女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜
第51話 恐怖
「100匹以上のドラゴンだと……!?」
「もうすぐ修さんにも見えると思います。あの数はまずいです」
「ちっ……まずくてもやばくても何とかするしかないだろう」
修さんがオーガを蹴り飛ばしながら言った。
何とかするしかない。
何とかするしかない――が。
あれは、どうすれば良いのだ。
「あぁ、見えてきたぜ。ありゃあやべぇ。レッドドラゴンか。ドラゴンの中でも最強クラスの個体だぜ。昔、三匹くらい同時に相手取って死にかけたのを思い出すな」
今回は。
文字通り桁が違うというのに、修さんは笑ってみせた。
「まぁ、なんとかするわ。任せとけ」
修さんの聖剣に、力が集まり始めた。
そういうのに疎い俺でもわかるほどの濃密さだ。
あれか。
超必殺技。
「お前も出来るらしいがな――俺のは日に二発までなら撃てる、劣化版だ。それでも100匹くらいなら纏めればなんとかなる。頼む。奴らをもう少しだけ纏めてくれ。そこは任せる」
「分かりました」
俺しかやれない事だ。
体の大きな魔物の死骸を引っ掴んで、群れの端の方を飛んでいるドラゴン目掛けてぶん投げる。
1㎞くらい離れてるが、なに。
本気で頑張れば届くだろう。
投げたサイクロプスが、空中でドラゴンにぶつかった。
中々良いコントロールじゃん、俺も。
狙いとはかなり違うドラゴンに当たったが。
それでも、端の方が少し内側に寄った。
俺に注目した。
よし。
これを繰り返す。
「お前すっげぇ馬鹿力だな。全力だとそんななのか」
「まだまだこんなもんじゃないですよ」
血術も、聖剣の力も、フルに受けろ。
手加減抜きだ。
投げて投げて投げて、距離が100メートルくらいまで迫ってきて。
「十分だ優斗。充分過ぎるぜ。後は――俺に任せとけ!!」
ぶん、と振るわれた聖剣から。
凄まじいエネルギーが放出され、ドラゴンの群れの半数が一瞬で消えてなくなった。
「もういっちょ!!」
もう半分も。
同じようにして、掻き消えた。
あの技を制御できるのは普通に羨ましいな。
……俺もあれを日に二発くらい撃てるようになればだいぶ戦術の幅が広がるんだがなぁ。
「なんとかなっただろ」
「……なんとかなりましたね」
これが英雄か。
これが英雄の力か。
俺はいつか、この人に追いつけるのだろうか。
追い抜けるのだろうか。
追いつきたいし、追い抜きたい。
「修さん、帰ったら――」
ドン、と体を押された。
何を――と思う暇もなく、風が一陣、吹き抜けた。
修さんの右腕と、持っていた聖剣が飛んでいった。
――は。
え……?
「優斗! ぼけっとすんな!!」
斬れた右腕を、握りつぶして止血した修さんが叫んだ。
敵は。
敵が、まだいた。
白髪。眼まで白い。
だが、纏っている服は対照的に黒。
何故か、ふととある単語が思い浮かんだ。
――魔王。
◆
「……俺が時間を稼ぎます。その間に、修さんは聖剣を拾いに行ってください」
聖剣は近くにないと意味がない。
その手に持ってこそ、真価を発揮する。
異様としか言えなかった。
その男から感じるのは、ただただ深い昏い闇。
闇そのものだ。
「別に。武智 修。お前が聖剣を取りに行く間に、おれは攻撃したりしないよ。邪魔者を消そうとしたらお前から飛び込んできたからこうなってしまったけど、おれの望みはお前との一騎打ちだ。右腕無くなっちゃったけど、それくらいなら大丈夫だろう?」
温度を感じさせない声だ。
無気力……とはまた違う。
感じる雰囲気と、声のイメージがまるで合わない。
ちぐはぐで、気持ちが悪い。
「お前。誰だか知らないが、お前の感じている感覚は正しい。誇りに思え。そして、嘆け。己の弱さを。自分の目の前で武智 修が殺されるのを、指をくわえて見てろ」
「…………ッ」
怖くて。
俺は黙っていた。
そいつが怖くて。
怖くて、怖い。
吸血鬼の王を目の前にした時よりも。
万を超えるエルフの軍勢を前にした時よりも。
怖い。
「……優斗。お前が敵う相手じゃない。俺がやる」
だけど、修さん。
あんたは、日に二回しか撃てない技を既に二度撃ってるじゃないか。
満身創痍なはずだろう……!
「幸い、俺が聖剣を取りに行くの待っててくれるみたいだしな。……嘘はついてねぇよ、そいつ。良いぜ、一騎打ちだ。返り討ちにしてやる」
言って、修さんは聖剣を取りに行くために男に背を向けた。
その瞬間に攻撃をするかと思ったが、男はそうしなかった。
俺には分からない。
こいつも、こいつを信用した修さんも。
俺には何も分からない。
この二人が戦ったらどっちが勝つのかを。
「俺が……」
俺が戦わなくては。
修さんはきっと死んでしまう。
セレナの服が物語っているじゃないか。
今日だ。
今日、彼らに何かが起きるのだ。
そして今、その何かが起きようとしている。
俺が動け。
知っている俺が動くんだ。
「お前と戦う意志はない。お前とは差がありすぎて、面白くない」
「――――」
それだけで。
俺は動けなくなってしまった。
情けなさすぎる。
なんでだよ。
何なんだよ。
何なんだよお前は。
「おれの正体が分からなくて怖いか。そうだな……魔王とでも名乗ろうか。魔神から作られた傀儡がおれだ。と言っても、お前には何の事だか分からないだろうがな。分かるのは同じ神であったメロネくらいだろう」
魔神から作られた……?
そんな奴がいたのか?
セレンさんからは聞いていない。
何故だ。
知っていたら絶対言っているはずだ。
……ならここでこいつは修さんに負けるのか?
負けて死ぬから、セレンさんは知らないのか? 或いは、知っていても俺にその存在を伝えていないのか?
俺には分からない。
何も。
くそ……
何なんだよ。
何が起きてんだよ。
「優斗。呼吸が雑になってるぜ。そんなんじゃ、本来の力の半分も出せねぇ」
ぽん、と肩が叩かれた。
聖剣を拾いに行っていた修さんが戻ってきたのだ。
「おいお前。名前は?」
「おれに名前はない。先ほどそいつにも言ったが、魔王と呼ぶといい」
「魔王……ねぇ。ならさしずめ俺は勇者ってとこか?」
「勇者は魔王を倒す者の事だろう」
「その通りだ。だから俺が勇者なんだよ」
「お前には無理だ。おれの通り道に過ぎないお前には」
「……一応、目的を聞いといてやる。何をしにここへ来た?」
「お前と、女神との間に産まれた子どもを。おれが食って、更に強くなるのさ」
修さんから、殺気が発せられた。
俺に向けられている訳でもないのに、竦んでしまう程の殺気が。
「優斗。正々堂々なんて気にしてられなくなった。頼む、力を貸してくれ」
「分かりました」
即答、した。
即答出来た。
修さんが飛び出す。
俺も、飛び出す。
「一騎打ちが望みだと言ったはずだが」
「そんな事気にしてられる程聖人じゃねぇんだよ、俺はよ!!」
修さんが振るった聖剣を、魔王は軽々と受け止めた。
片手で。
その反対側から、斬りかかる。
抑えろ。
抑えろ。
抑えろ!
一発じゃない。
何発でも。
何度でも。
聖剣に力が籠る。
あの技を放つ前の状態になる。
そのまま、飛ばさずに。
斬りかかる。
「ほう」
魔王が、修さんの聖剣から手を放して俺の攻撃を躱した。
「でかした優斗――」
修さんも。
聖剣に力を籠めていた。
そして、放った。
先ほど放った二発よりも巨大なエネルギーを。
それを真正面から食らった魔王は――
「日に二発が限界と聞いていたのだがな」
無傷――とまでは言わずとも、平然と立っていた。
「……嘘だろおい」
修さんが呆然と呟く。
一撃必殺の技だ。
それを喰らって立っている相手なんて今までいなかったのだろう。
限界を超えて、限界以上の威力で放った一撃が平然と耐えられるなんて。
誰も思いやしない。
「ああああああああああ!!」
聖剣に力を籠める。
消し飛ばすために。
全力で放てば、今の修さんのよりもでかいのを撃てる。
当たれば――倒せる。
「何故お前もその剣を持っている?」
放とうとした腕を、押さえられた。
「――ヅ、ぁあ!!」
そのまま握りつぶされる。
聖剣が落ちる。
なんとか影の中にそのまま落とす。
「ほう。吸血鬼」
影で突き刺す。
躱される。
「お前がレオルか? 聞いていた情報と随分違うが」
俺がやらなきゃ。
俺がやらなきゃ駄目だ。
修さんはもう力を使い果たしている。
限界を超えている。
俺はまだ動ける。
俺がこいつを倒す!!
「そんな分かりやすい殺気で攻撃されてもな。読みやすい事この上ない」
右腕の突きは容易く防がれた。
力は互角か、その上を行かれている。
だがそれがどうした。
修さんはそれでも俺より強かった。
思い出せ。
思い起こせ。
こいつを倒せ!!
「無駄だ」
連撃を全て防がれ、腹に一撃掌底を貰った。
それだけでダメージが来る。
すぐに治る。
怯むな。
「回復が早いな。厄介だ」
どん、ともう一度腹に掌底を喰らい、今度は吹き飛ばされる。
後ろへ押しやられる。
「ぐ……」
「お前に割く労力が惜しい。そこで大人しくしてろ」
「そんな事言ってられるかよ!!」
距離が空いたのは好都合だ。
今度こそぶち込む。
聖剣での一撃を。
――死ね。
地を切り裂き。
空を切り裂き。
空間そのものをも切り裂きそうな一撃は、躱された。
「殺気がダダ漏れだと、言わなかったか?」
くそ――。
畜生。
何で俺は。
なんで俺はこんなに弱いんだ。
「上出来だ優斗。限界は超える為にある、って、どっかの漫画キャラが言ってたよな」
聖剣での一撃が。
修さんの放った一撃が、魔王を襲った。
意識外からの、殺気の無い一撃。
直撃だ。
「がッ……は…………ここまで損傷するつもりは無かったのだがな」
それでも魔王は。
立っていた。
ボロボロになりながら、立っていた。
倒れない。
魔王。
魔王。
魔王だ。
恐怖というものの本質を、今、俺は知った。
「もうすぐ修さんにも見えると思います。あの数はまずいです」
「ちっ……まずくてもやばくても何とかするしかないだろう」
修さんがオーガを蹴り飛ばしながら言った。
何とかするしかない。
何とかするしかない――が。
あれは、どうすれば良いのだ。
「あぁ、見えてきたぜ。ありゃあやべぇ。レッドドラゴンか。ドラゴンの中でも最強クラスの個体だぜ。昔、三匹くらい同時に相手取って死にかけたのを思い出すな」
今回は。
文字通り桁が違うというのに、修さんは笑ってみせた。
「まぁ、なんとかするわ。任せとけ」
修さんの聖剣に、力が集まり始めた。
そういうのに疎い俺でもわかるほどの濃密さだ。
あれか。
超必殺技。
「お前も出来るらしいがな――俺のは日に二発までなら撃てる、劣化版だ。それでも100匹くらいなら纏めればなんとかなる。頼む。奴らをもう少しだけ纏めてくれ。そこは任せる」
「分かりました」
俺しかやれない事だ。
体の大きな魔物の死骸を引っ掴んで、群れの端の方を飛んでいるドラゴン目掛けてぶん投げる。
1㎞くらい離れてるが、なに。
本気で頑張れば届くだろう。
投げたサイクロプスが、空中でドラゴンにぶつかった。
中々良いコントロールじゃん、俺も。
狙いとはかなり違うドラゴンに当たったが。
それでも、端の方が少し内側に寄った。
俺に注目した。
よし。
これを繰り返す。
「お前すっげぇ馬鹿力だな。全力だとそんななのか」
「まだまだこんなもんじゃないですよ」
血術も、聖剣の力も、フルに受けろ。
手加減抜きだ。
投げて投げて投げて、距離が100メートルくらいまで迫ってきて。
「十分だ優斗。充分過ぎるぜ。後は――俺に任せとけ!!」
ぶん、と振るわれた聖剣から。
凄まじいエネルギーが放出され、ドラゴンの群れの半数が一瞬で消えてなくなった。
「もういっちょ!!」
もう半分も。
同じようにして、掻き消えた。
あの技を制御できるのは普通に羨ましいな。
……俺もあれを日に二発くらい撃てるようになればだいぶ戦術の幅が広がるんだがなぁ。
「なんとかなっただろ」
「……なんとかなりましたね」
これが英雄か。
これが英雄の力か。
俺はいつか、この人に追いつけるのだろうか。
追い抜けるのだろうか。
追いつきたいし、追い抜きたい。
「修さん、帰ったら――」
ドン、と体を押された。
何を――と思う暇もなく、風が一陣、吹き抜けた。
修さんの右腕と、持っていた聖剣が飛んでいった。
――は。
え……?
「優斗! ぼけっとすんな!!」
斬れた右腕を、握りつぶして止血した修さんが叫んだ。
敵は。
敵が、まだいた。
白髪。眼まで白い。
だが、纏っている服は対照的に黒。
何故か、ふととある単語が思い浮かんだ。
――魔王。
◆
「……俺が時間を稼ぎます。その間に、修さんは聖剣を拾いに行ってください」
聖剣は近くにないと意味がない。
その手に持ってこそ、真価を発揮する。
異様としか言えなかった。
その男から感じるのは、ただただ深い昏い闇。
闇そのものだ。
「別に。武智 修。お前が聖剣を取りに行く間に、おれは攻撃したりしないよ。邪魔者を消そうとしたらお前から飛び込んできたからこうなってしまったけど、おれの望みはお前との一騎打ちだ。右腕無くなっちゃったけど、それくらいなら大丈夫だろう?」
温度を感じさせない声だ。
無気力……とはまた違う。
感じる雰囲気と、声のイメージがまるで合わない。
ちぐはぐで、気持ちが悪い。
「お前。誰だか知らないが、お前の感じている感覚は正しい。誇りに思え。そして、嘆け。己の弱さを。自分の目の前で武智 修が殺されるのを、指をくわえて見てろ」
「…………ッ」
怖くて。
俺は黙っていた。
そいつが怖くて。
怖くて、怖い。
吸血鬼の王を目の前にした時よりも。
万を超えるエルフの軍勢を前にした時よりも。
怖い。
「……優斗。お前が敵う相手じゃない。俺がやる」
だけど、修さん。
あんたは、日に二回しか撃てない技を既に二度撃ってるじゃないか。
満身創痍なはずだろう……!
「幸い、俺が聖剣を取りに行くの待っててくれるみたいだしな。……嘘はついてねぇよ、そいつ。良いぜ、一騎打ちだ。返り討ちにしてやる」
言って、修さんは聖剣を取りに行くために男に背を向けた。
その瞬間に攻撃をするかと思ったが、男はそうしなかった。
俺には分からない。
こいつも、こいつを信用した修さんも。
俺には何も分からない。
この二人が戦ったらどっちが勝つのかを。
「俺が……」
俺が戦わなくては。
修さんはきっと死んでしまう。
セレナの服が物語っているじゃないか。
今日だ。
今日、彼らに何かが起きるのだ。
そして今、その何かが起きようとしている。
俺が動け。
知っている俺が動くんだ。
「お前と戦う意志はない。お前とは差がありすぎて、面白くない」
「――――」
それだけで。
俺は動けなくなってしまった。
情けなさすぎる。
なんでだよ。
何なんだよ。
何なんだよお前は。
「おれの正体が分からなくて怖いか。そうだな……魔王とでも名乗ろうか。魔神から作られた傀儡がおれだ。と言っても、お前には何の事だか分からないだろうがな。分かるのは同じ神であったメロネくらいだろう」
魔神から作られた……?
そんな奴がいたのか?
セレンさんからは聞いていない。
何故だ。
知っていたら絶対言っているはずだ。
……ならここでこいつは修さんに負けるのか?
負けて死ぬから、セレンさんは知らないのか? 或いは、知っていても俺にその存在を伝えていないのか?
俺には分からない。
何も。
くそ……
何なんだよ。
何が起きてんだよ。
「優斗。呼吸が雑になってるぜ。そんなんじゃ、本来の力の半分も出せねぇ」
ぽん、と肩が叩かれた。
聖剣を拾いに行っていた修さんが戻ってきたのだ。
「おいお前。名前は?」
「おれに名前はない。先ほどそいつにも言ったが、魔王と呼ぶといい」
「魔王……ねぇ。ならさしずめ俺は勇者ってとこか?」
「勇者は魔王を倒す者の事だろう」
「その通りだ。だから俺が勇者なんだよ」
「お前には無理だ。おれの通り道に過ぎないお前には」
「……一応、目的を聞いといてやる。何をしにここへ来た?」
「お前と、女神との間に産まれた子どもを。おれが食って、更に強くなるのさ」
修さんから、殺気が発せられた。
俺に向けられている訳でもないのに、竦んでしまう程の殺気が。
「優斗。正々堂々なんて気にしてられなくなった。頼む、力を貸してくれ」
「分かりました」
即答、した。
即答出来た。
修さんが飛び出す。
俺も、飛び出す。
「一騎打ちが望みだと言ったはずだが」
「そんな事気にしてられる程聖人じゃねぇんだよ、俺はよ!!」
修さんが振るった聖剣を、魔王は軽々と受け止めた。
片手で。
その反対側から、斬りかかる。
抑えろ。
抑えろ。
抑えろ!
一発じゃない。
何発でも。
何度でも。
聖剣に力が籠る。
あの技を放つ前の状態になる。
そのまま、飛ばさずに。
斬りかかる。
「ほう」
魔王が、修さんの聖剣から手を放して俺の攻撃を躱した。
「でかした優斗――」
修さんも。
聖剣に力を籠めていた。
そして、放った。
先ほど放った二発よりも巨大なエネルギーを。
それを真正面から食らった魔王は――
「日に二発が限界と聞いていたのだがな」
無傷――とまでは言わずとも、平然と立っていた。
「……嘘だろおい」
修さんが呆然と呟く。
一撃必殺の技だ。
それを喰らって立っている相手なんて今までいなかったのだろう。
限界を超えて、限界以上の威力で放った一撃が平然と耐えられるなんて。
誰も思いやしない。
「ああああああああああ!!」
聖剣に力を籠める。
消し飛ばすために。
全力で放てば、今の修さんのよりもでかいのを撃てる。
当たれば――倒せる。
「何故お前もその剣を持っている?」
放とうとした腕を、押さえられた。
「――ヅ、ぁあ!!」
そのまま握りつぶされる。
聖剣が落ちる。
なんとか影の中にそのまま落とす。
「ほう。吸血鬼」
影で突き刺す。
躱される。
「お前がレオルか? 聞いていた情報と随分違うが」
俺がやらなきゃ。
俺がやらなきゃ駄目だ。
修さんはもう力を使い果たしている。
限界を超えている。
俺はまだ動ける。
俺がこいつを倒す!!
「そんな分かりやすい殺気で攻撃されてもな。読みやすい事この上ない」
右腕の突きは容易く防がれた。
力は互角か、その上を行かれている。
だがそれがどうした。
修さんはそれでも俺より強かった。
思い出せ。
思い起こせ。
こいつを倒せ!!
「無駄だ」
連撃を全て防がれ、腹に一撃掌底を貰った。
それだけでダメージが来る。
すぐに治る。
怯むな。
「回復が早いな。厄介だ」
どん、ともう一度腹に掌底を喰らい、今度は吹き飛ばされる。
後ろへ押しやられる。
「ぐ……」
「お前に割く労力が惜しい。そこで大人しくしてろ」
「そんな事言ってられるかよ!!」
距離が空いたのは好都合だ。
今度こそぶち込む。
聖剣での一撃を。
――死ね。
地を切り裂き。
空を切り裂き。
空間そのものをも切り裂きそうな一撃は、躱された。
「殺気がダダ漏れだと、言わなかったか?」
くそ――。
畜生。
何で俺は。
なんで俺はこんなに弱いんだ。
「上出来だ優斗。限界は超える為にある、って、どっかの漫画キャラが言ってたよな」
聖剣での一撃が。
修さんの放った一撃が、魔王を襲った。
意識外からの、殺気の無い一撃。
直撃だ。
「がッ……は…………ここまで損傷するつもりは無かったのだがな」
それでも魔王は。
立っていた。
ボロボロになりながら、立っていた。
倒れない。
魔王。
魔王。
魔王だ。
恐怖というものの本質を、今、俺は知った。
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