女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第14話 ドラゴン狩りをしよう

 聖剣の力は徐々に強まっている。理由は不明。
 体が吸血鬼化した。その為、地力が人間のそれを遥かに上回っている。そのデメリットとして、にんにくが若干嫌いになった。
 日焼けしやすくなった。かもしれない。
 程度の事はあるが、逆に言ってしまえばその程度だった。
 俺の知ってる吸血鬼は太陽で焼け死んで、にんにくで苦しみ死ぬはずなんだが。
 元の世界で吸血鬼なんて見たことないけどさ。ナイトウォーカーとか言うくらいだし、夜にしか活動できないもんだと思ってたよ。


 実際、夜になるとちょっと調子が良い。
 気がする。


 あぁ、あと八重歯がちょっと伸びている。牙……とまでは行かないが。舌で触るとちくっとする程度。そうしなければ気にならない程度。
 都合の良い部分だけ都合が良い。


 まぁ、どうしようもないデメリット……と言うか副次的なものが一つあるのだが。


 それは吸血衝動。
 そのデメリットも色々あった末に解決はしてるが。


 色々あったとか言ってはいるが、解決したのは吸血鬼と化したその日のうちなのだが。具体的には――いや、ここから先は言わなくても良いか。
 察しの良い人だけが察することが出来れば良い。


 ちなみに、食事としての吸血と吸血鬼化させるための吸血は違う。


 前者が栄養補給ならば、後者は酒とかタバコみたいな感じか。いや、どちらも未成年だから未経験なんだけどさ。感覚としてはそれに近いんじゃないかなと思う。
 どちらの吸血にも、吸われる方も吸う方もとある感覚を刺激されるのだが、それもまた置いておこう。察しの良い人だけが分かれば良い。


 ともかく。


 ともかく、だ。
 俺の吸血鬼化による影響は、ここ数日の実験でかなり把握できた。ちなみに、霧になるだとか影に武器を隠すだとかは出来ない。出来なかった。吸血鬼には変身能力があって、他の人の姿に化けることも出来るらしいがそれも無理だった。


 ……そもそもどうやったら良いか想像もつかない。
 どこにどう力を込めれば良いのだ。
 吸血は結構スムーズだったのになぁ……




 基本的に性能がグレードアップされているだけ、という結論に至ったのでこれからも普通に生活できるとの事だった。
 セレンさんの判断なので信じよう。


 そういう訳で俺たちは再びギルドに向かった。
 とりあえず仕事――というか、目的を果たす事が優先なのだ。俺は今回の件で幾らか強くなったが、それでもやはり戦力としては足りないのだとか。
 一騎当千でも、万の軍に四方八方を囲まれれば為す術なくやり込められる。
 今回で一騎当万くらいになったかもしれないが、やはりそれでも万の軍に四方八方を囲まれればどうもならないだろう。今は圧倒的な力でパンチキックするだけで勝てるが、これからはきっと戦闘力じゃなくて戦闘能力が必要になる部分も出てくる。


 ギルドに入った俺たちを待っていたのは、そこそこ賑わっているロビーだった。


 ……あれ?
 仕事が枯渇してたんじゃなかったっけ。


「時間が経てば魔物もまた出てきますし、他の仕事も当然出てくるとは思いますけど……ちょっと早すぎますね」


 セレンさんも分からないとの事だった。
 何か一個くらいあれば良いなってくらいの気持ちだったんだが。こんな感じならそこそこ選べそうだな。なるべく簡単で、なるべくお高いお給金のを……。


 と。
 見知ったサル顔を見つけた。


 なんだっけ……そうだ、マイリーだ。
 あいつなら何か事情知ってるかも。


 てか、俺は吸血鬼があいつに化けてたんだと密かに思ってたんだが。
 違ったようだ。
 少なくとも、あの夜に襲撃してきた二匹の吸血鬼ではないことが今この瞬間確定した。いずれにせよ、セレンさんをナンパしようとした時点で俺の敵である事は確定してはいるけど。


 次手を出そうとしたらその手をへし折ってやろう。


「久しぶりだなマイリー」


 俺はマイリーの向かいに座った。
 ……こいつは今日も一人だった。
 友達とかいないのだろうか。いないんだろうなぁ。性格が性格だし。


「兄貴! しばらく見ねぇから街から出ていってくれた……出ていっちまったもんだと思ってたぜ!」
「本音がダダ漏れだぞお前」


 俺を見た瞬間に見た酒をひっくり返しながらいらない事まで口走るサマは見様によっちゃ面白いのかもしれないが……別に俺に他人をいたぶる趣味はない。平伏させて楽しい訳でもないし。俺の嫁に手を出さなければどうでも良い。


「なんでこんなに仕事が増えてるんだ?」
「あぁ、兄貴はここ最近ギルドに顔出してねぇから知らねぇのも無理はねぇ。実は、一昨日くらいだったか。ドラゴンがここらに巣を作ったらしくて、そこから逃げ出してきた魔物で溢れてんのさ」


 との事だった。


 他人をいたぶる趣味もないが、男と話す趣味もない。ビール代を置いて、それじゃと言って立ち去る。マイリーも俺の事が苦手なのだろう、特に引き留められる事もなく情報を得るだけ得て終わった。




「ドラゴンがここらに巣を張って、魔物がこっちに逃げてきてるらしいです」


 聞いたことをそのままセレンさんに伝えると、少し考えるような間を置いてから、


「……なるほど、そういう事でしたか」


 と笑顔で言った。
 何故笑顔。
 かわいいけど。


「だって、仕事が決まったじゃないですか」



















 住み着いた大飛竜ワイバーンの討伐もしくは撃退。報酬はその大飛竜の首の大きさによる。


 ワイバーン。
 これはその正体が分からないドラゴンについての総称らしく、大抵は新種だったりとても珍しい種類だったりとするらしい。


 ちなみに依頼書に書いてある外見の特徴には『深緑色の鱗。巨大な翼。多数の頭。体長は30メートル程度』とあった。


「ヒュドラみたいなやつなんですかね」


 そのドラゴンが住み着いた場所へ向かう竜車の中で訊いてみる。


「ヒュドラ?」
「俺の住んでた所の昔話に出てくる魔物だ。作り話だが」


 ミラの疑問符に簡単に答えると、セレンさんが。


「本当にヒュドラだったら毒がありますから、優斗さんの不死性でも歯が立たないかもしれませんね」
「勇者ヘラクレスは獅子の皮を被ったんですっけ。その辺にライオンいないかな……」
「ボクはその話を知らないけど、その辺にいる魔物の皮程度でユウトの不死をも上回る毒を防げると思わないね」


 その通りだった。
 そもそもあの獅子の皮も普通の獅子の皮じゃなかったはずだ。人食いライオンだったっけ? 人食いの獅子っぽい見た目の魔物ならたくさんいそうだが、やっぱりそいつらの毛皮でも防げるとは思わなかった。
 実際毒のある魔物相手にする時ってどうすれば良いんだ?
 不死身の体でも毒は効くのだろうか。噛まれた瞬間にそこ斬り落とせば何とかなるのかな。あまりやりたい手ではないが。


 俺はそれでなんとかなるとしても、セレンさんやミラはどうするのだろう。
 解毒魔法とかあるのかな。
 ……ありそうだな。


「ありますよ。あまり強い毒だとそれだけじゃ解毒できない可能性もありますけど」


 との事だった。
 それだけじゃ解毒できないという言い回しをしたと言う事は、それ以外も使えば解毒できるという事か。万一俺にも毒が効くようであっても解毒はできるという事か。
 これで安心して毒も受けられる。


 ……流石にそこまで言ってしまうと冗談だが。
 多少はなんとかなるし、ちょっとやばくてもなんとかなるのならそれほど恐れる必要もないか。


 なんて思っていた。


 実際にそのドラゴンを見るまでは。













 あーこれは毒どうこう以前の問題だわ。
 見た瞬間にそう思った。
 30メートルくらいとか嘘八百も良い所だった。首全部伸ばせば半径100メートルくらいになるんじゃないかあれ……
 翼込みだともっと行くかも。
 首は10本あった。
 5本しかないヒュドラを嘲笑うかのように倍あった。いやヒュドラは切ったら2本生えてくるんだっけ。じゃあヒュドラの方が上か? もうどうでも良いや。
 今は丸まって寝ている(この状態だと30メートルくらいだ。確かにな)が、どうなんだこれ。
 勝てるのか。


 首落としたらそこから3本くらい生えたりしないよな……?


「ああ、これはボクが役に立たないパターンだ。今回は完全に役立たずだ。ごめんね」


 なんて無表情で、全く申し訳なさそうに言わないミラの言葉通り、確かに彼女の出る幕はないだろう。彼女の出る幕がないからと言って、俺やセレンさんがやるのかと言われればそういう訳でもないのだが。撤退というのも普通にありだと思う。これは無理だ。でかすぎる。スケールの桁が違う。


「不意を突く事が出来れば間違いなく滅せられます」


 なんて思ってたら、セレンさんがそんな事を言い出した。
 間違いなく。自信のある言葉だ。多分、と言っていても俺はとりあえず信用していたかもしれないが、間違いなくとまで言われれば勿論疑う余地はない。
 やるしかないだろう。


 ……とは言っても、寝てるから不意を突くも何もないんだよな。
 普通に攻撃すればその一発目は間違いなく『不意』になる。


「一撃必殺の魔法があるの?」
「必殺……と言うか、文字通り『消しちゃう』感じの魔法があります。当たれば絶対勝てるという意味では必殺と言っても良いと思いますけど……」


 なんだその怖い魔法。
 ……もしかしてもしかすると、それって俺みたいな不死の存在に対する抑止力なのではないだろうか。体全部を覆うほど大きい魔法ならそれ一発で終わりだし。
 そもそも大きさとかそういう概念があるのかも分からないけど。


「大量の魔力が動くので、あのドラゴンには勘付かれると思います。足止めを優斗さんにお願いしたいのですが大丈夫ですか?」
「そう聞かれて大丈夫じゃないと答える奴は俺じゃありません」


 とは言ってみたものの、普通に怖いわ。
 あの大きさの敵とか想定した事もない……どうやって足止めすれば良いんだろう。


「私とミラちゃんはあちらの山の山頂に移動します。魔法の詠唱を始めてから……そうですね、頑張って急ぎますけど30分くらいはかかると思っててください。ミラちゃんは、詠唱の間私が無防備になるので守って欲しいです」
「それくらいならボクにも出来る、と思う。出てくるのは精々人間より大きい魔物だろうし」
「さ、30分……」


 流石に大丈夫と即答できる範囲を超えていた。
 ……大丈夫……じゃないと思う……
 足止めという事は、真正面に立ち塞がって戦う必要がある。セレンさんが指を指した山までは見た感じ2、3㎞離れてるが、このドラゴンは100メートル単位だからなぁ……


「無理そうだと判断した時点で優斗さんに仕込んである転移魔法を発動させます。行先はランダムですが、あの大飛竜の目の前よりは確実に状況は良くなるでしょうし」


 そりゃそうだが。
 行先がランダムってどれくらいのランダム性なんだろう。
 というかさらっと仕込んであるって言ったかこの人。
 いつの間にそんな魔法を。自分の行動を振り返ってみると、仕込む隙なんていつでもありそうなところがもうなんとも言えないのだが。


「いや待ってください。俺が転移魔法で飛んだ後はどうするんですか。セレンさんとミラは。ここに置いてけぼりになるんですか? そんなの俺が承知しませんよ、気合いでその転移魔法とやらを拒否しますよ」
「と言うと思ったから仕込む時もこっそりやったんですけどね……私たちは大丈夫です。隠匿魔法がありますし、補助魔法をかければそれなりの速度で逃げられますから。最終手段として、私たちも転移でどこかへ飛ぶという方法もあります」
「本当に大丈夫なんですか? 正直俺はもう半分くらいやりたくないんですけど。俺の安全以前に、思っていたよりセレンさんとミラの安全が確保されてなくて」
「優斗さん」


 嗜めるように、名前を呼ばれる。


「自分の安全より優先すべきものはありません。優斗さんの力があれば、走って逃げて逃げ切る事も可能だと思います。転移は本当にどうしようもなくなった時の奥の手です」
「…………俺が逃げたらセレンさんとミラも逃げますか?」
「当然です。そうした時のために落ちあう場所を決めておいた方が良いかもしれませんね」


 よし。
 逃げる時はなるべく俺の方に引き付けて逃げよう。


「ちなみにボクの心配はしなくて良いよ。絶対逃げれる自信がある」
「……まぁ、お前はそうかもしれないな」


 セレンさんを置いて逃げれば、こいつは絶対助かるだろう。
 多分、とかきっとじゃなくて絶対。
 逃げ足の速さが自慢というのは伊達ではない。
 だけど多分、ミラはセレンさんを置いていくという判断をしない。いや、多分じゃないな。絶対だ。一ヵ月程度の付き合いだが――こいつはこういう事を言って、俺を安心させようとする奴だという事くらいは見抜いている。


「わかりました。わかりましたよ、やりましょう。俺があのドラゴンを足止めどころか倒してしまっても構わんのだろう?」
「……それは負けフラグというやつでは」


 セレンさんの的確なツッコミが入ったところで、俺たちは作戦に移行した。
 セレンさんとミラが山に移動し、俺は待機だ。
 ドラゴンが山に向かって動こうとしたら俺が力ずくで止める。


 ただそれだけである。

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