女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第10話 襲来

 この世界に来てから、一ヵ月が経った。
 その間順調すぎると言っていい程に順調に仕事をこなして行き、5000万という、ミラを引き取った時に背負った借金も完済していた。
 ちなみにこの金、カストロは既に死罪になっているのに誰が受け取るのかと言うと。
 ミラ本人である。
 何がどうなってそういう形に落ち着いたのかは分からないが、5000万という借金――魔法で縛られた債務は、結局ミラ、つまりは俺たちに帰ってきている。
 ちなみにこの5000万はミラの所有物という事になるので、これを使って自分自身を買い戻すという事も出来る。
 実際そうした。


 それでもミラは俺たちと共にいるが、まあそこは本人の意思と俺たちの望んだ結果だ。
 ちなみに、俺が主従契約を破棄しようかという申し出をした時にそれを拒んだ理由を、俺が尋ねても答えてくれないのでセレンさん経由で訊いてみるとこれが案外かわいいもので、奴隷でなくなったら一緒に行動できないと思ったからだそうだ。


 ここから続く言葉は実にかわいくないが。


 優良物件(という表現は前にも聞いたが)と楽に一緒に行動できる立場を放棄するのが面倒だったとかなんとか。


 つくづく微妙に俺の思い通りにいかない世界だ。
 中途半端に王道の梯子を外して来るのは一体全体どういう了見なのだと神にでも問い詰めたくなるが、その神様は今俺と一緒に夕食を摂っているのだからもはや何を信じれば良いのかが分からない。


 ファンタジーにおける奴隷ってもっとこう……もっとこうさぁ。
 色々あるじゃん。色んなイベントが。それがあれよあれよのうちに奴隷という分かりやすい看板が外され、いつの間にか仲間になってたただの毒舌娘になっている。


 これじゃよくあるラッキースケベくらいしか期待できない……。


「期待を裏切るようで悪いけど、ラッキーなスケベをされる程ボクも迂闊じゃないからね」
「それはラッキーじゃないスケベなら良いという事を遠回しに言ってるのか?」
「そんな状況になったらそれはそれで迂闊だと思う」


 ぽりぽりと野菜スティックを食いながら、毒を吐くミラ。青い髪の貧乳娘で毒舌か。しかも若干ロリっぽい。ちょっと属性盛り過ぎだぜ。
 セレンさんくらいの、金髪巨乳ハイパー美人ってな具合にシンプルな方が好感もてる。


「でも案外、セレンより先にボクに会ってたらボクに惚れてたりして」
「…………」
「即答できないんですか?」


 唐突に、今の今まで微笑みながら見守っていたセレンさんが入ってきた。
 悪戯っぽい笑みを浮かべながら。
 順番が逆だったら、かぁ。
 確かにミラは見た目は良い。多少子どもっぽいところと貧乳なところに目を瞑ればほぼパーフェクトだ。個人的には眼鏡をかけてたらパーフェクトだったんだが。
 そういう意味では完璧に完全にパーフェクトなセレンさんの方にやはり軍配が上がるだろう。


 とは言え、それを直接言うのもやはり気が引けるもので……


「まぁ別にボクはユウトの事を好きとも嫌いとも思ってないからどうでも良いんだけど」
「好きの反対は無関心って言うな」
「無関心というより無感情」


 よりひどくなっている気がする。


「セレンは人間としても女性としても尊敬できる。ユウトは……まぁ、付属品?」
「物扱いかよ!」
「無関心じゃなく認識はしているところをボクはむしろ評価されるべきだと思う」
「お前、俺相手なら何を言っても許されると思っているだろう。俺は男女平等を信条とする男。女相手でも平然とスカートめくりが出来る冷血で純粋無垢な男子だ」
「それはただのスケベな男子小学生だと思いますけど」
「幼稚だね」


 二人から突き刺さるツッコミだった。


「……そんな事より二人とも。明日受ける依頼の話でもしようじゃないか」


 苦しすぎる話題転換だったが、あっさりとそれにセレンさんは乗った。


「その事なんですが、明日からは拠点を移そうかと」
「へぇ?」
「この辺りの高額な依頼は結構独占しちゃいましたからね……そろそろ怖い人たちに目を付けられる頃合いでしょうし、環境をリセットする意味で」
「あー……」


 突然現れた新人が、割りの良い仕事を搔っ攫ってって易とも簡単にこなしてきてしまうサマは傍から見れば鬱陶しい存在になるか。
 そりゃそうだわな。今のところドラゴンとかの見るからにやばそうなやつには手を出してないが、逆に言えばそのやばそうなやつ以外はほとんど俺たちでこなしてしまっている。
 まだ目標の30億には程遠いが……。


「ん。そう言えば、セレンたちが金集めしてる理由、訊いてない」
「あれ? そうだっけ」


 この一ヵ月間のどこかで軽く説明したような気もするけど。


「妖怪大戦争が起きるから仲間を集めるためにまずお金を集めてるんだっけ?」
「当たらずとも遠からず……って感じですかね」
「ふぅん。まぁボクには関係ないから、ある程度稼いだら勝手に離脱するよ。面倒事に巻き込まれるのは御免だし」


 ドライな奴だ。
 こいつとはそのくらいの距離感が丁度良いのかもしれないが。


「それでも私たちが一緒にいた事実は変わりませんし、何かあったら気軽に頼ってくださいね」


 と聖母のような事を言うセレンさん。


「……セレンの事は親しみを込めてお姉ちゃんと呼ぼうかな」
「キャラがブレ過ぎだろう」
「セレンがお姉ちゃんならユウトは間抜けな弟かな」
「俺の方が年下扱いなのか……」
「ボクは義理の姉」
「萌え要素を追加していくのか」


 貪欲な奴だ。
 どの層からの支持を狙っているのだろう。その場の勢いで生き過ぎだろうこいつ。そのうち流れで死んだりしそう。


 しかし義理の姉というのはいまいちインパクトが無いよな。それならいっそ実姉と設定してスリルを味わう方が良い。同じ意味で義妹の存在もあれだ。居たら居たで喜んで喜び勇んで受け入れるが、実の妹と言うのにも憧れないでもないんだよな。姉も妹も、居る奴は姉萌えも妹萌えも幻想だとか言うけれど俺は生憎一人っ子だからその幻想をいつまで抱けるんだよな。そういう意味じゃ実の姉も実の妹もいない俺は恵まれているのかもしれない。


 倫理観的に、血の繋がった相手と本気で恋愛するのはかなりハードルが高そうだが。
 だから最近の姉モノも妹モノも、実は血が繋がってませんでしたパターンに持っていきがちになるんだ。義理には義理の良さがあるが、ガチならガチでそれはそれで良いと思うのは俺だけなのだろうか。一人っ子としか分かり合えないのだろうか。


 おっと。
 話が脇道に逸れている。脇道どころか逆走している気がする。


「明日からは別の町に移ります」


 俺が話し始めるといつの間にか話題が脱線している事は多々あることなので、もはや慣れっこというようにセレンさんは何事もなかったかのように話題を戻す。
 流石は俺の嫁。息ぴったしだ。


「最後にドラゴンに挑戦してみるのも良いと思いますが、まだちょっと早いですしね」
「セレンさんの魔法で補正かかってる間は、俺ってドラゴンとも取っ組み合えるんじゃないんですか?」


 そんな事を言っていたような気がする。
 一番最初のオーク討伐の時に。


「取っ組み合えるだけじゃ勝てませんからね……。彼らは強力な咆哮ブレスを放ちます。私の魔法でも完全には防げないので、不死身の優斗さんはまだしも、私とミラちゃんは一発で蒸発しちゃいます」
「俺も蒸発したら再生は出来ないと思いますけど」


 ちなみに腕は生える。
 脚も生える。
 この一ヵ月でそれなりに修羅場は潜り抜けてる。充分安全マージンはとっているつもりでも、やっぱり思い通りにはいかない事もあるからな。


 不死身の体じゃなければもう10回くらいは死んでる。
 セレンさんの魔法の援護が十全になる前に突っ込んだりしての事だから俺が悪いのだが。ミラも一日十数秒しか戦えないし。
 《魔具》なしでもそれなりに戦えるようだが、俺とセレンさんに付いてくるにはそれ抜きだと相当厳しい。
 とは言え、戦闘自体が十数秒で終わるものばかりなのだからそれで構わないのだが。その十数秒は、ぶっちゃけ俺より速いしな。戦ったら案外、一瞬で首を落とされて終わりになるんじゃないだろうか。
 ……腕や脚は生えたから、首を斬っても体が生えてくる可能性は否定できないが。


 戦闘で無茶をする度にセレンさんにはこっぴどく叱られるのだが、俺はそんなセレンさんやミラが傷つく方が嫌だからな。多分これからも無茶をし続けるのだろう。


「ともかく、明日は移動ですから今日はゆっくり寝てくださいね」


 そんな言葉を締めに、今日という日が終わった。






 終わるはずだった。






 夢を見た。
 何か恐ろしいものが近づいてくる。逃げても逃げても追いつかれ、立ち向かう事の出来ない恐怖のようなものが。
 近づいて。
 近づいて――




 コンコン、というノックの音で目が覚めた。


 うわ、寝汗びっしょりだ……。
 部屋の中はまだ暗い。


 コンコン、と再びノックの音が響いた。
 セレンさんだろうか。ミラだったら一回目のノックの後、反応がなければ勝手に入ってくる。だがこんな時間になんの用だ……?


「はいはい、今開けますよー……と」


 扉を開けると、そこには一人の女性が立っていた。
 セレンさんではない。見たことのない人だ。
 俺と同じくらいの身長。目線はほとんど同じ場所にある。銀髪に紅い瞳。ぞっとするような。冷たい印象のする美人だ。胸元を強調するような、黒いドレス調の服を着ている。その二つのメロンに視線が吸い込まれそうになりつつ、俺は尋ねる。


「……どちら様ですか?」
「ふぅん、思ったより良い男じゃない。夜分遅くに御免なさいね。……この時間帯に寝ていた・・・・という事は、わたし達の同族・・である可能性は限りなく薄くなったけれど……うん、試してみないと分からないわよね」


 色っぽい声だ――なんて思う暇もなく。
 俺の右腕が捥がれていた。
 粘土細工でも捩じり切ったかのように、簡単に。


「いぃ――」


 ってぇ、と続くはずの声は無理やり塞がれた。
 口で。
 何をと思う暇もなく、咥内に舌が入ってくる。そのまま俺の舌を絡めとるように引っ張り出すと――


 ガチン、と。
 舌を嚙みちぎられた。


 そのまま勢いよく、吸われる。
 何を?
 血を――力を吸い取られる。


 一秒、二秒、三秒と続き、ようやく離される頃には俺は動けなくなっていた。


「ぉ……」


 声も出ない。
 力が入らない。右腕が――治ってない。
 いや、治ってはいるが限りなくその治りが遅いのだ。今までなら既に治っていても良いはずなのに。くそ。なんだこいつは。
 一気に入ってくる情報量が多すぎる。
 こいつは何なんだ。


「御免なさいね。――うん、貴方のような男性、好みよ。強く、清らかで、気高くて、とっても血が美味しい・・・・・・


 そう言って官能的に震えながらぺろりと舌なめずりする女には、牙があった。
 八重歯なんて比じゃない、明確な牙が。


「本当ならこのまま持ち帰っちゃいたいくらい――あぁでも、王様に怒られちゃうわ。まだ女神・・と直接衝突するには早いって言ってたし……。眷属がこの程度なら――人間のまま・・・・・強化した・・・・なら大したことないと思うんだけど」


 何を言っている。この女は。
 何をしようとしている。
 何がしたいんだ。


「そうだ。ついでに女神を狩っちゃえば――この子、連れ帰っても文句言われないわよね」


 右腕が治った。
 今まで治っていなかったのが嘘だったとでも言うように、一瞬で。
 意識も明確に。
 そして意志も明確に。


 こいつは――敵だ。


 手加減抜き、手心なんて加えずに全力で殴った。聖剣の力をフルに活用しての右ストレート。
 それを、女は受け止めていた。両手を使って、俺の拳を包み込むように。威力を全て殺されていた。


「ますます貴方が欲しくなっちゃうわ。血肉まで全て喰らったらどれほど満たしてくれるのかしら」


 その余裕綽々の顔面を狙って、強化された身体能力で右足での飛びまわし蹴りを放つ。右手は離れた。離したのか離れたのかは分からないが。


 ごきん、と骨の砕ける音が響いた。
 俺の体からではない。女の体から。


「……へぇ」


 感心したかのように女が声を漏らす。


 攻撃そのものは防がれていた。
 右腕を顔との間に挟んで、受け止められていた。だが、今度は威力までは吸収出来なかったようで女の右腕を折っていたのだ。


 先ほどよりも強く、聖剣の力が流れてきているのを感じる。
 身に着けていなくても、ただ所持者だという事実だけでこうも強くなるのか。


 これなら――と思った時には、俺の腹を女の右腕・・が貫いていた。
 同時に、女の瞳が紅く光る。体が動かない。声も出せない。腹から昇ってくる血を喀血する事すら出来ない。
 金縛り――か……? どれだけ力を込めようとしても、力が入らない。全ての筋肉が脳からの命令をシャットアウトしているかのような感覚。自分の体が思い通りに動かない恐怖。


「あ。危ない危ない、殺しちゃうところだったわ」


 女の瞳の輝きが消える。
 腹から手が引き抜かれ、俺はその場に崩れ落ちる。


「かっこいいじゃない、オトコノコ。今回はそのかっこよさに引いてあげるわ――次会う時は、もっともっと美味しくなってると良いんだけど」


 言って、消えた。
 どんな表情をしていたかは見えなかった。
 黒い霧となって。
 まるで水でにも沈んだかのように、とぷんと。
 跡形もなく、形跡もなく。


 ――くそ。


 意識が――もう。

「女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く