メイドと武器商人

るーるー

メイドと極薄の壁

 目的地である王城に着いたので馬車が止まると私はフィルに荷物と共に放り込んでいるアオイを起こすように指示を出します。
 私はというと馬車の扉を開け、周囲を警戒しながら降ります。敵を感知したのであればフィルの奴が必ず声をかけるはずですが警戒は怠れません。戦闘になれば危険ですからね。
 周りを見渡し特に不審なものも見当たらないのでご主人様を外にお連れするとしましょう。


「ブタ君、台」
「はいぃぃ!」


 馬車から地面までそんなに高いわけではないのですがご主人様は地面を顎でしゃくりながらそう告げるとブタ君が地面に四つん這いなり段差を軽減さします。
 わずかな間にここまで調教してしまうとはご主人様、恐ろしい子! でもかわいい!
 そんな四つん這いのブタ君の背中を容赦なく踏みつけながらご主人様が地面に降り立ちます。なぜかブタ君は「あぁぁぁぁぁ、快感!」と喜んでいましたが今は無視してもいいでしょう。


「なんか途中から意識がないんだが…… なんで奴隷みたいなのが増えてるんだ?」


 頭をかきながら釈然としない様子で腰に刀を吊るしたアオイが姿を見せます。先程の魔導列車駅マギトレインステーションでの失態はすでに覚えていなさそうですね。


「アオイ、寝坊は減点ですよ」
「なんかからだのあちこちがズキズキ痛むんだけど……」
「気のせいですね」


 あまりいじって思い出されても面倒ですから黙っておきましょう。


「やあ! 武器商人フルーティ・ベルモンディアス。よく来たね!」


 誰もいなかったはずの空間にいかにも怪しげな風貌をした黒衣を着込んだ連中が突然現れたことに私とアオイが驚きながらも私はスカートの下から分厚いナイフを、アオイは腰の刀の柄を掴みいつでも戦闘を取れる構えを取ります。


「何者です?」
「ん? 君たちの依頼者だが?」


 警戒を解かないまま目の前の黒衣の連中へと尋ねます。
 さすがは魔導の国。気配なく姿をあらわすくらいは大したことではないということでしょうか。


「武器なら持って来てるよ殿下」
「さすがは武器商人。準備は万端か」


 楽しげに会話をしているご主人様と殿下とやらですがどうも胡散臭いですね。


「此度の旅はなかなかにスリリングだっただろう? なに君たちなら突破できると思っていたよ。別にあわよくば君たちを亡き者にして商品だけを奪おうとなんてかんがぇぇぇぅ⁉︎」


 殿下と呼ばれた男の言葉を遮るようにして私は反射的に踏み込み、殿下の顔にナイフの切っ先を突きつけるべく動きます。


 ご主人様に危害を加えようとした輩には死をさしあげましょう。


 本当ならば顔に突き刺してやろうとしたのですが刃が顔から一センチほど離れた所で停止。いくら力を込めようとも微動だにしません。


「し、心臓に悪いだろ⁉︎ 魔導師は繊細なんだ! もっと壊れ物を扱うかのように丁寧にだね……」
「リップス、黙らせていいよ。うるさいし」


 魔力の壁で刃を止めたことでいい気になっているらしい殿下とやらが饒舌に話し始めたのを煩わしそうに見たのかご主人がそう告げると同時に私はナイフから手を離し、腕を引き拳を作ると全力で魔力の壁を過信して喋り続けようとしていた殿下へと向けて振るって差し上げます。
 別段魔力なども帯ないただのメイドの拳、ですがご主人様に仕える機械人形オートマタとして恥じない一撃です。
 その拳は殿下の防御の魔力の壁を薄氷の如く叩き割り、よく回る舌を動かしていた殿下の顔面へと突き刺さります。


「ぱげらぁ⁉︎」
「「「「殿下ぁぁぁぁぁぁ⁉︎」」」」


 極薄ではあったものの一応は防御の魔法として効果はあったようでそれなりに威力は削がれたので殿下は元気に悲鳴をあげています。
 もし魔力の壁がなければおそらくは殿下の顔は瞬く間に消し飛び地面に赤い染みが出来上がってたでしょうね。
 私の拳はそれほどやわではないのですから。


「て、手厚い歓迎と受け止めておこう……」


 殴られた方の頬をさすりながら殿下が取り巻きの力を借りながら起き上がってきます。
 ですが起き上がり終わった後も私から警戒するかのように距離をジリジリと取ってきました。


「静かになったみたいだし何処か落ち着けれる場所で話しようか?」


 殿下がいい感じに私に怯えてくれた所でそんな無様な姿を見たニヤニヤとした顔でご主人様がそう告げると殿下は首が折れるんじゃないかという勢いで上下に振り肯定してくるのでした。

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