女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第21話 キザな奴

 新たな町に到着したのは、三日ほど竜車に揺られた後だった。
 この前の街と比べると随分と小規模だ。


 賑わいは負けず劣らずだが。
 この世界って基本的に人口密度高いよなぁ。
 祭り騒ぎ……とまではいかないが、常に前夜祭って感じ。


 まぁ、町と町がこれだけ離れてて町以外には魔物が普通に出る、なんて世界観じゃ当たり前なのかもしれないが。
 森の奥に住んで、やってきた魔物を撃退しながら暮らせるのはそれこそ吸血鬼くらいだ。


 町の一歩外は魔物の住処……とまではいかないが、安全圏そのものが狭いのも人口密度の高さの理由の一つだろう。元の世界がイージーモードに思えるぜ。


 セレンさんとミラが宿確保を、俺が先にギルドへ向かって目ぼしい依頼を探す運びとなり、別れる。


 その辺を歩いてる人に道を尋ねつつギルドへ向かっていると、一際人が集まっている場所が目に入った。……なんだ? 人混みを掻き分けつつ何やら騒ぎの中央へ向かって行くと、二人の男が喧嘩をしていた。


 それを見た俺の感想は、あちゃーって感じである。
 それなりによくある事だ。
 そりゃあこれだけ人が集まれば喧嘩の一つや二つ、三つや四つは日常的に起こるというものだ。それが罵り合いや殴り合いで済むのならまだしも、剣やら槍やらの武器が出てくるとちょっとレアだが。


 今回は武器が出ているパターンだ。
 何があったらこんな町のど真ん中で殺し合いになるんだ。
 見れば二人とも酔っ払ってるみたいだった。そんなんで武器持ってたら本当に死人が出かねないぞ。それが当人同士なら勝手にやってろという話だが、こうして野次馬しにきている人たちだったら……いや、うん。野次馬しに来てる奴らも「殺れー!」とか「殺せー!」とか言ってるしどうでも良いや。


 俺は巻き込まれない内に離れよう。
 割って入って止める程俺も暇じゃない。とばっちり喰らうのは嫌だし。治るって言っても痛いのは嫌だし。


 一人は角刈りで、かなりガタイが良い。武器は槍。
 もう一人はオールバックで、槍の男に比べると少し細めの印象を受けるが、剣を扱う分には支障のないレベルだ。構えが板についている。ような気がする。


 二人とも足元が覚束ないくらい酔っ払っているのに目は据わっている。あーあありゃ本気だ。
 この世界では殺人の罪が驚くほど軽い。理由があれば無罪の場合もある。こういう場合どうなるか知らないが、案外罰金刑くらいで済んでしまう可能性もある。
 そういうところが元いた世界との倫理観の差というか。


 この世界では人を殺した事のない一流冒険者なんていないと言われるくらいだからな。場合によっては同じ依頼を受けてバッティングすると取り合いになって殺し合いになるなんて珍しくもない話らしいし。


 俺たちはそれなりの難易度の依頼しか受けないため、そういう事はまだ一度もないが……


 つまり何が言いたいのかと言うと、ここで手を出すような奴はお人好しでなくただの無粋な奴だという事だ。
 だからさっさと離れたいのだが。どういう訳か足は動かない。
 ……俺ってただの無粋な奴なのだろうか。


 二人が同時に動き出し、俺の足も自然に――動く前に。


 俺よりも早く、動いた影があった。


 赤髪の長髪。
 銀色の鎧を纏っている。


 そんな男が、二人の武器を掴んで受け止めてもぎ取り、角刈りの槍使いは顎先を。オールバックの剣使いは腹を殴って、それぞれ一撃で気絶させた。


 ……男、か?
 髪長いし中世的なイケメンで一瞬判断が付かなかったが男だ。


 新たな出会いはなかった。


 ともかく、いきなり現れたイケメンが殺気だっていた厳つい男二人組をワンパンでのしてしまうと言う光景は野次馬に来ていた人たち的にも満足がいくものだったらしく、しばらくすると散っていった。


 俺はと言うと。


 そのイケメンに捕まっていた。


「君が動こうとしたのが見えたから僕も躊躇いなく飛び出せた。礼を言うよ」


 なんて感じで。
 俺が動こうとしたのを見てから動いて俺より速かったのか。
 先ほどの動きを見ても今の言動からしても、只者じゃないなこいつ。見た目は……なんだ? 騎士ってとこか?


「僕は護廷騎士のエルランスと言う。君の名を聞いても?」
「ユウトだ。ただの冒険者だよ」


 護廷騎士ってなんだよと聞こうと思ったが、俺は正直早くギルドへ向かいたいので名乗るだけ名乗って立ち去ろうとする。
 と、肩に手を置かれて止められた。
 さっきもこの止め方だったんだよな。
 イケメンじゃなかったら通報されて終わりだぜ、お前。


「待ってくれ。……えぇと、お茶でもしないか?」
「悪い、俺そういう趣味ないんだ」
「違う違う違う! 僕だってそういうんじゃない! そもそも婚約者だっている! 素敵な女性だ!」


 なんなら写真も見せようか!? とまで食い下がってくるイケメン……もといエルランス。そんなに必死で否定すんなよ。マジなのかと思っちゃうだろ。
 それにしても婚約者とかいるのか。
 これだからボンボンは。
 いや、こいつがボンボンなのか知らないけどさ。もしかしたら貧しい村の幼馴染とかと子どもの時に『大きくなったら結婚しようね』程度なのかもしれないけどさ。
 もう見た目のイメージだよな。
 絶対こいつ金持ってる。


「もちろん代金は僕が払おう。……実は君に、ちょっとした頼み事があってね」
「頼み事? さっき会ったばかりの俺にか?」
「あぁ。吸血鬼・・・の君に頼みたい事がある」
「…………」


 今、なんて言った、こいつ。
 俺の事を吸血鬼だと言ったのか?
 少なくとも見た目だけで分かるようなものではないと思うが……
 セレンさんくらいになると見ただけで分かるらしいが、こいつがそのレベルに達しているという事なのだろうか。
 セレンさんとミラ、この前のロリババアくらいしか俺の吸血鬼化を知っている人間はいないはずである。


「……分かったよ。話くらいは聞いてやる」


 少しだけこいつに興味が湧いてきた。

















「《魔眼》ねぇ」


 俺を吸血鬼だと看破した理由を、エルランスは魔眼のお陰だと言った。
 ちなみにお茶しようと言われて入った店はやたらと高そうな個室制のところだった。
 マジでこいつそっちの人じゃないよな……いざとなったらこの程度の個室くらいじゃ個室としての機能を果たさないだろうけど。


「そう。色々な種類があるが、僕のは《真実の魔眼》というものでね。欺こうとしている者の真実を見抜く事が出来る」
「へーぇ」


 便利なもんだ。
 そんなのがあったなんて知らなかったな。
 帰ったらセレンさんに聞いてみるか。


 欺こうとしている者の真実、ね。
 俺が吸血鬼である事を隠そうとしているという事か。
 別に意識してそうしようと思った事はないが、確かに何人にもバレると厄介っちゃあ厄介だからな。この世界でも吸血鬼というのは基本的に《悪》の存在だし。


「で、俺の事を吸血鬼だという事を見抜いたお前はなんで俺に声をかけたんだ?」
「……単刀直入に言おう。君には仕事を手伝って欲しいんだ。出来る限り強い者に手伝ってもらいたかった」
「別に俺は強くはないけど」
「《真実の魔眼》はそうは言っていない。君は自分の強さを隠そうとしている」


 ……そうだろうか。
 吸血鬼の件はどこか納得もいったが、『強さを隠す』という事に関しては心当たりがほとんどない。案外真実の魔眼とやらもしょぼいんじゃないか。


「……まぁ、細かくは聞かないさ。色々事情があるんだろう。だが、隠さねばならぬ程の実力があるのは確実だ。それに、僕が見ていた限り君はかなりのお人好しだろう」
「…………」


 否定はしない。
 できないが。


 お前が言えた事じゃないだろうと言いたい。
 結局あの時俺は何もしてないからな。


「俺が強いのが事実だとして、俺がお人好しなのが事実だとして、本当に俺の助けが必要なのか? 俺の動きを見てから動いて俺より速く喧嘩を止めたんだから、お前だってそれなりに強いんだろう」
「うん。まぁ、それなりにね」


 否定しないのかよ。
 真実の魔眼とか持ってるせいで馬鹿正直なのだろうか。
 それともただの馬鹿なのだろうか。


「だから以前その任務を一人でこなそうとしたんだけど、駄目だった。こてんぱんにやられたよ」
「で、協力者を探してた訳か」


 こいつがこてんぱんにやられる相手に俺が加勢したところでどうにかなるとはあまり思えないが。そもそもその『相手』が何なのかも聞いてないんだよな。


「詳細は聞くだけ聞いてやる。その任務ってのはどんな魔物の討伐なんだ?」
「……魔物じゃない。竜だ。そして人でもある。竜人って、聞いた事あるかい?」

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