女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第12話 召喚襲撃

 そこそこ稼ぐようになり、俺たちは個々で部屋をとるようになっていた。プライベートな時間というのは、誰もが必要なものなのである。
 俺がセレンさんと一緒の部屋で寝泊まりしたのは、こちらの世界に来て初日のみである。
 あの時も本当は分けることが出来るだけの金があったのだが、俺の欲望によって一緒の部屋になっていただけだし。


 新しい街に着いたのは、竜車に揺られ続けて三日経った後だった。
 竜車はワンルームなので不可抗力として一緒に寝るしかなかったが、今日からは違う。敢えて三人同じ部屋で寝泊まりするのだ。


 ……と思っていたら。


「ユウトと寝るなんて貞操の危機どころの話じゃない。ボクは隣の部屋をとる」


 とミラがゴネた為、俺とセレンさんは同じ部屋、ミラだけ隣の部屋となった。隣ならば異変が起きてもすぐに気付けるだろうという、セレンさんの苦渋の決断だ。
 それにそもそも、吸血鬼が襲撃するのは俺とセレンさんのどちらかの可能性が高いのだ。
 女神とその眷属・・。昨日言っていた時はその意味を図りかねたが、読んで字のごとく、確かに俺は女神の眷属だ。女神から力を貰い、その力で女神を守る。
 奴らが思っている眷属とはまた違うかもしれないが、とりあえず納得できる部分はある。


 そういう意味では、ミラは女神の眷属に当たらないのだ。
 ゲストキャラ。という訳ではないが、ミラはセレンさんの正体が女神だという事すら知らない。俺が不死身である事や、目的を持って旅をしている事は伝えてあるが混乱を招くような事は伏せてあるのだ。


 とまぁ。
 この街に到着したのが朝方なので、一つ依頼を受けてから宿を取る事にしたのだが。


 街。
 街である。


 都市と言っても良いかもしれない。
 それくらい、規模の大きな街だった。


 日本で喩えたら名古屋くらい栄えていた。別に大阪でも東京でも良かったのだが。名古屋と栄をかけたかったが為に挙げただけであって、要は日本の三大都市に並べても遜色ないくらいの規模なのだ。
 とか言いつつ、前までいたあの町との比較にしかならないのでもしかしたらここはそこらの片田舎――辛うじて新幹線は止まるけど誰も降りないような。(実際そんな駅はないだろうが。ないよね?)田舎の中では都会の方みたいな。そんな扱いなのかもしれないけど。


 ともかく俺はちょっとした感動を覚えていた。
 活気も段違いだ。祭りでもやってんのかと思う程である。……本当に祭りでもやってんのかな。そうだとしたら恥ずかしいな。完全に田舎モンのおのぼりさんじゃないか。


 それは置いといて。


 道行く人の好さそうなお姉さんに(美人だった。やはりこの世界は美人率が高い。ような気がする)ギルドへの道筋を聞き、人混みを俺が先立って掻き分けつつ進む。
 常時昼時のスクランブル交差点みたいな混み具合だ。段々嫌になってきた。


 ようやく辿り着いたギルドの扉を押し開け――


「……あ?」


 素でアホみたいな疑問の声を上げてしまう。
 俺に続いて入ってきたセレンさんとミラも、ギルドの中を見てぽかんと立ち尽くす。


 冒険者ギルドの中は。


 外のお祭り騒ぎが嘘だったのかのように、閑散としていた。




 そんな俺たちに、声がかかる。




「お前さんら、新入りか? 他の町からの飛び入りか? どっちにしろ運が悪――いや俺はツイてるようだな。おいお嬢さん方。あ? お前じゃねぇよ、どっか行け黒髪のガキ。このギルドがすっからかんな理由知りたいだろう? それならオイラに任せておけ。この街の顔役ことマイリー様たぁオイラの事よ。なぁに情報代はいらねぇ。ちょぉっと酒を注いでくれるだけで――」


 バキン、と。
 唐突に絡んできた酔っ払いが掴んでいたジョッキも握り割る。
 このサル顔。事もあろうにセレンさんをナンパしようとしやがった。良い度胸してやがる、よぉし表に出ろサシでやろうぜ死んでも文句なしだ――なんて言おうと思ったら、


「ちょちょちょっと待った。そう怒んなって、坊主……いやさ坊ちゃん。弱い者イジメは良くねぇぜ」


 ……何なんだこいつは。
 サル顔が酒で真っ赤になってもはやサルとしか言いようがないが、ここでこの顔面ぶん殴っても良いのだろうか。


「マイリーとやら。俺に払えるのはこのビールの代わりとそのおかわりくらいだが、それでも話してもらえるか?」


 割ったガラス片を握り込み、砂のように細かく砕く。なんて事はない、そんなに力を籠めなくとも――例えばセレンさんでも出来そうな芸当だが、ここで大事なのはここから先だ。


「ところで俺は不器用でな。例えばここにあるスプーンなんかも――」


 マイリーの前に置いてあったスプーンを手に取り、丸める。
 無理やり、捻じ曲げて丸める。
 球。
 そんな感じになるまで。
 若干圧着されてて、この球の元がスプーンだと看破出来るものはいないだろう。


「ちょっと力加減をミスるとこうなる」


 俺が開いた右手に乗っている、大きいパチンコ玉のようになったスプーンを唖然としながら見るマイリー。顔の赤みが引いて行く。酔いも醒めたようだな。


「も、もちろんさ兄貴。オイラが兄貴に隠し立てすることなんざひっとつたりともありゃしねぇ!」


 黒髪のガキから坊主になり、坊ちゃんを経て兄貴と来たか。
 なんというか見た目通り、物凄い小物だなこいつ。
 ミラが下等生物を見るような――もっと言ってしまえばゴミでも見るかのような顔をしていた。流石に俺だってあんな視線を受けた事はない。
 ……受けた事ないよな。俺が気づいてないだけとかってオチはないよな。


「実はだな――」




 サル顔が語ったのは、言ってしまえば一言二言で済んでしまうような事だった。




 少し前、ここに滅茶苦茶強い冒険者が現れた。
 その冒険者はこのギルドに来ていた依頼を軒並みこなして行き、いつの間にか消えたと言う。


 今はギルドにまともな依頼がほとんどなく、やる事のなくなった冒険者たちはそれぞれバイトなりなんなりで日銭を稼いでいるらしい。


「ちなみにその滅茶苦茶強い冒険者ってのはなんて言う名前だったんだ?」
「んん? なんだったかな。珍しい名前だったってのは覚えてるが――確か、サトウ、とか名乗ってたな。あぁそうそう。兄貴と同じような髪と目ぇしてたぜ。目つきは随分とあちらさんの方が悪かったが――」













 宿。


 ここのギルドにはどうやら仕事がないらしい。
 仕方がないので宿をとり、明日からどうしよう会議が開かれた。
 ミラは宣言通り別部屋なのでいないが。ていうか会議するって言ったのにあいつ即寝やがった。見た目がかわいいロリじゃなければ張り手でたたき起こしてる。


 さておき。
 問題点の提示だ。


 サトウだかイトウだか知らないが、滅茶苦茶な奴が全部受けてったんだと。


「セレンさん、サトウって奴が日本人な可能性はありますか?」
「……どうでしょう。佐藤さん、である可能性は無いとも言い切れませんが……」


 サトウ。
 佐藤。


 黒髪で、黒目。


 そして滅茶苦茶強い。


「俺と同じで、セレンさん、みたいな人から力を授かってここに来た日本人って可能性は、ありますか?」
「……仮にそうだとすれば、恐らくその力を授けた人物は《魔神》です。それくらいしか、私には心当たりがありません」


 魔神。
 吸血鬼をもしもべにしている可能性があり、その上に俺と同じように力を持った日本人を眷属としている?
 ややこしい事になってきたな。
 サトウとかいう奴の正体も、吸血鬼の件も憶測に過ぎないが。だが。その憶測が当たっていれば……当たってしまっていれば、俺たちはかなり出遅れてるんじゃないか?


「魔神がこの世に未だ顕現出来ていない理由は、案外その辺りにあるのかもしれません」
「……と言うと?」
「この世界での戦力造りにリソースを割いてしまって、まだこの世界に来られない、という可能性があります」
「ふむ……」


 そうなると俺としては気になる部分が出てくるのだが。


「もしかしたら失礼な事を聞くかもしれませんけど、セレンさんとその《魔神》って奴の、その『リソース』の量は同じくらいなんですか? それとも――」
「同じくらい……だと思います」


 でも。
 続ける。


「彼女は、人の心を操ることに長けています。私と同じだけの力を使って、私よりも多くの人間を味方に引き入れている、という可能性は、否定できません」
「じゃあ俺がそいつら以上の働きをしますよ。それだけ俺に多くの『リソース』を割いたって事でしょう? 確かに女神のおまけに不死身と聖剣ってやり過ぎですもん」
「むしろおまけは女神わたしなんですが……優斗さんはすごく頑張ってくれてると思います。私の思っていた以上に強い適正があるみたいですし、私が顕現する分の力を優斗さんに回して、もう一つくらい何か足した方が良かったかもしれませんね」


 冗談半分っぽく、つまりは半分は本気で言うセレンさん。
 分かってないなぁこの人は。一ヵ月も一緒にいるのに何も分かっちゃいない。


「セレンさんのおまけが不死身と聖剣です。そうでなければ俺はこの世界に来てないですから」


 ぶっちゃけ不死身も聖剣も無くたって、セレンさんが行くと言えば俺も付いてっただろう。俺がそうしたいと思ったからそうしたのだ。不死身の自分に憧れた訳ではなく、聖剣を持って勇者のように活躍する自分を想像したからでもない。セレンさんと一緒に冒険するなら楽しそうだと思ったからこの世界に来たのだ。


「セレンさんはセレンさんで必死かもしれないですけど、俺はぶっちゃけ楽しんでますからね。好きな人と一緒に旅出来るってそれだけで思春期の男子にとっちゃあ夢のような話ですよ」
「……そういう事言うと、惚れ直しちゃいますよ」
「惚れ直しまくってください。惚れ増してください。俺の方からはカンストしてるんでこれ以上はないですけどね」
「もう――もう!」


 立ち上がって、セレンさんはばふん、とベッドに突っ込んだ。


「寝ます!」


 言って――寝た。
 いや、寝てはないだろうがそのまま動かなくなった。


 ……こ、これはもしかして……


 据え膳というやつなのでは……!!


 一度目は失敗をした。失態だった。
 二度目は許されないだろう。
 あぁ――ちくしょう。


 絶対・・勝って帰ってくる・・・・・・・・


 そう心に強く。
 強く。


「覚悟決めてきます」


 宣誓して、俺は部屋を出た。


 そのままその足のまま、街の外まで出る。


 歩いて歩いて、そろそろ良いか――というところで、俺は自分の左腕を、聖剣でぶった斬った。


「ぐ……が……!!」


 歯を食い縛り、痛みに耐える。
 すると。


 俺の陰から・・・・人が出てきて、左腕を受け止めた。
 いや。
 人でなく――吸血鬼か。


 あの女だ。


「なんでわたしがここにいると気付いたのかしら……?」


 ぼしゅ、と吸血鬼の持っていた左腕が蒸発し、俺の左腕が戻る。
 治る、というより戻る。
 こっちに来てから一ヵ月で気付いた事だ。千切った部分は消えてなくなり、生えてくる。トカゲの尻尾切りとは少し訳が違うのだ。


「別に。気付いちゃないさ。呼び寄せる気ではあったけど、まさか俺の影に潜んでたとは。びっくりしすぎて心臓が口から飛び出そうだ」
「それにしては随分と落ち着いているようだけれど」
「虚勢だよ」


 虚ろな勢い。
 正直、自分でも何をしてるんだかさっぱりだ。
 だが、こうしなければいけないような気がした。


 吸血鬼なんかより遥かに強い自分を演出する必要がある。
 ここで俺はこいつを。
 殺す。


「ぞくぞくするわぁ、その殺気。怒りも何もない、ただの殺意。ここしばらくはあなたの事を見ていたけど、やっぱりあの時に女神を殺さなかったのは正解だったって訳ね」
「無理だよ」
「ん?」


 俺の短い否定の言葉に、首を傾げる吸血鬼の女。


「無理だって言ったんだ。お前程度じゃセレンさんには勝てない」
「ふぅん……眷属があなた程度なのに?」
「程度かどうか、確かめてみると良い」


 言い終わるか終わらないかのタイミングで。
 吸血鬼の女は、俺に接近していた。繰り出される貫き手――腹を狙ったそれを、手首を掴んで受け止める。
 そのまま、握り潰す。


 ぐしゃ、と。
 左手の中で、スプーンを丸めた時のようにさほどの抵抗もなく潰れた。


 そして、右手の聖剣で吸血鬼の腹を刺す。
 言葉にすれば簡単だが、今俺の能力は聖剣によってかなり強化されている。人間を遥かに凌駕している。それに万能感を覚えないと言えば嘘だが――次の日の朝とか、結構きついんだぜ。今みたいにランナーズハイになってる時はましだけどさ。


「良いわ。凄く良い」


 腹に聖剣が捻じ込まれたまま。左腕を握り潰されたまま、吸血鬼の女は官能的に震えた。奮えたと言った方が適切かもしれない。


「同じ吸血鬼の中でもなかなかいないのよ。わたしと同じ場所まで来れる子は」
「そうか」


 聖剣を上に振り上げる。
 腹から上が真っ二つになり――すぐに再生する。頭切っても駄目なんだな。予想はしてたけど。


「冷静な振りして、燃え上がっている。好きな女の子の為に戦う男の子の――諦める顔って、凄くそそるのよ」


 たん、と女が自分の影を踏んだ。
 かと思えば、そこから一振りの大鎌が生えてくる。


「驚いた? 驚いたでしょう。こんな事も出来るのよ」


 影が。
 影そのものが、質量を持って襲い掛かってきた。
 槍のような矢のような形をした、アメーバなのかスライムなのかよく分からない感触のそれに脚を串刺しにされる。
 そして絡めとられ――る前に、自らの両脚を斬り落とす。
 トカゲになったような気分だ。さっきも言った通り、本質はそれとは全く異なるが。着地する頃には、脚が戻っていた。


「……驚いたわ。あなたつい先日まで普通の人間だったって聞いてたのだけれど」
「俺は吸血鬼に影がある事に驚いてるな。俺の知ってるのと若干違うんだが」
「個体差よ」


 そういうもんなのか。
 それなら、


「人間にも個体差はあるんだよ。つい最近まで普通の人間だったはずなのに、好きな子の為に化け物になりきれちゃうような変な奴とかも、多分俺以外にだっているぜ」


 より一層、強く、強く聖剣から力が流れ込んでくるのを感じつつ、嘯いた。


「ふぅん……やっぱりあなたが欲しいわ。いっその事、わたしにその首を差し出して、吸血鬼になってみない? 今までよりも更に上の世界へ行けるわよ」
「そいつは良いな。でもお天道様の下を歩けないようになるのは頂けない」
「個体差があると言ったでしょう。その程度の弱点、克服していない吸血鬼なんて最近はいないわよ?」
「ニンニクとか十字架とか効かないのか」
「少なくともわたしにはね」


 弱点のない吸血鬼って、ただの最強の生物じゃないか。
 そんなのありかよ。
 困ったら枝かなんかで十字架の形作って「破ー!」とかやるつもりだったんだけど。ふざけてるんじゃなく、本気で。どうしようもなく俺の力が通じないのなら、そういうのにかけるしかないだろう。


 まぁ、結果としてその必要はなさそうなのだが。


「うん、やっぱりあなたが欲しい。交換条件を出しましょうか」
「俺が応じるような条件を出せるのか?」
「えぇ、勿論」


 にっこりと、邪気を孕んだ笑顔を作って女は続けた。


「わたしの仲間が、今頃あなたの大事な人のところへ向かっているもの」

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