの基本的な事を忘れていたのである。それは魔法の相乗効果である。特定の属性の魔法を掛け合わせる事で威力を倍以上にあげるものである。
 これらは魔法使いが師匠などについた時には必ず教えられる重要なことである。その証拠にファラは危険に気付きサブリナを止めようとしていた。しかし、頭が悪…… 頭に血が上りすぎていたサブリナはそんなことをかんなことを考える余裕など一切なかった。そのため、今迷宮上層では起こりえない史上最悪の魔法の相乗効果が発生した。


 吹き荒れる暴風の刃ゲヒャルトデルベスタを叩き込まれた炎の壁が膨れ上がり消し飛ぶと確信していたサブリナであったが炎の壁は最上位の風魔法を足されたことによりより大きな炎へと生まれ変わった。燃え盛る炎が大量の空気を注がれたことにより熱量と規模を広げ、魔法を放ち床に倒れこんでいるサブリナを飲み込まんとせんばかりに迫る。


「ギャァァァァァァ! 聞いてないぃぃぃぃぃ!」


 燃える勢いは増したが進む速度が若干ゆっくりとなった炎の壁といえど近くの岩を飴のようにドロドロに溶かしたその熱気に気づいたサブリナがこの世の終わりと言わんばかりに悲鳴を上げる。叫ぶたびに口の中に砂が入っているようであるがそんなことを気にしていられないほどに命の危機である。


「へるぶ! へるぷ! ファラ!」


 動けない体で必死にもがき前方のファラに助けを求めるサブリナ。そんなサブリナを冷静に、そして冷めた目で見ていたファラは小さく頷く。


「エスケープ!」


 手にしていた指輪を掲げ迷宮から脱出するためのキーワードをファラは一切の躊躇いを持たずに唱えた。瞬間、指輪の宝石が強く光を放ち砕けるとファラの姿が歪み、やがて姿を消した。
 しばらくの間、呆然としていたサブリナであったが炎の壁が彼女のブーツを軽く炙った瞬間に一瞬にして頭に血が昇る。


「あの裏切り者ガァァぁぁぁぁぁぁ! エスケェェェェプ!」


 頭に血が上りながらも自身の危機はなんとか覚えていたのかサブリナも緊急用の指輪を使い転移するのであった。


 ◇◇


「はぁ、今日は赤字だなぁ」


 冒険者ギルドに設置されている緊急用転移門から 頭をかきながらファラが姿を見せる。
 いつもならば魔力を使い切った状態のため這うようにしして出てくるのであるが今日はしっかりと歩いていた。そのいつもはへばっているのが基本なファラの姿にギルドフロアにいる面々は戦慄を感じていた。


「おい、ペロリストの一人がフロアを普通・ ・に歩いてるぞ!」
「這ってないぞ⁉︎ どういうことだよ!」


 日頃どれだけファラ達が床を這っているかがよくわかるような言動である。しかし、すでにファラ達はすでにそんな言葉で怒るレベルなどとうの昔に通り過ぎているのだが。


「おや、ファラじゃないか? 今日は立ってるみたいだけど魔法使わなかったの?」


 ファラが振り返ると何やら色々と荷物を持ったセーラーの姿が見えた。


「今日は付き添いのようなものですから」
「となるとサブリナとネイトかね?」
「ネイトはすぐに逃げましたよ。トレインさんと遭遇したので」
「君にしては賢明ではないか。魔法をぶちこむわけでもなくさっさと転移して逃げるとはね。まぁ、そのほうが迷宮にいらぬ被害がでないで助かるのだが」
「は、はははは」


 背中にあまり気持ちのいいものではない汗をかきながらファラは笑う。すでにサブリナのせいで上層が地獄のような光景になっていることは容易く予想はできたがあえて口にして怒られる必要もないだろうと考え喋らない。


「それで、サブリナは?」
「あー、それは……」


 置いてきました! とはさすがに言えないのか口ごもるファラであったが背後の転移門からなにかが這うような音が耳に入ったため振り返る。


「ふぁぁぁらぁぁぁぁ、ゆるさなぁぁい」


 長い金の髪に覆われたものがうめき声を上げながらファラのほうへと近寄ってきていた。


「ひぃ⁉︎」


 なにやら可愛らしい声が聞こえ、そのあとになにかが落ちるような音が響く。そちらにファラが振り向くと顔を引きつらせながら先ほどよりも僅かに後ろに下がり持っていた荷物をばら撒いているセーラの姿があった。


(ああ、いつも凛々しいから忘れてましたがセーラさんお化けとか嫌いでしたね)


 長年生きているエルフでさえも怖がるものがあるということを再認識したファラは自然と頬が緩んでいた。


「な、なんでこんなところにお化けが! まだ昼なのに!」
「落ち着いてください、セーラさん。これはサブリナです」


 動揺しすぎたセーラの瞳は揺れ、体はガタガタと音を立てるほどに震える始末である。
 そんなセーラをみてため息をファラがついた瞬間、地面が大きく揺れる。
 ギルド内でも悲鳴があがり、壁に掛けてある物や棚に入っているものが音を立てながら床へと落ちる。


「な、なにごと!」
「あ〜」


 断続的に続く揺れに動揺する人が大多数を占める中、ファラは面倒くさそうに、サブリナは這っているためよくわからないが怯えるかのように震えていた。


「ギルド職員は直ちに被害の確認を開始しなさい! あと手の空いてる冒険者や衛士にはけが人などの確認、それから救助を依頼しなさい! あなた達は危険だからここにいるのよ?」


 冒険者であるファラとサブリナであるが冒険者としてカウントせずに今までお化けに怯えていた人は誰? といわれてもおかしくないほどセーラの切り替わりの速さは素晴らしい物であった。
 慌てようにギルド職員と依頼用紙を持った冒険者が出て行くのを見届けたままファラとサブリナは目を合わせアイコンタクトを図る。


 証拠はない
 だったら今のうちに宿屋に逃げよう
 オーケー


 僅かの間に決定したことに互いが頷きファラがサブリナの足を掴み引きずるようにしてギルドの出口へと向かう。


「ちょ⁉︎ ファラ! 運んでくれるのはありがたいんだけどあの背中に背負ってくれたりとかしてくれても…… あっだぁ! 痛い! あ、あなたわざとでしょ! あきらきに進む方向変えたでしょう! あ、そこはだめ! そんな狭いところ通れな…… いたぃぃからやめてぇぇぇ!」


 悲痛なサブリナのさけび声がギルドを出たあとも宿屋に着くまで続いたという。




 ◇


 迷宮上層部。冒険不可(熱によりしばらくは)
 原因、冒険者サブリナ・フォンフォンの作製物による二次被害


 よって上記の者を二週間、迷宮探索禁止を言い渡す。


 冒険者ギルドより

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