女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第42話 山崩し

 目が覚めたのは昼頃だった。
 朝まで呑んでたせいか、若干頭痛がする。


 今日は何するかなーなんて、何故かまだここに滞在する気満々な考えは、次の瞬間に打ち砕かれた。


『緊急。緊急。戦闘要員は直ちに城下広場に集まるように。繰り返す――』


 色違いマリアさんの声だ。
 それが、大音量で城の中に――竜の海全域に響き渡った。


 ……は?


 一体何が起きて――


「優斗さん!! 起きてます!? 優斗さん!!」


 セレンさんの声が扉の向こう側からした。
 急いで扉を開けると、そこにはかなり焦った様子の――今まで見たことない程焦っているセレンさんがいた。


「竜の海に――エルフ族が攻めてきました!」


 酔い覚ましには十分な……十分過ぎる情報だった。

















「パルメ!!」


 執務室に駆け込むと、竜王――パルメは、こちらを振り向いて笑顔を見せた。


「落ち着け、ユウト。あたし達はそんなに弱くない」
「だが――」
「こういう事だってずっと想定してきた。たまたまそれが今日だったってだけだ」


 違う。
 違うんだ。


 エルフたちは攻めてきたのは、もしかすると――


「ユウト。遅かれ早かれ、エルフとはこうなっていた。お前が気にする必要はないよ」


 あくまでも笑顔で、パルメは言い切った。
 だが、分かる。
 分かってしまう。


「お前たちには関係のない事だ。逃げる経路はあたし達で確保する。そこから――」


 無理をしているのが、分かってしまう。


「セレンさん。俺は残ります」


 竜の海は三つの障害に阻まれている。
 決して簡単に超えられる壁ではない。


 それをわざわざ乗り越えて攻めてくるという事は。
 相手は竜の海を攻め落とす算段が整っているという事に他ならない。


 俺一人でどれくらいの戦力になるか分からないが、無いよりはましだろう。
 それに――さっきはパルメに遮られたが、このエルフの進攻は魔神が手を引いている可能性がある。そうだとすれば俺が放っておけるわけないだろう。


「私も残――」
「セレンさん達は逃げてください。……守り切れる自信がない」
「……本気で言ってるの?」


 真っ先に反応したのはミラだった。
 分かりやすく、怒気を孕んだ声だった。


「ボクたちが、ユウトに守られないからって逃げるような奴だと本気で思ってるの?」


 それは――


「ボクは残るよ。セレンも。でも、マリアさんは逃げて欲しい」
「……マリアさんには、増援を呼んで欲しいのです。ゲートは私が繋げます」


 ちょっと待て。
 待てって……!


「分かりました。王に伝えます」


 その言葉を聞いて、セレンさんが何やら唱え始める。
 『ゲート』と言っていたが、それの詠唱だろうか。
 いや、そうじゃなくて。


 だから、俺が言いたいのは――


「駄目だよユウト。自分ばっかり危ない目に遭おうとして。ボクたちを少しは信用して欲しいね」
「信用してない訳じゃ……」
「なら、分かるよね。ボクたちがどういう人間なのか」


 俺は。


 何も言い返せなかった。















「状況は?」
「死の森、死の海はそれぞれ埋め立てられ・・・・・・ました・・・。死の山も崩されるのは時間の問題かと」
「埋め立て……そう来たか」


 パルメと色違いマリアさんが話し合っているのを、俺たちは傍から見ていた。色違いじゃない方のマリアさんはと言えば、セレンさんが創り出した『ゲート』を通って、俺たちを船で送り届けてくれたドルーのおっさんがいたスラム街に行ったらしい。


 何故そんなところにワープ出来るのかと聞いてみれば、単純に帰り道として準備していたとのこと。ゲートは24時間程度出しっぱなしになるので、見つかりにくいであろうスラム街に仕込んでおいた、と。


「……死の森と死の海を埋め立てるって、どれくらいに魔力が必要になるんですか?」


 隣にいたセレンさんに聞いてみると、少し考えるような沈黙の後、答えてくれた。


「私の魔力が100倍になっても不可能だと思います。……エルフ族の魔法使いはそれぞれが達人と呼べる域に達しているので、全員でかかれば埋め立てる事は容易かと」
「死の山を崩すのは?」
「それは、ユウトさんでも出来ますよ。ある一点を崩せば簡単に崩せます」
「ある一点……?」
「ヌシが守っている『核』です。そこを破壊すれば死の山は消えます」


 ……なるほど。
 崩すって言っても物理的にぶっ壊す訳じゃないのか。
 ならそのヌシが倒されないように今からでも向かえば、と思ったその瞬間だった。


 死の山が。
 竜の海を囲んでいた壁が、消えた。


 ヌシが倒されたのか。


 ……山があった場所に現れたのは、水だ。
 元々ここは海で、島を初代の竜王が作ったんだったか。




 表れた海のずっと向こうに。
 大量の人影が見えた。
 俺の視力でも辛うじて見えるくらい離れてはいるが、死の山が消えた事で、竜の海の住民は殺気立っていた。竜人はみんな気が荒いのか。


 この上ない臨戦態勢に見える。


「……優斗さん。大きな魔力が四方から感じられます。これは――」
「囲まれてるってことですね」


 目を凝らしてみれば、エルフ族は完全に竜の海を包囲していた。
 数が違いすぎる。


 吸血鬼、竜人、エルフ族は戦力が拮抗していたんじゃなかったのか。


「エルフ族は元々一つではないんです。エルフ、ハイエルフ、ダークエルフと別れていたはずなんですが……」


 それら全てが結託してるってことか。
 厄介な事この上ないな。


 パルメはまだ落ち着いていた。
 俺たちの会話が聞こえなかったという訳ではないだろう。


 ……或いは覚悟を決めたのかもしれない。




 エルフたちと竜人を隔てていた海が、四方同時に全て埋め立てられた。
 未だパルメからの指示はない。


 じっと、城の頂上からエルフたちを見据えていた。


 エルフたちが進軍を始める。
 近付いてくる。


 距離は離れているし、動きは遅い。
 だが一時間もすればここへ辿り着き、戦闘が始まっているだろう。




「あたしがなんで竜王と呼ばれているか、見せてやるよ。ユウト」


 パルメはそう言うと、城の一際高いところへ一人、登っていった。
 そこから大きな声で、


「総員!! 身を伏せよ!!」


 と叫び。
 咆哮ブレスを放った。


 文字にすれば簡単な事だ。
 だが、その威力は俺の想像を遥かに超えていた。


 竜王という存在を、俺は見誤っていた。


 放たれたブレスは数㎞離れているエルフたちのところまで容易に届き、当たった側からエルフたちが掻き消え、残ったのは灰だった。


 それでもまだ。
 エルフは進軍を続けるし、数も全然減っていない。


 パルメは叫ぶ。


 俺たちに向けて、竜の海の民へ向けて。


「開戦だ!! 焼き尽くせ!!」

















 進軍してくるエルフ側の魔法を、竜人たちは各々咆哮ブレスで撃ち落とす。威力こそパルムに遥かに劣るものの、数がやはり多い。
 魔法は未だ、一つたりともこちらに届いていない。


 だがそれも時間の問題だろう。
 明らかにこちらが劣勢だ。
 戦力が違い過ぎる。

「女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く