女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜
第60話 帰還
しばらく待っていたが、救助は来なかった。
何度か人が近づいてくる気配は感じるのだが……
ネズミ返しになっているせいで俺たちを見つけられないのかもしれない。
声を張り上げても上までは届かないようだ。
かなり深いところまで落ちたな。
「ごめんね……」
「いや、だから俺にも非はあるんだって。気にすんな」
蜂が出てきた時点で出し惜しみせずにさっきの技を使ってればこうはならなかったしな。
さて、どうするかな。
一応、抜け出す方法は幾つか考えてはいるが、それには俺の力が戻るまで待つしかない。
「明日……くらいになれば抜け出せる。助けが来ない限り、一夜はここで明かす事になりそうだな」
「……そうだね。ごめんね、ユウト君」
「だから謝るなって」
ディーナはかなり落ち込んでいた。
まぁ無理もないか。
「幸い、色々と影に入れてあるから一日くらい野宿するなら余裕だ」
寝袋3つ、非常食三人分で三日分、水も三人で三日分、着替え……は流石に男用のものしか持っていないが。その他色々、影の中に詰め込んである。
ちなみに、影の中にどれだけ物を詰め込めるかは分からない。上限が無いのか有るのか、有ったとしてもかなり詰め込めるのだけは間違いない。
「吸血鬼って凄いんだね」
「色々と便利なのは否めないな。デメリットも吸血衝動ぐらいしかないし。……あぁあと、日焼けしやすくなるな」
「それは痛いなー」
あはは、と笑うディーナ。
本来の調子に戻ってきたな。
後は俺の力が戻るのを待つだけだ。
「ねぇ」
「うん?」
「わたしの事を吸血鬼にして、って言ったらどうする?」
「んー……実は、陽への耐性とか、十字架とかへの耐性とかって個人差があるみたいなんだ。俺の知ってる吸血鬼はみんな昼間でもまあまあ元気に動けてるけど、昼間は外に出られなくなる場合の方が多いらしい。それに、吸血鬼に成る事の出来る人と成れない人がいるらしいからなぁ」
「成れなかったらどうなるの?」
「全身の血が逆流して死ぬらしい」
「うわぁ……」
「そこらへんも込みで、吸血鬼に成るのは止めた方がいいよ。俺が言うのもなんだけどさ」
「ユウト君はいつ吸血鬼に成ったのか、聞いていい?」
「つい最近だよ」
体の成長とかも止まっているらしいが、まだ自覚はない。
成長期は既に過ぎているし、あと変化があるとすれば髭が生える生えないくらいだったからな。親父は髭生えなかったから、多分俺もそうだっただろうし。
「成長しないって、女の人にとっては良い事なのか?」
「うーん……そう思う人にとってはそうかも」
「ディーナは違うのか」
「うん。だって、胸も大きくならないんでしょ?」
「……多分」
ラリアを思い出す。
見事なぺったんこだった。
外見年齢からして仕方がないのだろうけど。
「わたしのお母さんはもっと……あ、男の人の前でする話じゃないよね。ごめんね」
「別に。気にせず続けていいぞ」
「って言われるとむしろ続けたくないけど……」
なんてこった。
続けさせることでごく自然にディーナのカップ数を聞き出す作戦が失敗に終わってしまった。完璧だと思っていたのに。どこに穴があったのだろう。
「どこかって言われればユウト君の性格だよね……」
「もうどうしようもないじゃん」
「ブレないなぁ」
セレンさんと初めて会った日にも言われたな。ブレないって。俺自身はブレブレなのだが。色々と。覚悟とか、背負ってるものとか。
背負い込み過ぎて、足元が覚束なくなっている。
本末転倒というやつか。
文字通り転倒しそうだ。
「だから支え合うんだよ」
「そうだな」
誰かに支えて貰わなければ、俺は立ってすらいられない。
情けない。
何かに縋って、誰かに縋って、俺という人間は成り立っている。
そう考えるとただの屑な気もするが。
「そんな事ないよ。ユウト君に縋って――ユウト君がいる事で救われてる人は、絶対いる」
「……そうかな」
「そうだよ。それに、わたしもユウト君の事好きだしね」
「えっ」
「あっ違うよ、違う。そういう好きじゃなくて、なんていうか、その、友達として好きって言うか」
「分かってるよ」
そんなに慌てなくても。
流石に二週間で惚れて貰えると思うほど自惚れてない。
パルメはちょっと特殊だが。
あいつはチョロ過ぎる。
チョロインだ。
「暇だなぁ」
「暇だねぇ……この時間だと、普段はユウト君、素振りしてるのかな?」
「そうだな。それか同室のヤンキーをからかってるか」
「面白い事してるね……」
まぁ、大体素振りだ。
意味あるのかなーと思いつつ続けてる。
「ちゃんと意味はあるよ。絶対」
「お前がそう言ってくれてなかったら、俺は三日でやめてたよ」
三日坊主とか言うけど、三日も続けば良い方ではないか。
というのが、俺という自堕落な人間の意見だ。大体三日も続かない。昔、日記を付けようと思って1日で挫折したのを思い出す。
意外と面倒臭いんだよ、日記。
流石に『今日はとても楽しかったです』で終わる訳にもいかないし、中身を考える時間があったらゲームするわ。
って感じですぐやめちゃったな。
「……狭いけど素振りくらいなら出来るかな」
「出来ると思うよ。わたし、見ててあげるからやったら?」
「じゃあ見ててくれ」
影から木刀を取り出す。
マイ木刀だ。この前購入した。
学校の敷地内で刃のついた武器を振り回すのは校則違反らしい。
夜中のルクス先生との特訓だと普通に刃のついた剣を振り回してるけど。あれは誰にも見られてないはずだからセーフだ。
さて。
まっすぐ振り上げて、まっすぐ振り下ろす。
ただこれだけの動作を、何千回――何万回繰り返しただろうか。
繰り返す分だけ強くなっているのだろうか。
「うん、やっぱどんどん良くなってってるよ。文句のつけようがないくらい」
「なら良かった」
確かに、自分でもこの動きが板についてきたと思う。
だが、まだたかが二週間だからな。この程度で慢心して、満足してやめてたら今までの俺と何も変わらない。変わり始めた時に継続できるかが鍵なのだ。
「あ、もうちょっと右手を上に……そうそう、そんな感じ」
「こういう事か」
ふ。
また一つ素振りがうまくなってしまった。
振り上げて振り下げる。
ただこれだけの動作なのに、今までディーナに指摘された点は100を超える。単純な動作のようで奥が深い。
「わたしも完璧って訳じゃないしね。先生に指摘されて、初めて気づくこともたくさんあるよ」
「たまに何か指摘されてるな」
学校というだけあって、先生が生徒に何か教える事も当然ある。
俺の場合はその大半をディーナが占めているというだけであって、先生に何か言われる事も当然ある。よく言われるのは、背中が曲がってる、だな。
背中に一本の棒が入っているつもりで戦えと。
軸を意識していれば、態勢を崩す事がなくなり、有利に事を運べる。
「ユウト君、そろそろ次の段階へ移ってもいいかも」
「次の段階?」
「って言っても簡単な事なんだけどね。振り上げて振り下げるっていう動作を、もう少しだけ早くやるの。剣を振るう時って絶対に振りかぶらないといけないけど、その振りかぶりの動作を早く出来るように事で戦闘のテンポを自分で掴みやすくなるんだよね」
「なるほど、よく分からん」
が、次の段階へ移っていいと言うのなら移れば良い。
振り上げて振り下げる。
今までよりも一呼吸早く。
「早くすると、基本を忘れがちになるから気をつけてね」
「合点承知」
「なにそれ」
ツボに入ったのかぷっと吹き出すディーナ。
その時だった。
俺が異変に気付けたのは。
「……お前、足どうした」
「……え? あ、あぁこれ? ちょっと捻っただけで――」
「見せてみろ」
医学の心得がある訳じゃないが。
靴を脱がしてみれば、心得のある者でなくとも明らかに腫れあがっているのが見てとれる程の捻挫だった。
「なんで言わなかったんだ」
「……ごめんね。心配かけたくなくて」
「心配させてくれよ少しくらい」
幸い、影の中には応急手当が一通り出来るくらいのセットは揃っている。とは言っても、包帯とか痛み止めぐらいだが。
……よし。
これで多少はマシだろう。
俺の力もなんだかんだで、多少は戻っている。
ここまで戻れば、こいつを背負って学校へ戻るくらいの事なら造作もないだろう。
「俺がまず一人で上に行ってロープを垂らすから、それを掴んでくれ」
「うん、分かった」
吸血鬼は自らの体を変化させることが出来る。
蝙蝠になったり、霧になったり。
蝙蝠になる事は何故か出来ないが、霧になる事なら俺にも出来る。
ちょっと集中力がいるから、戦闘中に出来る程ではないが。
こういう場面なら役に立つ。
霧になり、上まで行って崖から出る。
影からロープを取り出し、必要な長さまで繋げて下へ垂らす。
……かなり落ちたな。
これだけの高さから落ちれば、幾ら俺がクッションを作ったって捻挫の一つくらいするか。自分の体が不死身だからって、気づけなかった俺も悪いな。
くい、とロープを引っ張られる感触があったので、引っ張り上げる。
しばらくするとディーナが見えてきた。
「すごい力だね、ユウト君」
「そりゃな。吸血鬼だし」
聖剣の事はディーナに言っていない。
……が、案外見透かしているかもしれない。
それはそれで構わないが。隠すような事でもないしな。説明が面倒臭いから言ってないだけで。
俺はディーナをおんぶして森を歩いていた。
時折魔物が出てくるが、剣術とか言ってられない場合なので影を使って撃退する。
「……やっぱ強いんだね」
「俺の強さじゃないさ、こんなの」
吸血鬼なら大体誰でもあの程度の魔物なら屠れるだろう。
「うぅん、そうじゃなくて」
「……なにがだよ?」
「なんでもない」
言って、ディーナは心なしか俺に密着する力を強めた。
胸が押し付けられてとても歩き辛いんだが。
……て本人に言うのもな。
俺が我慢すれば良い話か。
歩き始めて数時間で、俺たちは学校へ戻る事が出来た。
怒られたり褒められたりと忙しかったが、とりあえずディーナを保健室へ連れて行き、俺は部屋へ戻った。
ヤンキー君ことケントは俺が帰ってきたのを見て(多分ケントにも俺たちが森で遭難した件は伝わっている)
「生きて帰ってきたか。くたばっちまえばよかったのに」
と言い放った。
こういうのをブレないと言うのではないだろうか。
何度か人が近づいてくる気配は感じるのだが……
ネズミ返しになっているせいで俺たちを見つけられないのかもしれない。
声を張り上げても上までは届かないようだ。
かなり深いところまで落ちたな。
「ごめんね……」
「いや、だから俺にも非はあるんだって。気にすんな」
蜂が出てきた時点で出し惜しみせずにさっきの技を使ってればこうはならなかったしな。
さて、どうするかな。
一応、抜け出す方法は幾つか考えてはいるが、それには俺の力が戻るまで待つしかない。
「明日……くらいになれば抜け出せる。助けが来ない限り、一夜はここで明かす事になりそうだな」
「……そうだね。ごめんね、ユウト君」
「だから謝るなって」
ディーナはかなり落ち込んでいた。
まぁ無理もないか。
「幸い、色々と影に入れてあるから一日くらい野宿するなら余裕だ」
寝袋3つ、非常食三人分で三日分、水も三人で三日分、着替え……は流石に男用のものしか持っていないが。その他色々、影の中に詰め込んである。
ちなみに、影の中にどれだけ物を詰め込めるかは分からない。上限が無いのか有るのか、有ったとしてもかなり詰め込めるのだけは間違いない。
「吸血鬼って凄いんだね」
「色々と便利なのは否めないな。デメリットも吸血衝動ぐらいしかないし。……あぁあと、日焼けしやすくなるな」
「それは痛いなー」
あはは、と笑うディーナ。
本来の調子に戻ってきたな。
後は俺の力が戻るのを待つだけだ。
「ねぇ」
「うん?」
「わたしの事を吸血鬼にして、って言ったらどうする?」
「んー……実は、陽への耐性とか、十字架とかへの耐性とかって個人差があるみたいなんだ。俺の知ってる吸血鬼はみんな昼間でもまあまあ元気に動けてるけど、昼間は外に出られなくなる場合の方が多いらしい。それに、吸血鬼に成る事の出来る人と成れない人がいるらしいからなぁ」
「成れなかったらどうなるの?」
「全身の血が逆流して死ぬらしい」
「うわぁ……」
「そこらへんも込みで、吸血鬼に成るのは止めた方がいいよ。俺が言うのもなんだけどさ」
「ユウト君はいつ吸血鬼に成ったのか、聞いていい?」
「つい最近だよ」
体の成長とかも止まっているらしいが、まだ自覚はない。
成長期は既に過ぎているし、あと変化があるとすれば髭が生える生えないくらいだったからな。親父は髭生えなかったから、多分俺もそうだっただろうし。
「成長しないって、女の人にとっては良い事なのか?」
「うーん……そう思う人にとってはそうかも」
「ディーナは違うのか」
「うん。だって、胸も大きくならないんでしょ?」
「……多分」
ラリアを思い出す。
見事なぺったんこだった。
外見年齢からして仕方がないのだろうけど。
「わたしのお母さんはもっと……あ、男の人の前でする話じゃないよね。ごめんね」
「別に。気にせず続けていいぞ」
「って言われるとむしろ続けたくないけど……」
なんてこった。
続けさせることでごく自然にディーナのカップ数を聞き出す作戦が失敗に終わってしまった。完璧だと思っていたのに。どこに穴があったのだろう。
「どこかって言われればユウト君の性格だよね……」
「もうどうしようもないじゃん」
「ブレないなぁ」
セレンさんと初めて会った日にも言われたな。ブレないって。俺自身はブレブレなのだが。色々と。覚悟とか、背負ってるものとか。
背負い込み過ぎて、足元が覚束なくなっている。
本末転倒というやつか。
文字通り転倒しそうだ。
「だから支え合うんだよ」
「そうだな」
誰かに支えて貰わなければ、俺は立ってすらいられない。
情けない。
何かに縋って、誰かに縋って、俺という人間は成り立っている。
そう考えるとただの屑な気もするが。
「そんな事ないよ。ユウト君に縋って――ユウト君がいる事で救われてる人は、絶対いる」
「……そうかな」
「そうだよ。それに、わたしもユウト君の事好きだしね」
「えっ」
「あっ違うよ、違う。そういう好きじゃなくて、なんていうか、その、友達として好きって言うか」
「分かってるよ」
そんなに慌てなくても。
流石に二週間で惚れて貰えると思うほど自惚れてない。
パルメはちょっと特殊だが。
あいつはチョロ過ぎる。
チョロインだ。
「暇だなぁ」
「暇だねぇ……この時間だと、普段はユウト君、素振りしてるのかな?」
「そうだな。それか同室のヤンキーをからかってるか」
「面白い事してるね……」
まぁ、大体素振りだ。
意味あるのかなーと思いつつ続けてる。
「ちゃんと意味はあるよ。絶対」
「お前がそう言ってくれてなかったら、俺は三日でやめてたよ」
三日坊主とか言うけど、三日も続けば良い方ではないか。
というのが、俺という自堕落な人間の意見だ。大体三日も続かない。昔、日記を付けようと思って1日で挫折したのを思い出す。
意外と面倒臭いんだよ、日記。
流石に『今日はとても楽しかったです』で終わる訳にもいかないし、中身を考える時間があったらゲームするわ。
って感じですぐやめちゃったな。
「……狭いけど素振りくらいなら出来るかな」
「出来ると思うよ。わたし、見ててあげるからやったら?」
「じゃあ見ててくれ」
影から木刀を取り出す。
マイ木刀だ。この前購入した。
学校の敷地内で刃のついた武器を振り回すのは校則違反らしい。
夜中のルクス先生との特訓だと普通に刃のついた剣を振り回してるけど。あれは誰にも見られてないはずだからセーフだ。
さて。
まっすぐ振り上げて、まっすぐ振り下ろす。
ただこれだけの動作を、何千回――何万回繰り返しただろうか。
繰り返す分だけ強くなっているのだろうか。
「うん、やっぱどんどん良くなってってるよ。文句のつけようがないくらい」
「なら良かった」
確かに、自分でもこの動きが板についてきたと思う。
だが、まだたかが二週間だからな。この程度で慢心して、満足してやめてたら今までの俺と何も変わらない。変わり始めた時に継続できるかが鍵なのだ。
「あ、もうちょっと右手を上に……そうそう、そんな感じ」
「こういう事か」
ふ。
また一つ素振りがうまくなってしまった。
振り上げて振り下げる。
ただこれだけの動作なのに、今までディーナに指摘された点は100を超える。単純な動作のようで奥が深い。
「わたしも完璧って訳じゃないしね。先生に指摘されて、初めて気づくこともたくさんあるよ」
「たまに何か指摘されてるな」
学校というだけあって、先生が生徒に何か教える事も当然ある。
俺の場合はその大半をディーナが占めているというだけであって、先生に何か言われる事も当然ある。よく言われるのは、背中が曲がってる、だな。
背中に一本の棒が入っているつもりで戦えと。
軸を意識していれば、態勢を崩す事がなくなり、有利に事を運べる。
「ユウト君、そろそろ次の段階へ移ってもいいかも」
「次の段階?」
「って言っても簡単な事なんだけどね。振り上げて振り下げるっていう動作を、もう少しだけ早くやるの。剣を振るう時って絶対に振りかぶらないといけないけど、その振りかぶりの動作を早く出来るように事で戦闘のテンポを自分で掴みやすくなるんだよね」
「なるほど、よく分からん」
が、次の段階へ移っていいと言うのなら移れば良い。
振り上げて振り下げる。
今までよりも一呼吸早く。
「早くすると、基本を忘れがちになるから気をつけてね」
「合点承知」
「なにそれ」
ツボに入ったのかぷっと吹き出すディーナ。
その時だった。
俺が異変に気付けたのは。
「……お前、足どうした」
「……え? あ、あぁこれ? ちょっと捻っただけで――」
「見せてみろ」
医学の心得がある訳じゃないが。
靴を脱がしてみれば、心得のある者でなくとも明らかに腫れあがっているのが見てとれる程の捻挫だった。
「なんで言わなかったんだ」
「……ごめんね。心配かけたくなくて」
「心配させてくれよ少しくらい」
幸い、影の中には応急手当が一通り出来るくらいのセットは揃っている。とは言っても、包帯とか痛み止めぐらいだが。
……よし。
これで多少はマシだろう。
俺の力もなんだかんだで、多少は戻っている。
ここまで戻れば、こいつを背負って学校へ戻るくらいの事なら造作もないだろう。
「俺がまず一人で上に行ってロープを垂らすから、それを掴んでくれ」
「うん、分かった」
吸血鬼は自らの体を変化させることが出来る。
蝙蝠になったり、霧になったり。
蝙蝠になる事は何故か出来ないが、霧になる事なら俺にも出来る。
ちょっと集中力がいるから、戦闘中に出来る程ではないが。
こういう場面なら役に立つ。
霧になり、上まで行って崖から出る。
影からロープを取り出し、必要な長さまで繋げて下へ垂らす。
……かなり落ちたな。
これだけの高さから落ちれば、幾ら俺がクッションを作ったって捻挫の一つくらいするか。自分の体が不死身だからって、気づけなかった俺も悪いな。
くい、とロープを引っ張られる感触があったので、引っ張り上げる。
しばらくするとディーナが見えてきた。
「すごい力だね、ユウト君」
「そりゃな。吸血鬼だし」
聖剣の事はディーナに言っていない。
……が、案外見透かしているかもしれない。
それはそれで構わないが。隠すような事でもないしな。説明が面倒臭いから言ってないだけで。
俺はディーナをおんぶして森を歩いていた。
時折魔物が出てくるが、剣術とか言ってられない場合なので影を使って撃退する。
「……やっぱ強いんだね」
「俺の強さじゃないさ、こんなの」
吸血鬼なら大体誰でもあの程度の魔物なら屠れるだろう。
「うぅん、そうじゃなくて」
「……なにがだよ?」
「なんでもない」
言って、ディーナは心なしか俺に密着する力を強めた。
胸が押し付けられてとても歩き辛いんだが。
……て本人に言うのもな。
俺が我慢すれば良い話か。
歩き始めて数時間で、俺たちは学校へ戻る事が出来た。
怒られたり褒められたりと忙しかったが、とりあえずディーナを保健室へ連れて行き、俺は部屋へ戻った。
ヤンキー君ことケントは俺が帰ってきたのを見て(多分ケントにも俺たちが森で遭難した件は伝わっている)
「生きて帰ってきたか。くたばっちまえばよかったのに」
と言い放った。
こういうのをブレないと言うのではないだろうか。
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