メイドと武器商人

るーるー

メイドとの朝

「おはようございます。ご主人様」


 気配を殺し、ご主人様が眠るベッドに近づいた私は静かに、しかし、よく届くように声をだす。


「まだ眠いから起こすのはやめてほしいんだけど」
「ですが朝です」
「はぁ、わかったよ」


 諦め、というか苦笑のような表情を浮かべて私を見てきます。
 やばいです。キュンキュンしてしまいます。あやうく水野製の魔導武器マジックウェポンへと手が伸びてしまいましたが必死に抑えます。


 ご主人様はご主人様、ご主人様はご主人様、ご主人様はご主人様。


 ふぅ、落ち着きました。
 あやうく首をはねて氷漬けにして一生愛でていたい衝動に駆られるところでした。


「それでリップス、僕に何か用?」


 ああ、ご主人様の口から私の名前が呼ばれるなんて、私感激!
 今日は記念日にしましょう。
 ご主人様が何度めかわからないですが私の名前を呼んだ日記念です!
 おっといけない。ご主人様の前では常に冷静にしなければ。はい、リップススマーイル。


「はい、ご主人様が睡眠中に五人程が…… 失礼」


 ご主人様との愛しいお喋りの時間を少しばかり切り上げ私は黒のスカートを翻すと太ももに幾重にも装備しているナイフを一本手に取ると振り返ったその勢いで私が入ってきた扉に向かい手にしたナイフを放り投げます。
 ナイフは一直線に扉へ向かい跳び、寸分違わずにど真ん中へ突き刺ささり、鈍い音を響かせます。
 そして突き刺さったナイフの刃を伝うようにして赤い液体が流れてきます。


「訂正します。六人ほどいらっしゃいましたので処理さしていただきました」
「またきたの?」


 げんなりしたかのような表情を浮かべるご主人様もまた愛らしい。


「はい、また暗殺者がいらっしゃいましたので」


 全く、こんななに愛らしいご主人様も害そうなんて不逞な輩はぶち殺し確定です。
 いや、殺しているからわかりませんが愛らしいからこそ監禁したいがために誘拐しようとしているのかもしれませんね。
 そういう輩とは話が合いそうです。今度は捕まえて語ってみるとしましょう。


「ご主人様、このような宿屋ではまともに守るのはなかなかに困難です。早急に宿を変えるようにしていただきたいのですが。お屋敷ならともかくこのようなぼろ宿では……」


 屋敷であるのであればダ-ス単位でも殲…… もとい掃除することが可能でしょう。


「え〜 リップスでも無理なの?」


 くっ、ご主人様が期待してらっしゃる⁉︎ この期待に答えなければメイドとして失格ということですか!


「いえいえ、私ならばこれくらい楽勝です。ですが建物ごと爆破されては……」
「リップスでも無理なの?」
「いえいえ、爆破される瞬間にご主人様を担いで逃げるくらい楽勝です」
「なら安心だね〜 よかったよ〜 この街の宿屋ではここが安いけどベッドの寝心地がいいからね〜」


 にへらぁと笑うご主人様。
 ああ、抱きしめたい!
 その可憐な体を! 艶やかな茶色の髪を思う存分に撫で回したい!


「それじゃあ、今日も仕事に行こうか〜」


 やる気に満ち溢れているご主人様もまた素敵です。
 世の中に蔓延る働かないゴミどもに爪の垢を煎じて飲ましてやり…… いや爪の垢すら勿体無い!


「はい! 参りましょう。ですがご主人様、パジャマからは着替えた方がよろしいかと」


 そうして私は着の身着のまま扉に向かって歩き出していたご主人様を止めるのでした。



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