女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第34話 罠に正面突破

「儂の妻と息子は吸血鬼に殺された。もう10年以上前の事だ」


 セレンさん達と共に操舵室へ入るなり、ドワーフのおっさん……ドルーさんは語り始めた。


「王の命令だと言ってな。儂らの住んでいた里を襲い、壊滅させたのが吸血鬼だった。ちょうどお前らと同じ四人組だ。儂の目の前であいつらは妻と息子を殺した。そして、儂だけを逃がした。何故かは分からん。気まぐれなのだろうな。儂は生き延び、家族や友人は死んだ」


 淡々とドルーさんは語る。


「吸血鬼に見逃された儂は、あのスラム街へと逃げ込んだ。人と人との関わり合いの全くない、全てが枯渇した場所へな。
 だが仕事はせねばならん。幸い、儂の家は代々船大工でな。材料さえあれば、幾らでも丈夫な船は造れた。そうして儂は薬をとある大陸に届ける船乗りになった。
 お前らが向かっている大陸だ。あそこもあのスラム街とまではいかないが枯渇した土地だ。死の森が近くにあるせいでな。
 ……本来、法で禁じられているが、食料も儂は届けている。無償でな。スラム街に住んでいる限りは、自分に金を使うこともほとんどないから楽なものだ。国に見つかれば即刻打ち首だろう。幸運を届けると言っただろう。この船はあそこの大陸に住む者にとってはまさにそれそのものなのだ」


 と。
 おっさんとこの船については分かったが、今の話だけだと分からない部分がある。


 何故吸血鬼である俺たちを運ぶ気になったのか。


「お前らが来る直前に神託があったのだ」


 ――神託。
 と、いう言葉に俺とセレンさんが反応した。


 神。


 セレンさん……ではないだろう。
 だとすれば、恐らくそいつは――


「あの方は仰った。『近いうちに、王に近しい吸血鬼がやって来る。その者を船に乗せ、死の森へと連れて行け』と。そうすれば吸血鬼への恨みを果たせる、と」


 ちらりとセレンさんの方を見ると、首を横にふるふると振った。
 やはりセレンさんではない。
 と、言うことは……


「そいつは俺たちが敵対している奴だ。ほぼ間違いない。魔神とか名乗ってなかったか?」
「……いや。そういえばあの方は名乗っていないな。すぐに女神様だと思ってしまった儂も悪いのだが」


 女神……
 見た目が女神っぽいのか。
 或いはこのおっさんに会う時だけそれっぽい服装にしてたのかは知らないが。


 俺たちの行動は敵にほとんど筒抜けなのか。


 そして魔神がわざわざ俺たちを案内させたということは――


「間違いなく、罠がありますね」


 セレンさんが言う。
 そう。
 招き入れるということは罠がある。


 魔神は敵で、俺たちを邪魔に思っている。
 吸血鬼の王が奴の元を離れた事も既に知られているようだ。


「しばらくして現れたお前らが吸血鬼だと知って、儂は復讐する絶好の機会だと思った。
 ……だがな。儂にはどうしても、お前らが儂の故郷を滅ぼした吸血鬼たちと一緒には見えんのだよ」


 がば、とドルーさんは地べたに這い蹲った。
 土下座の形だ。


「すまなかった。儂はお前さんらを陥れようとした。さっき小僧に礼を言われて目が覚めたよ。儂が復讐したい吸血鬼は、お前さんらと別だ」
「……良いよ、気にすんな。こうして船で送ってってもらってるのはありがたいことだし、罠があると分かってればやりようがある」


 ドルーのおっさんの手を掴んで、引っ張り上げる。
 さっきとは逆だな。


「何か裏があるってのは分かり切ってた事だしな。このタイミングで言ってくれたのはやっぱありがたいぜ。対策練りたい放題だからな」

















「という訳で、罠が待ち構えている事が分かった訳ですが」


 どうしましょう、と俺は続けた。
 四人で集まっての話し合いである。


 ちなみに俺の部屋。
 意味は特にない。


「普通に正面突破できると思うよ。不安があるのはボク自身くらいだ」


 ミラが言う。
 ……まぁ、セレンさんの無敵っぷりや俺やマリアさんの不死身性を見ればそうなるのは必然的かもしれないが。


「お前が一番危ないってことはない。俺が守るからな」
「程々に期待する」


 そうかよ。
 せっかくかっこつけたってのに。


「……多分、ミラちゃんの言うように正面突破以外に選択肢はないですけどね。私たちが対策を講じようとも、それすら筒抜けになっている可能性があるのですから」
「それもそうなんですよねー」


 問題はどういう風に筒抜けになっているか、なんだよな。
 誰かから情報を得ているか――より具体的に言えば、俺たち側にスパイがいる可能性。
 それか、セレンさんが俺を見ていた時のようにこちらからは何も抵抗できない見られ方。


「恐らく後者です。あの人はスパイをさせられるほど他人を信頼しません」
「……なるほど」


 果たしてそれは朗報なのか。
 いや、可能性としてはマリアさんがスパイの線もあるっちゃあるのだが。


「実際その通りです。わたしがスパイの可能性もしっかりと考慮すべきかと」
「でも、スパイが俺をわざわざ強くするか? ……自分が殺されるかもしれないギリギリの方法をとってまで」


 吸血。
 の事を指しているのだが、それが通じるのは俺とマリアさんの間だけだ。


「何のことか分かりませんけど、私は優斗さんが信じるなら信じます」
「ボクはよく分からないからセレンに従う」
「って訳だ。残念ながらマリアさん、あんたはこっち側の戦力として数えるよ」


 と言うと、マリアさんは諦めたかのように溜め息をついた。


「……王に逆らうことになるので、わたしがスパイでない事はわたしが一番分かっていたつもりなのですが……まさかユウト様たちがそんな全力で否定してくれるとは思いませんでした」


 それもそうだ。
 レオルの奴はこっち側に付くと明言したのだから、マリアさんがそれに逆らえばそれは王に対する謀反だ。秘書にまでなる吸血鬼が今更裏切るとは考え辛い。




「スパイがいるって線は捨てるとして。それでもやっぱり正面突破が一番良いんだろうなって思うんだけど、どう思う?」


 全員に尋ねる。
 ……異論は無さそうだな。


「気を付けるべきは私たちを分断させようとする罠だった時ですね。この四人で動けば全ての障害を乗り越えられると断言できますが、一人でも欠いては罠を正面から破る作戦は失敗する可能性が高まります」


 確かに今ここにいる四人はほぼ無敵だ。
 遠距離はセレンさん一人で事足りるし、近距離戦闘に置いてはミラや俺がいる。マリアさんは俺より吸血鬼としてのスキルに慣れているから、中距離にも対応できる。


 逆に言えば、遠距離と中距離に強いセレンさんとマリアさんの二人になってしまえば近距離が手薄になるし、俺とミラなら遠距離に対応できない。
 遠くから弓なんかを射られれば、やられこそしないものの近づけもしないだろう。


 分断させるような罠だった場合、俺が身を挺して一人と三人に分けさせれば良い。三人で動いて貰えば安全は確保していると言っても過言ではない。


「優斗さんは自分を犠牲にしようとしすぎです。幾ら自分が不死身だからって、私たちが心配しないと思ったら大間違いなんですからね」
「そんな事は……思ってないですけど」


 心配はしてほしい。
 でも心配いらないって感じか。


 複雑だぜ。男心もな。


「……とにかく、優斗さんはマリアさんに血術を含め吸血鬼としての戦い方をもっと教わってもらいます。今までが足りてないとは断じて言いませんし、先ほどの聖剣での攻撃は素晴らしいものでしたが、優斗さんならきっともっと上へ行けると思っています。ミラちゃんは私と連携の話し合いをしましょう。マリアさん、お願い出来ますか?」
「勿論です。王をも打倒し得るほどの吸血鬼にしてみせます」


 それは王を裏切る事にならないのか。


「王の性格から考えて、ユウトさんがそのレベルに強くなれば喜び勇んで戦いを挑んでくると思いますよ」


 その通りだった。
 面倒な主を持ったものだな、マリアさんも。

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