女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第62話 怠惰の魔眼

「やあ」
「…………」


 白い空間。
 白い女。


 魔神だ。


「暇なのかお前」
「暇だよ。とっても」


 はぁ、と大げさに溜め息をついて見せる魔神。
 俺にとっては迷惑以外の何者でもない――


 いや。
 聞きたい事があったな。
 そういえば。


「魔王の事だろう?」
「そうだ。分かってるんならさっさと答えろ」
「私に答える義務はないんだけどなぁ。……おぉ怖い怖い。そんな目で睨まないでくれよ」
「答えないなら俺もお前の暇つぶしに応える理由がないな」
「君に拒否権は無いよ。現に、君は何故今ここにいるかも分かってないだろう」


 嫌な奴だ。


「魔王、ね。魔王。あの子はそう名乗っているみたいだけれど、その本質は出来損ないでしかないんだ。私という存在の搾りかす。生命にもなりきれなかったような出来損ないがそれだ。彼はそれ以上でもそれ以下でもない――はずだった」


 こいつの話がどういうところに着地するのか想像もつかない俺は黙って話を聞くしかない。


「予想外だったのは、彼の貪欲さだね。七つの大罪。知っているだろう。憤怒、嫉妬、暴食、色欲、傲慢、怠惰、強欲。元々は八つだったという話はここではしないでおこう。意味は特にないからね。虚飾とか憂鬱とか。まぁいらない知識だ。魔王と名乗るあの出来損ないは、『暴食』と『強欲』で成り立つ化け物だ」


 化け物。


「そう。化け物。私にもあれは制御できない。何度か試みてるんだけどね。頑なに干渉を拒まれる。そのくせ情報だけは素直に受け取ると来たもんだから、私にもお手上げだ。
 『暴食』は喰らう罪。『強欲』は欲する罪。あの子は強さを欲して、喰らい続けた。結果、あんな化け物みたいな存在になり上がったんだ。
 そう、成り上がった。成って上がった。君が人間から吸血鬼になったように。彼も出来損ないの搾りかすから魔王へと成り上がった。その存在を昇華させた。無理やりね。君も大概無理やりだったが、あの子はその上を行く。周りを喰らい続けてそこまで辿り着いたんだから、そこに彼以外の意志は存在しない。厄介だよ。あれは私の側にも君たちの側にもいない、いわば外法の存在だ」


 外側にいる、と魔神は続けた。


「だからこそ、姉さんはあの子を刀としてこの世に残す事が出来たんだけど。君が認識した時点で魔王は外でなく、内になった。君と先代の英雄の存在力が無理やり引きずり込んだ。自らの娘を――外にいた娘を内側に引きずり込むのと同時にそうなるように、姉さんがそう仕組んだ。
 姉さんというのが誰を指すかは分かるよね。メロネ姉さんだ。私のお姉さん、そっくりだっただろう。そういう存在だからね。私は大体何でも知ってるけど、外から内に来た時の情報は希薄なんだ。魔王が内側に来た時は自分の目を疑ったよ。そして君の記憶を覗いて納得が行った。
 この世界を救うために、姉さんが仕組んだことなのかと」


「……よく分からないな」


「分かって貰おうとしている訳じゃないから良いよ。分かるのは君じゃなく、セレンでいい。とにかく、問題は魔王なんだよ。私だけでなく、君たちにとってもあれは害悪だ。まだあれは動かないが、機が熟せばすぐにでも動き出す。その機と言うのは君たちが握っているんだけどね。
 ――もっと言えば――いや、ここから先は流石に親切が過ぎるか。君たちがどう動くか見守るだけでもいいと言えばいいんだけど、下手をすれば私自身が喰われかねない。
 だから君たちには、あの搾りかすを倒して欲しいんだよ。出来損ないの魔王を」


「……お前に言われなくても」


「やるつもりだっただろうね。でも、出来たかどうかは分からない。私がこうして君の前に姿を現しているのには理由がある。なに、簡単な話だ。君にとっては出来過ぎた話かもしれないがね。私が君に、新たな力を授けてあげよう。剣術を習得しようとしている君にとっては、かなり大きな力になると思うよ」


「……お前が俺に力を授けるだと? 何言ってんだお前。お前と俺は敵対しているんだろ」


「敵対してるんだろうね。君たちにとっては。まぁ今はそれはどうでも良い。さっき、搾りかす魔王くんは『強欲』と『暴食』で成り立っていると言ったね。七つの大罪の二つも有している。対して君たちは何も持っていない。それでは不公平だろう。だから私は、君に力を授けるんだ。『怠惰』の力をね」


「怠惰……」


「字面だけで判断しちゃいけないよ。怠惰を授けたからと言って君の性格が変わる訳じゃない。価値観は変わるかもしれないけどね。どんな能力かは受け取ってからのお楽しみというやつだ。……だからそう睨まないでくれよ。今の君は私に危害を加えることは出来ないけど、私だって恐怖というものを感じない訳じゃない。今の私が君と戦えば十中八九君が勝つよ。不死身で怪力で吸血鬼。ほぼ無敵だからね。王と呼ばれる三つの頂点はまた格が違うけど、君ならすぐにあの領域まで辿り着くだろう。或いは今から君に授ける力で肩を並べるかもしれない。
 ……とは言っても、君が本気で拒否すれば力は授けられないけどね。さぁどうする? 拒否権は無いとさっき言ったけど、こればかりは別だ。君には拒否する権利があるし、受け取る権利もある。間違っても義務とは言わない。
 ただ、君が受け取らないという選択をすると、魔王を倒せる確率は今のまま、低いままで終わるというだけで。君には選ぶ権利がある」


 卑怯な言い方だな。
 俺が受け取らないと言う選択をとったら、俺が仲間を見捨てるみたいに聞こえるぜ。


「事実、そうだ。君に選ばせてあげるよ。君の仲間の命か、敵から塩を受け取りたくないという君のプライドをとるか。出来れば受け取って欲しいけどね。魔王は私にとっても邪魔だから」


 それが真実なのかどうかが俺に分からないのが問題だな。
 こいつの言う事を全てはいそうですかと受け入れて、実は魔王とグルで対魔王で不利になるような枷を俺に授けるつもりかもしれない。


「勿論その可能性も君の中で否定してはいけないものだね。考えてしかるべき事だ。ちゃんと考えて答えを出すと良い。あまり時間はないけどね。……なに、単純な事だ。もうすぐ君が目を覚ましてしまう。そうすると私の力で干渉するのは難しい」


 ……こいつの授ける力が罠だという可能性と。
 本当にパワーアップ出来るかもしれないという可能性。


 どちらを取るべきか。
 今のままでは魔王を倒せない。
 こいつの話を鵜呑みにするなら、あいつは『暴食』と『強欲』で成り立っている化け物だ。いつ俺の仲間が――俺自身が襲われるかも分からない。


 機が熟すとは何のことだ。
 俺はどうすれば良い。


 こいつの言っている事はほとんど意味の分からない事だらけだ。
 俺には分からない。
 セレンさんが分かれば良いとか言ってたが……


 魔神を信じていいのか?
 俺たちと敵対している魔神を。
 信用していいのか?


 もしも力を受け入れると言って強力なデメリットだった時はどうなる。だが、こいつの言っている話が本当で、なにも抗えずに魔王に喰われる可能性だってある。


 こんがらがってきたな。


「君が自分でややこしくしてるんだ。単純に考えれば良い。強くなりたいか、そうでないか、だ」


 強くなりたいかそうでないか。


 ――そんなのは決まっているだろう。


「よし、なら決まりだ」


 いつの間にか魔神が目の前にいた。
 そして。


「えい」


 ぱちん、と額を叩かれた。
 何を――と思うのと同時だった。


 眼に違和感を覚えたのは。


「エルランスって子がいるだろう。あの子は真実の魔眼を持っていたけど、今君に授けたのは怠惰の魔眼。その能力は――その眼に魔力を籠めれば分かるよ」


「……俺は魔力を持っていないぞ」


「はぁ。馬鹿だなぁ君は。三日に一度、君は誰の血を吸っているんだい? 女神の――芳醇な魔力を持った者の血だろう。君の中にも既に魔力は存在して、生産され始めている。……なんだいその目は。信じてないね。君、私が何故魔神・・なのかもう知っているはずだろう。魔については、セレンよりも詳しいんだよ、私の方が。……うん、でも今まで無いと思ってたものをすぐに認識するのは難しいよね。
 じゃあ――えい」


 えい、とさっきと同じ掛け声で。
 全く違う事を、魔神はしでかした。


 唇に唇を押し付け。
 あまつさえ舌まで入れてきた。


 抵抗できない。
 メンタル的なあれじゃなくて、物理的に体が動かない。


 舌が俺の咥内に入ってくるのと同時に、何かが俺の中に流れ込んできていた。
 直感的に、それが魔力だと認識する。


 そして認識してしまえば、なるほど。確かに俺の中に魔力はあった。


「ふぅ。分かったかい?」


「てめぇ……」


「ちなみに今のがファーストキスだ」


「要らん情報を増やすな」


 こいつ、マジで何考えているんだ。


 だが、お陰で(と言いたくないが)魔力の存在は知った。そして、この眼の能力も。


「未来が視えるのか……」


「そう。怠惰に相応しい能力だろう。剣術にも応用が利くよね」


「……何かデメリットがあるのか」


「ないよ。魔力を消費するってくらいで。それも大した量じゃないし。セレンが君に不死身と聖剣を与えたのと同じで、私もあの子と同じ存在だからね。デメリット無しの巨大な力の一つや二つ授けることは容易だ」


「だが、そうすることでお前自身が現世に顕現するのが遅れるんだろう」


「そうだよ。だから何? って感じだけど。別に私は、君たちが死んでからゆっくり世界を征服しても良いんだしね」


 ……確かにそうだ。


 だがそれが可能なら、セレンさんはこのタイミングで俺を――自分自身をこの世界に送り込まないだろう。


「うん。半ば強制的に、私はもうすぐ現世に顕現する。しばらくは力を蓄えないとだけどね。君に怠惰を授けたお陰で、私の力は大幅に下がっている」


「分からないな。何故俺なんだ。俺じゃなくてもいいだろう」


「分からなくていいよ。最後に分かるから」


 その言葉を最後に。
 俺は、目を覚ました。

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