女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第55話 見透かし

 二時間ほどつまらない講義を聞いたところで、ようやく実戦形式に移るようだった。
 先生の先導に従ってついて行くと、中庭なのか、周りが建物に囲まれている広い草原に出た。


 よく整備されたゴルフ場みたいな感じ。
 ゴルフやった事ないけど、イメージはそんなんだ。


 よく見れば岩とか穴とか、ギミック的なものも幾つかある。
 なるほどなぁ。


「お金かかってそうだねー」
「確かに」


 ディーナの感想ももっともだ。
 幾らくらいかかってんだろ。
 この建物とか土地とか、ここの整備代とか。




「それでは各々、好きな相手と組んで打ち合いを始めるように。武器は木刀があちらの壁にかけてあるから、早い者勝ち・・・・・だ」




 出たよ好きな相手と組むやつ。
 だが今回はすぐ隣に都合が良い相手がいるじゃないか。


「ディーナ、相手頼めるか?」
「うん。こっちからお願いしたいくらい」


 よし確保。
 それでもう一個気になるのは――


「早い者勝ちとか言ってたよな」
「言ってたね」
「木刀の数……は問題なさそうだから、質に差があんのか?」
「かもね」
「急ぐか」
「うん」


 わらわらとみんなが歩いていく中、俺たち二人だけが走っていく。
 なんか必死みたいで恥ずかしいな。
 いや、必死で良いのか。


 こちとら必死なんだよ。


 命がかかってるしな。
 俺もそうだし、セレンさんやミラといった仲間の命が。


 ついでに世界の命運も。


「と……俺木刀の良し悪しなんて分からないんだよな」
「うーん……これなんて良いんじゃないかな。はいどうぞ」
「良いのか?」
「ユウト君の筋力がどれくらいか分からないけど、結構引き締まってるし多分それくらいなら余裕だと思う。……もっと重いので良いかも」
「重さか」


 なるほど。
 確かに、本気を出した時の俺の力って計測不可能レベルだからな。自分で言うのもなんだけど。……聖剣はどうなってんだそこんところ。
 なんかいい感じの重さだったと思うんだけど。


 自動調節機能みたいなのが付いてたりするのだろうか。


「今回はこれでやってみるよ。ありがとな」
「いーよいーよ。困った時はお互い様だし、ユウト君にも万全でいてもらわないとねー。……うわ、これなんて虫に食われてる。わざとこういうの残してるのかなぁ」
「どうなんだろうな」


 早い者勝ちって言ってたし、わざとかもしれない。
 場はこんなに整えられてるのに、木刀だけ何も手を入れてないって事は無いだろうし。


 現に、今ディーナから手渡された木刀はつやつやの新品だ。


「よし、わたしはこれにしよっと。早速やろっか。あっちの方で」
「おう」


 壁から少し離れたところで、二人向き合う。
 向き合って改めて思うが、やっぱ可愛いなこいつ。
 こっちの世界に来てから知り合う女の人はみんな美人か美少女だ。


 なんて都合の良い世界。
 やったぜ異世界。


「今度こそ手加減抜きね――って言いたいところだけど、まずは私が本気でやらないとユウト君は多分やってくれないよね」
「見透かされてんなぁ」
「優しそうな人だからね。……色々抱え込んでるみたいだけど、それは考えずにわたしの事だけ考えてやってね」


 ――本当に、よく見透かす。
 それにしても、わたしの事だけ考えて――か。


 よくもまぁ、そんな台詞を恥ずかしげもなく言えるものだ。
 俺だったら赤面ものだ。


「行くよ――!」


 ふ、とディーナの持つ木刀の切っ先がぶれた。
 入学試験の時と同じ初動。
 だが、その速度が段違いだ。


 正直予想を上を行く速度。
 多分最初は突きだろう、と思ってなければ防げなかったかもしれない。


 次の攻撃も、その次の攻撃も。
 繰り出す度に加速していくようだった。


 踊るように木刀を振るう彼女は、楽しそうに笑っている。
 まだ本気じゃない。


 まだ集中していれば防げる程度の速度。


 ――と。


 右側から迫る木刀を防ぐ際に、タイミングがずれた。
 いや、ずらされた。


 俺は力が常人より遥かに強い。
 それでも、不意を突かれれば存分には振るえない。


 ずらされたタイミングで、木刀が押し込まれた。
 力と力なら俺に分がある。


 と、押し返そうとした。
 のが、裏目に出た。


 ディーナは俺が押し返すのを見越して、自分は引いたのだ。
 空振りさせられた。


 くん、とディーナの木刀が加速して今度は左側から迫る。
 彼女の細腕で、どうやったらこんな速度が出るのか。


 これが剣術でなければ。
 俺は左腕に血術を用いて受けとめているだろう。


 あくまでも躱すか木刀で防ぐかのどちらかだ。
 木刀を持っていた右の掌を返して、無理やりに左腕とディーナの木刀に間に挟み込む。その無理やりでも、意図して力を籠めれていれば防げてしまう。


「うわ、すごい。絶対決まったと思ったのに」


 防がれたディーナは驚いていた。


「悪い。今のは反則だな」
「うぅん。出来る事は全部やらないと。多分ユウト君、今まで剣はあまり使わずに戦ってたんだよね」
「……その通りだ」


 聖剣を使う事はあっても、剣として用いることは少なかったと思う。
 超必を放つための道具であったり、鈍器であったり。


「普通じゃないとは思ってたけど……もしかしてユウト君って吸血鬼だったりする?」
「……!」
「あ、ごめん。知られたくなかったよね」
「……いや、別に。よく気付いたな」
「ちょっと八重歯が長めかなとは思ってたんだけど。動体視力とか、凄く良いし。でも、わたし吸血鬼の人にも勝った事あるからやっぱりユウト君すごいよ」


 普通の人間が吸血鬼に勝つって相当だと思うんだが。
 俺の予想以上にディーナは強い。
 もしかしたら、エルランス辺りと並ぶかそれ以上じゃないか?


 もし俺に。
 ディーナ並みの剣術があれば、魔王を倒せていたかもしれないのに。


 あの超必を剣に留めたまま振るうのは、あの後何度か練習してなんとか物にした。あれを当てれば、恐らく魔王でも斬れる。


 当たらなかったが。


「……凄くなんかないさ。俺なんかより、よっぽどディーナの方が凄い」
「そんな事ないと思うけどなー。……仕切り直そっか」
「そうだな」


 木刀を突き合わせたまんま会話を続けるのもなんだしな。


「あの体勢から防がれるとなると、試験の時みたいに木刀を落とさないと駄目かな」
「まぁ、そうなったら防ぎようは無いよな」


 俺は指一本でもディーナの突きを止める事が出来るだろう。
 もちろん、血術ありの場合だが。
 ついでに言えば、止められる場合の場合(?)だが。


「ふふふ」
「楽しそうだな」
「うん。強い人と戦うの楽しいよ。自分も強くなっていくのが分かるから」


 そうか。
 俺は――


「怖くないのか?」
「うん?」
「いや、悪い、忘れてくれ」
「……うーん。戦いって怖い部分もやっぱりあるよね」
「…………」
「戦う理由は人それぞれで、たくさんある。けど、戦う理由がある限りは、戦い続けるしかないんだよ」
「……そうだな」


 そうだよな。
 そうだとしか言いようがない。


「始めようぜ」
「お、やる気になった?」
「最初からやる気だよ。――ちょっと気合い入れ直したけどな」


 継ぐって決めただろ。
 先代の英雄を。


 くよくよしてんじゃねーよ、俺。


「じゃあ、次はユウト君から打ってきなよ。わたしからばかりだと不公平だし」
「じゃあ遠慮なく。行くぜ」


 左足で地面を蹴って。
 右足で踏ん張りつつの、地面を砕かない程度に抑えた――それでもさっきのディーナのものよりも早い突き。
 を、しかし彼女は簡単に捌いた。


「結構負けず嫌いだよねユウト君。絶対突きで来ると思った」
「やっぱ見透かされてんな。見透かしディーナと呼ぼう」
「えー。だっさいなーそれ」


 打ち続ける。
 だっさいかなぁ。
 俺にしては良いセンスだと思ったんだが。


「見透かしディーナちゃんというのはどうだろう」
「ちゃんついただけじゃん!」


 やはりノリが良いなディーナ。
 見透かしノリーのディーナちゃん。


 うん。
 だせぇ。


「それにしても」
「うん?」
「つえーな、やっぱ」
「それほどでもないよ!」


 カッ、と一際高い音が響いて、俺の木刀が叩き落とされた。


「ユウト君に手こずってるくらいじゃーまだまだだね」
「このやろう」
「やろうじゃないよー」


 まだまだ。
 まだまだ俺は強くなれる。

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