女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜
第57話 保険医
「ねむーい……」
「寝ても俺が代返してやるよ」
「女の子の声なんて出せないでしょユウト君……ていうか元気だね。わたしと同じくらいの時間に寝たと思うんだけど」
「俺はほら。体質的に」
「あー。いいなぁ。夜寝なくていいなら、素振りし放題だね」
「寝なくて良くても寝たいけどな。精神的に」
次の日の授業。
やはりディーナと隣同士で座っていた。
ねむーいとの最初の台詞から分かる通り、かなり眠そうにしている。
一日六時間寝ないと体調が狂うとかって人本当にいるからなぁ。
ぶっ倒れられたりしたら困る。
本当は昨日もっと早い段階で切り上げる予定だったのだが、俺の飲み込みが悪いのが悪いのかディーナの主義が悪いのか、徹底的にやるまで終わらなかった。
「だが、こんな感じの座学なら寝てても問題ないと思うぞ」
「いやー駄目だよ。せっかくお金払ってるんだから、損しちゃう」
「とは言っても、ディーナならこれくらいの話ならもう既に知識として当然備えてる訳だろ? 改めて聞く事に何か意味があるのか?」
「んーどうだろー。意味、なくはないと思うよ。わたしだってちゃんと全部覚えているわけじゃないし、こうして聞いてるとたまに知らなかった事もあるし」
「ふぅん。……まぁ、ノートは俺がとっといてやるから寝ても心配はいらないぜ。任せとけ」
「ありがとー……。頑張って起きてるけどね」
頑張れ、としか言いようがない。
保健室なり仮眠室なりあると思うが。
結構この学校規模大きいしな。
ディーナは今にも机に突っ伏して寝てしまいそうだ。
…………。
「すみません先生」
不眠は美容の大敵って言うしな。
◆
「良かったのにー……いやでも、うん。ありがとね」
「いや。悪いのはやっぱ俺だしな。これくらいどうってことない」
ディーナの体調不良を先生に告げ、なら保健室へ行け、という事になったのだが。
既に彼女は限界を超えていたようで、立つ事すらままならなかったようだ。
まぁ、昨日あれだけ動いて俺に教えてほとんど寝てないって言うんだから、普通はこうなるわな。
今はディーナに肩を貸しながら保健室へ向かっているところだ。
おんぶでもしてった方が早いんじゃないかと思ったが、男が女をおんぶするのはいろんな意味で危険が生じる。
保健室へ連れていったあとに俺がトイレへ駆け込む事態になりかねない。
だが、ディーナはもうふらっふらだ。
かなりやばい。
今にも倒れそうな感じ。
人間って限界まで消耗するとこうなるんだな。
「あふー……」
意味の分からない言語を発している。
これは重症だ。
……仕方ない。
これくらいなら許容範囲だろう。
ディーナの頭の後ろに右手を回し、左手で脚を持ち上げる。
お姫様抱っこの形だ。
「うなー……いいってこんなの……あーでも……やば……」
抵抗する意志はあるようだが睡魔が勝っているようだった。
これくらいなら俺の意志も大丈夫。
ぐったりした女の子を運ぶって字面だけ見るとかなり犯罪の香りがするが。別に薬とか盛った訳じゃないよ。ほんとだよ。
さて……
廊下にはちょこちょこ校内マップがあるので、それらを見つつ、先生から言われた道順と照らし合わせながら進んで行く。
……それにしても広いな。
使われてない教室とかいっぱいあるじゃん。
実技の時とかに使うのだろうか。
室内戦闘訓練。
しばらく歩いて行くと、ようやく保健室を見つけた。
……ノック出来ないな。
周りをちらちらを見回し、誰もいない事を確認してから影を使って扉をノックする。
「入れー」
と、中から女性の声がした。
扉どうやって開けるかな。
影でほんの少しだけ扉を開けて、あとは頑張って手で開けた。
まぁその気になればディーナくらい片手で支えられるし。
「おいおい。ここは盛り場じゃないぞ」
入ってきた俺たちを迎えたのは、気怠そうに白衣を着ている気怠そうなお姉さんだった。ぼさぼさの茶髪が似合っている。
テーブルと、それを挟み込むようにソファが二つ。
カウンセリングする時とかに使うのだろうか。
今はそのお姉さんが座って、茶を啜っているが。
自由だなこの人。
「この子。寝かせられる場所あります?」
「みりゃーわかんだろ。奥の方にベッドがある。校内で盛るなよ」
「……盛りませんよ」
下ネタ大好きか。
とにかく、ベッドにディーナを寝かせ、半分以上寝ている声で「ありがとー」と言われて、ベッド同士を仕切るカーテンを閉める。
「んじゃ、あとはお願いします」
「ちょいと待ち。茶でも飲んでけよ、吸血鬼の少年」
「…………」
「露骨に警戒した目ぇすんなお前。いや普通に、お前の骨格の造りとか筋肉の付き方と、あの女の子を抱くお前の立ち方に違和感を覚えたから注意深く見てみたら八重歯が牙だったから、当てずっぽうで言ってみただけだ。当たってるか?」
「……当たってますよ」
テーブルを挟んで、彼女の座っているソファの反対側に座る。
コップにお茶を淹れてもらったので、とりあえず飲む。
うん、普通。
「どうだ?」
「うまいですよ」
「嘘こけ。普通だろ。だって安もんだし。しょせんは学校の備品だ」
「……で、何か用があるんですか?」
「いや別に。でも、お前的にもあれだろ。あたしがあの子を襲うかもって言ったら残るだろ」
「……あんた女でしょう」
「同性愛って実在するんだぜ」
マジか。
気だるげなお姉さん、レズなのか。
設定メガ盛りだなおい。
しかもよく見たら結構胸もでかい。
「男になれたら良いのにと常々思ってる。この邪魔な脂肪切り落としてな」
「なんて勿体ない」
「くっくっく。お前、女慣れしてんなぁ」
そうだろうか。
まぁ、慣れてないと言えば嘘か。
何故か三人も嫁がいるし。
日本の法律では18歳から結婚出来るが、まさか18で結婚するなんて誕生日の時には思いもしなかったぜ。
「吸血鬼だから魅了とか使えたりすんのか?」
「残念ながらそれは俺には出来ません」
試したけどね。
無理でした。
ちなみに、マリアさんは――あの吸血鬼の王の秘書は使えるらしい。
魅了かけて欲しい。
「ちなみに」
と、保健室の先生の眼が赤く光った。
「あたしは魅了をかけられるタイプの吸血鬼だ」
「…………」
口元に注目していたが、変化を使っているようで完全に人間にしか見えないな。
眼もすぐに元の薄茶色に戻った。
「驚かないのか。つまらんな」
「吸血鬼の知り合いが多いもんで」
「魅了もかからないときた。かなり強いなお前」
「……吸血鬼としては未熟ですけどね。かなり」
「厭味のつもりか?」
「自戒ですよ」
影での攻撃も変化も。
思い出しようにしか、思い出した時にしか使えない。
それくらいにしか馴染んでいない。
もっと馴染んでいれば戦闘もスムーズにいくだろうに。
……思い出すのはロリババアだが、あいつに学んだのは変化とか影使いとか、霧になる方法とかがメインだからな。
「なんだ。お前強くなりたいのか」
「そりゃそうですよ。だからこの学校に来たんです。授業に戻っていいですか?」
「だめ」
と短く拒否された。
そっか駄目か。
いやなんでだよ。
戻らせてくれよ。
「あんなん聞いても意味ねーよ。基礎の型はもう習ったんだろ?」
「応用の仕方とかは聞いてないですよ」
「んなもん実戦やってくうちに覚える。お前は順番がちぐはぐみたいだが。むしろそっちの方が覚えはいいんじゃないか」
「…………」
この人なんで学校で先生なんてやってるんだ。
保険医だけど。
「暇なんだよ。付き合えよ。おっぱいくらいなら揉ませてやっからさ」
「そんな事でこの俺が釣れるとでも?」
「ガン見じゃねーか」
いかん。
悲しきは男の性だ。
「よくそんな事平気で言えますね」
「お前がガキだからな」
「…………」
「吸血鬼は見た目と中身の年齢が合ってない事の方が多いが、お前は年相応だろ」
「こう見えて数千年生きてる吸血鬼の王だったりするかもしれませんよ」
「実際たまに出てくるんだぜ。王の名を騙る雑魚」
「……知ってますよ」
俺たちを死の森手前まで連れてってくれたドルーのおっさんの故郷は、王の命を受けて滅ぼしたと言っていたが。あれこそ王の名を騙った連中だろう。
「お前、あたしが稽古つけてやろうか」
「へ?」
「寝なくて平気だろ。吸血鬼って。だから夜中に付き合ってやるよ」
「……良いんですか? というか、先生は――」
「ルクセリアだ。ルクスでいい」
「ルクス先生は……強いんですか?」
「さぁ。お前の言う強いってのがどの程度の事を指すか知らないが、多分お前よりは弱いだろうな。
だけど、お前より長く吸血鬼やってっからな。それに……今あたし、幾つくらいに見える?」
「……二十代……前半くらいですかね」
「二十代後半に見えるだろ。いらんところで気ぃ遣うな。実際、27の時に吸血鬼になってそれ以降ずっとこの姿のまんまだ。とにかく言いたいのは、二十数年はあたしも人間やってたから、人間なりの吸血鬼っぽい戦い方を教えることが出来るわけだ」
「……ふむ」
確かに、ラリアはかなり早い段階で吸血鬼になっていたし、マリアさんはそもそも非戦闘要員だ。戦えないという事はないだろうが。
理に適っているような気もする。
俺はまだ、人間だった時の自分を捨て切れていない。
だから咄嗟に吸血鬼のスキルを使う事が出来ない。
だが、最初からそういうものだと割り切って使う事が出来れば、戦術の幅が広がる。気がする。悪い話ではないと思うが……
「それ、あなたになんのメリットがあるんです?」
「暇つぶし」
「…………」
「暇は人を殺すんだよ。人じゃないけどな」
……まぁ。
何かを企んでいるとしても、鍛えてくれるというのならぜひもない。
「お願いします」
「改まるな。そろそろ戻れ。でないとあたしが怒られる」
「先生が怒られるんですか」
「よくある事だからな」
暇つぶしに生徒を利用するなよ。
……俺も利用させてもらう訳だし、文句は言えないか。
「寝ても俺が代返してやるよ」
「女の子の声なんて出せないでしょユウト君……ていうか元気だね。わたしと同じくらいの時間に寝たと思うんだけど」
「俺はほら。体質的に」
「あー。いいなぁ。夜寝なくていいなら、素振りし放題だね」
「寝なくて良くても寝たいけどな。精神的に」
次の日の授業。
やはりディーナと隣同士で座っていた。
ねむーいとの最初の台詞から分かる通り、かなり眠そうにしている。
一日六時間寝ないと体調が狂うとかって人本当にいるからなぁ。
ぶっ倒れられたりしたら困る。
本当は昨日もっと早い段階で切り上げる予定だったのだが、俺の飲み込みが悪いのが悪いのかディーナの主義が悪いのか、徹底的にやるまで終わらなかった。
「だが、こんな感じの座学なら寝てても問題ないと思うぞ」
「いやー駄目だよ。せっかくお金払ってるんだから、損しちゃう」
「とは言っても、ディーナならこれくらいの話ならもう既に知識として当然備えてる訳だろ? 改めて聞く事に何か意味があるのか?」
「んーどうだろー。意味、なくはないと思うよ。わたしだってちゃんと全部覚えているわけじゃないし、こうして聞いてるとたまに知らなかった事もあるし」
「ふぅん。……まぁ、ノートは俺がとっといてやるから寝ても心配はいらないぜ。任せとけ」
「ありがとー……。頑張って起きてるけどね」
頑張れ、としか言いようがない。
保健室なり仮眠室なりあると思うが。
結構この学校規模大きいしな。
ディーナは今にも机に突っ伏して寝てしまいそうだ。
…………。
「すみません先生」
不眠は美容の大敵って言うしな。
◆
「良かったのにー……いやでも、うん。ありがとね」
「いや。悪いのはやっぱ俺だしな。これくらいどうってことない」
ディーナの体調不良を先生に告げ、なら保健室へ行け、という事になったのだが。
既に彼女は限界を超えていたようで、立つ事すらままならなかったようだ。
まぁ、昨日あれだけ動いて俺に教えてほとんど寝てないって言うんだから、普通はこうなるわな。
今はディーナに肩を貸しながら保健室へ向かっているところだ。
おんぶでもしてった方が早いんじゃないかと思ったが、男が女をおんぶするのはいろんな意味で危険が生じる。
保健室へ連れていったあとに俺がトイレへ駆け込む事態になりかねない。
だが、ディーナはもうふらっふらだ。
かなりやばい。
今にも倒れそうな感じ。
人間って限界まで消耗するとこうなるんだな。
「あふー……」
意味の分からない言語を発している。
これは重症だ。
……仕方ない。
これくらいなら許容範囲だろう。
ディーナの頭の後ろに右手を回し、左手で脚を持ち上げる。
お姫様抱っこの形だ。
「うなー……いいってこんなの……あーでも……やば……」
抵抗する意志はあるようだが睡魔が勝っているようだった。
これくらいなら俺の意志も大丈夫。
ぐったりした女の子を運ぶって字面だけ見るとかなり犯罪の香りがするが。別に薬とか盛った訳じゃないよ。ほんとだよ。
さて……
廊下にはちょこちょこ校内マップがあるので、それらを見つつ、先生から言われた道順と照らし合わせながら進んで行く。
……それにしても広いな。
使われてない教室とかいっぱいあるじゃん。
実技の時とかに使うのだろうか。
室内戦闘訓練。
しばらく歩いて行くと、ようやく保健室を見つけた。
……ノック出来ないな。
周りをちらちらを見回し、誰もいない事を確認してから影を使って扉をノックする。
「入れー」
と、中から女性の声がした。
扉どうやって開けるかな。
影でほんの少しだけ扉を開けて、あとは頑張って手で開けた。
まぁその気になればディーナくらい片手で支えられるし。
「おいおい。ここは盛り場じゃないぞ」
入ってきた俺たちを迎えたのは、気怠そうに白衣を着ている気怠そうなお姉さんだった。ぼさぼさの茶髪が似合っている。
テーブルと、それを挟み込むようにソファが二つ。
カウンセリングする時とかに使うのだろうか。
今はそのお姉さんが座って、茶を啜っているが。
自由だなこの人。
「この子。寝かせられる場所あります?」
「みりゃーわかんだろ。奥の方にベッドがある。校内で盛るなよ」
「……盛りませんよ」
下ネタ大好きか。
とにかく、ベッドにディーナを寝かせ、半分以上寝ている声で「ありがとー」と言われて、ベッド同士を仕切るカーテンを閉める。
「んじゃ、あとはお願いします」
「ちょいと待ち。茶でも飲んでけよ、吸血鬼の少年」
「…………」
「露骨に警戒した目ぇすんなお前。いや普通に、お前の骨格の造りとか筋肉の付き方と、あの女の子を抱くお前の立ち方に違和感を覚えたから注意深く見てみたら八重歯が牙だったから、当てずっぽうで言ってみただけだ。当たってるか?」
「……当たってますよ」
テーブルを挟んで、彼女の座っているソファの反対側に座る。
コップにお茶を淹れてもらったので、とりあえず飲む。
うん、普通。
「どうだ?」
「うまいですよ」
「嘘こけ。普通だろ。だって安もんだし。しょせんは学校の備品だ」
「……で、何か用があるんですか?」
「いや別に。でも、お前的にもあれだろ。あたしがあの子を襲うかもって言ったら残るだろ」
「……あんた女でしょう」
「同性愛って実在するんだぜ」
マジか。
気だるげなお姉さん、レズなのか。
設定メガ盛りだなおい。
しかもよく見たら結構胸もでかい。
「男になれたら良いのにと常々思ってる。この邪魔な脂肪切り落としてな」
「なんて勿体ない」
「くっくっく。お前、女慣れしてんなぁ」
そうだろうか。
まぁ、慣れてないと言えば嘘か。
何故か三人も嫁がいるし。
日本の法律では18歳から結婚出来るが、まさか18で結婚するなんて誕生日の時には思いもしなかったぜ。
「吸血鬼だから魅了とか使えたりすんのか?」
「残念ながらそれは俺には出来ません」
試したけどね。
無理でした。
ちなみに、マリアさんは――あの吸血鬼の王の秘書は使えるらしい。
魅了かけて欲しい。
「ちなみに」
と、保健室の先生の眼が赤く光った。
「あたしは魅了をかけられるタイプの吸血鬼だ」
「…………」
口元に注目していたが、変化を使っているようで完全に人間にしか見えないな。
眼もすぐに元の薄茶色に戻った。
「驚かないのか。つまらんな」
「吸血鬼の知り合いが多いもんで」
「魅了もかからないときた。かなり強いなお前」
「……吸血鬼としては未熟ですけどね。かなり」
「厭味のつもりか?」
「自戒ですよ」
影での攻撃も変化も。
思い出しようにしか、思い出した時にしか使えない。
それくらいにしか馴染んでいない。
もっと馴染んでいれば戦闘もスムーズにいくだろうに。
……思い出すのはロリババアだが、あいつに学んだのは変化とか影使いとか、霧になる方法とかがメインだからな。
「なんだ。お前強くなりたいのか」
「そりゃそうですよ。だからこの学校に来たんです。授業に戻っていいですか?」
「だめ」
と短く拒否された。
そっか駄目か。
いやなんでだよ。
戻らせてくれよ。
「あんなん聞いても意味ねーよ。基礎の型はもう習ったんだろ?」
「応用の仕方とかは聞いてないですよ」
「んなもん実戦やってくうちに覚える。お前は順番がちぐはぐみたいだが。むしろそっちの方が覚えはいいんじゃないか」
「…………」
この人なんで学校で先生なんてやってるんだ。
保険医だけど。
「暇なんだよ。付き合えよ。おっぱいくらいなら揉ませてやっからさ」
「そんな事でこの俺が釣れるとでも?」
「ガン見じゃねーか」
いかん。
悲しきは男の性だ。
「よくそんな事平気で言えますね」
「お前がガキだからな」
「…………」
「吸血鬼は見た目と中身の年齢が合ってない事の方が多いが、お前は年相応だろ」
「こう見えて数千年生きてる吸血鬼の王だったりするかもしれませんよ」
「実際たまに出てくるんだぜ。王の名を騙る雑魚」
「……知ってますよ」
俺たちを死の森手前まで連れてってくれたドルーのおっさんの故郷は、王の命を受けて滅ぼしたと言っていたが。あれこそ王の名を騙った連中だろう。
「お前、あたしが稽古つけてやろうか」
「へ?」
「寝なくて平気だろ。吸血鬼って。だから夜中に付き合ってやるよ」
「……良いんですか? というか、先生は――」
「ルクセリアだ。ルクスでいい」
「ルクス先生は……強いんですか?」
「さぁ。お前の言う強いってのがどの程度の事を指すか知らないが、多分お前よりは弱いだろうな。
だけど、お前より長く吸血鬼やってっからな。それに……今あたし、幾つくらいに見える?」
「……二十代……前半くらいですかね」
「二十代後半に見えるだろ。いらんところで気ぃ遣うな。実際、27の時に吸血鬼になってそれ以降ずっとこの姿のまんまだ。とにかく言いたいのは、二十数年はあたしも人間やってたから、人間なりの吸血鬼っぽい戦い方を教えることが出来るわけだ」
「……ふむ」
確かに、ラリアはかなり早い段階で吸血鬼になっていたし、マリアさんはそもそも非戦闘要員だ。戦えないという事はないだろうが。
理に適っているような気もする。
俺はまだ、人間だった時の自分を捨て切れていない。
だから咄嗟に吸血鬼のスキルを使う事が出来ない。
だが、最初からそういうものだと割り切って使う事が出来れば、戦術の幅が広がる。気がする。悪い話ではないと思うが……
「それ、あなたになんのメリットがあるんです?」
「暇つぶし」
「…………」
「暇は人を殺すんだよ。人じゃないけどな」
……まぁ。
何かを企んでいるとしても、鍛えてくれるというのならぜひもない。
「お願いします」
「改まるな。そろそろ戻れ。でないとあたしが怒られる」
「先生が怒られるんですか」
「よくある事だからな」
暇つぶしに生徒を利用するなよ。
……俺も利用させてもらう訳だし、文句は言えないか。
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