メイドと武器商人

るーるー

メイドの心の声

「食べ物がまともでないというのはそれだけで不憫だからなぁ」


 なぜか同情の眼差しで見られる私ですがそこまで言われる筋合いはないと思うのですが……


「さすがに三食インスタントだと体に悪いと思うんだよ! ほら! ぼくまだ育ち盛りだし」
「そうだな。子供はよく食べよく遊ぶことこそが仕事だからな」


 なぜか意気投合してらっしゃる⁉︎
 そしてこの話の流れはまずい気がします! そう、私がなにもできない駄メイドとしての烙印を押されそうな感じがしてます。


「そうなんだよ! そこのメイドは炊事洗濯がからっきしなんだ! まぁ、護衛としては最高なんだけど。とりあえずは生活関連のものが壊滅的なんだ!」
あね様がまともに作れるのはケーキだけですし」


 ご主人様が私の心をナイフで切り分けるようにして傷口を作り、そこにフィルが無表情で傷口を広げてくれます。
 私はというと思わず手にしていたナイフを落としてしまい、そのまま膝をつき蹲ってしまいます。


 もうやめて! リップスの心の体力はもうゼロなんだから! 機械人形オートマンだけどゼロなのよ!


「な、なるほど。だがここにある見事な造形をなされているお菓子の数々は一体誰が……」
「ん、それを作ったのはフィル。あね様ではない。あね様はケーキ! しか作れない」
「そ、そうか」


 すっごくケーキの部分を強調されました……
 本当はフィルは妹じゃないんじゃないかと思うくらいに冷たいです。


「お前たちが純粋に俺を誘ってくれていることはよくわかった。だが俺は強くなるということを目的としているのだ。一箇所に留まっていては効率よく強く離れまい?」


 ああ、強くなるのが目的でしたか。
 ですが勘違いしてもらっては困りますね。
 純粋に屋敷に雇おうとしているのはご主人様ただ一人です。私はむしろ歓迎はしていません!


 かーえれ! かーえれ! リップス心の声。


「なるほど強くなるのが目的か…… でも関係ないよ!」


 笑顔です。満面の笑顔です。


「だって君はリップスに負けたわけだしね。それにそれは敗者アオイの都合でしょ? ぼくの都合が優先に決まってるじゃない。敗者に権利なんて微塵もないんだよ?」


 えぐい、えぐいですご主人様。
 今まで親しげに話しをしていた仲だというに一切の容赦がありません。
 その証拠にアオイさんの顔がひきつっていますからね。


「というわけで君の力が要るんだ! ぼくが快適に過ごすために! あ、戦力的なものを期待してるわけじゃないよ? 必要なのは普通に生活できるだけの家事能力だから暗殺とか仄暗い仕事はあんまりないよ? ないとは言えないけどほら、うちって武器商人なわけで舐められないようにちゃんと正面から叩き潰すことが多いからね」


 それに、とご主人様は暗い笑みを浮かべてアオイの方を見ます。


「アオイには家事と取り立ての担当をしてもらう予定だからね。嫌でも荒事に参加してもらうよ。この街、バーティアにも知られざる達人がたまにいるから武芸の稽古にも事欠かないと思うよ?」
「……」


 アオイがどうも悩んでいるようです。
 確かにこの混沌の街バーティアにはよくわかりませんがかなりの手練れの輩も多いようです。たまに他の国へ行けばそれなりの待遇で迎えられそうな人が一介の冒険者や傭兵、護衛として紹介されたりしますしね。


「お給料もだすよ? なんならまず前金として君のぎこちなく動く壊れかけの義手を交換してもいいよ」
「気づいてたのか」
「メルエムアンの爆裂魔法を食らってまともな腕でいられると思わないからね〜」


 あのぎこちない腕の動きは義手だったのですか。だから一瞬でたくさんのナイフを投げたり銃を取り出したりできていたわけですか。


「…… いいだろう。義手の交換と強者との戦いを条件に雇われよう」


 しばらく悩んだ末にアオイは了承します。
 ちっ、断ってくれればいいものを。


「交渉成立だね」


 そんな私の内心など知らぬご主人様はニコニコと満面の笑みを浮かべたままアオイと握手をします。
 こうしてご主人様の元に家事のできる戦闘狂が加わったのでした。

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