女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第30話 秘書と船探し

 何事もなくボーナスタイムは終わった。
 ふと我に返ったミラが「何してるんだボクは。馬鹿なのか」とか言い出して終わってしまった。


 世は無情である。
 こんな世界ぶち壊してやる。
 救ってなんてられるか。


 冗談は置いといて。
 冗談みたいな展開を置いといて。


 俺しか得しない世界は終わってしまったのだから、次やるべきはちゃんと話を進める事だろう。何の進展も無しにただイチャついてただけで終わったからな。


 進めると言っても、その後はほとんど何事もなく次の町へ到着したのだが。
 海沿いの町である。


「もしかして海渡るんですか?」
「渡りますよ。一週間程度ですが」


 船酔い大丈夫かなぁ俺。
 実は船に乗った事ないんだよね。
 遠出とかしなかったからなぁ。


 家族全員、人混みが苦手だったから観光地とか全く行かなかった。
 人混みが苦手とか言いつつ、今この町も例の如くかなり人口密度が高いんだけどな。嫌になるぜ全く。美人も多いからプラマイゼロでむしろプラスだが。


 海沿いだからなのか、荷物を持って移動している人が多い気がする。
 常人だったらとても持てないような大きさの木箱を軽々と担いで移動する牛の獣人とか、あれ人の上に落としたら即死だろ。気を付けてくれよ本当。


 積み上げられた樽の上で酒をかっくらっているリザードマンだとか、何やら取引をしているおっさん達だとか、海の町って感じはひしひしと感じる。


 潮の香りとか結構好きなんだよな。
 ザ・自然って感じで。同じような意味で森も好きだ。


「私とミラちゃんはここで食料を調達してくるので、優斗さんとマリアさんは乗る船の手配をお願いします」


 乗る船の手配ってなんだよ俺出来ないよ……と思ったがマリアさんが出来るのかな。
 ともかく、俺たちは二手に別れた。






「マリアさん船の手配とかできる?」
「もちろんできますよ。ここから竜の海へ向かうならツィード海峡を通らないといけないので、手配は少し難しいでしょうけど」
「ツィード海峡?」


 初めて聞くワードだ。
 無知を晒した俺を笑うなんて事もなく、マリアさんは説明してくれる。


「船乗りの間では有名な――と言うよりは悪名高い海域です。数々の船が難破し、行方不明になっているのでそこを通る船と言うのも限られてます」
「へぇ……そこを迂回してく事は出来ないのか」
「迂回するルートも無い訳じゃないですが、年単位で時間がかかりますからね」


 そりゃ無しだな。
 流石にそこまで悠長に構えてられないだろう。


 という訳で道行く人々に尋ねて、ツィード海峡を通る船の乗員の居場所を掴む。


 どうやらこの町から出る船でツィード海峡を渡って俺たちの目的地へ行く船は一つしかないらしい。その唯一の船の船長が住んでいるという住所に来たのだが……


 本当にこんなところに人が住めるのか?


 教わった住所は町の外れだった。
 外れただけでこうも違うのか。


 一言で分かりやすく表現すれば、そこはスラム街だった。
 敢えて表現は避けさせて欲しい。
 人間の汚い部分が凝縮されている。


 そんな場所だった。


 漂う異臭に眉を顰めつつ、船長が住んでいると思われる家らしきものに辿り着いた。


 俺から言わせて貰えればゴミで固めた山だが。
 今にも崩れ落ちそうで怖い。業者を呼んで数日単位で片付けるようなレベルだ。


「ごめんくださーい」


 ともかくコンタクトをとらないと始まらない。













 ドワーフ。
 と、言う種族らしい。


 船長は茶色の口ひげをたっぷり蓄えた小さなおっさんだった。


 そして俺たちの願いを聞くが早いか、


「断る」


 と言い放った。


あそこ・・・を通る船に乗りたいって事ぁお前さんら竜の海が目標だろう。やめておけ。死の森へ辿り着いたところでどうせ死ぬんだからな」


 おっさんは葉巻に火をつけて、長く煙を吐いた。
 溜め息のようにも見えた。


「お前さんらのような若者を何人も乗せて死の森まで向かった。ツィード海峡なんざ儂にとっちゃぁ敵じゃねぇ。だがな。みすみす死にに行く奴を乗せる程儂も暇じゃねぇ」
「随分と暇そうに見えるがな」
「次の航海は半年後だ。荷物をいっぱいに積んで行く。お前さんらの乗る隙間なんざ無ぇよ。死ぬんなら儂の目の届かないところで死んでくれ。時間はかかるが死の森へ続く大陸に上陸する船は無い訳じゃない」


 頑固な親父だなこいつ。
 どうやって説得しようか。


「金なら払うぞ」
「金の問題じゃねぇ。見えないだろうがな、儂はこれでも高給取りなんだ。金には困ってない」


 こんなところで躓いている場合じゃないってのに。


「確かに見えないな。だが、俺たちもあんたの思ってるよかずっと強いんだぜ。死の森だかなんだか知らないがその程度の障害で困るような腕じゃない」
「はっ。今までそう言わなかった奴の方が少ないな」


 先人たちよ。恨むぜ。あんたらのせいでこの頑固おやじが出来上がってんだ。
 どうしたら説得できるのか。


 単純に強さを見せつけるだけじゃあ納得してくれなさそうなんだよな。
 見せつけるだけならその辺の瓦礫を振っ飛ばせば済む事なんだが。


 どうするかなーなんて考えていると、マリアさんが動いた。
 動いたと言っても、その動きは見えなかったのだが。


 視点がひっくり返る。
 二回、三回、四回、と。


 首を失った体が目に入った。
 誰の?
 俺の体だ。


「な――!!」


 ドワーフのおっさんの悲鳴が聞こえる頃には、俺は元に戻っていた。


 心臓がばくばくいってる。要するに生きている。
 ……生きている。


「すみませんユウト様。これより有効な手が思いつかなかったので」


 マリアさんが、呆然としている俺に小声で耳打ちした。
 いや何されたかすら分かってないんだけど俺。


「この通り。この方は不死身です。そしてわたしも不死身です。死の森で死ぬ事はありません」


 マリアさんは自らの左腕を切り落とした。
 右腕を剣に変化させて。


 あれで俺の首も切ったのか。


 マリアさんの腕も、瞬く間に生えてくる。再生する。


 派手に飛び散った血は全て蒸発していた。
 落ちた腕も、残った体も。


「…………あんたら吸血鬼か」
「はい。王の命で竜の海へ向かう事になっています」
「吸血鬼の、王か」
「はい」


 吸血鬼の王という単語がどれくらいの効力を発揮したのかは分からない。或いは王という部分関係なしに、俺たちが不死身なのを見てそうしたのかは分からない。


 分からないが、ドワーフのおっさんは首を縦に振った。


「分かった。良いだろう。お前さんらを死の森がある大陸まで連れていってやる」















「吸血鬼の王は、特にドワーフ族にとっては恐怖の象徴なんです」


 ドワーフのおっさんの家を去った後、セレンさんたちとの合流地点に行くまでにマリアさんが話してくれた。


「その昔、今わたしが仕えている王の先代の王ですが、エルフ族との抗争の際にドワーフ族を説滅寸前まで追い込んでいるんです。ドワーフ族はエルフ族の味方をしていましたから。
 彼らの作る武器や移動に用いる道具は優れています。戦争をするとなれば、彼らを敵に回すだけでもかなりの痛手となります」


 そうだったのか。
 だから俺たちが吸血鬼だと分かった途端に首を縦に振ったのか。


 ……あんだけ頑固だったのにそれだけであそこまで変わるものなのだろうか。
 過去に滅ぼされかけているとは言え、当時と王が違う事くらいは知っているだろうし、過去は過去だ。恐怖の象徴として語り継がれていてもそれだけで捻じ曲げるほどあのおっさんは物分かりの良い奴だったのだろうか。


 ……まぁ良いや。
 とりあえず何とかなったんだし。


 あのおっさんにも色々あるんだろう。
 とりあえずは目的を達成できた事を喜ぼうじゃないか。


 手放しでな。

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