女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第73話 アホの子

 さて。
 セレンさんへのフォローはとりあえず済んだ。
 とりあえず、だが。


 なんかちょっと疑いが残ってる感じがあるが。
 それは少しずつ削っていこう。
 俺の揺るがぬ愛を示せば良いだけだ。


「で、なんだっけ。魔族がこっちの世界にいるのはおかしいって話だったか」


 魔族。
 魔の族、か。


 魔族と聞けば吸血鬼なんかがそれに該当するんじゃないかと思うが、そういう事ではないらしい。あくまでも吸血鬼は吸血鬼で、竜人は竜人で、エルフはエルフだと。


 設定がややこしいな。
 もっとコンパクトに纏められないものか。


 少なくとも俺の頭じゃ無理だ。
 後で考えよう。


 それより先にすべきは、あのレッサーデーモンが何だったのか、という話と――俺が魔神に助言を貰った、という話だろう。


「セレンさんとレオルは知っているだろうけど、ラリアさんは初耳だろうな。俺はさっき、魔神と会った」
「え……!?」
「ふむ」


 セレンさんの反応とレオルの反応は対照的だった。
 レオルは何か知っているのだろうか。


「いや、何も知らん。続けてくれ」


 堂々と言い放つレオル。


「何なんだよお前。……まぁいいや。俺が魔神と会ったのは、俺たちがあの魔族――レッサーデーモンに襲われる直前だ。本当に直前、時を止めて介入してきたんだ」
「時を……」


 セレンさんが呟く。
 やはり時を止めるという事は並大抵の事じゃないのだろう。


「そう。時を止めて。あいつはかなり憔悴してたけど、五つ俺に取るべき行動を指示した。一つは、《怠惰の魔眼》で視えていた、セレンさんの死を回避する事」


「そうだったんですか……!?」


「ええ。まあ、それは回避できましたが。魔神のお陰、というのも癪ですけど……で、二つ目は全速力で逃げること。ここから先はセレンさんは知ってる展開です」


「それであのダッシュだったんですね」


「そういう事です。そして三つ目は、ラリアさんを呼び出す事。四つ目がそのラリアさんに、レオルを呼んで貰うこと。五つ目は揃った四人であのレッサーデーモンを倒す事……と、まぁ最後の一つはほぼレオル一人でやったようなもんですけど」


 結局はレオルが来るまでの時間稼ぎしかしてない気がする。
 だが、実際レオルが来なければかなりやばかったし、俺一人ではそこまで頭が回らずに死んでいただろう。セレンさんなら或いはそこまで考えつくかもしれないが、時を止めてこそああして詳細に作戦を伝えられたのだから、結局同じことだっただろう。


 どう足掻いても、俺とセレンさんは、あの魔神に助けられた形となる。


「魔神という響きからして敵なのかと思ったのじゃが、聞く限りじゃとそやつは味方なのか?」
「…………いや、敵、なはずだ」
「……私もそう思ってましたが……」
「ふむ。あの女ならば、こうして恩を売って惑わそうとしていただけとも受け取れるぞ」


 と。
 レオルが言った。
 確かにそれはあるかもしれない。
 惑わす。狂わせる。あいつと初めて会った時にそう言ってたじゃないか。


 いちいち真に受けて考えても仕方のない事なのかもしれない。


「…………」


 セレンさんは何やらかなり考え込んでいるようだ。
 俺の知らないことを知っているセレンさんだからこそ、何か腑に落ちない事とかもあるのだろう。多分。彼女なりの結論が出たら俺に教えてくれればそれで良い。俺に教える必要のないことなら、それはそれでも良い。


 とりあえず、《魔族》とやらの情報がもう少し欲しいな。


「レオルとラリアさんは魔族を知ってるってことだけど、誰かから聞いたのか?」
「余は幼いころに、数千年も前の事だからな。記憶も曖昧だが、母親から聞いた。ラリアには余が教えた」
「と、いう訳じゃ」


 ふぅむ。
 レオルの母親か。
 当然だけどこいつにも親とかいたんだよな。こいつが小さい時の様子とか想像がつかない。小さい時から一人称は『余』なのだろうか。


 魔族、か。
 俺とセレンさんが二人がかりで――ラリアを加えて三人がかりでやっても歯が立たない相手。レオルは瞬殺したが。


 魔王くらいの強さだと考えて良いだろう。あのレッサーデーモンが。


 魔族の王で魔王じゃないのかよって感じだが。
 インフレが激しいな。
 レオルが勝てない相手とかも今後出てくるのだろうか。


 ……位がどうとか言ってたし、あれよりも強い奴がいる可能性はかなり高いんだよな。


「レオル。お前、自分より強い奴がいたらどうする?」
「勝てるように努力をする他ないだろう」


 そうだよな。
 そういえばこいつ、修さんに負けてるんだっけか。


 今の時点では修さんより強いだろうし。
 そう考えるとこいつもやっぱり相当な努力を積んできたんだろうな。それこそ数千年も。そりゃ強い訳だ。


 俺なんてそういう意味じゃ半年くらいしか努力らしい努力はしてないんだしな。いや、もっと少ないか。ラリアに吸血鬼としての戦い方を学んだことと剣術くらいしかそれらしいものはしてない。


 そう考えると俺、本当に怠惰だな。
 魔眼まで持ってるなんて出来過ぎだぜ。


 もっと頑張らなきゃな。


「しかし、魔族が二匹いたという事は他にもおると考えた方が良いじゃろうな」
「やっぱりそう思うか?」
「うむ。むしろ他におらんと考える方が難しいじゃろう」
「だよなぁ」


 レオルの言っている事が本当ならば(嘘をつく理由もないだろうけど)、レッサーデーモンは少なくとも二匹いた。二人と言うのが正しいのかどうかは分からないが。


 二匹いたなら三匹目もいるかもしれないし、四匹目五匹目――もしかするともっと大量に。ラリアはあちら側・・・・こちら側・・・・と言っていたが、普通なら繋がるはずのないあちらとこちら。繋がるはずがないのにあちら側の者がいたという事は、どこかで繋がっている可能性があるという事だ。


 しかもレオルが道中見つけて倒すくらいだから、それなりの数がいてもおかしくない。


 俺たちが今まで気付かなかっただけで。
 大量にいたって、おかしくはない。


「……次見つけたら生け捕りに……出来るのはレオルくらいなんだよなぁ」
「だろうな」


 レオルが頷く。
 自信過剰ではなく事実だからだ。
 セレンさんはうまくやれば生け捕りに出来るかもしれないが、そのうまくやるの部分は俺がなんとかしなければならない分部だ。


 魔法使いというのは一対一では弱い。
 距離を取れば勝てるが、レッサーデーモンは少なくとも俺より速かった。
 瞬間的な速度はミラの方が俺より速いが、持久走なら俺が速い。そして恐らく、あのレッサーデーモンは瞬間的な速度でもミラを上回っていた。


 少なくともミラは数㎞離れたところから一秒で人間の首を刎ねるなんて事は出来ないはずだ。


「レオル。お前、元竜王――パルメのこと覚えてるか」
「覚えておるぞ。あれほどの存在感の娘をそう易々と忘れるはずもないだろう」
「まぁ、そりゃそうか。お前の目から見て、パルメはさっきのレッサーデーモンに勝てそうか」
「ふむ……」


 少し考えるように手を顎に当て、しばらくして


「恐らく勝てるだろう。一対一なら少なくとも負ける事はないと思うぞ」
「……そうか。その言いぶりだと、結構ギリギリな感じなのか?」
「先手を取れれば無傷で。先手を取られれば腕の一本や二本は覚悟するべきだろう」


 竜王――パルメでもギリギリか。
 魔族。


 ……セレンさんを狙っていたのは確実だ。
 理由は分からない。


 が、訳はなんとなく分かる。
 恐らくセレンさんが女神だからだろう。


 俺の事も恐らくロックオンされている。
 ……ミラたちはどうだろうか。


 ミラはともかく、パルメやディーナはまだセレンさんとの関わりがそんなに深くはない。セレンさんの仲間と判断されなければ狙われる事もないのだろうか。


 なら離れるべきか?
 俺とセレンさん、ミラだけの三人で、パルメとディーナから。


 もしかしたらミラも巻き込まなくて良いかもしれない。


「何を深刻な顔して考えておるんじゃ?」
「ハーレムメンバーから離れるべきか否かを」
「……離れん方が良いと思うぞ。儂が――レオルから聞かされた話では、魔族というのはこちらの世界そのものを狙っているらしいからの」
「世界……そのもの?」
「そうじゃ。お前から聞いた魔神とやらもそうかもしれんが、魔族もそうなんじゃよ」


 魔族と魔神の目的が同じ……なのか?
 だから魔族にやられそうになっていた俺たちを助けた。


 そう考えると魔神の行動にも説明がつく……かな。
 微妙なラインだ。
 魔族と魔神が結託するという事はないのだろうか。


 ……そもそも魔神が魔族をこっちに連れてきたんじゃないか?
 いや、それだと俺たちを助けた理由が……恩を売るだけの可能性もあるのか。駄目だな。色んな可能性があって、どれも否定できないが肯定もしきれない。


 …………無理を言ってパルメも連れてどこかに隠れるか?
 レオルやラリア、パルメに俺とセレンさんでよっぽど大丈夫だろう。正直無敵の布陣にも思える。ミラやディーナは……魔族との闘いでは恐らく手が出せない。


 二人とも人間の中では最高レベルだが、そもそも人間と魔族との間の実力が離れすぎている。特に魔具も持たないディーナはまず戦えないだろう。


 ……いや。


 金はあるんだから、魔具を購入すれば良いのか。


 神器は流石に金だけで手に入るものではないが、魔具は多少値が張っても買える。幸い、金なら潤沢にあるしな。


 魔具を持てばディーナはかなり強くなるだろう。
 ミラは魔具を持っているが、あれ以外にもあって良いしな。そもそもあいつは今魔法覚えに行ってんだっけ。
 ちなみに剣術学校は連休に入った。
 と言っても四日だけだが。ゴールデンウィークには程遠いぜ。なに? 三連休しかないゴールデンウィークもある? それはゴールデンじゃない。何も黄金じゃない。


 そうなると既に神器を持ってて色々盛りに盛っている俺が取り残される形になるな。剣術だってまだまだだし。
 だが、ミラの速度が上がる魔具みたいな一点強化型の魔具は俺も持っておいて良いだろう。


 レッサーデーモンから逃げきれなかった件もあるし、ミラのように速度強化の魔具を持とうかな。そもそも魔具の相場が分からないんだよな。


 流石に30億もあれば買えるよな?


「……ユウト。現竜王と吸血鬼の王として、簡単な話があるのだが良いか?」
「なんだ突然。良いけど、細かい事は俺には分からんぞ」
「簡単な話だと言っただろう。……魔族がこの世界を手中に収めようとしているのならば、吸血鬼、竜人、人間――そしてエルフ、この四つが密に関係を築かねば対抗できん。最も難しいのはエルフだろうが、あ奴らの力も必ず必要になる。そして余は、交渉事が苦手だ」


 言ってる事はまともだが、最後の言葉で嫌な予感しかしないな。


「ユウト。おぬしが吸血鬼と竜人の橋渡し役として、人間の王、そして光のハイエルフと交渉をしてきて欲しいのだ」
「マジか……」
「マジだ。余は人間にもエルフにも嫌われておるから難しいが、おぬしなら何とかなるだろう」
「いや、エルフ族と竜人は戦争しちゃってるからなぁ」
「光のハイエルフと面識を持っているな。良い事ではないか」
「良いのかなぁ……」


 どうだろう。
 光のハイエルフ。
 今あいつと剣術で戦えばぶっちゃけ多分勝てる。純粋な膂力とか、不死身性とか駆使しつつ、だが。しかしあいつは魔法の方が得意らしいじゃないか。


 正面からいって、何だお前ふざけんなって感じで攻撃されたら成す術なくやられちゃいそうなんだよな。


「おぬしのすぐ隣に光のハイエルフに匹敵する魔法の使い手がいるだろう」
「あ……」


 そうか。
 セレンさんも一緒に来てくれれば対魔法ならなんとかなる。


「え、何か言いました?」
「エルフと人間と吸血鬼と竜人が協力するって話です。あとついでに、魔具を買いたいなって」
「協力……なるほど、確かにそうしないと駄目ですね。エルフ族は難しそうですけど……何か策があるんですか?」
「いいや全く」
「余も策など無いな」


 当然と言わんばかりに、レオルが否定してラリアは無言で首を横に振った。
 誰も何も考えてなかった。


 悲しすぎる事実だ。


「……優斗さんが竜王として動くという事で良いですか?」
「まぁ、やっぱそうなりますよね」
「ならまずは人間の方から――と言っても幾つかの国に別れてるので一筋縄ではないですが、一番の大国の王様を説得するところからでしょうね」
「なるほど」


 とりあえずセレンさんに任せよう。
 だって俺ほとんど何も分からないし。

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