この素晴らしい世界にTSを!

月兎。

第2部 6話

シュボッ!

「「「おおッ!?」」」

ジッポで付けた火に、めぐるん、ダクネス、そしてウィズの三人が驚いた。

デュラハン事件から二週間。
その間クエストも受けられない状態だったので、私はポイントを30ポイントほど使って鍛冶スキルを習得し、早速ジッポを作ってみたんだけど。

「こ、これは思ったよりも便利ですね!本当に、まんまティンダーの魔法じゃないですか!カズナちゃん、これは売れますよ!」

ウィズが大喜びで、興奮した面持ちでジッポを手にはしゃいでる。
その言葉に、私は持って来ていたジッポの山をカウンターの上にドンと置いた。

此処はウィズのマジックショップ。
完成したジッポを、売れるかどうかウィズに見てもらっていたのだ。

「これ、簡単な構造なのに良く出来てますね。これが魔法を使ってないってのが信じられないです。大事に使えば凄く長く使えそうですしね」

感心した様にジッポを色んな角度から眺め回しているめぐるんは、興味深そうにジッポの感想を言った。

「うん、これは私も一つ欲しいな。火打石では湿気った場所では使い辛かったり、火を起こすのに時間が掛かったり。
他にも、火種となる燃え易い物を濡らさない様に持ち歩いたりと面倒だ。これなら、それらが一発で解決する。……カズナ、一つくれ。幾らだ?」

ダクネスがジッポを手に、財布からお金を出そうとする。

「お金なんかいらないよ、ダクネスとめぐるんには鍛冶屋スキルを教えてくれる人を紹介してもらったしね。
二人共、気に入ったの持ってってよ。あ、ウィズさんも、ジッポお店に置いて貰うんだし、良かったらお一つどうぞ」

私の言葉に嬉々としてジッポを選ぶ三人を見ながら、アクシズが小バカにした様に鼻で笑った。

「未開人なんだから……。ジッポ一つで何を喜んでるんだ。こんな物、本当に簡単な作りなんだぞ?まったく、これだから文明が遅れてる人達は、まったく……」

三人を上から目線でからかいながら、アクシズも私の作ったジッポの一つに手を伸ばし……。
その伸ばした手を、私がペシッとはたいた。

「……何だよ、何すんだよカズナ。俺にも選ばせろよ」
「いやあんたはお金払ってよ」

当たり前でしょと後に続ける私に、アクシズが食って掛かってきた。

「はぁ?なんでだよ、なんでいつもいつも俺にだけ意地悪すんだよ!何でそっちの三人は良くて俺だけ駄目なんだよ、俺だけ仲間外れにすんなよ!」
「この三人をからかったりしなきゃ、別に一つくらいあげても良かったんだけど。てか、あんた今回何もしてないでしょ。
この三人には色々とジッポ作りに協力して貰ったけど、あんたはこの二週間近く、屋敷で食っちゃ寝してただけじゃん。分け前が欲しいなら、ちょっとお店の外で客引きの一つでもして来てよ」

私の言葉にアクシズはジワリと涙ぐむと、捨て台詞を吐きながらお店の外に飛び出していった。

「わぁああああッ!!カズナの甲斐性なし!カズナが俺達の脱ぎ散らかした洗濯物から、パンツ抜き取って見つめてる事黙っててやろうと思ったのにッ!!」
「ちょっと待って!わ、私そんな事してないよッ!!滅多な事言わないでよ、ねぇ!……本当だって!めぐるんもダクネスもそんな目で私を……。ちょ、ウィズまで!違うよ、濡れ衣だって!」

アクシズが口走った誤解を解く為に私が必死に弁解する中、お店から出ていったアクシズが入り口から、ヒョッコリと顔だけ覗かせた。

「…………人一杯集めたら、俺にもジッポ一つくれる?」
「ジッポぐらいあげるから、まずはこの誤解を解いてって!」




ウィズのマジックショップの前には、凄まじい人だかりが出来ていた。
ウィズ曰く、この通りにこれだけの人が殺到するのは初めての事だそうだ。
前もって、『安価で便利な着火道具販売!』と書いたチラシ撒いといたのが功を奏したのかもしれない。
人だかりの中には、私が撒いた物と思われるチラシを持った人の姿も見受けられた。

「……しかし、凄い人だかりだな」
「……そうだね」

ダクネスの呟きに、私は適当に相槌を打つ。

「これが、全部ジッポ目当てのお客さんなら、良かったんですけどね……」
「…………そうだね」

めぐるんの言葉に力無く返事を返す。

私達は、人だかりの中心に再び目をやる。
私の隣で、ウィズが困り顔でおずおず言った。

「……ウ、ウチへ来るつもりだったお客さん達まで、皆取られちゃってますね……」
「うん、そうだね!あああああああ、もうアイツは一体何なんなのぉおおおッ!!」

私達が見つめる先には、凄まじい人だかりの中持ち前の芸を披露し、喝采を浴びるアクシズの姿。
そこには、チラシを見て来てくれたであろう人までもが人の輪に混じり込み、安価で便利な着火道具の事など忘れてしまっていた。
客引きしろとは言ったが、誰が目的忘れるまで夢中にしろっつった。
当のアクシズも、既にお店に客を集めると言う当初の目的を忘れ、全力で芸を披露している。

「さぁ続いては、取り出したるこの何の変哲も無いハンカチから!なんとビックリ、鳩が出ますよ!」

そう言って、アクシズが一枚のハンカチを広げて見せた。
それはよくあるあの手品。
事前に服の中に鳩を入れ、それをハンカチから飛び出す様に見せるアレだ。
アクシズはハンカチを一振りすると、そのハンカチの中から…………

「「「「うおおおおおおおッ!?」」」」

驚愕する観衆の声を受けながら、ハンカチから数百を越える鳩の群れを羽ばたかせた。

「多いでしょ!多過ぎでしょあれ!何なのあれ、アイツ今どうやったのッ!?物理的に不可能でしょ今のは!」

私は自分の目を疑い隣のウィズに慌てて聞くも、

「な、何でしょうか……。召還魔法を使った訳では無さそうですし、あれだけの鳩の大群を何処かに隠しておくわけにも……。……えっと、本当にどうやって……?」

私に聞かれた魔法のエキスパートであるリッチーは、口元に手を当て真剣な顔で悩み出した。

「あ、おひねりは止めて下さい。俺は芸人じゃないんで、お捻りは止めて下さい」

観衆から投げられる大量のお捻りを、アクシズが丁重に断わっている。
芸に関しては譲れない物があるらしい。
というか、アイツ芸で充分食べていけるでしょ。

私達が半ば呆れ、そしてアクシズの芸のレベルの高さに、私達も観衆に混じって眺め始めていたその時だった。

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まって下さいッ!!』

例の緊急を告げるアナウンス。

「またなの……?最近多いね、緊急の呼び出し」

私がウンザリと言うと、ダクネスが全くだとばかりに頷いた。

「放っておけ。どうせ大した事じゃないし、我々にはそんなものよりもっと大切な事がある」

そういやそうだ。
私達にとってはそんなお金にならない緊急の呼び出しよりも、せっかく作ったジッポが売れるかどうかの方が大切だ。
同じ思いのダクネスが、拳を握り。

「見ていろカズナ。あの、アクシズが取り出したシルクハット!あそこからは、ネロイドが出るぞ!
間違いない、昨日アクシズが、路地裏に逃げ込んだネロイドを追い掛け回していたのを目撃した。ネロイドだ、きっとあのシルクハットからはネロイドが飛び出すんだ……!」

拳を握り締め、子供みたいにワクワクした面持ちのダクネスは私と同じ思いでは無かった様だ。
……ってか、今ネロイドって言った?
私こないだ、ネロイドのシャワシャワとか飲んだけど路地裏に居る様な何かなの?

私がダクネスに、ネロイドとは何なのかを聞こうとすると、再び緊急の呼び出しが鳴り響く。
既にウィズやめぐるんはアクシズの芸に夢中で、放送自体を聞いちゃいない。

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まって下さい!……特に、冒険者サトウ・カズナさんとその一行は大至急でお願いします!』




私達はウィズにジッポの販売を任せ、正門に向かっていた。

「アクシズ、あのシルクハットからはネロイドが飛び出すんだろう?昨日追い掛けていた、あのネロイドが飛び出すんだよな?」
「ふふん、どうだろうな?良いか、ダクネス。芸ってのはな、見せるまでは種明かしは出来ないんだ。
ネロイドかも知れないし、そうじゃないかも知れない。続きはまた来週、あの店の前に並べ」
「わ、分かった、来週だな?よし、並ぼうじゃないか!」

私は皆の先頭を走りながら、アクシズとダクネスの二人の場違いな会話を聞きながら、私達が呼び出される理由を考えていた。
けどまぁ、大体予想は付く。

「お、やっぱりね。またアイツかぁ」

私達が街の正門前に着くと、そこには既に多数の冒険者が集まっている。
そして多くの駆け出し冒険者達が遠巻きに見守る中、ヤツは居た。

そう、あのデュラハンだ。

デュラハンは私とめぐるんの姿を見つけると、開口一番叫びを上げた。

「何故城に来ないのだ、この人でなし共がぁあああああッ!!」


† † † † † † † † † † † †


私はめぐるんを庇う形でジワジワと前に出ると、デュラハンに問い掛ける。

「ええっと……。何故城に来ないって、なんで行かなきゃならないの?後、人でなしって何なの、あれからまた毎日爆裂魔法撃ち込んでくのが気に入らないの?」

私の言葉に、怒ったデュラハンが思わず左手に抱えていた物を地面に叩き付け……ようとして、それが自分の頭である事に気付き慌てて脇に抱え直した。

「爆裂魔法を撃ち込んで行く事にはもう諦めた。そこの頭の可笑しい紅魔の小僧は、どうせ言っても聞かないだろうしな。
……だが、貴様らには仲間を助けようという気は無いのか?モンスターと化した俺が言うのも何だが、不当な理由で処刑され、モンスター化する前は、これでも真っ当な騎士のつもりだった。
その俺から言わせれば、貴様を庇って代わりに呪いを受けた仲間を見捨てると言うのは信じられないのだが」

デュラハンの言葉に、私とめぐるんは思わず顔を見合わせた。後ろを振り向くと、まだダクネスが着いていない。
着ている鎧が重いのと、アクシズと訳の分からない話をしながらだったので遅れてしまったのだろう。
そう思っていると、やがて噂のダクネスが、アクシズと共にやって来る。

私とめぐるんはデュラハンの方を向きながら、これを見ろとばかりにピンピンしているダクネスを指差した。

「あれぇえええええええええッ!?」

それを見たデュラハンが素っ頓狂な声を上げた。
兜の所為でその表情は見えないが、多分、何で!?と言った表情をしている事だろう。

「何々?どした?あのデュラハンなんであんな挙動不審なんだ?」

ダクネスと共に遅れてきたアクシズが、事の経緯を聞いてくる。

「ダクネスに呪いを掛けて二週間が経ったのに、未だダクネスがピンピンしているから驚いてるみたい」

説明を聞き、アクシズがデュラハンを指差し笑う。

「アハハハハハッ!!じゃあ何!?このデュラハン、俺達が呪いを解く為に城に来る筈だと思って、ずっと城で俺達を待ち続けてたのか?
帰った後、アッサリ呪い解かれちまったとも知らずに?プークスクス!マジウケるんスけど!」

相変わらず表情は見えないが、プルプルと肩を震わせるデュラハンの様子から、きっと激怒しているのだろう。
しかし呪いを解いてしまった以上は、罠を張っていると分かりきっている、そんな危ない所に態々行く理由が無い。

「……おい貴様。俺だって、駆け出しの雑魚共相手とはいえ、頭に来たなら別に見逃してやる理由も無いんだぞ?
俺がその気になれば、この街の冒険者を一人残らず切り捨てて、街の住人を皆殺しにする事だって出来るのだ。
疲れを知らぬこの俺の不死の体。お前たちひよっ子共には傷も付けられぬと知れ!」

アクシズの挑発に流石に頭にきたのか、デュラハンが不穏な空気をにじませる。

だがデュラハンが何かをするより早く、アクシズが右手を突き出し叫んでいた。

「見逃してやる理由が無いのはコッチの方だ!今回は逃がさねぇぞ。アンデッドのクセに、こんなに注目集めて生意気だ!消えて無くなれっ、『ターンアンデッド』!」

アクシズが突き出した手の先から、白い光が放たれる。
アクシズが魔法を放つのを見て、デュラハンはまるで、そんな物は喰らっても余裕だとでも言うかの様に、それを避けようともせずに。

「こないだこの街にアークプリーストが居ると知って、俺が何の対策も無しに此処へ来たと思っているのか?残念だったな。俺は様々な属性の鎧を所持し、それを取り替える事によっぎゃぁああああああああああああああッ!!」

魔法を受けたデュラハンの足元に、白い光の魔法陣が現れる。
それは天に突き上げる様な光を放ち、デュラハンごと空へ還そうとでもするかの様に、暫くの間浄化の光を放ち続けた。
自信たっぷりだったデュラハンは、体のあちこちから黒い煙の様な物を立ち昇らせ、ふらつきながらも巨大な剣を引き抜いた。
それを見て、アクシズが叫ぶ。

「な、なぁカズナ!変だぞ、効いてねぇ!」
「いや、大分効いてた様に見えたけど、ギャーって叫んでたし……」

デュラハンは、よろめきながら。

「ク、ククク……。説明は最後まで聞くものだ。俺は様々な属性の鎧を所持し、相手に合わせて装備を変える。普段は貴様らのなまくらな剣など弾き返してしまう鎧を着るのだがな……。
今日の装備は、神聖属性の攻撃をほぼ無効化してしまう吸光鉄製の鎧だ。だから、ターンアンデッドは効かぬ。……効かぬのだが…………。
な、なぁお前。お前は今何レベルなのだ?駆け出しか?駆け出しが集まる所だろう、この街は?」

デュラハンの疑問に、アクシズが答えようとするも、それまで様子を伺っていた冒険者達が、急にザワザワとざわめいた。

「吸光鉄……?アイツ、吸光鉄の鎧って言ったか……?」

何?吸光鉄ってのに何かあるの?
その、小さな誰かの声。それを聞いたダクネスが大剣を引き抜くと、吸光鉄とやらが何か知らず、不思議そうな表情を浮かべる私に、大剣を正眼へと構え、言った。

「吸光鉄は、酷く脆い。アイツが、自分で言った通りの吸光鉄製の鎧ならば、普通の武器でも傷つけられる。……つまり、この街の冒険者でも充分討ち取れると言う事だ」

ダクネスの言葉を聞いて、街の冒険者達がゴクリと唾を飲み込む。
……やがて多数の冒険者達が、武器を手に、デュラハンを取り囲む様に。
それを見たデュラハンは、片手に頭を、片手に剣を持ちながら、愉快そうに肩を竦めて言い放つ。

「……ほぅ?俺は、自分から斬りかかって来る様な連中までは見逃すつもりは毛頭無いぞ?……我が名はベルディア。魔王軍斬り込み大隊隊長、デュラハンのベルディアだ。
俺を討ち取れればさぞかし大層な報酬が貰えるだろう。……さぁ、一獲千金を夢見る冒険者達よ。纏めて掛かって来るがいい!」


To be continued…

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