女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第56話 病弱な妹はいない

「お、ケント君じゃん」
「んで君付けなんだよ。きめーな」
「なんというか、さっきまでの雰囲気で」


 ディーナに釣られてしまった。
 でも面白いからずっと君付けでいこう。


 部屋に戻ると、ケントがいた。
 金髪オールバック。
 そういやこいつはあのクラスにいなかったな。


 同部屋で別クラスの場合もあるのか。


 ちなみに部屋の広さは十畳くらい。
 まぁまぁ広い。
 と、思うんだけどこれは人それぞれなんだろうな。


 二人で暮らすにはちょっと狭いような気もする。


 机とベッドがそれぞれ二つずつあって、あとはハンガー掛けとか帽子かけとかだ。
 かなり簡素だが、そもそも俺は必要な物は大抵影に詰めてるしあんまり関係ないか。


 ヤンキー君と相部屋かぁ。
 うっきうきだぜ。


 ……とか思ってたけど。
 こいつ全然喋らねーな。


 超つまんない。
 俺から話しかけるか。


「髪染めてんの?」
「地毛だ」


 へー。
 セレンさんとはまた違ったタイプの金髪だからなぁ。
 セレンさんのが金髪ならこいつはキンパツみたいな。


「どこ中出身?」
「あん?」


 おっと。
 これは通じないか。


 異世界学校難易度高いな。


「ケント君はどんくらい強いんだ?」
「ふつーだよ。てめーらに比べればふつーとも言えないかもな。剣術は苦手なんだよ」
「なんか他の事やってたのか」
「……お前にゃ関係ねーだろ」
「いやあ、暇だし」


 暇だもん。


「ちっ。別になんもやっちゃいねーよ。たまにガラの悪い冒険者とかと喧嘩してたくれーだ」
「ほー。じゃあそれなりに腕には自信があると」
「いや」


 あれ?
 こういう奴って自分の力を誇示するタイプだと思ってたんだが違うのだろうか。


「お前とあの青い奴見た後で自分が強いとは思わねぇ」
「……へー」


 意外とまともな神経してるんだな。
 いや、侮辱とかそういうんじゃなくて。
 見た目で損してるだろこいつ。


「ケント、お前さ」
「君付けはいいのかよ」
「飽きた。見た目で誤解される事多いだろ」
「……あん?」
「髪型とか変えてみたらどうだ? オールバックはやっぱこえーよ」
「オレの勝手だろそんなん。別に誤解されようがなんだろうが、売られた喧嘩に勝ちゃあいいんだよ」


 その通りだけどな。
 後ろにヤンキーいるのちょっと怖いし。


 いや、ヤンキーもどきと言うべきか。
 なんちゃってヤンキーとはまた違う気がする。


「……病弱の妹とかいたりする?」
「いねーよ。なんでだよ」
「いや、なんとなく」


 いないのか……残念だ。
 いや、病弱の妹がいない事を喜ぶべきか。


 展開としてはありがちなのになぁ。
 ヤンキーの妹が病弱。


 妹と仲良くなっていくうちにヤンキーもやがて主人公の事を認め始め、兄公認の仲になって行く。それが王道ってもんだろう。


 なのにこいつってやつは。


「病弱じゃない妹は?」
「いねーよ。ハゲろ」


 言うに事欠いてハゲろてお前。
 髪の毛毟るぞ。
 毟るってすごい字だよな。
 少ないの下に毛だぜ。
 小さい毛の上に少ないだぜ。


 少ない毛を毟ってく。
 鬼畜の所業だ。
 鬼だ。


「どうしよう。お前と話す事が無くなってしまった」
「無理して話かけてくんな。うぜー」
「そう言うなよ。せっかく同部屋になったんだ。仲良くやってこうぜ」
「部屋って変えられねーのかなぁ」
「お前言葉の暴力って知ってるか」
「知らねーよ。言葉の憲兵連れてこい」
「ぐぬぬ」


 上手を行かれてしまった。
 ヤンキーに口喧嘩で負けた……


 しばらく沈黙の時が流れた。


 ……課題出たし、それやるか。
 なんか志とか書いて提出しろとの事だった。


 志ねえ。


 俺は何のために強くなるのか。


 ――自分のため、だよな。
 やっぱりそれが一番大きい。


 セレンさんを守るのも、ミラを守るのも、パルメを守るのも、全て自分のためだ。俺がそうしたいからそうする。
 俺がしたいからやる。


 このスタイルはずっと貫いてきたつもりだったんだけどな。


 多分俺はどこかで甘えていたんだろう。
 セレンさんという強力な味方が最初からいて、自分も不死身で超パワーを持ってて、吸血鬼の王とかが仲間になったりして、甘えていたのだろう。


 自分の弱さを見逃していたのだろう。
 見て見ぬ振りをし続けてきた。


 不死身だから不死身なりの戦い方をする。
 聖剣からパワーを貰えるから無茶な戦い方をする。


 それで良かった今までとは違う。
 急速に強くならなければならない。


 一番伸びしろのある剣術を、すぐにでも習得する必要がある。


 ……という事でこの学校に入ったのだが。
 果たしてそれが正しかったのかどうか、俺はまだ分かっていない。


 セレンさんの賛同も得られたからとりあえず入ってみたは良いものの。


 半年でディーナくらい強くならないと。
 ディーナと修さんの剣術を比べれば、ディーナの方が完成度は高い。強いのは当然修さんだが。つまり、ディーナを目標にすれば良いのだ。


 ただ、彼女は彼女で多分、修さんの『四年』を超える期間剣術の鍛錬を積んできたのだろう。
 それを半年で超えるのだ。
 並大抵の努力では不可能である。


 常人の10倍。20倍と努力しなければならない。


 ……こんな事やってる場合じゃなくないか俺。
 ヤンキーに絡んでる時間あったら素振りなりなんなりするのが筋ってもんだろう。


 こんなの適当に書いて素振りでもするか。

















 剣術には。
 基礎の基礎とも言える基本の形があるらしい。


 真っすぐ振りかぶって、真っすぐ振り下ろす。
 何度か実戦を体験している俺の実に初心者っぽい意見を率直に言わせてもらうと、それって何か意味あんの?
 だ。


 だって真っすぐ振りかぶって真っすぐ振り下ろすって場面なんてほとんどないもん。


 と、先生がこの型の話をしている時にディーナに話を振ると、彼女は首を横に振ったのだった。


「いいや。この型は大事だよ。ある程度剣術を続けていくと分かるけれど、何事も基本が一番大事なんだ。もちろん、ユウト君の言う通り真っすぐ振りかぶって真っすぐ振り下ろす――なんて動作は、実戦の中ではほとんどないんだけどね」


 との事だった。


 意味がある事なら意味があるまでやるまでだ。
 そういえば剣道部も同じような形の素振りを何度もしてたな。


 やはりあれも意味あっての事なのだろうか。


 そういえば、今の俺って筋トレとかして意味あるのかな。
 セルフ超回復だから効果も抜群だったりするのだろうか。


 或いはどれだけ鍛えても元の状態に戻ってしまうのだろうか。
 うーん。


 どっちにしても、やった方が良いんだろうな。


 と、考えている間も素振りは続けている。
 無心になってやるとか言うけど、やっぱりこういう単純作業をしている時って色々考えちゃうよな。


 最近考え事ばっかりだ。
 やる事は単純で、自衛の二文字に限るんだけどな。


 その二文字の中に色々な要素が詰まってて単純じゃなくなっているだけで。色々詰め込み過ぎて複雑になり過ぎているだけで。


 突き詰めれば、自衛の二文字に落ち着くのだから。


 やっぱり何も考えなくて良いのかもしれない。


 パルメの事をアホだバカだと言ってきたが、俺の方がよっぽど阿呆で馬鹿なのかもしれないな。


 うーん。
 素振りをして雑念を払えるかと思ったが、全然だな。


 もうすぐカウントは1000回を超えるが、疲れもないし。
 やっぱり持久力というか耐久力というか、スタミナは桁違いなんだよな。


 疲れるまでやり続けようと思ったら夜が明けてしまう。


 区切りの良いところで、2000回辺りでやめようかな。
 いやでも、眠くはなるけど寝なくて良い体質ではあるんだよな。多少。
 三日くらいなら多分平気。
 寝る事自体が好きだから普通に毎日寝てるが、寝る間も惜しんでやるべきか。




「ユウト君。軸がブレてるよ」


「うぉぉ!?」


 いつの間にか、ディーナが背後にいた。
 全然気付かなかった……


「ごめんごめん。まさかそんなにびっくりするとは思わなくて。結構足音大きめに立てたつもりだったんだけど」
「そうなのか……」
「うん。わたしも素振りしにきたんだけど、まさか先客がいて、その人が友達だったなんてわたしもびっくりだよ」
「素振りが日課なのか?」
「うん。5歳くらいの時からかな」
「……なるほど」


 追いつけるのか本当に。
 追いつかないといけないんだよな。


「ところで、軸がブレてるって?」
「正しくは、こう」


 ぴゅん、と小気味良い風切り音を立てて、ディーナが一連の動作をした。


「ユウト君は背筋をもう少し伸ばして……うーん。口で説明するの難しいなぁ。ちょっと構えてみてくれる?」
「お、おお」


 言われるがままに、真っすぐ振りかぶる。
 と、その姿勢のまま止まっててと言われ、ディーナは俺の後ろに回った。
 そして、後ろから手を添えて矯正される。


 近い近いですよディーナさん。
 セレンさん並みだったら柔らかいものが背中に当たってるくらいの距離。残念ながらそのレベルではないが。それこそ並みくらい。


「そのまま振り下ろしてみて」


 びゅん、と振り下ろす。


「おお」


 何かが今までと違う。
 なんというか、スムーズに体が動いた。
 ちょっと違うだけでこうまで違うのか。


 ふーむ。
 奥が深い。
 やっぱり意味ないんじゃねとか思いながら振ってた自分が恥ずかしい。
 本当に意味なんてなかった。そもそも間違えてたのだから。


「もうちょっと矯正が必要かな。いいよ、わたしはこの後お風呂入って寝るだけだし、今日はとことん付き合ってあげる」
「まじか。聖母かよお前。ありがとな」
「お礼にまた今度デートでもしてよね」
「いくらでもしてやるさ」


 などと軽口を叩きながら、結局俺の素振り指導は夜更けまで続いた。

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