女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第27話 王の秘書

「本当に大丈夫? 噛みついたりしないの、その人」
「大丈夫大丈夫。噛みついたりしないよ……な?」
「余ほどの吸血鬼にもなれば10年は血を摂取しなくとも生きていられる。おぬしも一月程度なら余裕だろう」


 10年て。
 改めてこいつとのスケールの差を思い知らされるな。


 俺がミリ単位ならこいつはメートルだ。絶対値は同じでも1000倍違う。やっぱり正面から一騎打ちしなくて良かったな。こいつの口ぶりだと殺す気はなかったようだが、あそこで負けてしまっていたら死んだも同然だ。


 俺とレオルの一騎打ちが終わった後。
 ミラは自分で戻ってきた。
 逃げろと言ったのに、遠くから様子を見ていたようだ。どうやらレオルの奴は気付いていたようだが。もし俺が負けて殺されてたらどうすんだよ。俺がかっこつけて逃がしたのが台無しじゃないか。


 ちなみに今、ミラは俺の後ろにぴったりくっついている。
 正面にはレオルが立っている。


 何をしているかと言うと、レオルが破壊して殺してしまった竜車の竜の代わりだ。どうやってか知らないが秘書とやらに連絡をとって連れてこさせている途中らしい。


「もうしばらくで到着するだろう。余が壊してしまった車は創れば問題ないな」


 と言って、レオルが手を振りかざすと先ほど破壊された竜車、そっくりそのままの姿のものが現れた。
 ……俺が精々手や足を変化させられるだけなのにこいつはこんなものまで作れるのか。そういえば俺を吸血鬼にした女も鎌を作ってたな。


「時に、ユウトよ」
「なんだ」
「おぬし、この間ラリアと接触しただろう」


 ラリア。
 ラリア=スカーレットか。
 一ヵ月という一瞬・・を修行と言う名のしごきで過ごした俺の師匠と言っても良いかもしれない、あのロリババアの事か。


「この間会ったよ。それがどうかしたのか」
「いや。どうもしないが、元気だっただろうかと思ってな」
「……あんたら喧嘩してるんじゃないのか?」
「あやつを吸血鬼にした時に色々あってな」
「ふぅん」


 あ。
 そういえば、ラリアを呼び出せる変な種があるじゃん。
 こいつと戦う時に呼んでれば助力を願えたかもしれないのに……
 まぁ忘れてたもんは仕方がないか。今更呼んでも意味ないし。


 そもそもラリアと共闘したらこいつを倒せるのかと聞かれればそれは首を捻るしかない。てか多分無理。ラリアに俺が加わって勝てるのならとっくにこいつらの諍いは終わっているだろう。


「お、来たぞ」


 と、レオルが空を指さす。
 ……何もないんだが。


 こいつには見えてるのだろうか。
 だとしたら視力から違い過ぎるだろう。


 俺も吸血鬼化の際にちょっと目が良くなってるんだけどさ。あと夜目が効くようになった。真っ暗闇でも昼間のように認識することができる。


 明るい、とはまた違った感覚なんだけどこれっばかりは説明しにくいな。


 レオルの指さす方向をじっと見ていると、やがて俺にも点みたいなのがうっすらと見え始めた。空を飛んでいる。
 ……あれも吸血鬼なのだろうか。


 そうだとしたら王と馴れ馴れしくしてる俺に敵意剥き出しで襲い掛かってきたりしないだろうな。
 レオルが止めてくれるよな?
 ……止めろよ、まじで。


「まどろっこしいな。どれ」


 見え始めた点の人に対しひどい事を言ったレオルは、自分の影に手を突っ込んだ。
 何してんだと思ったのも束の間、ずるりと影から引っ張り出したのは眼鏡をかけたいかにもな感じの出来る風のスレンダーなお姉さんだった。ちなみに黒髪。シンパシー感じるなぁ。


「王様。このような力技はおやめくださいと何度も言ったはずですが。かっこつけたいのは辛うじて理解しますが、わざわざ自分の力を削ってまでやる程の事ではないでしょう」
「ははは、そうカタい事を言うな。余からすればこの程度の事造作もない事よ。影を通して空間を繋げるなんて事、余とラリアくらいしか出来ないだろうがな」


 影を通して空間を繋げるって何だよ。
 字面から中身が全く想像できない。


「申し遅れました。王様から話は伺ってます。ユウト様とミラ様ですね。この度はうちの者がご迷惑をおかけしたようで、本当に申し訳ございません。
 わたしは――」
「自己紹介はいらん。早くトカゲを出してやれ」


 名乗ろうとしたのをレオルが遮る。
 余計な事しやがって。美人なお姉さんの名前知っとく事に損はないんだぞ。


「はぁ……分かりました。後日お詫びの品は別途にてお送りします。今回は急の事なので代わりの迅竜を用意する事しかできませんでしたが」


 言って、秘書のお姉さんは影に手を突っ込んだ。
 さっきレオルがやっていたのと全く同じ動作だ。


 そして、ずるりと。


 5メートルくらいはありそうな、水色の鱗を持つトカゲを引っ張り出した。
 うわぉ見たより力持ちなんだねお姉さん。


 吸血鬼の王の秘書が吸血鬼じゃない訳もないか。
 というか今のは、影を通して空間を繋げたという現象ではないのか?


「今のは単純に影の中に収納していただけだ。生き物を影に入れる事の出来る吸血鬼は少ないがな。かく言う余も、生き物を影の中に封じ込める事はできん」


 何がどう違うのかよく分からないが……
 こいつにも出来ない事とかあるんだな。
 出来ない事が出来るからこのお姉さんが秘書なのだろうか。


 ともかく、竜車はレオルが作ってくれたしそれを引くトカゲもこのお姉さんが連れてきてくれたしで、依頼を続行することは出来るようになった訳だが……


 なんかこの後に普通に依頼こなしてもなんだかなぁって感じだよな。


 いや、やるけどさ。
 金稼ぎの為だしさ。



















「……それで、吸血鬼の王が仲間になったんですか!?」


 セレンさんに今回の事の顛末を話すと、こんな感じでリアクションをしてくれた。やっぱミラだとリアクションが薄いんだよな。


「俺の方はともかく、セレンさんの方はどうなりました? 竜王の件は」
「ともかく、で置いといて良い話でもない気がしますけど……一応、会ってくれるというところまでなんとかこぎつけました」
「その言い方だと何か条件が付いてそうだね」


 と、ミラ。
 なんとかこぎつけたという事は相手方は渋っていたという事だろう。吸血鬼の王があんなんだったから、竜王も案外ちょろいんじゃないかと思ってたがそうでもなさそうだな。


「はい。実は……四人で来いと言われまして」
「……なんで四人なんですか?」
「聞いても教えてくれなかったんです……」


 四人か……
 今この場にいるのは三人。
 一人連れてくるだけならすぐ連れてこれそうな奴が何人か思い浮かぶが、出来ればなるべく頼りたくない奴らばっかだ。


 具体的にはラリア、エルランス、レオルの三名だ。
 ラリアかレオルを連れていけば大抵の荒事は解決しそうだが、荒事になると決めつけるのも良くない。


 エルランスには《真実の魔眼》がある。


 交渉事にはもってこいの能力だ。
 強さも申し分ない。


 けどなぁ。
 あいつ今田舎に行って、許嫁と仲良くやってるんだよな。
 それを呼び出すような事は出来るだけしたくない。


 もちろん切羽詰まれば――呼ぶしかない状況になれば呼ばざるを得ないが。


 消去法で行くとラリアになりそうだが……こんな事で呼び出したらあいつキレそうなんだよなぁ。つい最近吸血鬼の王と対峙してて気まずいってのもあるし。


 あいつらの過去に何があったのか詮索まではしないが、ああしてまで閉じこもる程の何かはあったのだろう。
 まさか光のハイエルフのように口説いたらブチ切れられたとかじゃああるまいし。


 ……あるまいよな?
 まさかそんなくだらない理由だったらちょっと俺が気を使った意味とか皆無だよな。流石にないだろう。


「二人とも呼びたい人が特にいないなら、ボクに心当たりがあるんだけど、その人でも良いかな?」


 と言って、三日ほど後に現れたミラの心当たりは。




「お久しぶりです、ユウト様。ミラ様。初めましてセレン様。あの時は名乗れませんでしたので改めて。
 わたしはマリア=スカーレットと申します。以後、よろしくお願いします」


 吸血鬼の王の秘書、マリア=スカーレットだった。


 スカーレットってなんか聞いたことある気がするんだけど。
 ……ロリババアの顔がちらりと浮かんだ。

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