女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第18話 逃走辛勝

「…………分かった。手を引こう」


 戻ってきた斎藤は、俺が手に持っていた大量の石を見てそう言った。
 先ほどの泥爆弾の件から、俺がこれをどう使うかすぐに察しがついたのだろう。最初からこうすれば良かったのだ。相手がただの人間なら、ドラゴンのように硬い鱗を持っていないのならば、拳や聖剣で攻撃することに拘る必要はない。


「駄目だ。信用ならない。お前はここで――」
「殺す、かい?」


 斎藤は俺の言葉を横取りした。


「凄いよね君。つい最近まで日本にいたんだろう。争いなんて微塵もない、あの平和な国に。そんなのでよく、人に向かって殺すなんて言えるものだ」
「はったりだと思ってるのか?」
「いや」


 すぐに俺の言葉を否定する斎藤。


「君は本当に人を殺す。そういう目をした奴は、今まで何人も見てきたけどその中でもずば抜けてる」
「……仮にお前の言う事が本当だとして、それで何故見逃して貰えると思った?」
「死にたくないからね。抗わせてもらうよ、精々。こうして命だけは助けてくれと命乞いをするのさ。オレは死にたくない」


 抜け抜けと。
 こうも白々しく、嘯ける人間がいるのか。
 平和な国に、こんな奴がいたのか。


「命だけは助けてください。お願いします。なんでもしますから」


 にやにやと。
 先ほどからずっと、こいつは笑っている。
 何を考えている。
 何を考えさせようとしている。


 何が狙いだ?


「オレを逃がしてくれれば、これからの君たちの命は保障しよう。緑崎 優斗も、そこの女の子も、女神も。絶対に殺さないと誓おう」


 何かを――狙っている。


なるほど・・・・そこか・・・


 斎藤は――俺を見ていなかった。
 見ていたのは、ミラ。
 ミラの、視線。






 セレンさんの場所がバレた。






 斎藤が動くのと、俺がそうした・・・・のは同時だった。


 俺の腕が奴の腹を貫く。


「ごぶっ……」


 斎藤が血を吐き出した。
 大量の血を。


 そして、驚愕に見開いた目で俺を見ている。


 俺は――俺の左腕は、木のような何かに変化していた。
 伸びたその先端が斎藤を貫いたのだ。


「は、は。変化まで出来るのか。いよいよ人間離れしてるなぁ、君は」
「そうだな」


 俺でもここまで――こうも人間離れする事になるなんて思っていなかった。
 お前が選択を間違えたんだ、斎藤。


「じゃあな」


 左腕を更に変化させる。
 感覚としては、左手を開くような。


「じゃあね」


 木の枝が広がるように、棘が拡がり――斎藤は消えた。
 ふっと。
 まるで瞬間移動でもしたかのように。
 ……は?


「な……」


 消えた。
 仕留め損ねた……のか?


「転移魔法。多分だけど」


 驚いている俺に、ミラが声をかける。
 転移魔法……セレンさんが俺に仕込んであると言っていたあれか。だとしたら緊急回避をしなければならない状況までは追い込めたという事か?
 行き先がランダムなのは俺に仕込んであるのと同じなのだろうか。
 それとも行き先は決まっていて、すぐにでもまたここへ戻ってくるのだろうか。


 どちらにしろ、セレンさんを保護するのが先だな。















「転移魔法は絶対にランダムです。行き先を指定して一瞬で移動する事の出来る魔法もありますが、あれはそれ専用の巨大な魔具がないと出来ない上に大量の魔力を消費するので、とても一人で扱えるものではありません」


 巨大、とセレンさんは言ったが、後で詳しく聞いてみると10メートルくらいの魔具が必要らしい。そんなのは流石に持ってなかったな、あいつも。
 転移魔法で逃げたと見て間違いないだろう。


 緊急避難経路を確保してから敵に挑む。
 相手が自分より強い場合なんかは当たり前の事だ。俺だってあのドラゴンに挑む前に、セレンさんから転移魔法の存在を聞いたんだし。
 ここであいつを仕留められなかったのは後々響いてきそうだな……


 今は石による散弾程度で牽制できるが、これもいつまでも通じるとは限らない。何かしらの対策を講じて来る可能性は考えるまでもない。


 斎藤との死闘が終わった後、魔力を使い果たしてぐったりしていたセレンさんを担いで俺たちは山を降っていた。
 背負っているのは俺だが、皮鎧のせいで背中に感じるべき感触はない。


 くそう……
 これがパジャマとかだったらな……
 そしたら歩けないかもしれないけど。色んな意味で。


「何か邪まな事考えてません?」
「まさか。俺がそんな事を考えるはずがないでしょう。バニー衣装だったら背負う時に背中には柔らかい感触があってお尻に回してる手にも好ましい手触りがあるんだろうななんて微塵も考えてませんし想像もしてません。何なら俺の思考を読んでみてください。潔白が証明されるはずです。白よりも真っ白です」
「その否定の仕方を聞く限り、真っ黒だと思いますけど……良いですけどね、少しくらい」


 良いの!?
 スク水でも良いのかな。
 でも、想像するだけしか出来ないのが悲しいんだよな。
 この世界、バニーガールの衣装とか制服とかブルマとかあるのかな。俺に裁縫スキルがあれば自作するのに……
 家庭科の授業をもっとしっかり受けておくんだった。後悔先に立たずだ。今日ほど後悔した日はない。
 ……家庭科の授業程度じゃ服は造れないだろうけど。


「黒と言うよりはピンクだと思うけど」


 さらりとミラが言った。
 お前は敵だ。
 いつか石を投げつけてやる。


「『大切な仲間』にそんな事出来るの?」
「ぐっ」


 にやにやと、無表情なのににやにやしているのが分かる感じでおちょくられる。あの時は完全に我を忘れていた。
 考えるより先に体が動いて、考えるより先に口走っていた。
 恥ずかしい。穴があったら潜りたい。今の俺なら穴くらいならすぐ作れるし、本当に潜ってやろうかな。セレンさんと一緒に。


 でも実際、あの時俺が飛び出すのを我慢して、陰から石を投げたらそれだけで終わってた可能性もあるんだよな……
 ミラがそれより先にやられてた可能性もあるけど。
 そういう意味じゃ一概にはどちらが良かったとは言えないが、ミラを見捨てるという選択肢を取っていればあいつを仕留める事は多分、いや確実に出来ていたのだろう。


 ……その仮定はあり得ないが。
 うん、あり得ないな。
 セレンさんに対するそれとは多少ベクトルが違えども、ミラという人間をある程度俺は好いている。と言うか好きでもない奴にここまでぼろくそ言われてたらキレるわ。
 それを分かりながらやっている節のあるミラには、結局敵わないのかもしれない。


「そう言えば、セレン」


 先頭を歩いていたミラが、立ち止まってくるりと振り返って言う。
 山を降りるのに女性を先に歩かせる男があるかって? 仕方ないじゃん。セレンさん背負ってるんだし。俺がここまで走ってきた経路辿ってるから、嵐が通った後みたいに道できてるし。安全だよ。


「あの大飛竜ワイバーンの首、どうやって持って帰るの?」















 空間魔法とか言うのがあるらしい。
 簡単に、分かりやすくその感覚を伝えるなら四次元ポケットみたいな。
 容量は学校の体育館くらいあるらしいから、小型バスくらいある首でも余裕で10個入るとの事だった。あまり使える人はいないのだとか。
 まぁ、そんな便利な魔法ぽんぽん誰でも使えてたら配送業とか仕事なくなっちゃうしな。


「名付けるならやっぱりヒュドラくらいしか思い浮かばないなぁ」


 名前の無い魔物を倒し、その証明をギルドに持っていった際。
 討伐者が名前を付ける事になるらしい。
 この権利を放棄すると、発見者の名前なり討伐者の名前なりがその魔物の呼び名になるらしいが……ユウトドラゴン。無いわ。


 どっちかと言えばヒュドラなんだよな。
 それくらいしか思いつかない俺の想像力がしょぼいのかもしれないが。
 ヒュドラのように千切った首から再生するなんて事はなかったものの、首がたくさんあるドラゴンと言えばやはりヒュドラだろう。
 ……何かそれ以外にあるのかな。


「うーん、こんな事言うのもなんですけど、適当で良いんですよ、魔物の名付けは。あの個体、多分他にはいませんし」


 セレンさんに聞いてみると、こんな感じで答えが返ってきた。
 適当で良いならヒュドラで良いや。分かりやすいし。ヒュドラだとそのまますぎるからヒドラでも良いな。
 普通に地域によってはヒドラって言いそうなものだが。まじでどっちでも良い。本当にどうでも良い事を考えながら、帰りの竜車でがたがたと揺られていると、ふと思い出す。


「そう言えば、ヒュドラを倒したあの魔法。なんで詳細教えてくれなかったんですか。死ぬほどびびりましたよ」


 やべぇ当たる俺実は嫌われてたのかショックだわーとか考える間もなく飛んできたから、最初から言われてても避ける事は出来なかっただろうけど。
 知ってれば避けようとする必要も無かったのに。


「あー……すみません、本当は最初、別の魔法使うつもりだったんですけど……」
「ドラゴンの上に乗って戦うって最初から言ってれば良かったのに」


 あぁ。
 あー……そういう事か。
 思ってたより俺が近くにいたから、あの魔法に切り替えたのか。
 ……と言うことは、セレンさんは少なくともあともう一つ、ヒュドラを倒せるだけの魔法を使えるという事か。


「もしかして、あの大量の光の槍の魔法の方が、当初使う予定だった魔法よりも消費魔力が大きかったりします?」
「どちらも大量に消費するのには変わりないですけど、自分で山を降りれるくらいには残るつもりでした。……あぁっ、別に責めてる訳じゃないです! 最初に説明しなかった私も悪いですし!」


 確かにヒュドラの背中に乗るというアイデアは、俺が直前で思いついたものだ。
 思いついたと言うか、正面に回るのが怖くてそうしたのだが。
 消極的な理由でそうした結果、斎藤が襲撃してきた時にセレンさんがぴくりとも動けないようになっていたのだと思うと何というか……世話のない話だ。


 木に変化した自分の左手を見つめる。


 こうして見ている限りは、ただの人の手だ。
 あの後何度か心の中で色々なものに変化させようとしたが、かなり難しい。一度感覚を掴んだから、出来ないという訳ではないのだが……あの時にほぼノータイムで出せたのは奇跡としか言いようがない。


 今回はたまたま何とかなった。
 だが、次回以降どうなるかは分からない。


 せっかく(?)吸血鬼になったのだからもっと色々なスキルを使いこなせると良いのだが。


「でしたら、予定はかなり早まりますけど味方になってくれそうな吸血鬼のところへ行ってみますか? 吸血鬼特有のスキルも教えてもらえるかもしれません」


 ……味方になってくれそうな吸血鬼。
 最初から目を付けていた奴がいると言う事か。
 そうとくれば断る理由もない。

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