女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

最終話 我儘

 目が覚めると、全員そこにいた。
 全員。
 セレンさんも含めて全員。


 ミラ、ディーナ、ラリア。
 そしてレオル。


「……またお前に迷惑かけたな」
「迷惑などとは思わん。だが、おぬしからかけられる迷惑もこれが最後だと思うと些か寂しいものがあるな」


 レオルがそんな事を言った。
 なんだ。
 何を言っている。


「終わらせるのだ。もうぐずぐずはしておられん。竜王、ユウトよ。魔界を滅ぼすぞ」



























 心配そうな顔をするセレンさんたちが追い出され、部屋には俺とレオル、そしてラリアが残った。この二人に挟まれるというのは居心地があまり良くないんだが……


「本当に良いのか? ロード。本当におぬしは――」
「悔いなどない。余の後を継ぐのはおぬしでもユウトでも良い。どちらにもその素質はあると言えよう」


 ……なんだ?
 何の話をしている。


 後を継ぐ?


「……どういうことだ。説明しろよ、説明」
「端的に言えば、余の力をおぬしに全て譲渡することにしたのだ」
「…………はあ?」


 よく分からない事を口走るレオル。
 助けを求めるようにラリアを見るが、ふるふると首を横に振った。


 いや何のジェスチャーだよ。


「お前の力を俺に? そんな事出来るのか?」
「余とおぬしは吸血鬼で――鬼だ。出来ぬはずもないだろう」
「その理屈はよく分からないんだが……鬼? 鬼って言ったか、お前」
「そう。鬼だ。魔神とやらの目論見も、調べているうちに察しがついた。だが、あやつに任せておくにはまりに冗長過ぎる」


 ……魔神の目論見?
 あいつはこの世界を滅ぼそうとしているんじゃないのか?
 それ以外に何かあるのか?


「世界を滅ぼす、か。確かにそうとも言えるかもしれないが、というのが余の意見だ。魔族の動きがもう一年遅ければ、その計画に乗ってやっても良かったのだが」
「魔神の目論見って何なんだよ。世界を滅ぼす、だけじゃないのか?」
「あやつの目的はこの世界を救うことだ。そしてそれはもう既に間に合わない段階まで来ておる」


 …………は?
 さらりと今、何て言ったんだこいつ。


 世界を救うこと?
 滅ぼすことの反対じゃないか。
 真反対だ。


「あやつのやり方では今ある世界は壊れてしまう可能性はあったから、滅ぼすというのもあながち間違いではないのだ。さてユウト、話を一番最初に戻すぞ」
「一番最初……」
「おぬしには余の力を引き継いで貰う。そのまま魔界に乗り込んでひと暴れすれば、それで事は済む」
「ちょっと待て。引き継ぐってどういうことだ。魔界? 乗り込む? 一つずつ説明してくれ」


 混乱する。
 ただでさえ寝起きの頭だ。
 矢継ぎ早にこんな事言われても、俄かには飲み込み辛いというか――


「もう良い。儂が説明する。聞いてられんほど説明下手で聞き下手じゃなお前ら。
 ……まず魔神の目的から話そうかの」


 ラリアが横から口を挟んでくれたお陰で、話がはっきりとしてきた。




 曰く。


 魔神の目的は――世界を救うことだということ。
 どういう意図があって、どういう意志があったのかは分からない。


 しかし、セレンさんの持っている情報や、レオルの持っている情報、そして現状を繋げ合わせるとそういう結論に達するのだとか。


 よく分からない。
 よく分からないが――あいつは敵じゃない、ってことか?


 いや、敵対していたはずだ。


「やり方の違いじゃよ。セレンのやり方が正攻法で、魔神のやり方は外法じゃ。この世界・・を守ることに重きを置いている魔神のやり方では、とてもじゃないがそんじょそこらの犠牲では済まんのじゃ」
「やっぱよく分かんねえな……」


 やり方の違い、か。
 まあ、これはまたあいつがコンタクトをとってきた時にでも聞いてみれば良い。


 次の話だ。


 魔界に乗り込む。
 そもそも魔界が何なんだよって感じだが、魔族がいるの世界が魔界らしい。
 どういう訳かこちら側とあちら側が今、繋がってしまっているらしいが。
 だが繋がっているというのならば話は早い。


 こちらから乗り込んでしまえば良いのだ。


 さて。ここまではなんとなく理解できた。


 意味不明なのは、力を譲渡する、という部分だ。


「そのままの意味じゃよ。ロードの力をそっくりそのままお前に移す。方法は至って単純だ。吸血。全て吸い尽くせば、それだけで力の譲渡は完了する」
「……それってレオルはどうなるんだ」
「死ぬな。余は。だが、悔いはないと言っただろう」


 悔いは。
 ない、と。
 数千年生きた吸血鬼は、言い切った。


「……だが」
「良い。よし決めた。吸血鬼の王はユウトが引き継ぐのだ。竜王にして吸血鬼の王。唯一無二の英雄にはそれでも足りぬ称号かもしれんがな。――ミドリザキ ユウト。おぬしが世界を救うのだ」

























 そこからあった苦労は苦労とも言えず、戦闘なんてあってないようで、あっさり呆気なく、魔界は滅んだ。
 俺という一人の鬼によって。


 鬼。
 竜王にして吸血鬼の王にして、鬼そのもの。


 そして俺は、例の白い空間にいた。
 自分から赴いた。




「やあ。まさか君から会いにきてくれるとは」


 白い魔神は。


 白いテーブルに着いていた。
 白い食卓。


 乗っているのもご丁寧に白いシチューだ。


 それが、二セット。


「最後の晩餐だ。付き合ってくれよ」
「…………下界を視てたんなら、事の成り行きは知っているだろう」
「知っているし、解っているさ。それも含めて最後なんだよ。最期ならぬ最後。はは、全く君は全くもってお人好しだ。さて、積もる話もあるだろう。まずはわたしの手作りのシチューでも食べて、落ち着こうじゃないか」













 シチューを食べ終わり、後で出された紅茶も飲み(これは流石に白くなかった)、魔神がさて、と前置きをした。


「君が魔界を滅ぼしてくれたお陰で、今あの世界のバランスは崩れかかっている」


「らしいな」


「まさかレオル君が君に力を授けるとはね。バランスブレイカーが二人合わさってしまえば、なるほど確かに、魔界にいる魔族なんて敵じゃあないだろう」


「バランスブレイカー、か」
「そう。君たちはあの世界での異物だった。レオル君はどういうことなのか結局わたしにも良く分からないんだけど。なんせあの子は私よりも長生きしている。君は――まあ言わずもがなだよね。セレンとの親和性が高すぎた。修さんとわたしのお姉さんよりも。予想外、想定外。だけれど、想像の範疇は超えなかったはずなんだ。レオル君と君を対立させた時点ではね」


「……だがあいつは」


「そう。レオル君と君は、何故か仲良しになってしまった。まあこれは想像の範疇を超えてたよ。まさかレオル君が人間と――ってね。修さんならまだしも、だ。あの人もあの人で特別だよ。わたしの姉さんにとっての、だけど。わたしにとっては案外君の方が特別だったかもしれない。……おいおい、そう露骨に嫌そうな顔するなよ。傷つくなあ」


「……もう時間も無いんじゃないか?」


「そうみたいだね。だけど、最後にこうして君とお話くらいさせてくれたって良いじゃないか。なに、これから永劫の時をわたしは生きて――生きはしないか。柱として支えなければならないんだから」


「……幾つか聞きたい事がある」


「何でも聞いてくれ。何でも答えよう」


「斎藤はどういう意図で送り込んだんだ?」


「君への試練だ」


「エルフ族と竜人の戦を引き起こした理由は?」


「エルフ族は魔界とこちら側を繋げるだけの力を持っていたからね。口減らしといったところかな」


「お前はこの世界をどうしたい」


「滅ぼしたい」


 …………。


「メロネさんと修さんについて、お前はどう思っていたんだ?」


「さて、どうだろう」


「何でも答えると言っただろうが」


「わたしにも分からないんだよ」


「…………じゃあ、最後だ」


「今度こそ何でも答えるよ」


「――――――――」


 俺の問いに。
 魔神が大きく噴き出した。


「君は本当に分からない奴だな。だからこそこうなったと言うべきなのか、だからこそこうなってしまったというべきなのか。
 でも、うん。答えると言ったからそれくらいは答えよう。セレン辺りに既に聞いていてもおかしくはないのにね。今思うと不思議なものだ」


 そして魔神は。


 この世界を支える、柱となった。


 

















 数年が経過した。
 何事もなく、大過なく、禍根もなく、諍いもなく。


 竜王であり吸血鬼の王でもある俺だが、竜王の仕事はほとんどパルメがやっていたし、吸血鬼の王の仕事はラリアとマリアさんがほぼこなしている。
 俺はただいるだけだ。


 ある日。
 セレンさんと二人で話す機会があった。


「……そういえば優斗さん。答えたくなければ答えなくてもいいんですけど」


 という前置きの後に。


「最後に魔神にした質問って、何だったんですか?」


 それを聞いて。
 ふと思い出した。


 ああ、なるほど。
 魔神が噴き出したのはそういうことだったのか。


 俺としては意識してやったことではなく、本当に聞きたかった事なだけなんだが。


 偶然――にしては出来過ぎか。
 出来過ぎな話だ。


 俺が魔神に最後に投げかけた質問は。


「なんて事はない、俺の我儘ですよ」

コメント

  • かがりん

    面白かった。なぜこんなに伸びないのか不思議なくらい。もっと伸びてもいいと思う。

    2
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