魔女メルセデスは爆破しかできない

るーるー

魔女は爆発を評価される

「あ、相変わらずえげつない威力ね」


 広場を半壊させたメルセデスの爆裂ポーションの威力を見てアリプルプスは額に汗を浮かべながらそんな言葉をこぼした。


 幾人もの魔女が悲鳴や苦悶の声を上げているこの場はまさに死屍累々と言えるであろう。


 アリプルプスはというと20もの防御魔法を瞬時に展開させ怪我をすることなどはなかったが18もの防御魔法が消しとばされているのを確認して再び顔を青くしていた。


「ここが魔女界で助かりました」


 無表情で無傷なアィヴィ。
 彼女の場合は彼女の有する機能の一つ、魔力吸収を利用し、魔女界を満たしている魔力を吸収し自身の体を強化したに過ぎない。


 そしてメルセデスはというと、


「あたま、あたまうったぁぁ!」


 爆発の衝撃で吹き飛んだ拍子に頭を強打したのか頭を下げて抱えるようにして転がりまわっているのだがメルセデスにも爆発でのダメージらしき物は一切見られなかった。


「普通、あの規模の爆破、あんな至近距離なら腕が一本くらいなくなっても不思議じゃないんだけどねぇ」
「耐性のようなものでしょうか?」
「多分ね〜 自身の爆発でダメージを受けないように体の耐性が変わってるんだと思うわ」


 興味深いわね。とアリプルプスは笑う。


 本人の知らないことだがメルセデスは爆発系の物ではほぼダメージを受けない。
 本人は受けたつもりでいるのだがそれは二次災害、吹き飛ばされたり、転けたりして傷を負うことはあるが爆発によるダメージ、火傷などは皆無なのだ。


 これをアリプルプスは爆発耐性と呼んでいた。


 そんな耐性があるものだからメルセデスは自分のドジで爆裂ポーションが自分の近くで爆発した際もほぼ無傷でいるわけなのだ。


「私のゴーレム、ケイオスにも魔法耐性をつけてたはずなんだけどねぇ」


 アリプルプスが見つめるのは至近距離でメルセデスのポーションを放りつけられ、瓦礫の山と化した元ケイオスの山のような残骸だった。


「腕を吹き飛ばしただけに見えましたが……」
「爆裂ポーションでの衝撃がおそらくだけどコアも粉砕したんだろうね〜」


 爆発系のは謎が多いから〜とアリプルプスは楽しげにつぶやく。


「最強の魔法と言われる爆発魔法。それをポーションでほぼ再現するマスターは一体……」
「魔法のセンスは壊滅的なくらい無いからね、あの子。そのくせに魔法に対する防御力は異常なくらいあるし」


 アィヴィとアリプルプスは未だ頭を抱えて悶えているメルセデスへと目を向ける。


「それより師匠マスター、この地獄をどう収めるつもりですか?」
「ん? そんなの簡単じゃん?」


 アィヴィの問いに首を傾げながらアリプルプスが答えた。
 そして両手をパンっと音が鳴るように合わせる。
 それと同時にアリプルプスの体から次々に色が変わっていく魔力が放たれていく。
 その魔力は異常なまでに密度が高い。恐らくはその辺で呻いている魔女を集め、束ねてもだせないほどに濃い。


「戻れ」


 アリプルプスが魔力を込めた言葉を解き放つ。
 それだけで周りの死屍累々と化していた魔女達に変化が起こり始めた。
 腕が千切れていた魔女には千切れた腕がどこからか飛んでくると千切れたり部分に繋がり、傷がわからないほどに元に戻った。


 腹に穴が空いていた魔女は穴が恐ろしい速度で塞がっていった。


 腕や足があらぬ方向へと折れ曲がっていた魔女の手足は元の向きへ向きなおった。


 そう、まるで時間を巻き戻すかのように。


「はい、治ったわ〜」
「……マスターと言い、その師匠マスターと言い規格外にも程があるでしょう」


 アィヴィは顔を引きつらせた。
 なにせアリプルプスが行ったのは部分的な時間の逆行、言葉通り傷がつく前の状態に元に戻したのだから。


 原理上は可能であると、アィヴィのゴーレムとしての知識は肯定している。だが、それを行うために必要な工程、消費する魔力がどれほどであるかと考えると、どう思考ても割に合わないというのがアィヴィの出した考えであった。


 それを容易く、しかもなんでもないかのようにやってのけ、薄く笑うアリプルプスに畏怖の目をアィヴィは向けていた。


「首! なんかボクの首だけ寝違えたみたいになってるんだけど!」


 首が若干斜めに向いた状態で叫ぶ主人であるメルセデスには溜息と侮蔑のような視線を向けるアィヴィであった。

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