女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜
第11話 棚から牡丹餅(対抗策)
……最悪の目覚めだった。
舌打ちの一つでもかましたい気分だったが、そこでようやく自分の嚙み切られた舌が治っている事に気が付く。不死身の体だ。当然と言えば当然なのだが、昨日はどうも治り方がおかしかった。
捥がれた右腕。粘土みたいに捩じ切られた右腕も、本来なら俺の体からそれが離れた瞬間にもう治り始めていて良かったはずだ。
しかしそうはならなかった。
あれはどういう事なのだろう……。
いや。
考えるまでもないか。
あいつの外見的特徴やら、やる事為す事。俺の不死身体質が発動するのが遅くなった理由。
あいつは多分、吸血鬼だ。血を吸われた。人生初のディープキスだった……いやそうじゃなくて。少なくともそんなロマンチックな響きで済まされて良いようなものではない。
舌を嚙み切られたんだし。腹だってぶち抜かれた。
セレンさんから貰った皮の鎧ならそれごと治っていたのだろうが、生憎俺が着ていたのは寝間着だ。ぽっかりと腹の部分は空いていた。ダメージジーンズも真っ青なダメージだ。
あの女。
セレンさんの事を知っていた。
女神と言っていた。
そして、俺の事も。幾つか気になるワードが出てきたが、それらを整理しても推理するだけの情報は今の俺にはない。
この世界に来てから、幾つか文献を読み漁っているからある程度の事は分かる。
吸血鬼はエナジードレインをする魔族だ。
もちろん、それ自体をする魔族は他にも幾つかいるが、あいつらは他のそれとはレベルが違う。血という生命力そのものを、肉という生命そのものを喰らい、自らの力へと変換する。
俺の不死身の力もあの時吸われたのだろう。
だから治りが遅かった。遅かったと言っても、常人から考えれば恐るべき――恐られるべきな速度で治っているのだが。
体を起こす。
ベッドの上でなく、床の上だが。倒れて意識を失ったまま一夜を明かしたらしい。
今日は移動する日だったか。
移動中にでも、セレンさんに報告して詳しい話を聞こう。
もしかすると、彼女の思っている以上に状況は差し迫っているのかもしれない。
自分が無様にやられたという醜態を晒す事になってしまうがそれは仕方ない。これを伝えずに更に泥沼化する方がよほど無様で醜悪だ。
とは言え。
気が重いのも、確かだった。
◆
宿で朝食を摂り、竜車に乗って移動が始まった。
次行く町がどこなのかは聞いてないが、聞いたところで知らないのだろうから聞く意味もないだろう。究極的には仕事さえあればどこでも良いのだ。
ガタガタとそれなりに揺れる竜車の中、ミラが居眠りを始める。こいつほんと自由な奴だな。
まぁ良いんだけどさ。
セレンさんにだけ伝えれば良いんだし。
「セレンさん」
俺は窓から流れ行く景色を見ていた彼女に声をかける。
「どうかしましたか? お手洗いならもう少し行った先に――」
「あなたは俺のお母さんですか。違います違います、ちょっと昨日妙な目に遭いまして……」
という事で昨日起きた事を伝える。
覚えている限りは全部。今考えると、よくもまぁぺらぺらと喋ってくれたものだ。もしかしたら最初から俺の事は殺すつもりだったのかもしれない。
……何故引いたのかはいまいち分からないが。あの女の言動を見ていた限り、気分屋っぽいから今俺が生きているのは本当に偶々なのかもしれない。
話を粗方聞き終えたセレンさんは、
「吸血鬼……ですか」
とまず呟いて、先を続ける。
「もしかすると、吸血鬼の王が魔神の眷属になっているのかもしれません。聞いた限りだと、その女性は優斗さんの特性を調べる事が第一の目的だったみたいですけど……」
特性。
不死身と、聖剣の加護を受けての怪力か。
「すみません優斗さん。私としたことが、全然気づきませんでした……」
「いえ、悪いのは間違いなくあの女ですし、起きた事や情報量は中々のものですが、事自体はほぼ一瞬で済んでますからね」
いや。対処出来なかった俺も悪いか。猛省。
「言動から考えるとその吸血鬼の独断で動いていると見て良さそうですが、『王』の意志も少なからず絡んでるみたいですね。今、吸血鬼の王と衝突するのはこちらとしても避けたいです」
「語感から感じるイメージだけで言うと、あの女より強いのはほぼ確定……なんですよね?」
「はい。別次元の強さだと思って良いです」
「…………」
吸血鬼。
ほぼ全ての能力において、人間の上位を行く存在。
俺のように与えられたものでない天性の不死性。寿命にしても長い者だと1000年近く生きるのだとか。筋力その他も人間とは比べ物にならない。聖剣を身に着けていなかったとは言え、その加護はしっかりと受けていた俺のパンチを難なく止めるくらいだし。
あれは単純な筋力だけでなく何かしらの技術も含めての無効化だったと思うけど。
いずれにせよ普通は人間で止められる威力ではないのだ。
血をエネルギーとして、夜に活動する。
『吸血鬼の王』とやらがいるという事は、あいつらってそれなりにわらわらいるものなのだろうか……。
そうだとしたら厄介なんてもんじゃないな。地力が人間より強いのに数まで揃えられたら勝ち目がない。その為に今、こうして仲間集めのための資金を稼いでいるわけだが……。
「魔神を敵に回すって、生半可な事じゃ出来ないですね……」
「魔の神ですからね。……今からでも、降りて良いんですよ、優斗さん。今私はあなたの優しさに付け込んで協力してもらってますけど、これは本来私一人の問題なんですから」
「セレンさんの問題なら俺の問題でもあります。最後まで付き合いますよ」
或いは最期まで。
結局どういう戦いなのかはまだ教えてもらってないが、何となく想像は出来てきた。要は魔王を倒す勇者一行なのだろう、俺たちは。
勇者に当たるであろう俺が不死身で怪力というチートで、魔法使いに当たるセレンさんが女神であるという最初から魔王城に直行できそうな布陣である事以外は、ごく一般的なRPGだ。
ミラは……何になるのだろう。
でもこいつ、気付いたら離脱してたとかありそうだもんなぁ。
ストーリー展開の都合上仲間になってるだけのゲストキャラな可能性がある。
プレイヤー側からは操作できない奴だ。
案外、実は今も起きてて話を聞いて、その遠大とも壮大ともとれるスケールの話に怖気づいたりしてて……
「えい」
確かめるために俺はミラは突いてみた。
どこをって? セレンさんがドン引きするような場所とだけ伝えておこう。ちなみに感触はなんとなく柔らかいものがあったような無かったような気がする、という程度だ。
めこ、と。
漫画ならそんな擬音が入る感じで、ミラの蹴りが俺の腹に炸裂した。
もちろん貫通はしていない。あの時は痛みを感じなかった分、あれよりも個人的に感じるダメージは上だが。
「何するんだ変態。セレン、この変態と一緒にいちゃ駄目。そのうちこいつは寝込みを襲う」
「やっぱり起きてるじゃないか。それから俺はセレンさんとは合意の上で致すと決めている。お前とは違うんだよ、お前とは」
「変態な上に鬼畜だ。変畜だ。最低な男だ」
「何を言う」
何を言うも何をするも、俺の方だった。
その場の勢いで生きるのはいい加減危険かもしれない……
「で、狸寝入りしてたんなら俺たちの話はほとんど聞こえてただろ。どうするんだお前。どうやら俺たちは吸血鬼の王とかいうのが差し当たっての敵になったみたいなんだけど」
「どうするもこうするも、そんな奴が来たらボクは逃げるよ。それまでは稼がせてもらう」
「……あっそ」
ほらな。やっぱりゲストキャラだ。それが当然だろうと言わんばかりの無表情だ。いや、こいつはいつだって無表情なんだけど。
「優斗さん、まずは謝りましょう?」
「ぐ……ごめんなさい」
「許さんでもない」
分かりやすいパワーバランスだった。
くそう、セレンさんがいるからって調子に乗りやがって。セレンさんがいないところで裸にひん剝いてそのまま放置してやろう。俺はこんなロリもどき貧乳に誑かされるほど意志の弱い人間ではないのだ。
メインヒロインならまだしも、こいつは攻略対象にすら入らないゲストキャラなのだから。
なんだか男として最低な事を先ほどから言っている気がする。
「ミラ。俺が全面的に悪かった。昼は何が食べたい?」
「急に殊勝になったところで変畜の称号は変わらない。そもそもボクたちの財布は今のところ共用だから、あなたの一存で決められるものではない」
その通りだった。
ギャルゲーがいかにイージーモードだったかがよく分かる。目が見えないくらい前髪伸ばした平均的な顔の主人公でもあれだけモテるのに、なんで俺はこんななんだ。摩訶不思議である。世界七不思議の一つに認定されて然るべきだと思う。……そういえば誰がどう決めてるんだろう、あれって。というかこの世界にそれがあるのかも分からないし、元の世界の七不思議もろくに知らない。ピラミッドだかスフィンクスだかが入ってたような気はするが……。
後は……なんだろう。ミステリーサークルとかかな。いや、本当に知らないんだけど。
UFOが作るとかそんな感じの。駄目だ、か〇けつゾロリのエピソードしか思い浮かばない。今の子供たちってかい〇つゾロリ読んだことあるのだろうか。あれは小学生のうちに読んでおくべきだと思う。教科書に指定されるべき当然の傑作だ。
俺がモテない事実が七不思議に入るよりかはよっぽど現実的な提案だと思う。
「ともかく」
パン、とセレンさんが手を叩いた。
区切りの意味でだろう。
「しばらくはまだ三人でいられそうですね。ミラちゃん、危ないと思ったらすぐに逃げてくださいね。優斗さんは不死身ですからある程度大丈夫ですが、ミラちゃんは生身なんですから」
なんか雑な扱いされてないか俺。
良いけどさ。実際不死身だから適当でも生きていけるし。
「それを言うならセレンもだと思うけど」
「私は私で身を守る術がありますから」
「ボクは逃げ足には自信がある。心配いらない」
カツン、と腰の裏に差してあるナイフを指で弾くミラ。
……まぁ確かに、あの魔具込みで考えればこの場の誰よりも逃げ足は速いだろうな。あれなしでもかなり動きは速いし。
「そうですか。そうですね、なら安心です。吸血鬼の件ですが、その女性の独断で動いていたと見てほぼ間違いないと思います。ですが今後もこういう事がある可能性は捨てきれないので……」
少し言いにくそうに逡巡した後、意を決したように後に続く言葉を。
「今夜から三人で一緒に寝ましょう」
舌打ちの一つでもかましたい気分だったが、そこでようやく自分の嚙み切られた舌が治っている事に気が付く。不死身の体だ。当然と言えば当然なのだが、昨日はどうも治り方がおかしかった。
捥がれた右腕。粘土みたいに捩じ切られた右腕も、本来なら俺の体からそれが離れた瞬間にもう治り始めていて良かったはずだ。
しかしそうはならなかった。
あれはどういう事なのだろう……。
いや。
考えるまでもないか。
あいつの外見的特徴やら、やる事為す事。俺の不死身体質が発動するのが遅くなった理由。
あいつは多分、吸血鬼だ。血を吸われた。人生初のディープキスだった……いやそうじゃなくて。少なくともそんなロマンチックな響きで済まされて良いようなものではない。
舌を嚙み切られたんだし。腹だってぶち抜かれた。
セレンさんから貰った皮の鎧ならそれごと治っていたのだろうが、生憎俺が着ていたのは寝間着だ。ぽっかりと腹の部分は空いていた。ダメージジーンズも真っ青なダメージだ。
あの女。
セレンさんの事を知っていた。
女神と言っていた。
そして、俺の事も。幾つか気になるワードが出てきたが、それらを整理しても推理するだけの情報は今の俺にはない。
この世界に来てから、幾つか文献を読み漁っているからある程度の事は分かる。
吸血鬼はエナジードレインをする魔族だ。
もちろん、それ自体をする魔族は他にも幾つかいるが、あいつらは他のそれとはレベルが違う。血という生命力そのものを、肉という生命そのものを喰らい、自らの力へと変換する。
俺の不死身の力もあの時吸われたのだろう。
だから治りが遅かった。遅かったと言っても、常人から考えれば恐るべき――恐られるべきな速度で治っているのだが。
体を起こす。
ベッドの上でなく、床の上だが。倒れて意識を失ったまま一夜を明かしたらしい。
今日は移動する日だったか。
移動中にでも、セレンさんに報告して詳しい話を聞こう。
もしかすると、彼女の思っている以上に状況は差し迫っているのかもしれない。
自分が無様にやられたという醜態を晒す事になってしまうがそれは仕方ない。これを伝えずに更に泥沼化する方がよほど無様で醜悪だ。
とは言え。
気が重いのも、確かだった。
◆
宿で朝食を摂り、竜車に乗って移動が始まった。
次行く町がどこなのかは聞いてないが、聞いたところで知らないのだろうから聞く意味もないだろう。究極的には仕事さえあればどこでも良いのだ。
ガタガタとそれなりに揺れる竜車の中、ミラが居眠りを始める。こいつほんと自由な奴だな。
まぁ良いんだけどさ。
セレンさんにだけ伝えれば良いんだし。
「セレンさん」
俺は窓から流れ行く景色を見ていた彼女に声をかける。
「どうかしましたか? お手洗いならもう少し行った先に――」
「あなたは俺のお母さんですか。違います違います、ちょっと昨日妙な目に遭いまして……」
という事で昨日起きた事を伝える。
覚えている限りは全部。今考えると、よくもまぁぺらぺらと喋ってくれたものだ。もしかしたら最初から俺の事は殺すつもりだったのかもしれない。
……何故引いたのかはいまいち分からないが。あの女の言動を見ていた限り、気分屋っぽいから今俺が生きているのは本当に偶々なのかもしれない。
話を粗方聞き終えたセレンさんは、
「吸血鬼……ですか」
とまず呟いて、先を続ける。
「もしかすると、吸血鬼の王が魔神の眷属になっているのかもしれません。聞いた限りだと、その女性は優斗さんの特性を調べる事が第一の目的だったみたいですけど……」
特性。
不死身と、聖剣の加護を受けての怪力か。
「すみません優斗さん。私としたことが、全然気づきませんでした……」
「いえ、悪いのは間違いなくあの女ですし、起きた事や情報量は中々のものですが、事自体はほぼ一瞬で済んでますからね」
いや。対処出来なかった俺も悪いか。猛省。
「言動から考えるとその吸血鬼の独断で動いていると見て良さそうですが、『王』の意志も少なからず絡んでるみたいですね。今、吸血鬼の王と衝突するのはこちらとしても避けたいです」
「語感から感じるイメージだけで言うと、あの女より強いのはほぼ確定……なんですよね?」
「はい。別次元の強さだと思って良いです」
「…………」
吸血鬼。
ほぼ全ての能力において、人間の上位を行く存在。
俺のように与えられたものでない天性の不死性。寿命にしても長い者だと1000年近く生きるのだとか。筋力その他も人間とは比べ物にならない。聖剣を身に着けていなかったとは言え、その加護はしっかりと受けていた俺のパンチを難なく止めるくらいだし。
あれは単純な筋力だけでなく何かしらの技術も含めての無効化だったと思うけど。
いずれにせよ普通は人間で止められる威力ではないのだ。
血をエネルギーとして、夜に活動する。
『吸血鬼の王』とやらがいるという事は、あいつらってそれなりにわらわらいるものなのだろうか……。
そうだとしたら厄介なんてもんじゃないな。地力が人間より強いのに数まで揃えられたら勝ち目がない。その為に今、こうして仲間集めのための資金を稼いでいるわけだが……。
「魔神を敵に回すって、生半可な事じゃ出来ないですね……」
「魔の神ですからね。……今からでも、降りて良いんですよ、優斗さん。今私はあなたの優しさに付け込んで協力してもらってますけど、これは本来私一人の問題なんですから」
「セレンさんの問題なら俺の問題でもあります。最後まで付き合いますよ」
或いは最期まで。
結局どういう戦いなのかはまだ教えてもらってないが、何となく想像は出来てきた。要は魔王を倒す勇者一行なのだろう、俺たちは。
勇者に当たるであろう俺が不死身で怪力というチートで、魔法使いに当たるセレンさんが女神であるという最初から魔王城に直行できそうな布陣である事以外は、ごく一般的なRPGだ。
ミラは……何になるのだろう。
でもこいつ、気付いたら離脱してたとかありそうだもんなぁ。
ストーリー展開の都合上仲間になってるだけのゲストキャラな可能性がある。
プレイヤー側からは操作できない奴だ。
案外、実は今も起きてて話を聞いて、その遠大とも壮大ともとれるスケールの話に怖気づいたりしてて……
「えい」
確かめるために俺はミラは突いてみた。
どこをって? セレンさんがドン引きするような場所とだけ伝えておこう。ちなみに感触はなんとなく柔らかいものがあったような無かったような気がする、という程度だ。
めこ、と。
漫画ならそんな擬音が入る感じで、ミラの蹴りが俺の腹に炸裂した。
もちろん貫通はしていない。あの時は痛みを感じなかった分、あれよりも個人的に感じるダメージは上だが。
「何するんだ変態。セレン、この変態と一緒にいちゃ駄目。そのうちこいつは寝込みを襲う」
「やっぱり起きてるじゃないか。それから俺はセレンさんとは合意の上で致すと決めている。お前とは違うんだよ、お前とは」
「変態な上に鬼畜だ。変畜だ。最低な男だ」
「何を言う」
何を言うも何をするも、俺の方だった。
その場の勢いで生きるのはいい加減危険かもしれない……
「で、狸寝入りしてたんなら俺たちの話はほとんど聞こえてただろ。どうするんだお前。どうやら俺たちは吸血鬼の王とかいうのが差し当たっての敵になったみたいなんだけど」
「どうするもこうするも、そんな奴が来たらボクは逃げるよ。それまでは稼がせてもらう」
「……あっそ」
ほらな。やっぱりゲストキャラだ。それが当然だろうと言わんばかりの無表情だ。いや、こいつはいつだって無表情なんだけど。
「優斗さん、まずは謝りましょう?」
「ぐ……ごめんなさい」
「許さんでもない」
分かりやすいパワーバランスだった。
くそう、セレンさんがいるからって調子に乗りやがって。セレンさんがいないところで裸にひん剝いてそのまま放置してやろう。俺はこんなロリもどき貧乳に誑かされるほど意志の弱い人間ではないのだ。
メインヒロインならまだしも、こいつは攻略対象にすら入らないゲストキャラなのだから。
なんだか男として最低な事を先ほどから言っている気がする。
「ミラ。俺が全面的に悪かった。昼は何が食べたい?」
「急に殊勝になったところで変畜の称号は変わらない。そもそもボクたちの財布は今のところ共用だから、あなたの一存で決められるものではない」
その通りだった。
ギャルゲーがいかにイージーモードだったかがよく分かる。目が見えないくらい前髪伸ばした平均的な顔の主人公でもあれだけモテるのに、なんで俺はこんななんだ。摩訶不思議である。世界七不思議の一つに認定されて然るべきだと思う。……そういえば誰がどう決めてるんだろう、あれって。というかこの世界にそれがあるのかも分からないし、元の世界の七不思議もろくに知らない。ピラミッドだかスフィンクスだかが入ってたような気はするが……。
後は……なんだろう。ミステリーサークルとかかな。いや、本当に知らないんだけど。
UFOが作るとかそんな感じの。駄目だ、か〇けつゾロリのエピソードしか思い浮かばない。今の子供たちってかい〇つゾロリ読んだことあるのだろうか。あれは小学生のうちに読んでおくべきだと思う。教科書に指定されるべき当然の傑作だ。
俺がモテない事実が七不思議に入るよりかはよっぽど現実的な提案だと思う。
「ともかく」
パン、とセレンさんが手を叩いた。
区切りの意味でだろう。
「しばらくはまだ三人でいられそうですね。ミラちゃん、危ないと思ったらすぐに逃げてくださいね。優斗さんは不死身ですからある程度大丈夫ですが、ミラちゃんは生身なんですから」
なんか雑な扱いされてないか俺。
良いけどさ。実際不死身だから適当でも生きていけるし。
「それを言うならセレンもだと思うけど」
「私は私で身を守る術がありますから」
「ボクは逃げ足には自信がある。心配いらない」
カツン、と腰の裏に差してあるナイフを指で弾くミラ。
……まぁ確かに、あの魔具込みで考えればこの場の誰よりも逃げ足は速いだろうな。あれなしでもかなり動きは速いし。
「そうですか。そうですね、なら安心です。吸血鬼の件ですが、その女性の独断で動いていたと見てほぼ間違いないと思います。ですが今後もこういう事がある可能性は捨てきれないので……」
少し言いにくそうに逡巡した後、意を決したように後に続く言葉を。
「今夜から三人で一緒に寝ましょう」
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