女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第25話 湯たんぽ

 竜車に揺られながら、俺は外の景色を眺めていた。
 流れ行く木々。人の手が入っていない自然というのは、ただそこに在るだけで美しい。何事も自然体が一番なのだ。


 そういえばセレンさんって化粧とかしてるのかな。


 化粧って化けるによそおうと書いて化粧だけど、あれはあれで女性の魅力を引き出すという点ではありだと思う。
 たまに文字通り化けて装う人がいるけど。流石にあそこまでいくとドン引きだぜ。詐欺だぜ。化けて欺いている。
 化欺ばぎと言っても良い。
 なんかかっけぇな。
 漫画のタイトルなんかでありそう。


 セレンさんが化粧とかしてるの見たことないけど、隠れて何かやってたりするのかな。
 やってるんだろうなぁ。女神様補正で常に美しくあるとかな可能性もあるけど、多分何かやってるんだろう。いや知らないよ。俺、男だし。化粧水とか何のためにあるのかもよく分かってないレベルだし。


 実際あれなんのためにあるの?
 化粧って水だと簡単には落ちないの? 水で簡単に落ちたら涙とか汗でも落ちちゃうのか。でも夏場とか結構化粧崩れてお化けみたいになってる人見ない?


 どうでも良いや。


 セレンさんは間違ってもそんな事にならないだろうし。
 だって女神だぜ。可愛さを例える時に天使とか使ったりするけど、そんなレベルじゃなく本物の女神なんだぜ。


 そら次元が違うわな。


 まぁ、そんな可愛さの権化ことセレンさんは今ここにいない訳だが。


「なんでミラと依頼に出てんだろ俺」
「それはこっちの台詞。セレンとならまだしも……セレンとなら良くても、ユウトととは考えてもなかったし考えたくもなかった」


 そこまで言うか。
 望みは戦争か。
 この密室でどっちが強いか分かってんのかこいつ。


「ここでボクを押し倒すだけの勇気があるならセレンも二人きりで送り出さないだろうね」
「…………」


 セレンさんにも腰抜けだと思われてるのか。
 悲しいなぁ。
 ここで押し倒して名誉挽回といこうか。
 むしろ汚名を挽回してる気がするが。返上させてくれよ。


 名誉挽回と汚名返上って何故かごっちゃにして考えられてるよな。四文字熟語って事くらいしかあってないのに。
 弱肉強食と焼肉定食くらい違うと思うんだけど。
 〇肉〇食で焼肉定食になるのってもうかなり昔のネタだと思うんだけど、あれ誰がやり始めたんだろうな。気付いた奴は天才だと思う。普通気付かないって。


「どうでも良いこと考えてたら腹減ってきたなぁ」
「本当にどうでも良い事を考えてたんだろうね。ユウトのせいでボクまでお腹が減ってきた」


 本当にどうでも良い事を考えてたんだけどさ。
 それもこれもお前があまりに自分から話さないせいだぞ。
 沈黙は金なんて言葉があるが俺の前では沈黙は禁だ。黙っているように見えてあんな事やこんな事を想像したり妄想したりするんだぜ。


「イヤらしい目で見ないでくれるかな。汚らわしい」
「お前俺相手なら何を言っても許されると思っているだろう」


 俺だって傷つくんだ。
 心の傷も不死身パワーで治ると思ったら大間違いだ。ガラスのハートなんだよ。


「ガラスなら溶かせば別の形に再生できるじゃないか」
「お前俺のハートに何する気だ!?」
「ボクに惚れさせるのさ。あっつあつだよ」
「クールに言う台詞じゃないぞそれ」


 冷たいんだか熱いんだか。


「ボクに惚れると火傷するよ」
「火傷しても治るしなぁ」
「ボクに惚れると低温火傷するよ」
「湯たんぽかお前は。抱きしめるぞ」


 ぬっくぬくじゃないか。
 でも確かにこいつ、抱きしめたら暖かそうなんだよなぁ。
 今までそんな素振りは見せなかったけれど、今ちょっと肌寒いしな。季節で言えば秋と冬の間くらい。どっちかと言えば秋よりかなって感じの。


「その気持ち悪い手の動きを今すぐやめて、ボクから離れろ。それ以上近付けば刺す」
「俺を傷つける事にもっと躊躇いを持て」
「どうせ治るし」
「ひでぇ!」
「ナイフを刺しっぱなしにしてたらどういう風に治るんだろう」
「俺で試そうとするな。俺以外でも試すな。疑問に思うだけで留めておけ」


 ちなみに、ナイフとか刺しっぱになってると治りながら抜ける。中からじわじわと治ってくイメ―ジ。伝わったかな?


「セレンはどう思うんだろう。ボクとこの豚が自分の知らないところでイチャイチャしてると知ったら。自分は頑張って仲間を勧誘してるのに、色欲に負けた豚がか弱いボクを襲おうとしてるのを知ったら」
「豚呼ばわりをまずやめろ。お前は敵だ」
「そうだね。豚に失礼だね。何にしようか。塵とか?」


 ありがちな罵倒の仕方だが、ここまで完全に無表情で言い切られると流石に心に刺さるな。


「お前大の大人がガチ泣きしてるところを見たいのか?」
「ドン引きするボクを見たいの?」


 それは割りと見る気がする。


「そもそもユウトは自分が大人だと思ってるの?」
「いや……そう言われるとそうでもないと言わざるを得ないけど」
「ボクみたいに幼気な少女を虐めて喜ぶような奴を大人とは呼ばない」
「俺を虐めて愉悦を感じている奴を少女とは呼ばない」
「じゃあ幼女?」


 流石に無理があるだろう。確かに属性はロリっぽいけど。幼女枠はちゃんとした幼女で埋めて欲しい。こいつはなんちゃってロリだ。現代に当てはめれば中学生くらいだ。高校生から見ればギリギリ許容範囲に入っている。入ってるよね?


「ボクを性的な目で見ている事は誤魔化せないよ」
「まぁ否定はしない」
「えぇ……。そこは否定してくれないと、ボクの中でのユウトの評価がただのきもい男になるよ」
「むしろ今の評価はただのきもい男じゃないんだなというところに驚きを禁じ得ない」
「かなりきもい男だ」
「今の方が厳しい評価じゃねぇか」


 性的な目で見まくってやろう。
 ほれほれ。


「ほれほれと言いつつ、ここでボクが急に脱ぎ始めたら絶対目を逸らすだろう」
「紳士として当然だろう」
「脱ぎっ」
「!?」


 当然口で言っただけで脱いでない。ちなみにガン見した。


「とんだ紳士もいたものだね」
「むしろ見ないというのは失礼に値しないか? 今のタイミングで脱ぐという事は俺に見て欲しいという事だろうそうだろう。むしろそうでしかありえない」
「殴るよ」
「はい」


 引き際は潔く。
 俺のポリシーである。


「それにしても」
「…………」


 それにしても、と話題を変えようとするのにミラは無言で先を促してくれた。
 良かった。
 これ以上引っ張られても俺が不利になるだけだからな。


「それにしても、セレンさんは俺たちがいない間に『竜王』と会う予定アポを取るとか言ってたけど、何か当てがあんのかな」
「ボクは知らないけど、セレンの事だから何かあるんでしょ」
「えらく信用してるんだな」
「色々と話を聞いたからね。ユウトが知らないだけで、ボクとセレンはラブラブだよ」
「なんだと……」


 百合ワールドが展開されていたというのか。
 それに俺が気付かなかっただと……?
 一生の不覚だぜ……これからは全て余すところなく目撃するとしよう。風呂場とかも含めてな。


「それは犯罪だと思うけど」
「愛の前に立ち塞がる障害など力づくで――力を尽くして取り除いてやるさ」
「決め台詞みたいな事を決め顔で言わないで。前の文脈も足すとただの屑野郎だからね」
「素直にかっこいいと言えば良いのに」
「はん」
「鼻で笑われた!」


 すげぇショックだ。
 無表情青髪美少女に鼻で笑われた……
 あれ、ご褒美じゃね? 前世でどんな徳を積んだらこんな事を体験できるのだろうか。少なくとも日本にいたままじゃ考えられない事だ。


 罵られてると思っていた今までのあれこれも実はご褒美だったと考えれば……俺はなんという大罪を犯してしまっていたのだろう。
 今まで罵りを罵りとして素直に受け取ってしまっていた。
 ご褒美が目の前を素通りしているのに気が付かなかったのだ。


「俺は何のために生まれてきたんだ……」
「少なくともボクから罵倒を受けるためではないと思うけど……」


 落ち込んだら腹減ってきた。
 というか元々腹は減ってたんだ。
 焼鯖定食食いてぇ……


「焼鯖定食とやらはないけど、セレンが持たせてくれたお弁当ならある。ユウトにはあげないけど」
「そうか。ならば奪い取るまでよ」


 ついでにあんなところやこんなところを触りまくってタッチしてしまっても事故という事で良いだろう。不可避のうれしい事故だ。


「心の声ダダ漏れだよ。冗談冗談、あげないなんて事はない……ほら、あーん」
「…………」
「あーん」


 傍らに置いてあった鞄から弁当箱を取り出したミラは、箱を空けて中に入っていたウインナーを爪楊枝(らしきもの。爪楊枝で良いや)で刺して俺に向かって突き出していた。


 ……何が目的だこいつ。
 金か? 美人局なのか? 美人というよりは美少女だが……
 何を企んでいる。何が裏にある。


「……早くしないとボクの腕が疲れて、せっかくのタコさんウインナーが地に落ちるわけだけど食べ物を粗末にする気?」


 タコさんウインナーが犠牲になるのは忍びない……
 というかこれタコなんだな。なんか切ってあるのは目に入ったが、モンスターにしか見えねぇよ。セレンさんって料理は得意だったはずなんだが……


 まぁ良いや。


 タコさんが落ちてしまうのは勿体ないので、こいつが考えているであろう裏は敢えて意識せずに食らってやろう。


 ぱくっと。
 うん、普通にウインナー。


「おいしい?」


 少し首を傾げて聞いてくるミラ。


「あぁ、普通にうま――」


 い、と言い切る事は出来なかった。
 がたん、と。
 乗っていた竜車が急に大きく揺れたからだ。


 揺れたなんてもんじゃ言い足りない。
 ひっくり返った。
 比喩でなく、丸っとひっくり返った。


  弁当箱がひっくり返る。
 ミラが、俺がひっくり返る。


「ぐっ――」


 咄嗟にミラの体を覆った。
 俺が吸血鬼のスキルにもう少し慣れていれば影で自分たちの体を覆うくらいの事は出来たのかもしれないが、残念ながらそこまで俺は熟練していない。
 竜車は砕け、砕けた破片が背中やわき腹に突き刺さる。


 地面に――草原に投げ出され、ごろごろと転がる。


 口の中に土が入った。
 うえ、まずい。


 タコさんウインナー、あれ極上の味じゃないか。この土に比べたら。


「いってぇ……ミラ、無事か?」
「お陰様で。……これから無事に終わるかは分からないけど」


 腕の中でミラはむず痒そうに身動きをとった。
 かなりきつく抱きしめていたようだ。さっき湯たんぽがどうこう言ったが、実際にちょっと暖かい。


「これから……?」


 ミラは、先ほどからある一点を見ていた。
 それに気付くのは少し遅れたが、俺もそちらを見る。


 そして、見た。


 そいつを。


 その姿を。
 その男を。






「おぬしが新たな我が従僕、ユウトとやらか。――さぁ、還って来るのだ。余の元へ。この吸血鬼の王の元へ下るのだ」


 灰色の髪。
 色を失ってそうなったとしか思えない、くすんだ灰色。
 顔色も同じような灰色だ。まるで死人のような。


 死んでいるのに、生きているような。
 不死身の吸血鬼。


 その王が、今ここに来た。

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