女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第39話 求婚

 四人がそれぞれ別々の部屋に案内された。
 俺はともかく三人は大丈夫だろうか……


 部屋にいたのは一人の男。


 赤髪に赤い瞳。
 鋭い視線。
 体はかなり鍛えられている。


 手には槍と、全身に銀の鎧。


 見てくれはエルランスに似てると言えなくもないな。


「私はバルガと言う! 貴殿の名を教えて貰おうか!」
「ユウトだ」
「ユウト殿! 良い名だ! 良い勝負にしようぞ!!」


 やっぱこいつと戦うのか。
 相手の強さを推し量るというのはあまり得意ではないが――


 弱くはない、んだろうな。
 感じる雰囲気と言い、四天王と呼ばれている辺りと言い。


 エルランスやその親父とどちらが強いだろうか。
 少なくともエルランスよりは強いかもしれないな。


 だがその父親よりは強そうに見えない。
 まぁ、実際その辺りなのだろう。


 血術けつじゅつもまだちゃんと実践で試したことなかったし、良い機会かもな。


「勝負は至って単純! どちらかが参ったと言うか、気を失うまで戦い続ける!! 良いな!?」
「良いよ」
「では!!」


 バルガが槍を構える。


 俺は聖剣を手に取らない。
 今回は素手でやってみる。


「武器を使わなくて良いのか?」
「無手の方が得意なんだ」


 実際剣の扱いというのはまだ慣れていない。
 あの超必殺技を使う時には聖剣を使うが、あんなの剣術じゃないしな。


「では、参る!!」


 と言って、バルガが突っ込んできた。
 槍には刃が付いているが、あれを掴めるかどうかがまず俺の血術の練度を確かめる第一関門だな。吸血鬼の王ならあんなもの気負わずとも簡単に受け止めるのだろう。


 受け――


 いや無理だ。


 思ったより速い。
 寸でのところで躱す。


 舐めてかかって勝てる相手でもないということか。


 バルガは槍を持ち直し、大声を挙げて気合いを入れ直した。
 ひゅ、と突き出された槍をやはり躱し、躱したところで刃の部分を手で掴む。


「――む!」


 それを振り払おうとするが、俺の今の握力は数百㎏は軽いだろう。軽く払った程度で払えるものではない。


 今の俺の血術でも刃くらいなら掴めるか。
 なら――


 ぐい、と槍を引き寄せようとすると、バルガはすぐにそれを手放した。戦闘慣れしているのか、切り替えが早い。
 すぐに素手で殴りかかってくるバルガの腹に蹴りを入れ、蹴り飛ばす。


「ぐっ……重いな。貴殿、吸血鬼か」
「そうだ。竜王から知らされてなかったのか?」


 いや、竜王も知らなかったかもしれないか。


「人間であろうと吸血鬼であろうと私は加減などせぬ。全力で向かうのみ!!」


 槍を手放し、迎え撃つ。
 突き出された右の拳に右の拳を合わせ、砕く。


「――ぐ、ぁ……!」


 それでも向かってこようとする竜人の腹に左肘で打撃を打ち込み、突き出された顎を掌底で撃つ。
 がくん、と力を失って竜人が倒れた。


 ……ふぅ。
 どうやら血術を使えば自分の拳を竜人の拳より硬くも出来るようだ。
 便利だなこれ。


 さて。
 俺はともかくだ。
 他の三人がどうなってるか、だな。




 ……それにしても、倒したというのに何も案内がないのだろうか。
 もしかしてこの人が案内役も兼ねてたのかな。


 だとしたら起きるのを待たないといけないのだろうか。


 なんて考えていたら、先ほど竜王の隣にいた色違いマリアさんが扉を開けて入ってきた。


「こちらへどうぞ」


 部屋にあったもう一つの扉を開け、案内された先では――セレンさんにミラ、マリアさんが既に待っていた。
 俺より先に終わったのか。


「マリア様が棄権なされた以外は皆さま完勝でしたね、竜王様」
「うむ」


 どこから、と思えば、少し離れたところに竜王は立っていた。
 先ほどと服装が違う。


 なんというか、鎧っぽい。
 嫌な予感しかしない。


「四天王のうち破られたのは三人。一人足りないよなぁ」


 俺たちに話しかけてるのかなぁ。
 というかすっげぇ俺の方見てんだけど。


 目を逸らす。


「一人足りないとなると、力を貸すのもちょっとなぁ」


 三人勝ったならそれで良いじゃん。
 四人中三人負けたならもう7割5分負けてるだろ。


「これは大将戦をするしかないと思うんだが、どう思う?」


 どう思うと言われましても。


 誰かが答える前に、竜王は続けた。


「ユウトと言ったな。お前に一騎打ちを申し込む」















「一騎打ちと言っても本気で戦う訳ではない。そんな事をしたらこの城が壊れてしまうからな。一発ずつ。殴り合おう。それで倒れた方が負けだ。先行は譲ってやる」
「女の子を殴るのは気が引け――」


 る、と言い終わらせては貰えなかった。
 その前に殴られたからだ。


 腹パン。
 とんでもない威力である。


 ……お前今先行は譲るって言ったじゃん二秒前に言ったじゃん。


 辛うじて踏み止まる。
 ……そもそもいつの間に俺の目の前まで来たんだ、こいつ。


「これくらいは耐えるよなぁ。ほら、殴られたんだから殴り返せ。男だろう」


 どうなっても知らないからな。
 さっき四天王の人を殴った時にこれくらいまでならいけるだろうと判断したくらいの力――全力の2割くらいで、竜王の胸の辺りを狙って拳を打ち出す。


 が。
 それは、竜王に届く前に阻まれた。


 ……なんだこれ。
 バリアか?


 何か壁のようなものがある。


「これは竜王の殻と言って、全ての攻撃から自動で身を守る魔法だ。竜王になったら勝手に発動するんだ。嫌な勝手もあったものだ。……それはそうとして、ユウト。お前今、あたしに攻撃する時に加減しただろ」


 どごん、という音がすぐ近くでした。
 いや、すぐ近くなんてものじゃないか。


 音がしたのは俺の顔面だ。
 血術で強化してなかったら今ので首から上が消し飛んでた。


 そんな威力のパンチだった。


「ぐ……そのバリアずるいぞ」
「仕方ないだろう。あたしに意志じゃあないんだから。ほら、一発殴ったぞ。やり返してこい」


 2割じゃ歯が立たないか。
 なら5割――と刻んでいける程、俺も出来た人間じゃない。今みたいな威力でぼこぼこ殴られるなんて御免だ。


 全力で――。
 フルパワーで殴る。


 踏み込んだ床が砕け、バリアに阻まれた右手のエネルギーが行き場を失い辺りを暴風という形で荒らす。……全力でも割れないのか。
 吸血鬼の王も防御力が高かったが、こいつはその比じゃないな。


 こいつにダメージを与えられる奴とかこの世界に存在するのだろうか。


「もっと本気で撃ってこい! あたしの殻を破らなければ話にならないぞ!!」
「ぐ――」


 胸を殴られ、肺にあった空気が無理やり押し出される。
 ひゅ、と息を吸い込み、自分がまだ生きている事を確認する。


 殺人パンチだ。
 普通の人間なら今の攻撃だけで100回くらい死ぬぞ。


「……どうなっても知らねーぞ」


 もうお前を人だとは思わない。
 魔物を吹き飛ばす時の躊躇いのなさで。


 殴り――


「おおおおおおおおおおおおらあああああああああ!!!!」


 ――砕く。


 バン!! と雷が近くに落ちた時のような音が鳴り響き、バリアが割れた。
 それが竜王に当たる直前で、辛うじて止める。


 その反動で自分の右腕が砕けたが。
 すぐに治る。


 しばらく竜王は目をぱちくりさせていたが、やがて豪快に笑い始めると、


「すっっげぇなお前!! よーし気にいった!! ユウト! あたしと結婚しろ!!」


 ちょっと待てお前。

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