女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第36話 遺産

 マリアさんが歩いていった方向にしばらく歩いていくと、マリアさんを先頭にセレンさんとミラが歩いてくるのが見えた。


 良かった。
 ミラも無事だったか。


 斎藤がナイフを持っていた時点でもミラの無事は信じていたが、こうして実際に見るとやっぱり安心度が違うな。安心の低身長、安心の貧乳だ。


「凄く失礼な事を考えられた気がする」
「気のせいだ。気にすんな」


 気にしたら負けだぜ。


「斎藤は俺が始末しました。それも、もう気にしなくて良いです」
「優斗さん……すみません。私が一撃で終わらせてれば――」
「いえいえ気にしないでください。あいつは俺が倒すべきでしたし、あいつも俺を倒したがってましたからこうなる事は必然だったんですよ。男と男の――ってやつです」


 と、終わった事はこの程度にして。
 考えなければならない事はこの先の事だ。


 斎藤があの村を焼き尽くしたせいで、完全に計画が狂ってしまった。


「あの村の方々の冥福を祈ってから、次へ行きましょう」


 セレンさんの提案を断る理由もなく、俺たちはそれに従った。















「ここが死の森の入り口ですか」


 斎藤の件の後、何事もなく俺たちは森へ辿り着いた。
 罠というのは奴の事だったのだろう。
 俺たちの動向を見ている割りには簡単に行き過ぎている気もするが。


 まだ何かあるのだろうか。
 警戒するに越したことは無いが、そうさせて消耗させること自体が魔神の思惑通りだったりしたら嫌だなぁ。


 ともかく。
 竜の海とやらへ向かう為の、第一関門だ。
 気を引き締めて行こうじゃないか。


 と思ったら、何を考えての事かミラが死の森へ向かって石を一つ投げた。
 何してんの、と声をかけようと思ったら、死の森の領域――に入ったのだろう、石が一瞬で木の蔓に絡めとられて砕けた。


 ……まじか。
 完全に殺しにきてやがる。


 ミラが今やらなかったら、俺辺りがあの蔓に絡めとられていたのだろう。
 誰が得するんだそれ。


 それにしても、これどうするんだよ。
 攻略とかそういう問題以前に入る事すら出来ないじゃん。


「簡単な事ですよ」


 マリアさんが言う。


「ユウト様が光る飛ぶ斬撃でこの森を斬ってしまえば良いのです」


 ……なるほど。
 自然破壊は気が進まないが、仕方がない。


 海蛇を倒した時よりパワーアップした俺の力をこんなところで見せる事になるのは心外だが、致し方あるまい。


「行くぜ……!」
「いえ、そんな事しなくても普通にバリア貼れますが」


 えっ。


 ……えっ。






 ということで。
 セレンさんがバリアを張り、俺たちはその中に入って移動を始めた。
 木の枝や蔓が攻撃してきているが、セレンさんの作った地中にまで効果のあるらしい球体バリアは全然びくともしなかった。


 俺のやる気なんていらなかった。
 この調子で死の海とかも簡単に突破できないかなぁ。


 ……しかし、結構歩いているのに全然終わりが見えないな。
 どんだけ広いんだ。


「死の森だけでも東京から名古屋くらいの移動は必要ですからね。私たちのペースで行くと……三日くらいはかかりますよ」
「マジですか……」


 こんな攻撃の絶えない死が隣り合わせの森で三日間も。
 バリアがある限り大丈夫なのは分かるけどさ。


 ……排泄とか入浴とかどうするの?


「その時だけ限界までバリアの範囲を広げます。最大で一軒家くらいまでは広げられるので安心してください」


 セレンさんが超有能だ。
 俺今完全にいらない子だ。


 無理やりにでも森を吹っ飛ばしておくべきだったかもしれない。


 東京から名古屋までの距離を一刀両断できるかと言われればそれは無理だが。結局はセレンさんに頼るしかないのか。


 しょっぱいなぁ。


 ……うん?


「……マリアさん。何かあそこに立ってません?」


 一瞬、遠くの方に何かが見えた。
 人の形をしてるっぽかったが……。


 だがまさかこんな森に人がいるはずもない。


 だから俺の次に目が良いであろうマリアさんに確認をとってみたのだが、先に反応したのはセレンさんだった。


「……ヌシです! まさか初日にぶつかるなんて……!」


 がしゃん、という音が聞こえた。
 そして木々の向こう側から向かってきたのは――


「なんだあれ……!」


 ロボット、としか表現できなかった。
 シルエットは人だ。
 だが、関節部分や脚を見ると明らかに人ではない細さ。
 それに体全体が……なんというかメタルチックだ。


 しかもでっかい。
 超巨大。
 20メートルくらいはある。
 遠目だから人に見えたが、ここまで近くに寄ると全然人間じゃない。


 何なんだあいつ。
 ガンダムみたいな見た目しやがって。


 手には巨大な斧を持っている。


 顔面部分は単眼。


 完全にロボだ。
 普段ならかっけぇとなるところだが、今はそんな事言ってる場合じゃない。


「セレンさん! このバリアってあいつの斧防げます!?」
「無理です! 優斗さん、吹き飛ばしてください!」


 よしきた!!


 と答えた訳ではないが。
 言われる前から行動してたし。


 聖剣に力を溜め、放つ。
 水平線までぶった切る超必殺技だ。


 それで終わった。
 あの図体が避けられる範囲ではないし、当たって無事で済む威力でもない。


 結果としてヌシもろとも森を吹き飛ばす結果となった。



















「少しは自然破壊が抑えられると思ったんですけどね……」


 根こそぎ抉られた木々の痕を、俺たちは歩いていた。
 多分途中からまた木々が戻るだろうが、しばらくはこのまま歩けるだろう。


「さっきのが死の森のヌシの巨大ゴーレムなんですね。見た目完全にロボでしたけど」
「はい。完全にロボですが、一応ゴーレムです。……実はあれ、過去の英雄が遺したものなんですよ」
「え、俺そんな貴重そうなもの吹き飛ばしちゃったんですか?」
「貴重と言うよりはそのものが遺産みたいなものですが……まぁ良いんですよ。死の森を突破するにはあれを完全に拘束するか吹き飛ばすかしか選択肢がないですし、私はバリア貼りたてであれを拘束できるだけの魔力は残ってなかったですし」
「まぁ……」


 結論としてはそうなるが。
 俺の先人が遺したものを容赦なく吹っ飛ばしてしまったのはちょっと申し訳ないな。
 ……うん? 過去の英雄ってことはあれか?


「俺と同じ日本人で、俺と同じような時代からこっちの世界に来てたって事ですか?」
「……そうですよ。あちらとこちらの時間の流れは違いますから、あちらでの一年がこちらの千年くらいになります。……言ってませんでしたっけ?」
「言われてないですね」


 まぁ知ったところでなんだと言うものなのだが。
 それにしても、俺の先人はガンダムが好きだったのだろうか。


 だとしたらやっぱり申し訳ないよな。
 名前も姿も知らないが、心の中で謝っておこう。


 ごめんね。


「それにしても、ユウトが強くなりすぎててボクの出る幕が本当に無いね」
「そうか? ああいうでっかいのは俺がやるけど、ちっこくてすばしっこいのはやっぱりミラが適役だと思うぞ」


 俺の技は大雑把すぎる。
 範囲もパワーも大きいが、消耗も激しい。


 正直今も歩いているだけで結構しんどい。
 全力疾走した直後みたいな。50メートル走終わった後の倦怠感みたいな。


 ちなみにセレンさん達には伝えてない。
 ただの見栄っ張りだ。
 しばらくは敵も出てこないだろうしこれくらいのかっこつけは許してくれ。

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