雑食無双ヨルムン

るーるー

ヨルムン、掘り出し物をみつける

 
 百足ひゃくあしイノシシの肉を食べ損ねて数日。
ある日、我が特に目的もなくぶらぶらと人の多い中央通りを歩いていた時のこと。
 両手いっぱいに焼き串を持ち、さらには口の中にも頬張っている時のことじゃった。


「むぅ? ふぁれふぁふぁんしゃ?」
「先生、喋るか食べるかにしてくださいよ」


 我の独り言に反応するかのようにいつも通り勝手についてきたルーがため息まじりに抜かしおる。
 仕方なしに口に入れていた焼き串を串ごと咀嚼、盛大に音を立ててやると周りの奴らが何事かと言わんばかりに我の方を一瞬だけ注視して、ああ、またかと言うような顔をして元の方へと視線を戻しよる。


「お主、勝手についてきておるだけのくせに小うるさいのぅ。お主は我の母親か?」
「いえ、弟子ですが?」


 うぅむ。弟子とはここまでうるさいものなのか。今後は弟子など絶対にとらん。
 いや、よくよく考えればこやつも無理やり弟子になったようなもんじゃないのか?


「そんなことよりも先生。なにか見つけたんじゃないんですか?」
「おー、そうじゃったそうじゃった」


 我は先ほど視界に入り気になっていたものが置いてある店の方へと人垣をかき分けるようにして進んでいく。
 そして店に置いてある一冊の古ぼけた本を手に取る。


「うむ、これは間違いないのぅ。というかまだこんなものが存在しておるとは」
「それはなんです?」
「うむ、これはのぅ!ぼ……」
「店主、これはいくらですか?」


 意気揚々と我が説明しようとしたのを遮るようにルーは我の口元へと手をやり口を塞ぐとその本を売っているらしき店の店主らしき奴に話しかけおる。


「ん? ああ、古いし誰も買い手がつかないしなぁ。二十セルでいいよ」
「そうですか」


 そう告げると自分のサイフから二十セルを取り出し、我の持っていた本をあっさりと買ってしもうた。我はというと口を塞がれたままなので何も喋れんわけじゃしの。そのままルーに手を引かれるまま歩かされる羽目となった。
 ようやく人目につかないところまで連れられて口を塞いでいた手を離してもらえたわけじゃが。


「ぷはぁ! いきなりなにをするんじゃ!」
「先生、あんな状況でというか売っている店主の目の前でなんだかわかりませんが価値のある物の説明はよしたほうがいいでしょう。無駄に価値を知られると吹っかけられますよ?」
「む、そんな物なのか?」
「ええ、商人もとい商売人とはそういうものだと父が言っていました」


 ふむ、そんなものなのかのぅ。
 まぁ、確かに我が今持っている本は貴重といえば貴重と言えるものじゃからのぅ。


「それで先生、それはなんなんですか?」


 とりあえずは買ってみたものの何かは知らなかったらしいルーは興味深げな色を合わせた瞳を我な手元の本へと向けてきよる。


「うむ、これはな『ぼうけんのしょ』と呼ばれる魔法の道具じゃな」
「『ぼうけんのしょ』ですか?」


 うーむ、この顔を見る限り知らんようじゃのう。我が暴れてた時は挑んでくる人間には必需品だったというのにのぅ。


「簡単にいうとこれに名前を書くと死ななくなるのじゃ」
「え⁉︎ 不死になるってことですか⁉︎」
「いやいや、そうではない。言い方が悪かったのう。何回死ななくなるが正しいかのう」
「何回死ななくなる?」
「うむ」


 そう、この『ぼうけんのしょ』に名前を書き込み、死んだ場合。『ぼうけんのしょ』に名前を書き込んだ者はどこか他の場所で蘇生するというなんとも変わった魔法の道具なわけじゃ。
 なぜ我が特に人間と関わりなかったにも関わらずその情報を知っているのかという昔、世界蛇であった頃の我に挑んできた奴らが例外なくそれっぽい本のようなものをケースみたいなのに入れて腰に下げて持っておったからじゃ。
 もちろん一瞬でぶち殺してやったわけなんじゃがこの『ぼうけんのしょ』を持っていた奴らだけは攻撃を受けた瞬間に攻撃を受けた本人と『ぼうけんのしょ』のが光を放ち姿を消しておったからのう。
 後日、また意気揚々と同じ顔のやつが攻めてきよるわけなんじゃからなにか仕掛けがあると考えるのはいたって普通の事じゃろう。
 そういうのを何人か見ていると興味が湧いてきたわけでぷちっと殺す前にその本を奪い取ってから殺してみたらサクッと死んで死体もそのままじゃったからな。


「す、凄いじゃないですか! それがあれば死なないわけでしょ⁉︎ 騎士に必須のアイテムじゃないですか!」
「お、おう、そうじゃな」


 めちゃくちゃ顔をちかづけてくるんじゃが、思ったよりも凄い食いつきじゃな。
回数制限とかあるかもしれんから不死ではないと思うんじゃがな。


「しかも後に知り合いに聞いたところによれば経験値は死んでも入ってくるらしいぞ」


 我の場合は食べなければ経験値が入らんわけじゃから意味はないんじゃがな。


「こ、これがあれば死んでしまうほど強敵と戦っても経験値が……」


 思わず我の手元にある『ぼうけんのしょ』をルーが喉を鳴らし凝視してきおる。
 その目つきはまさに獲物を前にした獣のような目つきじゃ。


「…… 譲ってやろうか?」
「いいんですか⁉︎」


 ただでさえ近かった顔がさらに近づき、挙げ句の果てにぶつけてきよった。
 我は少しばかり衝撃を受けただけで痛みなどさしてないが勢いよく顔を突き出し我にぶつかってきたルーの方はというと苦悶の声を上げならひっくり返り、さらに転がりまわっておった。


「もともとお主が買ったものじゃからのぅ。それに我よりお主の方がコロっと死にそうじゃ」


 なにせ人間じゃしな。


「ありがとうございます!」


 我の手から奪うようにして『ぼうけんのしょ』を取り上げたルーは頬ずりせんばかりの喜びようじゃ。
 我には必要ないから別に惜しくはない。


 ただ、強いていうなら魔法道具を食べたらどれくらいの経験値が入るかが気になったらだけじゃがな。
 そう思いながら終いには『ぼうけんのしょ』に口づけをし始めたルーに気持ち悪さを感じながら我は一応の弟子を眺めるのであった。

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