女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第33話 ツィード海峡

 ミラの部屋に奇襲をかけたりセレンさんとイチャつきに行ったりマリアさんに血術や吸血鬼の特性について学びつつ、俺たちは順調(?)に航路を進んでいた。


 そして、あの町を出て一週間程が経過した頃だろうか。


 ドワーフのおっさんが俺の部屋に顔を出して、言った。


「小僧。小娘どもと一緒に船頭へ来い。ツィード海峡にさしかかる」


 どうやら、話が動き始めるらしい。















 ツィード海峡が何なのか、俺はセレンさんから事前に聞いていた。
 海流がどうこうで船が難破するのではなく、海に潜む魔物が船を襲うらしいのだ。


 竜の海へ向かう途中にある死の海にもその手の魔物が出るらしが、それはそれでこれはこれとの事だ。というか、どちらかと言えばこっちの方が厄介なのだとか。


 死の海はやたらとでかくて強いヌシ一匹が障害になるらしいが、こちらは無数にいる。
 でかいのも当然いる。


 おっさんが俺たちを船頭に立たせたのは、


「向かってくる魔物を撃退しろという事だと思います。本来こういうのは他の船員がやるものですが――」


 セレンさんの言葉だ。
 どういう訳かこの航海にはあのおっさん以外の船員がいない。
 部屋が10個もあるのだから他の船員が元々いないなんて事はないだろうが。


 公式にこの船を使うのは半年後だと言っていたのにその日のうちに出発したから集まらなかったのだろうか。


 船そのものに魔物撃退機能が付いているらしいが、それはとても一人では扱いきれないものだとセレンさんは言う。


 俺たちが体を張って魔物からこの船を守る他ないのだ。


 俺、泳ぎとか苦手だから海に落ちないように気を付けよう。
 波も強いし潮の流れも早い。
 落ちたら戻ってこれなくなるかもしれない。


 いや、翼でも生やして飛んでくれば良いんだけど。
 翼を生やすところまでは出来ても飛ぶ、ってのがまだ俺出来ないんだよね。


 本来自分の体にない部位だからどう動かせば良いのかがイメージできない。こればっかりは血術みたいに教わる訳にもいかないし、慣れなのだろう。


 セレンさんやミラ、マリアさんが落ちる分には俺が何とか出来るから良い。
 腕を木みたいに変化させて伸ばすのは得意だ。


 腕を変化させるのは簡単なんだよな。
 木やら盾やら剣やら。
 やはりイメージのしやすさの問題なのだろう。


「そろそろですよ。優斗さんミラちゃんマリアさん、準備を」


 セレンさんが言い、前を見てみると――なるほど。
 これはやばいわ。


 波が、既に魔物だ。
 比喩でなく、波だと思っていたものが波打つ蛇のような魔物なのだ。


 これは簡単には行かないぞ。


 ……と思っていたのだが。




 実際は、セレンさん一人で事足りることだった。
 次々と打ち出される雷の弾に、成す術なく魔物たちが焼き焦げて行く。


 俺たちはそれを眺めているだけだった。


 今までにもたまにこういう光景はあったが。
 何度見ても圧巻だな。


「……セレン様は本当に人間なのですか?」
「……うん」


 初めてセレンさん無双を見るマリアさんは言葉を失っていた。絶句という言葉がぴったりだ。


「エルフ族でもここまで魔法を連発すれば魔力切れを起こしますよ。……ハイエルフでもどうか」


 実際は人間じゃなくて女神様だしね。
 こっちに来る時に、セレンさんは自分が足手纏いになる可能性を示唆していたがとんでもない。普通に普通以上の戦力になっている。


 彼女がいなければ話はもっとぐだついていただろう。
 竜王とコンタクトがとれたのもセレンさんのお陰だし。


 何か魔法を使ったのだろうけど、便利な魔法もあったものだ。


「ボクは今回何も出来ないね。泳げないし」
「お前も泳げないのか」
「浮くものがないからね」


 ミラはセレンさんの胸の辺りを見ながら言う。
 いやお前そんな事言ったら世の貧乳はみんな金槌ってことになるし、男はほとんど泳げないじゃないか。ただ単純にお前が泳げないだけだろう。


「浮き輪があれば泳げるもん」
「それは泳げると言わない……ところでマリアさんは泳げるんですか?」
「はい。わたしも浮くものには乏しいですが、多少は泳げますよ」


 マリアさんの場合は貧乳と言えるほど無い訳でもないけどね。
 ミラは貧だ。乏しく貧しい。悲しいことよ。


 ミラの肘がわき腹に入った。
 身長差があるのでわき腹と言ってもちょっと下の方で、腰骨辺りに当たったりするとめちゃくちゃ痛かったりする。


 ちなみに今のはちゃんとわき腹に刺さったので字面ほど痛くない。


 こんな事言いながらセレンさんが泳げなかったら笑うけどな。


 そういえば海に来ているのに水着回が無いじゃないか。
 なんて勿体ない時間を過ごしているのだろうか。


 アニメとかで唐突に水着回とか入ったりするけど、あれって誰かからの指示でやってんのかな。原作にない流れで無理やり入るやつとかもあるよね。
 おとなの事情というやつなのだろうか。


「優斗さん、おっきいのが来ます!」


 海に向かって雷弾を放ち続けていたセレンさんが叫んだ。
 海の方を見ると、なるほど。


 おっきいのが来てる。


 海蛇を超でっかくした感じ。
 この前のヒュドラよりよっぽど竜っぽい見た目だ。




「小僧!! もう避けられん!! 貴様らでどうにかしろよ!!」




 ドワーフのおっさんが操舵室から怒鳴りつけてきた。
 無責任すぎるぜおっさん。


 だが――まぁ良い。
 試したい事もあったし好都合だ。


 血術を教えて貰った時に、色々と思うことがあった。


 ヒュドラと戦った時に、体中の力が爆発したかのような感覚と共にあの巨体を貫いた光の柱。
 そして、エルランスが竜人との闘いの中で見せた飛ぶ斬撃。


 影から聖剣を取り出す。
 刻一刻と、巨大な海蛇との距離は詰まっている。


「そのまま突き進め、おっさん!! どうにかしてやるよ!!」


 体中の力を。エネルギーを、聖剣に。
 うまく行ってくれよ。


 頼むぜ。


 聖剣がぼう、と淡く光った。
 ヒュドラを貫いた、あの光と同じ色だ。


 いける――


 と思ったのと同時に、聖剣を振り抜いた。


 光が、海蛇を縦に両断した。


 そのまま海を割り。
 突き進み。
 水平線の彼方へと、光は飛んでいった。


 ざばぁ、と海が元へ戻ろうとする波に船が巻き込まれ、大きく揺れる。


「うぉぉおおおあああ」


 気持ち悪い。
 超揺れる。
 しかも体に力が入らない。


 今ので使い果たしてしまった感じだ。


 おぉぉ気持ち悪い。


 やばいやばい。
 力の入らない体が、船の揺れに耐えきれずに浮いた。
 そのまま海へ――


 と。
 ぎりぎりで腕を掴まれた。


 誰かと思えば、ドワーフのおっさんだった。


「……おっさん……」
「ドルーだ。覚えておけ、小僧」


 そのまま引っ張り上げられ、船頭に叩きつけられる。
 ……乱暴なおっさんだ。


「助かった。ありがとな、ドルーさん」
「…………ちっ。話がある。小娘どもを連れて操舵室へ来い。ツィード海峡はもう終わりだ」


 先ほどまで荒れ狂っていたのが嘘だったかのように、海は静かになっていた。

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