女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第7話 スニーキング

「良いんじゃないですか。悪人を懲らしめて裁かれる法はこの世界にありませんし」


 との事だった。
 あっさりとそう言い放ったのだ。


「日本にもあったんですよ、一般人でも現行犯なら逮捕できる、みたいな制度が。それと似たようなものです。この世界でも現行犯なら――例えばそれが殺人であったりその未遂であったりしたら、最悪殺して止めても良いという制度が」
「恐ろしい制度ですね」
「各人が魔力を持ち、武器を持つ世界ですから。殺人を全て罪として捉えてしまえば、抵抗する手段がなくなってしまうんです」


 殺人が罪ではない世界――か。
 考えてみれば当たり前なのかもしれないな。皆が戦闘手段を持つ世界ならば、ちょっとしたいざこざで殺し合いに発展しかねない。
 野蛮人かと言いたくなるがそういう事じゃないのだろう。


 道徳の時間。
 何故人を殺してはいけないのか――という議題で話し合ったことはないだろうか。
 その時に必ずと言って良いほどに出る意見は、『法律で禁じられているから』というものだ。大抵その場合、誰かがじゃあ法律で禁じられていなければ人を殺して良いのかと突っ込んでそこから発展していくものだが。
 ならば俺は『法律で禁じられているから』という視点からモノを言う人間だ。
 ニュースを見ていて、こいつは死ぬべきだろうという凶悪犯なんてたくさんいる。法律で禁じられてさえいなければ、被害者の家族は加害者を殺そうとするだろう。禁じられていてもなお、殺そうとする者がいるのだから。


 俺はどうか。
 暴力が、殺人が、法律で禁じられていない場所にきた。
 もちろん程度にもよるだろうし時と場合なんだろうが、殺しても良いときた。なら殺さなければ損だろう。なんて言えるほど俺は狂人じゃない。殺さなくて良いなら殺したくない。だが、迷うな。俺やセレンさん、もしかするとミラも含まれるかもしれない。俺の周りの人間が害されようとしている時。


 俺はきっと迷ってはいけないのだろう。
 迷わず、動かなければならないのだろう。


 もしかしたらそれが、あの男になるかもしれないというだけの話だ。
 異世界に来て三日目でこんな事を考えるハメになるとは。


 日本人だった時の常識は捨て去れ。
 既に俺は生き物をこの手で殺してるわけだしな。今更か。




 さて。


 ミラから聞いた話によると、あの男はかなり無茶な奴隷狩りをしていたようだ。


 簡単な話、普通に襲撃して目ぼしい女子供、労働力になりそうな若い男を捕まえて売る。単純で効果的なやり方だと思う。
 セレンさんによると、この世界では外部との接触を極限まで断たれたような、排他的な集落も数多くあるらしい。そこをあの男は狙うのだ。日本にあったかどうかは別として、元いた世界にも似たようなところは数多くあっただろうが。この世界では特別多いのだとか。インフラとか整ってなくても魔法でなんとかなってしまう弊害なのだろう。


 奴隷制度は本来、犯罪を犯したりルール違反したりした者をそこに堕とすための制度である。どう足掻いても、罪のない人々を無理やり奴隷にして良いという制度ではない。


 という訳で、俺たちがまずやったのは張り込みだった。


 地道で地味な張り込み。
 それは基本俺が行った。
 セレンさんは言わずもがな、ミラも結構目立つ容姿なのだ。整った顔というのはどれだけ変装しても気づかれてしまえば注目を集める。
 その点俺は容姿で注目を集めることはない。
 真っ黒の髪と黒い瞳は珍しいらしいが、そんなものは帽子を被ればいくらでも誤魔化せる。
 ちなみに帽子と服は毎日変えた。念の入れ過ぎだとは思うが、靴底の高さも日によってまちまちだ。その上、セレンさんが隠匿魔法というものを毎朝かけてくれている。どういう理屈かは知らないが、他人からの認識率を低くするのだとか。
 まぁ色々試してみた結果、この魔法がかかっている間はほぼ100%見つからないだろうという結論に達した。


 情報収集は女性陣が行った。
 とは言え、セレンさんは目立ちすぎる。良い意味でも悪い意味でも。比較的見た目の大人しいミラが主導で行うのだが、口数が少ないのは生来のもののようで難航していた。
 分かったのはあの男が、『カストロ』と名乗って活動していることのみ。
 いや、そうでなくともあの男の情報を集めるのは難しいのかもしれない。俺も張り込みしていて感じたことだが、異様に警戒心が高いのだ。


 俺ほどではないが、毎回変装して奴は拠点から出てくる。
 それともう一つ。


 あいつが拠点にしているところはただの一軒家だ。恐らく借家だと思うが、あそこに入っていった人間はカストロ本人以外、出てこない。
 これは中で殺されたとかそういう事じゃなくて、多分他の――俺たちの知らない出入り口から出ていっているのだと思う。
 あそこに入っていく連中は十中八九、カストロの客なのだろう。


 中々隙を見せない。


 何も起きないまま、一週間が過ぎようとしていた。




 ――その矢先だった。




 カストロが、人を引き連れて拠点から出てきた。それも三人。
 今までにないパターンだ。


 罠だ。


 そう直感した。
 あまりに不用心すぎる。


 ……待て。
 冷静に考えろ。
 何故あの男は今更になって、あの出入り口から人を出させた。
 今までと違う事。俺はそれに注目する。注目せざるを得ない。


 ――俺をここに釘付けにするため?


 ならあいつは俺に気が付いているという事か?
 いや、それはない。
 絶対に気づかれていない。
 セレンさんの隠匿魔法は完璧だ。普通に道を歩いても、肩がぶつかるまでその存在に気づかない。そういうレベルの魔法だ。


 そもそも行動する時に尾行が付いている前提で動くのが常だという可能性もある。つまりは鎌をかけるのだ。
 いるかいないかも分からない、自分をつけ狙う輩に。


 何故かカストロ達は外に出てきた後、動かない。何やら談笑しているようだが流石にそれは聞こえない。


 しばらく待っていると、竜車がやってきた。
 初日に見た、巨大なトカゲの引く馬車だ。


 移動する気か。


 なるほど、竜車で移動すればここに釘付けにした挙句、置いてけぼりにする事が出来る。
 普通ならな。


 隙を突いて。
 俺は竜車の下に潜り込んだ。
 隠匿魔法と、聖剣の力あってこその早業だった。誰もそれに気が付いていない。カストロ達が乗り込み、御者が発車の合図をした。
 そのまま竜車は移動を始める。


 ヤモリのような気分だ。
 車の底に張り付いて移動する日が来るとは。






 どれくらい張り付いていただろうか。
 二、三時間は平気で経っている。セレンさん心配してるだろうなぁ。本来なら宿に帰ってる時間だからな。何かあった事に気づいて動き始めてくれているかもしれないが、出来れば来ないで欲しい。
 荒事になるような気しかしないからな。


 ……と。
 竜車が停止した。
 何者かが降りてきて、話声が聞こえる。


「手筈は整ってますかネェ、ライザーさん」


 カストロか。
 相変わらず嫌な喋り方をする。


「勿論だ。既に配置は終えてある。後はあんたの悪趣味な癖を待つのみだな」
「いやはや、申し訳なィ。毎回悪いとは思ってるんですがネェ。やめられないのです」


 もう一人のライザーとやらはめんどくさそうに舌打ちする。


「金払いが良いから付き合ってやるがな。程ほどにしとけよ」
「はっはぁ。重々承知してますよォ。では、手筈通りに」
「あぁ」


 カストロが竜車に戻ってくる。
 ライザーという男は……乗ってこないみたいだな。別行動なのか?


 しばらくすると、再び竜車は動き始めた。


 ……んん?


 はーん。
 なるほど、耳を澄ませるともう一つ、竜車の音が聞こえる。
 別の竜車で移動してるって訳か。どういう理由かは分からないが。


 更にそのまま張り付いていると、森に入ったようで急に車体が揺れだした。
 聖剣の力がなければとっくに振り落とされてるな。車酔いはしそうだけど。気持ち悪い。


 そして。


 竜車が止まった。


 ぞろぞろと三人が降りて行く。
 すぐ近くでも人が何人も降りる気配がある。
 ……全部で何人だ? 把握できるだけでも、10人は軽くいるぞ。


 足音は段々と遠ざかって行き、やがては静寂のみが残った。


「ふー……あ」
「あ」


 竜車の下から這い出すと、御者と目が合った。
 どうしようか。こいつも間違いなくグルだしやっちまうか。


 とりあえず、顎先を殴って気絶させた。
 もう一つ竜車があったのでそちらの御者も。


 てか。
 もう一つの竜車でかすぎだろ。
 何十人って乗れる大きさだぞ。引いてる大トカゲも5匹だし。
 ……もしかしてこっちは、奴隷を載せるための竜車か? 途中で合流してきたのは大きな車体を町中まで持ってくるわけにはいかないからか。


 周到だなぁ、用意が。


 さてと、どうするかな。
 ここまでくっついてきたは良いが、ここからどうするか何も考えていなかった。隠匿魔法の効果は恐らく既に切れている。
 御者に一瞬で気づかれたし。


 こっそり奴らが行った方に向かってみるか。
 魔法の補正はもうないからかなり用心して進まないとすぐ気づかれそうだが。


 もうすぐ日が落ちる。
 そうすれば完全に森の中は闇に包まれるだろう。
 俺はと言えば簡単な灯りこそ持ってはいるが、夜目が効くわけではない。完全に暗くなる前に連中が向かった先に行かなければ。


 慎重に急ぐ。
 高等技術を求められつつ、俺は先を急いだ。

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