女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第64話 悪意ある者

 日常と言うものは、得てして壊される為に存在しているのだろうか。俺が何事もなく、とか言うと大体何か起きる。
 悪い方向にしろ良い方向にしろ。


 とにかく、今日は非日常が起きるようだった。


「今日は編入生の紹介から始めます」


 と先生が言った時になんとなく嫌な予感はしていた。
 だが、その予感は当たって欲しくなかった。


 出てきて、と先生が言って扉から入ってきたのは。


 黒髪で、黒目。
 俺と同じ、日本人。


 ――確かに殺したはずの男。


「初めまして。斎藤と言います。サトウと呼んでください」


 にやりと。
 俺の方を見て、斎藤は嗤った。











「どういう事だ」


 俺は斎藤を呼び出していた。
 自己紹介の後、すぐに顔をぶん殴ってやろうかと思ったが、一先ず暴れる気配は無さそうなので放置して。休み時間に入った直後、質問攻めに合っているこいつを連れ出したのだが。


「どういう事も何も、オレが剣術を習いに来ちゃいけないのかい? 君に何の決定権があるか知らないけど、オレは正式な手順を踏んでこの学校に来ている」
「お前は俺が殺したはずだ。この手で、確実に」
「あぁ、死んだよ。で、生き返った」
「……どうやって」
「君に言う義理があるのかい?」
「殺すぞ。お前に関しては躊躇しないからな」
「おいおい。日本人が殺すぞとか平気で言うなよ」


 平気な訳ないだろう。
 俺がどれだけの覚悟をもって。
 お前を殺したと思ってる。


「まぁ、あの時みたいに有無を言わせず殺されないだけマシかも。どうして生き返ったのか、どうやって生き返ったのかを知りたいんだっけ?」
「答えなければ殺す」
「物騒だなぁ、本当に。オレはそんなつもりないのに」
「……なんだと?」
「あの女の言いなりになるのはやめた、と言ってるのさ。オレはオレのやりたいようにやる」
「やりたい事が俺をおちょくる事か」
「自意識過剰だな君は。オレはただ剣術を習いに来ただけだよ」
「……信じると思うか?」
「信じて欲しいなぁ。同じ日本人のよしみで」


 そもそもどうやって生き返ったのかも答えてないな、こいつ。
 ……やっぱり殺すか。


「待てって。オレに戦闘の意志が無いのは本当だ。君には勝てない事分かってるし」
「どうだか」


 こいつに関しては信じるとかそういうのが通じないのは分かってる。
 ……が、怠惰の魔眼を使って視てみる限り、今のところは――本当の意味で今のところは、戦闘の意志はないようだ。


 だが、どうしたものか。
 こいつはやはり殺しておいたほうが良いかもしれない。
 等と、物騒な考えがさっきから脳裏を過っている。


 殺すにしろ生かすにしろ、どうやって生き返ったかを聞いてからだな。


「そろそろ本当に殺されそうだから種明かしするけど、オレは生きてるようで死んでる。食屍鬼グールって聞いたことあるかい?」
「いや……知らないな」


 実際はグール、という単語そのものは聞いたことある。
 だがそれを詳しく知っているかと聞かれればその答えは否だ。


「ざっくり言うと吸血鬼の下位互換。もう少し詳しく言うと、人間っぽいゾンビ」
「……つまり、なんだ。お前は今、ゾンビなのか?」
「そう。人間っぽい見た目してるけど。そういう意味じゃあ、オレは生き返ってない」
「……魔神の差し金か?」
「いいや、違う。少し調べてみたけど、どうやらこの世界では放置された死体ってのは一定確率で――かなり低い確率だけれども、グールとして動き出す事があるらしいんだ」
「それがお前だってか」
「そう。嘘じゃあないよ」
「…………魔神は知ってるのか」
「多分知ってんじゃない。オレはもうあの女の指示に従う気はないけど」
「それを信じろと言うのか」
「信じて欲しいね」


 ……どうする。
 真実にしろ嘘にしろ、ここで殺しておくのが一番後腐れないだろう。
 ……だが。
 別に俺は人を殺したい訳じゃない。


 積極的には。
 どうしてもそうしなければならないのならそうするが、そうしなくて良いならそうしないに過ぎる事はない。


「ここで殺すか殺さないか迷ってる時点で、君はやはりオレからすれば羨ましい」
「羨ましいだと?」
「だってオレだったら殺してるから。オレは人殺しが楽しくて楽しくて仕方がない……って訳でもないけど。動いてるものを見たら、止めたくなるだろう?」
「……何を考えてここへ来た」
「別に。強いて言うなら、このスリルを味わう為かな」
「…………」
「生きるか死ぬかの、ギリギリのスリル。ライオンの檻にいるみたいだ」
「分かんねぇな」
「だろうね。君は普通の日本人」


 にや、と嗤って斎藤は続けた。


「を装って、普通に暮らしてたんだから」
「……日本にいた時に人を殺したいとか、そんな事は思ってなかったぜ」
「そんな事は分かってる。精々、反抗期の時に親を殺したいと思うくらいだろう。でも、異常だよ君は。分かりやすく異常だよ。普通じゃない日本人だったオレから見ても、君は異常だ」
「それはお前が異常だからじゃないのか。異常者から見た健常者が異常に見えてるだけだろ」
「君は自分がまともだと思ってるのかい?」
「…………お前よりはな」
「比較対象が狂ってちゃあ話にならないな」


 自覚があるのか。
 ……無い訳ないか。
 こいつの出自は異常だ。


「君、こっちの世界に来てから何人殺した?」
「……知るか」
「はは。やっぱり。数えきれないほど殺してるんだ」
「何を言いたい」
「いや。オレは65人殺した。ちゃんと全員覚えてるよ。どんな感触だったかまで、しっかりと。死ぬ瞬間に何を言ったかとか、どんな表情をしてたか、とか」
「それは……」


 明らかに異常だ。


「そうかい? それが普通だと思ってるんだけど。人の命って」


 ピリ、とした殺気のようなものを感じた。


 思わず、影に手を伸ばしかける。


「尊いものだろう」


 人の命は、尊い。
 そんな当たり前の事を、こいつは言った。


「尊いものを奪うんだからちゃんと覚えてなきゃ。その人の人生に失礼だろう」
「……お前は異常だ」
「知ってる」


 ――何故か。
 俺はこいつを殺そうという気が、削がれていた。


 多分こいつは、俺たちにとっては無害だ。
 誰かにとって有害であることは間違いないが。


 そういう意味では、俺だってそうなのかもしれない。


「やりたい事もやったし、オレはこの学校から去るよ」
「正式な手順を踏んで編入したんじゃなかったのか」
「そうだよ。でも、君を直に見て気が変わった」
「……どういう風に」
「オレを殺せる人間が近くにいるのに、何もしないなんて嘘じゃん。君の大切な――そうそう、君の隣にいた青い髪の子辺りを殺して、君に恨まれたいって思っちゃうじゃん。でも、人の命って尊いからさ。あんまり殺したくないんだよね。出来る限り」
「お前は――!」
「じゃあね。多分、二度と会う事はないだろう。さようなら」


 どん、と俺の胸を押して、斎藤は教室とは逆の方向へ歩いていった。
 残ったのは、モヤモヤとした気分だけだった。


 くそっ。

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