女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第79話 世の中って

 ミラと話すのは楽しいが疲れる。
 ノリについていけない。
 年だろうか……


 さておき。
 ギャルゲーの選択肢ではないが、ミラの所へは行ったんだし次はセレンさんかディーナのところだろうか。隠れ巨乳が発覚して隠れてない巨乳になったディーナの所へ行きたいのは山々だが、元々ミラのところにはなんか面白い魔法を見に行こうと思って行ったんだよな。


 何も無かったけど。


 こんな事なら最初からセレンさんの所へ行っておけば良かったな。



















「という訳で来ました」
「どういう訳なんですか」


 必殺『という訳で』は通じなかった。
 かくかくしかじか説明して、とりあえずセレンさんの部屋の中に入ることに成功する。


「唐突に思い出したんですけど、俺がセレンさんに敬語を使うのをやめるみたいな初期設定ありましたよね」
「確かに唐突ですけど、初期設定とかじゃなくて今も継続してるんですよ」
「ぶっちゃけ無理ですね、もう。癖と同じで治りません」
「別にそれはそれで良いですけど……最初敬語をやめて欲しいと言ったのも、距離感を感じるのが嫌だっただけですし」
「そんな可愛い感じの理由だったんですか。距離とか置いてるつもりないんですけどね。バリバリ近付いていってるつもりなんですがまだ足りないんでしょうか」


 むしろ抱き着いてしまおうか。
 距離をゼロにしてしまおう。


「そのむしろは今は遠慮したいですけどね」
「そんな殺生な……」
「ほら、お風呂とか入る前ですし」
「では数時間後に来ますのでお風呂は済ませておいてください」
「優斗さんって冗談いう時は左眉がちょっとだけ上がるんですよ」
「なんですと」
「冗談です」


 くす、と笑いながら言う。
 可愛い。


「でもお互い敬語使い合ってるのも妙な関係ですよね」
「そうですね。私は今更変えたり出来ませんけど」
「それは俺もです。一回だけ試しにで良いんで俺を罵ってくれません?」
「また唐突に凄まじいことを言い出しますね……」


 引き気味である。
 だがむしろ俺は食い気味だった。
 一度も体験したことないのだから一度くらい良いじゃないか。


「俺はMではないですけど、セレンさんって若干Sっぽいじゃないですか」
「そうですか……?」
「なんとなくですけど」
「なんとなく」
「そう、なんとなくSっぽいんです」
「褒められてる気はしませんね……」


 貶しているつもりもないけどね。
 金髪巨乳で属性がSだったら最高じゃん。勿論Mでも成功である事には変わりないが。


 俺は普通だよ。
 俺の性癖は至って普通だ。


「でも実際、セレンさんってちょっとからかいたがりというか、そんな感じの気質はあるじゃないですか」
「そうでしょうか?」
「そうなんです。良い意味でお姉さんっぽいというか」
「悪い意味のお姉さんってどんなんなんですか」
「…………さあ?」
「ふふ」


 面白かったのか愛想笑いなのか、セレンさんが微笑む。
 多分愛想笑いだ。


「そういえばセレンさんが大きな声で笑ってるのとか見たことない気がしますね」
「淑女ですから」
「ほほう」


 ノリ良いな。
 笑わせてみせよという難しいフリでもあるが。
 ふむ。


「くすぐります」
「えっ?」
「くすぐりましょう。こちょこちょ」
「え、ちょっと――ひゃうっ!?」


 つん、と脇腹をつつくと予想以上に可愛い反応が返ってきた。
 なるほど脇腹が弱いのか。
 これはもしかすると、セレンさんの大笑いというのを拝めるかもしれない。
 女神が大笑いするという事は全世界の人間がそれで笑うという事だと言っても過言ではないだろう。


 いや過言だよ。


 しかし、実際問題セレンさんが大笑いしているところは見たことない。


 これはチャンスというやつなのだろう。


「もう、怒りますよ」
「はい」


 やめた。
 いつだって一線は超えてはいけない。
 引き際が肝心なのだ。


「……やめちゃうんですか?」
「どうしろと」
「察してください」
「難しいこと言いますね……」


 セレンさんとの会話はいつだって難しい。
 という程でもないか。


「難しいと言えば、俺ってやっぱり全然魔法使えないんですかね。使うの難しい感じなんですかね」
「うーん……。慣れればそうでもないと思いますけど、慣れるまでが大変ですよね」
「慣れるまで……」


 慣れるまで海にぶっ放し続けるというのはどうだろう。
 俺の視力で見ても水平線まで何も見えないし、何かに当たって危険だという事はないだろう。


「魔力を消費する、という事自体が危険な行為ですけどね」
「ああ、なるほど確かに。敵が来た時に満足に動けなくなってしまう」


 難しいなあ。
 魔法の練習は明確な敵がいなくなってからだろうか。


 具体的には魔神と魔族。
 でもそいつらと戦うために魔法が必要なんだよな。
 ややこしい話だ。


 常にセレンさんとタッグで動ければ俺が魔法を使えない事に大したデメリットはないのだが、そういう訳にもいかないしな。今回は常にセレンさんがいそうではあるけど。


「そういえば優斗さん、魔眼の魔力消費――燃費はどれくらいなのですか?」
「あー……魔力が満タンの時に一秒後の未来を視るなら、2時間くらいは続けられますね」
「2時間、ですか」
「ちなみに、最近気付いたんですけど、魔力を籠める量によって視れる未来がちょっと変わるんですよね。限界はありますけど」
「視れる未来?」
「最大で三秒後まで視れます。『可能性』が大量に出てくるのであんまり当てにならない上に魔力消費量が半端じゃない――というか三秒後まで視たら一発で空になっちゃうんで使えないですけど」


 ちなみに0.5秒後とかは視れない。
 下限が一秒みたいだ。
 変なところで使い勝手が良いような悪いような眼である。


 10秒ぐらい先まで視えるなら金儲けの手段とかにも使えそうなんだけどなあ。


「そんなスレスレの事しなくても、普通に依頼受けて普通に報酬を受け取れば良いじゃないですか」
「まあその通りなんですけど」


 ズルをして、楽をして金儲けっていうのは人間なら誰しも考えてしまうだろう。そういう意味ではセレンさんは人間ではないから理解できないのかもしれない。


「いえ、理解は出来ますよ。私だってずっと女神だった訳じゃないですし」
「先輩――メロネさんがいたんですよね」
「はい。とても良い方でした」
「知ってますよ」


 実際に会って、話をした事があるからな。
 それが定かでない過去で、定まらない夢であっても、俺が修さんやメロネさん、セレナと話したという事実は消えてなくならない。
 魔王を倒した時点で、その物語は一度区切りがついてはいるが。


「魔神は、自分のお姉ちゃんがいた世界を滅ぼそうとしてるんですよね。仲悪かった……という訳でもないらしいですし、何の目的があってこんな事してるんですかね」


 こんな事。
 の一番大きなことは、エルフと竜人の衝突だろう。


 竜人側にはほとんど被害はない。
 だが、エルフ側には少なくとも数万の犠牲が出ている。
 いや、恐らく十万以上は出ている。


 どうやってエルフたちを納得させようか。
 彼らの戦力が弱っているところに付け込むか?
 悪魔か俺は。魔神より悪魔だぜそんなの。


「とは言っても、多分それが最善策ですよ、優斗さん」
「……まあ、そうなんでしょうね」


 他に良い策は思いつかない。
 これ以上この上なくこれよりも適した解答は恐らく存在しない。


 だがそれでは禍根を残してしまう事になるだろう。なるべく対等に、平等な条件で手を結ぶのがベストだと思うのだ。


「それはエルフ側が考えることですよ」
「エルフ側……」
「優斗さんは優斗さんだけの事を考えていれば良いんです。案外、世の中って自己中心でも回るんですよ」

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