女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第6話 悪巧み

 少女を宿に連れ帰り、一人分の宿賃を追加で払って部屋に連れ込む。
 連れ込むって淫靡な響きだなぁ。犯罪臭が凄いよ。実際、日本じゃ奴隷も犯罪にあたるのだろうからそれも合わせてダブルでアウトだ。


 ちなみに青髪の少女は無気力というか無活力というか、着いてくるように言うとふらふらと歩きはしたものの、余りに覚束ない足取りだったのでとりあえず俺が負ぶってここまで来た。


 椅子に座らせ、一息つく。
 麻……ぽい何かで作られているワンピース風の服も着替えさせないとな。流石にこれは俺がやる訳にはいかないか。
 セレンさんとは体のサイズが違い過ぎるし(少女は小柄な部類に入るだろう。というか胸の差が激しい)、服も買わないといけないな。


「セレンさん、この子の服とか下着とか、俺が買いに行くわけにもいかないのでお願い出来ますか?」
「……分かりました。優斗さんはどうするんですか?」
「もう少し話しかけてみます」


 そう。
 この少女、一言も喋っていないのだ。
 それがどういう事なのかは俺には想像もつかない。分からない。だから語りかける。幸いお喋りはまあまあ好きな方なんだ。反応がなくたって喋り倒してやるさ。


 セレンさんが心配そうにしながらも服を買いに行った途端。
 少女が動いた。


 反応は出来なかった。
 あまりにもその動きが早すぎて。完全に不意を突かれて。
 いつの間に持ったのか、どこに持っていたのか、極小のナイフをその手に構えて。


「――っ」


 喉を刺された。
 痛い。熱い。痛――いや。


 治ってるなこれ。


「悪い、俺不死身なんだ」


 声は掠れていたが。
 少女の腕を捕まえてそう言った。


「…………」


 少女はそれを振りほどこうとするが、聖剣の所持者である俺の筋力に敵うわけもない。そもそも男と女だ。地力に差がある。


「別に取って食ったりはしないさ。とりあえず話し合おうぜ。どうどう」
「放せ。気持ち悪い」
「…………」


 抑揚のない声。


 放した。
 逃げる気配は……ないな。
 失礼な奴だ全く。開口一番気持ち悪いだと? 俺は却って気持ち良いぞ。


「……やばい奴に買われてしまった」
「不死身の人間なんてそうはいないだろう」
「マゾで不死身なんて見たこともない」
「待て。マゾは誤解だ。場を和ますジョークだ。英国紳士的なあれだ」
「英国……?」


 イギリスはこの世界にはないか。
 まぁそれこそ冗談だ。
 ともかく。


「なんで喋らなかったんだ?」
「喋らない方が油断を誘えると思った。貴方がボクを買わなくてもあいつは自力で殺して逃げる算段だった」
「ふぅん……」


 書かされた契約には奴隷が主に危害を加えないと書いてあったような気がするのだが、なんでこの子は俺を刺せたんだろう。魔法で縛られているはずだから、破れる道理はないと思うのだが。ギルドに登録した時のカードみたいな感じで、俺の常識を超えるレベルで縛られているはずだ。
 ……刺しても死なないから魔法も戸惑ってんのかな。


「ま、御覧の通り俺は殺しても死なない。だからその目論見は残念ながら外れる事となる。お前は今夜から俺の元でその身を捧げるのだ」
「仕方のない事。犯すなり殺すなり好きにすると良い」


 おおう。
 少女の口から飛び出すフレーズじゃねぇよ。


「冗談なんだけど」
「そう」


 何を考えてるかいまいち分からない子だ。
 この子とか少女とか読んでるが、そういえば名前を聞いてないな。


「名前はなんて言うんだ?」
「…………ミラ」


 なんだ今の間は。
 偽名か? まぁ偽名でも構わないけどさ。呼び方に困ったから聞いただけだし。
 どういった経緯で奴隷になったのかは……聞かない方が良いのかな。うーん。お喋りは得意とか言っといて、距離感を図りかねてるな。一応俺が主人という立場に当たるのだろうが、学生である俺には部下とか当然いた事もなく。
 後輩くらいならいたけど俺、基本舐められてた気がするなぁ。


「逃げたきゃ逃げても良いぞ」


 試しに言ってみると、馬鹿を見る目をされた。


「馬鹿」


 言われた。


「奴隷に堕ちた人間は主が生きている限り解放される事はない」
「え、そうなの?」
「世間知らずにも程がある。だからあんな男にまんまと利用される」
「…………」


 その通りだ。
 あの不快な男は終始俺をおちょくっていた。激昂させ、その場でこの子――ミラを買わせようとしていた。商売上手と言うべきなのか。お陰で俺は5000万という借金紛いなものを背負ってしまった訳だが。


「俺はあいつに利用されたかもしれないが、お前を助けようと思ったのはあいつと関係ない」
「助けてと言った覚えはない」
「そうだな。俺の自己満足だ」


 現に、俺はこいつ以外の奴隷を助けようとは微塵も思わない。
 最後にあの男はそういう挑発をしていったが、俺の手は二本しかないし、俺の視界はそんなに広くない。結局は俺が不快なだけだったのだ。
 自己満足。この言葉がこうも当てはまる行動も珍しいんじゃあないか?


「で、こいつは俺の自己満足の続きなんだが、別に逃げたきゃ逃げれば良い。ただしセレンさんが買ってきた服を着て、だ。無駄骨を折らせてしまうことになる」
「あの女性が大切なの」
「ああ。あの人は俺と違って不死身じゃない……と思う。だからセレンさんにはナイフを向けるなよ」
「……分かった」


 本当に表情の無い子だ。
 分かってるんだろうか。不安だ。


「ちなみに俺の名前は――」
「ユウト。そう聞いた」


 聞いてたのか。
 深い青の瞳で俺を見据えるミラは、何を考えているか全く分からない。
 表情にも声にも、その感情が現れない。


「何故ナイフを取り上げないの?」
「ん?」


 ああ。
 そういえばナイフはそのままミラが手に持っている。


「奴隷のままでいるしかないならお前にも働いて貰わないといけないからな。武器取り上げたら戦えないだろ」
「戦場で後ろから刺すかも」
「そうするなら俺にしろよ。死なないから」


 痛いのも一瞬だったし。
 不死身になっても怪我は怖いと思っていたが、実際してみるとそうでもないんだな。痛みも一瞬でとれるし、自覚してる頃には治ってる。そんな感じだから恐怖を感じる暇すらない。
 首を斬り飛ばされたり、腕や脚が切り離されたり、体全てが一瞬で吹き飛ぶような力で攻撃されたらどうなるのかは知らないけど。
 少なくとも致命傷になり得る攻撃は一瞬で治った。


「ユウトは本当に人間? ゴーレムでもそんな再生能力、中々ない」
「人間だよ。正真正銘、生粋の日本人だ」
「にほんじん?」
「俺の生まれた国が日本って言うんだよ。ここからじゃいけないくらい遠いとこにある」
「寂しくないの。家族と会えないのは」
「そうだなぁ」


 今は別に、て感じか。
 いつか寂しく思う時が来るかもしれないが――別に後悔はない。そんなこと言ったらむしろ母も父も俺の事を叱るだろう。男が言ったことを途中で曲げて逃げるのだけはなしだ。そんなかっこ悪い真似、天地がひっくり返ったって出来ない。


「寂しくないと言えば嘘になる、かもな。今のところは別に何とも思わないよ」
「……そう」


 声音は変わらなかったが、雰囲気……のようなものに変化があった。
 ような気がする。


「ボクは」


 ミラがぽつりと話し始める。


「ボクのいた村はあの男のせいで滅んだ。違法な奴隷狩りでだ。ボクはいつかあいつに復讐する」


 憎悪。
 激しい負の感情だ。
 声音に変化はない。表情にも変化はない。ただ、纏う空気感そのものが、ぴりぴりと肌を突き刺すようだった。


「何故今それを俺に言ったんだ?」
「奴隷契約は破棄できる。奴隷が人間を殺した時、罪に問われるのは主人。それも通常の三倍、刑が重くなる」
「だから?」
「さっき逃げたければ逃げても良いと言った。ボクとの奴隷契約を破棄して欲しい」
「なんだ、そうならそうと早く言えよ」


 なんて。


「なると思ったか、この馬鹿娘。一度でも関わったら最後、俺はお前を絶対見捨てねぇ。そんな事しようってんなら尚更だ。みすみす知り合いに人殺しなんてさせるかよ」
「あの男は死ぬべき」


 噛み締めるように繰り返す。


「死ぬべきだ。だからボクが殺す」
「そうか。じゃあ俺も手伝おう」
「……は?」
「逃げても良いと言ったな。あれは嘘だ。おい待て、無言でナイフを構えるな。俺の話を聞け。最近の女の子はみんなこうなのか? すぐに殺気立ちやがって……」
「自分が何を言ってるのか分かってるの。ボクはこれから殺人をすると言っているんだ」
「分かってるよ。分かってるし、お前は本当に実行に移すだろう。俺の首を躊躇なく刺したしな。そういう意味じゃぶっちゃけお前の面倒を見る義理なんて無いんだが、さっきも言っただろう。
 これは俺の自己満足だ。良いぜ、あいつ殺そう。ただそのせいで捕まるのは癪だからきっちり証拠をとってからだな」


 にや、と笑みを浮かべる。
 浮かべながら思い浮かべるのは、あの男の顔だ。
 直接対峙したから分かる。あいつは根っからの悪だ。殺すべき。とまで言う程あいつを知っている訳ではないが、むかっ腹が立ったのも事実である。
 理想は『違法な奴隷狩り』の瞬間を押さえてこの世界の警察のような組織に突き出す事だが、どうしても殺さなければならない場合になれば――いや、それはその時にならないと分からないか。


 問題はどうやってその違法な奴隷狩りの現場を押さえるか、というのと、セレンさんをどう説得するかだが――


 と。
 ちょうどそのタイミングで、ドアがノックされた。
 セレンさんだろう。
 案の定、入室を促すと、入ってきたのは両手にいっぱいの袋を提げたセレンさんだった。


「ただいま戻りましたー。って、なんですか? この空気」


 きょとんとするセレンさんに、どこか張り詰めていた気持ちがふっと緩む。


「なんでもないですよ。ちょっと悪巧みしてただけです」


 そして、一連の流れをセレンさんに説明する。
 それを聞いたセレンさんは――

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