女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第63話 汚い大人

「……分かりました。魔王については、しばらくは心配いらなさそうですね」


 セレンさんに魔神から聞いた事を覚えている範囲で伝えてみたところ、こういった感想が帰ってきた。


「ユウトさんから聞いた話と魔神から聞いた話を合わせて考えると、機が熟すというのは恐らく魔王の傷が癒えるまでの期間を示しているのだと思います。外法……時間の流れは私たちの解釈とかなり異なります。数千年前についた傷でも、彼にとってはつい最近つけられたものになるんです。……内側に来ているという事は、少なくとも半年近くはかかると思います」
「なるほど。よく分からないってことが分かりました」


 とりあえず魔王については心配いらない、と。
 魔神も顕現にはしばらく時間が空く。


「解せないのは、何故こちらに都合の良い情報ばかりを与えてくるか、ですけど……」
「ですよね」


 俺たちにとって都合が良すぎる。
 あいつは敵なはずだが……


「ユウトさんを懐柔しようとしてる……のかもしれません」
「…………どうでしょうね」


 キスの件は伝えてない。
 流石に言えない。
 が、キスの件があるから一概に否定は出来なかった。


 案外、そこが正解なのかもしれない。
 俺を懐柔しようとしてる、か。


 見た目でまずセレンさんのインパクトを超えてこないと無理だぜそれは。


 確かに魔神の見てくれは悪くはないが。


「まぁ、分からない事を考えてても埒があきませんね。魔眼については、彼女は嘘をついてません。確かに怠惰の魔眼は存在しますし、ユウトさんの言っている通りの性能であってます。彼女は七大罪を基にして魔法を幾つか作っているので、他の大罪についても警戒しないといけないですね」
「……嫉妬とか、明らかに厄介そうなのもありますしね」
「ですね。……私が心配なのは『色欲』辺りですけど」
「んなっ」
「冗談です。ユウトさん、そろそろ戻らないと寮の門がしまっちゃいますよ?」
「じゃあそろそろ戻ります。――また三日後に」
「はい」

















「怠惰の魔眼……また凄い人になったね、ユウト君」
「俺自身の力じゃないけどな……でも、性能はかなりのもんだ。大体一秒から二秒くらい先まで見える」
「試してみる?」
「頼む」


 俺とディーナが向かい合い、武器を互いに構える。
 武器と言っても木刀だが。


 魔眼に魔力を籠める。
 まだ動きはない。


「じゃあ、行くよ!」


 彼女がそう言った直後に、分身でもしたかのようにぶわ、と幾つもの『可能性』が視えた。その中で最も色の濃いものに対して、木刀を合わせる。


 バチィン、と音がして、木刀同士が合わさった。


 これで終わりではない。
 次の動きも視えている。


 パシン、パシン、と何度か木刀が弾ける音が響いて、ディーナは動きを止めた。


「……本物みたいだね。凄いなぁ、それ」
「なんかズルしてるみたいだけどな」


 他の人はこんな眼は持っていない訳で。


「良いと思うよ。聞いた限りだと、ユウト君自身が勝ち取った力だと思って」
「……そうかな」
「うん。でも、剣術に凄く有利になったね。これからはそれ使いながら戦うの?」
「だろうな。今までとはかなり勝手が違ってくる」
「じゃあ、今までより練習して慣れないと」
「だな」


 再び、ディーナが木刀の切っ先を向けてくる。
 突きだ――と思ったら、横からの一閃が来た。
 突きだと思っていたお陰で、反応が一瞬遅れる。


「これが弱点かな」
「……あくまでも『可能性』を視るだけってのを忘れるとこうなるのか」


 早めに痛い目を見ておいて良かったな。


「未来が視えるって言っても、確定じゃないってところがミソなのかな。それでも強力な能力であることには変わりないけど」
「だな。あくまでも能力は能力で、それが決め手になるわけじゃないってところか」


 等と言いながらも、俺たちの手は止まらない。
 視える可能性で一番色濃いものを選択しつつ、他の可能性は捨てない。


 案外、この魔眼があってもなくても同じことをしているような気もする。それが目視できるようになっただけで。それだけでもやはり強すぎる能力な事には変わりないが。


 こうしてディーナと打ち合っていると分かるが、『可能性』というのは強ければ強いほど多く視える。もしかすると、あまりにも強い奴――例えばレオルとかパルメとか、魔王とか相手だとほぼ意味が無いかもしれない。


 ディーナ相手でも、場合によっては10種類くらいの『可能性』が視える。案外難しいな、この能力。


 便利なだけじゃないって辺りが実に魔神らしい。


 魔神の事なんてロクに知らないが。


「あっ」


 余計な事を考えていたら、木刀を取り落としてしまった。
 というか、ディーナの技で落とされたのだが。
 やっぱうまいな。


「他所事考えてちゃダメだよー」
「はいはい」


 魔神の事は、今はとりあえず心配いらない。
 魔王についてもそうだ。


 光のハイエルフくらいか。強そうなのでこっち側についてなく、動向が掴めていないのは。魔神に聞いとけば良かったか。
 ……いや、聞いても流石に教えてはくれないか。


「そろそろ終わるか」
「だね。今日はもう遅いし……ユウト君、ちょっと耳かして」
「うん?」


 耳を近づけると、


「なんちゃって。えい」


 と、頬にキスされた。
 うわ。
 自分で顔が赤くなってるのが分かる。


 ディーナも真っ赤だった。


「じゃあね! おやすみ!」


 逃げるように駆けていってしまった。
 ……お前、明日の授業で顔合わせる時どうするんだよ。















「うるせー死ね。んな事いちいち報告してくんな」


 ルクス先生はご機嫌斜めだった。
 レズだからだろうか。
 それとも生理だろうか。


「それにしても、怠惰の魔眼ねぇ。未来が視える、と。怠惰だと未来が視えるなら、あたしにも視えて良さそうなのに」


 ルクス先生には簡潔に嘘をつきつつ魔眼の存在を伝えた。
 朝起きたらなんかなってました、と。吸血鬼の王にこれ何? って聞きに行ったら怠惰の魔眼で未来が視えるんだぜ、と教えて貰ったと。


 吸血鬼の王という免罪符は便利だ。


 実際あいつなら怠惰の魔眼の存在を知ってるかもしれないしな。
 数千年前から生きてるんだし。


 ちなみに冒頭の不機嫌は俺がディーナにキスされたという事を伝えた事による結果だ。レズだからだろう。


「まぁどうでもいいや。未来が視えるんなら今までより戦いやすくなるだろ。……あん? そんな簡単な話じゃない? 知るか。簡単にするんだよお前が」


 無茶を言う。
 無理を言っている訳じゃないから、やはり俺が頑張る他ないのだが。


「でも、未来視えても実際あんまり強くなった感じはないんですよね。ディーナと打ち合ってるといつもと違う感じがしない」
「それはお前、そもそもまだ剣術があの子と同格になってないからだろ。格が違うんだよ格が」
「格……」


 確かに、俺とディーナの剣術には大きな差がある。
 ダブルスコアつけられるぐらいだしな。
 格も違えば核も違う。未来が視える程度で埋まる差じゃないってことか。


 実力差がもっと近ければ実感しやすかったのだろうか。


「あーあんまりあたしの言う事鵜呑みにすんなよ。それで後から話が違うって言われてもあたしは責任取らないからな」
「んな無責任な……」
「大人なんてそんなもんだ」
「大人って汚いですね」
「大人って薄汚いもんなんだよ」


 よりひどくなった気がする。
 そんな大人になりたくない……


「そもそも大人って何なんですか」
「特訓の前に問答か? 確かに生徒のお悩み相談はあたしの仕事だが。……大人ね。自立した奴を大人と呼ぶならお前も大人なんだろうが、あたしから見ればお前はまだまだ子どもだな」
「大人って相対的な評価なんですか?」
「さぁな。あたしの事も見る奴が見れば子どもに見えるのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。年齢だって全く関係がないと言えば嘘になる」


 精神年齢だけ成熟した子ども、というのもいるのだろう。
 例えばそれこそ、吸血鬼とかに。


「見た目も重要な要素だろうな。だが、おっさんみたいな顔した子どももいる」
「老け顔的な?」
「そうじゃなくて、精神年齢の話だ。勿論老け顔もいるだろうが……話題はそこじゃなくて、やはり大人ってのは幾つかの要素があって成り立つものなんだと思うぜ。
 自立って言っても幾つかあるしな。精神的なものだとか金銭的なものだとか」
「難しいですね」
「難しいさ。そんな難しい事をあたしに聞くな」
「えぇ……」


 仕事してくれよ先生。


「始めるぞ、特訓。余計なこと考えてると骨へし折るからな」
「ルクス先生ほど暴力的な保険医って他にはいませんよ」
「確立した自己ってのも大人な要因の一つかもな」


 まぁこんな問答をやり取りしつつ、一日が終わる。
 これをもう半年くらい続ける頃には、俺はちゃんと強くなれているのだろうか。

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