女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜
第41話 お祭り
「さぁ飲め食え歌え踊れ! 盛り上げて盛り上げてそして死ね!!」
とんでもないお祭り騒ぎだった。
お祭り騒ぎみたいな人口密度で実際にお祭りしたらそらこうなるわ。
人はわっちゃわっちゃしてるわごみごみしてるわで気持ち悪くなってきた。
竜王も竜王で言っちゃいけない事まで言ってるし……
死ねは駄目だろ死ねは。
お前それでも一応一国の主なんだろう……
竜王の言葉に更に盛り上がっている国民たちもどうかと思うが。
それにしても、竜人はみんな髪が赤いんだな。
中でも竜王は特に赤いが。昨日は紅と表現したが、やはりしっくりくる。
そんなお祭り騒ぎを、俺たちは城から見下ろしていた。
あの中には入りたくないなぁ。
「お? お前ら全員残ってんじゃん。行かなくていいのか?」
「お前こそ。あれに混ざりたいんじゃないのか」
屋台やら見世物小屋やら色々出ていて楽しそうなのは分かるが、人の数が半分くらいにならないと俺は行く気が起きない。
他の三人も同じような感じみたいだ。
「あたしはいーんだよ。大勢の中に混ざると怪我させちゃうからな」
あー。
そりゃ残念だな。
行きたくて行きたくてうずうずしてんのに。
ああいう雰囲気が好きなんだろうなぁ、こいつ。
「それにあたしはこれでも王だからな。祭りに行ったらみんな萎縮して楽しめないだろ」
「ふうん」
こいつはこいつなりに考えてんだな。
◆
夜。
お祭り騒ぎはまだ続いていた。
あの後なんだかんだでミラが祭りに行き、セレンさんが付きそうと言い出したので俺も付いて行き、マリアさんまで成り行きで付いてきて結局四人でそれなりに楽しんだ。
セレンさんが金魚掬いから射的まで何も出来ないのは意外だったな。やるのは初めてですから、と言っていたが。
逆にミラはなんでも出来た。マリアさんもそこそこ。
俺? 俺は輪投げくらいしか出来ないよ。
基本的に不器用だからな。
なんだかんだ遊び疲れた女性陣は昨日と同じ部屋で寝泊まりし、当然俺も昨日と同じ部屋にいるのだが……
そろそろか?
と扉を見ていると、音もなく扉が開いた。
「バレバレだぞ」
「バレちゃあ仕方ない! てい!」
と飛び掛かってきた竜王を影で絡めとり、地面に下ろす。
「ほら、早くそのピンクのパジャマを着替えろ。そんな恰好じゃ外に出られないだろ」
「ほえ?」
「行きたかったんだろ。祭り」
「へ?」
惚けたように口を開けている竜王。
果物でも押し込んでやろうか。
◆
「な、なぁ。本当にこれでバレないのか?」
「お前が自分で口走らなければな」
茶色のローブを着せた竜王と、俺は城下に降りていた。
こいつの場合、特徴的なのは綺麗すぎる紅の髪だからな。それさえ隠せばなんとかなるだろう。たぶん。
町はまだまだ明るい。人々が祭りの余韻で騒いでいるのだ。
だが、昼間に比べればぐっと数は減っている。3分の1くらいに。これだけ人が減っていれば、力加減を誤って怪我をさせてしまうなんてこともないだろう。
「町に来るのなんて何年ぶりだろう……」
「竜王ってのは忙しいのか?」
「それなり、にな。優秀な秘書が何人もいてくれてるお陰でこの国は回ってるんだ」
「そうか」
奔放そうに見えるが、本当に何も考えていない訳ではないんだな。
俺を夜這いにくる余裕があるなら自分で町へ繰り出せば良いと思うのだが。
……まぁ、こいつなりに色々思うところがあるのだろう。知らんけど。だって俺王様じゃないし。だからこそこうして無責任に竜王を連れだせるのだが。
何かあったらどうするかなんて考えてない。
何か起きる前に何とかするだけだ。
そう出来るだけの能力が俺にはある。自惚れじゃないぜ。これでも謙虚に考えて最悪の場合を考えて動いてんだ。
まぁどういう場合が最悪なのかはよく分かってないが。
良いじゃん、王様がお忍びで祭りに行くくらい。
自分で言うのもなんだが、大抵の奴よりは強い用心棒が付いてんだし。
……お祭り騒ぎは続いているとは言え、流石に大抵の屋台はもう仕舞っちゃってんな。
スーパーボール掬いを楽しそうにやっている竜王を見るのも良いが、何かもっとこう、祭りって感じのが無いかなぁ――と見渡していると、竜王が俺の袖をくいくいと引っ張った。
「どうした?」
「あれやろうぜ、あれ」
と竜王が指さしたのは、輪投げだった。
しかもあれ昼間やったのと同じ屋台だな。
「お、昼間の坊主じゃねぇか。なんだ? 今度は別の女連れてんのか。おっちゃんにも分けてくれよ」
「ならまずはその強面をどうにかするこったな」
なんて冗談を交わし合いながら、10個の輪を受け取る。
「よーし……」
竜王が狙いを定めているのは、一番奥にある赤い竜の置物だろうか。
あのサイズであの位置にあるのはもう取らせる気がないと思うが……
掌サイズで、距離は10メートルくらいか?
この軽い輪では届かせるのがやっとで、とても狙いなど定められないだろう。ミラも外してたしな。今はもう無いがその手前の巨大な熊のぬいぐるみをゲットしてた。
等と思い出している間に、竜王は10個全て外していた。
「むずかしいなー」
と若干しょんぼりしている竜王を見て、少し気まぐれが働いた。
こういうやつでやってみたかったことがあるんだよな。
悪影響を与えかねないちびっこも近くにいない事だし、やってみるか。
「おっちゃん。輪、50個くれ」
「お? ……ほっほう。彼女の前でかっこつけたいってか。仕方ねぇなぁ、今回だけだぜ」
「恩に着るよ」
「何する気だ……?」
竜王は不思議そうに俺の手元を見ている。
察しの悪い奴め。
こうするんだよ。
俺はおっさんから受け取った50個の輪を、全て同時に的に向かって投げた。
名付けて数撃ちゃ当たる作戦だ。
そして作戦通り、竜の置物に三つの輪がかかった。
「おぉぉ!! ……でも有りなのか? 今の」
「良いんだよ。良い子は真似しちゃ駄目だがな」
財力にものを言わせられる大人限定の裏技だ。
昼間だったら出来なかった芸当だな。
「ほらよ、良い彼氏じゃねぇか嬢ちゃん。絶対逃がすなよ?」
「うん、そのつもりだ。ありがとう、ユウト」
勘弁してくれ。
竜の置物を受け取った竜王は、今までで一番輝くような笑顔で礼を言った。
こうして見ている限りじゃあ、年相応かそれ以下の女の子なんだがな。竜王ねぇ。強けりゃいーんだよ、とか言っていたが、あれが本当ならこいつはいつから誰よりも強くなり、竜王になったのだろうか。
しばらくてくてくと歩いていると、竜王がふと、
「ユウト。お前、ノメルか?」
と聞いてきた。
「……うん?」
ノメル、というのがどういう字なのか分からず、聞き返してしまう。
「酒だよ。お酒、呑めるか?」
「あー」
呑めるか呑めないかで言えば呑める。
日本人的な見方をすればまだ呑んじゃ駄目なのだが、こちらの世界に来てから何度か口にしている。飲酒を禁じる法律とかないしな。興味もあったし。
「呑めるよ」
「おーし。なら今日はあたしの奢りで呑もうぜ。朝まで!」
「明日も仕事あるんだろ、お前」
「一日くらい気合いでなんとかならぁ!」
そうかよ。
……まぁ、こいつ自身が平気だって言うんなら特に断る理由もないか。
付き合ってやるよ。
◆
翌朝。
この手のイベントでは大抵女の子側が酔いつぶれるのだろうが、俺も竜王もアルコールには強かったようで、何事もなく夜を明かした。
会計は俺が済ませたが。
流石に女の子の奢りって言うのはなぁ。
それなりに――というレベルを超えて金は持ってるんだし、ケチる必要もない。
「……ユウト」
若干足元の覚束ない竜王に肩を貸していると、耳元で囁かれた。
「パルメ=グリザリアの名において誓おう。あたしはお前たちへの助力を惜しまない」
「……そうか。助かるよ」
「それから」
「うん?」
「決心がついた。絶対お前をあたしに惚れさせてやる。覚悟しろよ」
「……そうか」
この期に及んで拒否するほど俺も鬼じゃない。
竜王。改めパルメは、それだけ言うと寝てしまった。
……仕方ない。背負ってくか。
やれやれ、と溜め息をつく。
楽しい奴なんだがな。うっかり惚れてしまいそうなくらいに。
気を付けないとな――
なんて。
呑気な事を思っていた。
今日。
この日に起きる事を、まだ俺は知らなかった。
とんでもないお祭り騒ぎだった。
お祭り騒ぎみたいな人口密度で実際にお祭りしたらそらこうなるわ。
人はわっちゃわっちゃしてるわごみごみしてるわで気持ち悪くなってきた。
竜王も竜王で言っちゃいけない事まで言ってるし……
死ねは駄目だろ死ねは。
お前それでも一応一国の主なんだろう……
竜王の言葉に更に盛り上がっている国民たちもどうかと思うが。
それにしても、竜人はみんな髪が赤いんだな。
中でも竜王は特に赤いが。昨日は紅と表現したが、やはりしっくりくる。
そんなお祭り騒ぎを、俺たちは城から見下ろしていた。
あの中には入りたくないなぁ。
「お? お前ら全員残ってんじゃん。行かなくていいのか?」
「お前こそ。あれに混ざりたいんじゃないのか」
屋台やら見世物小屋やら色々出ていて楽しそうなのは分かるが、人の数が半分くらいにならないと俺は行く気が起きない。
他の三人も同じような感じみたいだ。
「あたしはいーんだよ。大勢の中に混ざると怪我させちゃうからな」
あー。
そりゃ残念だな。
行きたくて行きたくてうずうずしてんのに。
ああいう雰囲気が好きなんだろうなぁ、こいつ。
「それにあたしはこれでも王だからな。祭りに行ったらみんな萎縮して楽しめないだろ」
「ふうん」
こいつはこいつなりに考えてんだな。
◆
夜。
お祭り騒ぎはまだ続いていた。
あの後なんだかんだでミラが祭りに行き、セレンさんが付きそうと言い出したので俺も付いて行き、マリアさんまで成り行きで付いてきて結局四人でそれなりに楽しんだ。
セレンさんが金魚掬いから射的まで何も出来ないのは意外だったな。やるのは初めてですから、と言っていたが。
逆にミラはなんでも出来た。マリアさんもそこそこ。
俺? 俺は輪投げくらいしか出来ないよ。
基本的に不器用だからな。
なんだかんだ遊び疲れた女性陣は昨日と同じ部屋で寝泊まりし、当然俺も昨日と同じ部屋にいるのだが……
そろそろか?
と扉を見ていると、音もなく扉が開いた。
「バレバレだぞ」
「バレちゃあ仕方ない! てい!」
と飛び掛かってきた竜王を影で絡めとり、地面に下ろす。
「ほら、早くそのピンクのパジャマを着替えろ。そんな恰好じゃ外に出られないだろ」
「ほえ?」
「行きたかったんだろ。祭り」
「へ?」
惚けたように口を開けている竜王。
果物でも押し込んでやろうか。
◆
「な、なぁ。本当にこれでバレないのか?」
「お前が自分で口走らなければな」
茶色のローブを着せた竜王と、俺は城下に降りていた。
こいつの場合、特徴的なのは綺麗すぎる紅の髪だからな。それさえ隠せばなんとかなるだろう。たぶん。
町はまだまだ明るい。人々が祭りの余韻で騒いでいるのだ。
だが、昼間に比べればぐっと数は減っている。3分の1くらいに。これだけ人が減っていれば、力加減を誤って怪我をさせてしまうなんてこともないだろう。
「町に来るのなんて何年ぶりだろう……」
「竜王ってのは忙しいのか?」
「それなり、にな。優秀な秘書が何人もいてくれてるお陰でこの国は回ってるんだ」
「そうか」
奔放そうに見えるが、本当に何も考えていない訳ではないんだな。
俺を夜這いにくる余裕があるなら自分で町へ繰り出せば良いと思うのだが。
……まぁ、こいつなりに色々思うところがあるのだろう。知らんけど。だって俺王様じゃないし。だからこそこうして無責任に竜王を連れだせるのだが。
何かあったらどうするかなんて考えてない。
何か起きる前に何とかするだけだ。
そう出来るだけの能力が俺にはある。自惚れじゃないぜ。これでも謙虚に考えて最悪の場合を考えて動いてんだ。
まぁどういう場合が最悪なのかはよく分かってないが。
良いじゃん、王様がお忍びで祭りに行くくらい。
自分で言うのもなんだが、大抵の奴よりは強い用心棒が付いてんだし。
……お祭り騒ぎは続いているとは言え、流石に大抵の屋台はもう仕舞っちゃってんな。
スーパーボール掬いを楽しそうにやっている竜王を見るのも良いが、何かもっとこう、祭りって感じのが無いかなぁ――と見渡していると、竜王が俺の袖をくいくいと引っ張った。
「どうした?」
「あれやろうぜ、あれ」
と竜王が指さしたのは、輪投げだった。
しかもあれ昼間やったのと同じ屋台だな。
「お、昼間の坊主じゃねぇか。なんだ? 今度は別の女連れてんのか。おっちゃんにも分けてくれよ」
「ならまずはその強面をどうにかするこったな」
なんて冗談を交わし合いながら、10個の輪を受け取る。
「よーし……」
竜王が狙いを定めているのは、一番奥にある赤い竜の置物だろうか。
あのサイズであの位置にあるのはもう取らせる気がないと思うが……
掌サイズで、距離は10メートルくらいか?
この軽い輪では届かせるのがやっとで、とても狙いなど定められないだろう。ミラも外してたしな。今はもう無いがその手前の巨大な熊のぬいぐるみをゲットしてた。
等と思い出している間に、竜王は10個全て外していた。
「むずかしいなー」
と若干しょんぼりしている竜王を見て、少し気まぐれが働いた。
こういうやつでやってみたかったことがあるんだよな。
悪影響を与えかねないちびっこも近くにいない事だし、やってみるか。
「おっちゃん。輪、50個くれ」
「お? ……ほっほう。彼女の前でかっこつけたいってか。仕方ねぇなぁ、今回だけだぜ」
「恩に着るよ」
「何する気だ……?」
竜王は不思議そうに俺の手元を見ている。
察しの悪い奴め。
こうするんだよ。
俺はおっさんから受け取った50個の輪を、全て同時に的に向かって投げた。
名付けて数撃ちゃ当たる作戦だ。
そして作戦通り、竜の置物に三つの輪がかかった。
「おぉぉ!! ……でも有りなのか? 今の」
「良いんだよ。良い子は真似しちゃ駄目だがな」
財力にものを言わせられる大人限定の裏技だ。
昼間だったら出来なかった芸当だな。
「ほらよ、良い彼氏じゃねぇか嬢ちゃん。絶対逃がすなよ?」
「うん、そのつもりだ。ありがとう、ユウト」
勘弁してくれ。
竜の置物を受け取った竜王は、今までで一番輝くような笑顔で礼を言った。
こうして見ている限りじゃあ、年相応かそれ以下の女の子なんだがな。竜王ねぇ。強けりゃいーんだよ、とか言っていたが、あれが本当ならこいつはいつから誰よりも強くなり、竜王になったのだろうか。
しばらくてくてくと歩いていると、竜王がふと、
「ユウト。お前、ノメルか?」
と聞いてきた。
「……うん?」
ノメル、というのがどういう字なのか分からず、聞き返してしまう。
「酒だよ。お酒、呑めるか?」
「あー」
呑めるか呑めないかで言えば呑める。
日本人的な見方をすればまだ呑んじゃ駄目なのだが、こちらの世界に来てから何度か口にしている。飲酒を禁じる法律とかないしな。興味もあったし。
「呑めるよ」
「おーし。なら今日はあたしの奢りで呑もうぜ。朝まで!」
「明日も仕事あるんだろ、お前」
「一日くらい気合いでなんとかならぁ!」
そうかよ。
……まぁ、こいつ自身が平気だって言うんなら特に断る理由もないか。
付き合ってやるよ。
◆
翌朝。
この手のイベントでは大抵女の子側が酔いつぶれるのだろうが、俺も竜王もアルコールには強かったようで、何事もなく夜を明かした。
会計は俺が済ませたが。
流石に女の子の奢りって言うのはなぁ。
それなりに――というレベルを超えて金は持ってるんだし、ケチる必要もない。
「……ユウト」
若干足元の覚束ない竜王に肩を貸していると、耳元で囁かれた。
「パルメ=グリザリアの名において誓おう。あたしはお前たちへの助力を惜しまない」
「……そうか。助かるよ」
「それから」
「うん?」
「決心がついた。絶対お前をあたしに惚れさせてやる。覚悟しろよ」
「……そうか」
この期に及んで拒否するほど俺も鬼じゃない。
竜王。改めパルメは、それだけ言うと寝てしまった。
……仕方ない。背負ってくか。
やれやれ、と溜め息をつく。
楽しい奴なんだがな。うっかり惚れてしまいそうなくらいに。
気を付けないとな――
なんて。
呑気な事を思っていた。
今日。
この日に起きる事を、まだ俺は知らなかった。
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