女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜
第58話 褒められたもんじゃ
「対吸血鬼と、対人、対魔物の戦い方があるけど、どれが良い?」
「対魔王で」
「はぁ?」
「対人でと言ったんです」
夜中の二時頃。
学校の中庭で、俺とルクス先生は向かい合っていた。
「じゃあまず立ち位置だな。ゼロ点だ」
「……はい?」
「自分の影がどっちに向いているか考えてみろ」
「……あ」
なるほど。
俺の影は、ルクス先生と反対側に伸びていた。
影はほぼ自在に操れる。光が物体に遮られて出来るのが影だったはずだが、そんなの関係なしに自在に動かせる。
だが、動かすのもノータイムで動かせる訳じゃない。
元々敵側に影が伸びていれば、それだけ攻撃までの時間は短縮される。
と、いう事だろう。
「それを踏まえて、だ。あたしは吸血鬼の技は使わない。対人だからな。お前はガンガン使ってこい。使うべきところ、使わなくて良いところ、微妙なところ指摘してやるから」
「ちなみに先生、どれくらいまでなら死にません?」
「あぁ? 普通の吸血鬼くらいだろうな」
普通の吸血鬼くらいが分からないんだよ。
俺や俺を吸血鬼にしたあの女、レオルくらいしか吸血鬼のダメージ受けたの見た事ないもん。全員普通じゃない奴だ。
「……もしかしてお前、めちゃくちゃ再生早かったりするのか?」
「まぁ、それなりに」
「ちょっと腕捥いでみていいか?」
「いいわけないでしょう」
何言い出すんだこの人。
「ちなみに腕くらいならすぐ再生しますよ。一秒から二秒くらいで」
「おお。お前、そんなんでなんで剣術なんて習いに来たんだ?」
「……死ななくても勝てない相手がいるんです」
「ほう」
「歯が立たなかった。攻撃は当たりもしない。もちろん俺もダメージは受けてもすぐ回復しますけど、スタミナは無限じゃないんです。力を使い果たす前にあいつを――」
殺す。
「殺さなければ」
「ふぅん……」
気怠そうに、ルクス先生は聞いていた。
まるで興味なんて無さそうに。
……実際興味ないんだろう。
「なぁ」
「なんです?」
「そいつってお前が殺さないといけないのか?」
「……どういう事ですか?」
「いや、お前より強い奴いるだろ。剣術習いに来てるくらいなんだから。そいつに殺させればいーじゃん。お前が体張る必要あるのか?」
「ありますよ」
即答していた。
あいつは。
俺がやるべきだ。
「誰にも譲らない。あいつは俺が殺します」
「おいおい、あたしに殺気向けてどうすんだ。……まぁ、お前の全力がどんなもんか知らないし、そいつがどれだけ強いかも知らないけど、あまり気負い過ぎんなよ」
「…………」
「吸血鬼の王ってどうやってなるか知ってるか」
「……知らないです」
突然脈絡のない事を言い出すなこの人は。
「殺すんだよ。今の王を」
「……俺が殺したいのは吸血鬼の王じゃないですよ」
「そうじゃない。お前の話じゃなくて、あたしのお話だ」
見た感じ、正直な感想を言えばこの人がレオルに勝つとは思えないが。
あいつに勝てる吸血鬼がいないから王なんだろう。
「王に会った事あるか?」
「ありますよ。マブダチです」
「お前、なんか色々背負ってんな。……まぁ、それはいいんだよ。知ってるなら話は早い。お前、あの王に勝てると思うか?」
「……どうでしょう」
勝てるか勝てないかで言えば、勝つことは不可能ではないかもしれない。
吸血鬼同士の戦いは、お互いがお互いに一撃必殺を持っている。
そこまで持っていくことが出来れば、誰でも勝つことが出来る。
――それが容易じゃない事も分かっているが。
「自信過剰だなぁおい。あたしはあれの本気を見たことがある」
「――本気」
「あぁ。本気で殺し合いをしてるのを見た事があるんだよ」
あいつが本気を出さないといけない場面ってどんなんだ。
……俺が気絶している(させられている)間に光のハイエルフと戦ったらしいが、その時は本気だったのだろうか。
「まぁ、あたしの兄貴なんだけどな。本気で殺し合いをしたのは」
「お兄さんがいたんですね」
「あぁ。いた。が、死んだ。王に挑んで、敗れて殺された。あぁいや別に、王を恨んでるとかはない。正々堂々戦って、普通に負けて死んだからな」
「……あいつに本気を出させるほど強かったんですか」
「王をあいつ呼ばわりか。本当にマブダチなのか? ……質問の答えだが、それは否だ。あたしの兄貴は強かったが、王の足元にも及ばなかった。だが、王は本気で戦った。本気で兄貴が向かってったからだ」
……あぁ。
あいつの性格上、適当にあしらってボコボコにするとかもありそうだが。そういう面も持っているんだよな。言葉の上でしか交わしてない約束を守って、俺を助けに来てくれた訳だし。
「凄まじかったよ。二発で兄貴は死んだ」
二発か。
……むしろ一発耐えた事が凄いんじゃないか。
「何が言いたかったんだっけな。そうそう、気負いすぎるなって話だ」
「……お兄さんは気負ってたんですか?」
「いんや。むしろ胸を借りるつもりで気楽に――と言っても変か。勝てない事は最初から分かってたし、やれるだけやったと思うよ。実力を発揮しきった上で負けた」
「気負わなかったから実力を発揮できた、と」
「いや。お前の口ぶりだと、そいつに勝てない事が前提みたいだったからな。あたしの兄貴を引き合いに出したんだよ。負ける事が分かってるなら、むしろ楽にならないか?」
「負けられないんですよ」
俺は。
負けてはいけない。
「……そうか」
「そうです」
「まぁ、いいや。あたしには関係ないし。そもそも口下手だしなあたし」
「なんで保険医やってるんですか。生徒の悩みとか聞かないんですか?」
「適当に喋らせてうんうん頷いてりゃいいんだよ」
大丈夫だろうかこの学校。
この人だけだろうか。
適当だなぁ。
こっちはそれなりに高い金払って授業を受けに来ているのに。
まぁ、俺は本来保健室のお世話になる必要のない体質だが。
「とっとと始めよう。あたしたちは寝なくてもいいが、朝は勝手にやってくるからな。朝になれば授業が始まるし、肌が焼けちまう」
「分かりました」
影から武器を取り出す。
日本刀。セレナが宿っていた刀だ。
ちなみに。
これは《神器》に該当するらしい。
その能力は少し面白くて、攻撃を続ければ続けるほど、斬撃の威力や切れ味が増して行くというもの。レオル相手にどれくらいまでいけるか試したが、100発ほど続けるとあいつに傷をつけることも出来た。
ちなみにこの刀であの超必は撃てない。
使い勝手は良いようで悪い。
改めて聖剣のぶっ飛び加減がよく分かる。
でも基本的にこの刀を使うと思う。
修さんがやられてた事だが、聖剣を持つ腕ごと吹き飛ばされたらほぼ詰みだ。俺は吸血鬼だからある程度の超人性は残るとしても、離れれば離れるほど極端に弱体化する。
《神器》はみんなそうなのか知らないが、この刀耐久性がかなり高いしな。聖剣と違って重さの自動調節機能みたいなのは無いらしく、俺が扱うにはちょっと軽すぎるが。
そもそも日本刀ってかっこいいじゃん。
「ほう。初めてみる形の剣だな」
「日本刀って言うんですよ。切れ味抜群です」
「あたしは腕切られるとくっつくまで三日くらいかかるからな」
そんなにかかるのか。
普通の吸血鬼くらいって言ってたから、平均はそんなもんなのだろう。
「じゃあ峰打ちでやりますよ」
「それで叩かれても痛そうだなぁ」
それは木刀でもなんでも同じことだろう。
「そもそも当てるつもりもないですし。寸止めで峰打ちです」
「いや、当てるつもりで来い」
「……いいんですか?」
「実戦で寸止めすることなんてあるのか? 殺したいほど憎んでいる相手に寸止めするのか?」
「……しないですね」
「だろう。訳は分かっただろ。さっさとかかってこい」
じゃあ――一手目は突きで。
ディーナとやるときとは違い、聖剣の能力も吸血鬼の筋力もフル活用だ。形は不格好でも速度は比べ物にならない。
「はい、バツ印一個目」
「うぉ!?」
影に足を取られ、転んだ。
吸血鬼の能力は使わないって話じゃなかったのか……!?
「もちろんお前が動いている間は使わないが、指導する時は使わないと止められないし」
「……そうですか。で、何がバツ印なんですか?」
「力任せの突きが当たる訳ないだろう。あたしには当たっても、お前と同じくらいの強さの奴が相手ならまず躱されるぞ」
「じゃあどうすれば良かったんですか」
「躱される事前提で良い。初撃に全力を使うな。こんな基本的な事から言わないと駄目なのか。道は長そうだな」
ボクシングでいうジャブみたいなのを混ぜろって事か。
「だが、初手で突きというのは良いな。線の攻撃は簡単に捌く事が出来るが、点の攻撃を捌くのには技術がいる。その点では褒めてやろう」
「そりゃどうも」
ディーナから得た発想だけど。
本当に道は長そうだ。
「対魔王で」
「はぁ?」
「対人でと言ったんです」
夜中の二時頃。
学校の中庭で、俺とルクス先生は向かい合っていた。
「じゃあまず立ち位置だな。ゼロ点だ」
「……はい?」
「自分の影がどっちに向いているか考えてみろ」
「……あ」
なるほど。
俺の影は、ルクス先生と反対側に伸びていた。
影はほぼ自在に操れる。光が物体に遮られて出来るのが影だったはずだが、そんなの関係なしに自在に動かせる。
だが、動かすのもノータイムで動かせる訳じゃない。
元々敵側に影が伸びていれば、それだけ攻撃までの時間は短縮される。
と、いう事だろう。
「それを踏まえて、だ。あたしは吸血鬼の技は使わない。対人だからな。お前はガンガン使ってこい。使うべきところ、使わなくて良いところ、微妙なところ指摘してやるから」
「ちなみに先生、どれくらいまでなら死にません?」
「あぁ? 普通の吸血鬼くらいだろうな」
普通の吸血鬼くらいが分からないんだよ。
俺や俺を吸血鬼にしたあの女、レオルくらいしか吸血鬼のダメージ受けたの見た事ないもん。全員普通じゃない奴だ。
「……もしかしてお前、めちゃくちゃ再生早かったりするのか?」
「まぁ、それなりに」
「ちょっと腕捥いでみていいか?」
「いいわけないでしょう」
何言い出すんだこの人。
「ちなみに腕くらいならすぐ再生しますよ。一秒から二秒くらいで」
「おお。お前、そんなんでなんで剣術なんて習いに来たんだ?」
「……死ななくても勝てない相手がいるんです」
「ほう」
「歯が立たなかった。攻撃は当たりもしない。もちろん俺もダメージは受けてもすぐ回復しますけど、スタミナは無限じゃないんです。力を使い果たす前にあいつを――」
殺す。
「殺さなければ」
「ふぅん……」
気怠そうに、ルクス先生は聞いていた。
まるで興味なんて無さそうに。
……実際興味ないんだろう。
「なぁ」
「なんです?」
「そいつってお前が殺さないといけないのか?」
「……どういう事ですか?」
「いや、お前より強い奴いるだろ。剣術習いに来てるくらいなんだから。そいつに殺させればいーじゃん。お前が体張る必要あるのか?」
「ありますよ」
即答していた。
あいつは。
俺がやるべきだ。
「誰にも譲らない。あいつは俺が殺します」
「おいおい、あたしに殺気向けてどうすんだ。……まぁ、お前の全力がどんなもんか知らないし、そいつがどれだけ強いかも知らないけど、あまり気負い過ぎんなよ」
「…………」
「吸血鬼の王ってどうやってなるか知ってるか」
「……知らないです」
突然脈絡のない事を言い出すなこの人は。
「殺すんだよ。今の王を」
「……俺が殺したいのは吸血鬼の王じゃないですよ」
「そうじゃない。お前の話じゃなくて、あたしのお話だ」
見た感じ、正直な感想を言えばこの人がレオルに勝つとは思えないが。
あいつに勝てる吸血鬼がいないから王なんだろう。
「王に会った事あるか?」
「ありますよ。マブダチです」
「お前、なんか色々背負ってんな。……まぁ、それはいいんだよ。知ってるなら話は早い。お前、あの王に勝てると思うか?」
「……どうでしょう」
勝てるか勝てないかで言えば、勝つことは不可能ではないかもしれない。
吸血鬼同士の戦いは、お互いがお互いに一撃必殺を持っている。
そこまで持っていくことが出来れば、誰でも勝つことが出来る。
――それが容易じゃない事も分かっているが。
「自信過剰だなぁおい。あたしはあれの本気を見たことがある」
「――本気」
「あぁ。本気で殺し合いをしてるのを見た事があるんだよ」
あいつが本気を出さないといけない場面ってどんなんだ。
……俺が気絶している(させられている)間に光のハイエルフと戦ったらしいが、その時は本気だったのだろうか。
「まぁ、あたしの兄貴なんだけどな。本気で殺し合いをしたのは」
「お兄さんがいたんですね」
「あぁ。いた。が、死んだ。王に挑んで、敗れて殺された。あぁいや別に、王を恨んでるとかはない。正々堂々戦って、普通に負けて死んだからな」
「……あいつに本気を出させるほど強かったんですか」
「王をあいつ呼ばわりか。本当にマブダチなのか? ……質問の答えだが、それは否だ。あたしの兄貴は強かったが、王の足元にも及ばなかった。だが、王は本気で戦った。本気で兄貴が向かってったからだ」
……あぁ。
あいつの性格上、適当にあしらってボコボコにするとかもありそうだが。そういう面も持っているんだよな。言葉の上でしか交わしてない約束を守って、俺を助けに来てくれた訳だし。
「凄まじかったよ。二発で兄貴は死んだ」
二発か。
……むしろ一発耐えた事が凄いんじゃないか。
「何が言いたかったんだっけな。そうそう、気負いすぎるなって話だ」
「……お兄さんは気負ってたんですか?」
「いんや。むしろ胸を借りるつもりで気楽に――と言っても変か。勝てない事は最初から分かってたし、やれるだけやったと思うよ。実力を発揮しきった上で負けた」
「気負わなかったから実力を発揮できた、と」
「いや。お前の口ぶりだと、そいつに勝てない事が前提みたいだったからな。あたしの兄貴を引き合いに出したんだよ。負ける事が分かってるなら、むしろ楽にならないか?」
「負けられないんですよ」
俺は。
負けてはいけない。
「……そうか」
「そうです」
「まぁ、いいや。あたしには関係ないし。そもそも口下手だしなあたし」
「なんで保険医やってるんですか。生徒の悩みとか聞かないんですか?」
「適当に喋らせてうんうん頷いてりゃいいんだよ」
大丈夫だろうかこの学校。
この人だけだろうか。
適当だなぁ。
こっちはそれなりに高い金払って授業を受けに来ているのに。
まぁ、俺は本来保健室のお世話になる必要のない体質だが。
「とっとと始めよう。あたしたちは寝なくてもいいが、朝は勝手にやってくるからな。朝になれば授業が始まるし、肌が焼けちまう」
「分かりました」
影から武器を取り出す。
日本刀。セレナが宿っていた刀だ。
ちなみに。
これは《神器》に該当するらしい。
その能力は少し面白くて、攻撃を続ければ続けるほど、斬撃の威力や切れ味が増して行くというもの。レオル相手にどれくらいまでいけるか試したが、100発ほど続けるとあいつに傷をつけることも出来た。
ちなみにこの刀であの超必は撃てない。
使い勝手は良いようで悪い。
改めて聖剣のぶっ飛び加減がよく分かる。
でも基本的にこの刀を使うと思う。
修さんがやられてた事だが、聖剣を持つ腕ごと吹き飛ばされたらほぼ詰みだ。俺は吸血鬼だからある程度の超人性は残るとしても、離れれば離れるほど極端に弱体化する。
《神器》はみんなそうなのか知らないが、この刀耐久性がかなり高いしな。聖剣と違って重さの自動調節機能みたいなのは無いらしく、俺が扱うにはちょっと軽すぎるが。
そもそも日本刀ってかっこいいじゃん。
「ほう。初めてみる形の剣だな」
「日本刀って言うんですよ。切れ味抜群です」
「あたしは腕切られるとくっつくまで三日くらいかかるからな」
そんなにかかるのか。
普通の吸血鬼くらいって言ってたから、平均はそんなもんなのだろう。
「じゃあ峰打ちでやりますよ」
「それで叩かれても痛そうだなぁ」
それは木刀でもなんでも同じことだろう。
「そもそも当てるつもりもないですし。寸止めで峰打ちです」
「いや、当てるつもりで来い」
「……いいんですか?」
「実戦で寸止めすることなんてあるのか? 殺したいほど憎んでいる相手に寸止めするのか?」
「……しないですね」
「だろう。訳は分かっただろ。さっさとかかってこい」
じゃあ――一手目は突きで。
ディーナとやるときとは違い、聖剣の能力も吸血鬼の筋力もフル活用だ。形は不格好でも速度は比べ物にならない。
「はい、バツ印一個目」
「うぉ!?」
影に足を取られ、転んだ。
吸血鬼の能力は使わないって話じゃなかったのか……!?
「もちろんお前が動いている間は使わないが、指導する時は使わないと止められないし」
「……そうですか。で、何がバツ印なんですか?」
「力任せの突きが当たる訳ないだろう。あたしには当たっても、お前と同じくらいの強さの奴が相手ならまず躱されるぞ」
「じゃあどうすれば良かったんですか」
「躱される事前提で良い。初撃に全力を使うな。こんな基本的な事から言わないと駄目なのか。道は長そうだな」
ボクシングでいうジャブみたいなのを混ぜろって事か。
「だが、初手で突きというのは良いな。線の攻撃は簡単に捌く事が出来るが、点の攻撃を捌くのには技術がいる。その点では褒めてやろう」
「そりゃどうも」
ディーナから得た発想だけど。
本当に道は長そうだ。
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