床ぺろリスト! 魔法? 一発しか撃てませんが?

るーるー

ぽんこつハイスペック

「では」


 ドンがゆっくりと片手を上げパチンっという音と共にその場にいる全員に得体の知れない感覚が走る。


「決闘用のフィールドを張らせていただきました。これでこの場にいる皆様には怪我一つ負うことは無くなったので存分に殺しあってください」


 一礼し踵を返したドンはニヤリと笑う。今までの紳士的な態度が嘘のような獰猛な笑みである。


「野郎ども! 賭けの時間だ!」
『YAAAAAAAAA!』


 途端に声で酒場が揺れる。そうなることがわかっていたかのように耳を押さえていたファラとネイト。何人かのなにが起こるかわかっていなかった者達はあまりの大声に驚きひっくり返った。


「今回の賭けはルーキー同士の戦いだ!」
「俺はサブリナに賭けるぜ!」
「俺もだ!」
「私も!」


 瞬く間にサブリナのほうへと賭け金が積まれていく。その光景を見たフォードの変に高いプライドが刺激されたのか顔を真っ赤にしていた。対峙するサブリナはというとドヤ顔である。見ていてなんとも腹ただしい顔である。


「あ、僕もサブリナに全財産ね」
「我もサブリナに全てのチップを掛けよう」


 特に気負う様子もなくファラとネイトも賭けに参加していた。
 その後、何人かはフォードのほうへと賭けてはいたが比率で言えばサブリナ八、フォード二という結果である。


「はん! ウィンドカッター一発しか使えないような魔法使いに俺が負けるかよ」


 それでもフォードは自信を失うことなく剣を構える。しかし、サブリナの後方へと退避した客達は「おや?」と言わんばかりに頭の上に疑問符を浮かべているようだった。中にはため息をついている者までいる始末である。


「始めようぜ!」
「どうぞ」


 フォードが腰の剣を引き抜き白刃を構え告げる。それに対しサブリナが短く答えた瞬間、フォードが足を踏み出した瞬間。


「大気に満ちる蒼なる力よ」


 サブリナの口から詠唱が開始される。


「その蒼なる力で顕現させし力の刃よ」


 詠唱は淀みなく進む。ただその詠唱には意味がない。


「その力を持って我が眼前に立ちふさがる」


 詠唱とは魔法のイメージであり計算式である。その詠唱からイメージされる物が巨大であれば巨大であるほどに魔法は威力を高める。それは同じ魔法を違うと魔法使いが使ってもまるで威力が違うほどに。


「敵を斬り裂け! 吹き荒れる暴風の刃ゲヒャルトデルベスダ!」


 フォードが二歩めを踏み出す前に完成された高速詠唱。瞬時にサブリナの体の中にある全魔力が一瞬にして練り上げられ翳していた手に装着していた指輪から物理的な力として放たれる。杖の代わり指輪を魔法攻撃力アップとして媒介にしているサブリナが放った吹き荒れる暴風の刃ゲヒャルトデルベスダ。不可視と言える暴風の刃が嬉々として剣を振りかざすフォードの体を捉え、叩き込まれる。刹那、フォードの体が身に纏っていた鎧や小手といった防具をバラバラに砕きながら後ろへと吹き飛ばされた。いや、防具だけではなく手にしていた剣すらもズタズタに引き裂かれフォード自体も無傷な場所を探す方がむずかしいほどに血塗れと化す。


「がぶぁ⁉︎」


 吹き飛ばされ酒場の壁へと叩きつけられたフォードはなにが起こったかわからないままぶつけられた衝撃で血を吐き出し、呻き声を上げる。しかし、それでも吹き飛ばされる勢いは止まることなく叩きつけられた壁を破壊、酒場の外へと弾き出された。しかもそれですら勢いは殺すことが出来ずに向かいの建て物に激突、貫通、激突、貫通と幾度も繰り返しそれを五度ほど繰り返してようやくフォードは地面に転がることを許されたのだ。


「見たか! これがわたしの魔法! 吹き荒れる暴風の刃ゲヒャルトデルベスタよ!」


 勇ましく叫ぶサブリナであるがその姿は床に倒れているという格好良さの欠片も存在しない姿である。全魔力を使い切った彼女は自身の力で立っていることもできないためぐったりとしていた。


「余興にもならなかったね」
「うむ、だがこれで当面の金欠にはならないですんだ。是非サブリナには定期的に勘違いの愚か者共のパーティに引っかかって同様の決闘で儲けさせて欲しいものだ」


 勝つのが当たり前といった様子でファラとネイトは何気に酷いことを言いながらエールを飲んでいた。
 しかし、客の大半はファラやネイトと同じような様子であり再びの喧騒が戻りつつあった。そんな中でも呆然としている冒険者が数人いるのも事実である。


「おい、あの威力って……」
「本当にルーキーなのかよ」
「あれ、最上級魔法だろ?」


 彼らもこの迷宮都市で俗にルーキーと呼ばれる類の冒険者である。そんな彼らは自分たちと同じルーキーが作り出した惨状に驚きと恐怖を感じているのだ。


「ん? おまえらもルーキーか?」


 魔導契約ギアススクロールに書かれた契約書通りにフォードの仲間から身ぐるみを全て剥ぎ取り全裸のまま大通りに放り出したドンが呆然としている冒険者達に声をかけた。


「は、はい最近このカーディナスにやってきたんですけど」
「なんだか同じルーキーでも全然レベルが違うことにショックで……」


 明らかに落ち込んだ様子を見せる冒険者達を見てドンは豪快に笑う。


「ガハハハハハハ! そんなこと気にすんな! お前さん達のペースで強くなればいいんだよ」
「そうでしょうか」
「ああ、そうさあいつらを見てみろ」


 なおも悩むような素振りを見せる冒険者達をみたドンはファラとネイトに抱えられ椅子に座らせてもらっているサブリナを指さす。


「お前さんら『床ぺろ』って知ってるか?」
「ダンジョンでよく死んで神官に蘇生いさせられる奴ですよね?」


 冒険者の答えに「その通りだ」とドンは頷く。


「あいつ、というかあいつら三人は迷宮での床ぺろ率が異常に高い」
「え、あんなに強いのに⁉︎」
「まあ、それは奴らと迷宮に入ればわかるんだがな。それにあいつらだって初めから強かったわけじゃない」


「だからな」とドンは剥ぎ取った武器や防具を袋に放り込み、さらには抵抗してくる冒険者に拳をたたき込んでいた。


「おまえらはおまえらのペースでやりな」
「「はい!」」


 こうして反面教師として床ぺろ達は変な意味で尊敬されていく。


 ◇


 本日の収入
 冒険者から奪った防具×三
 冒険者から奪った武器×三
 冒険者から奪った財布×四
 ファラ、ネイトの全財産(持ち金の二倍)


 フォードの武器、防具は破損がひどいため買取不可


 結果
 生活費ゲット!

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