女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜
第1話 謎の白い空間
「こんにちは、緑崎 優斗さん。突然ですみません。貴方にはこれから異世界に行き、その世界を救って頂きたいのです」
突然だった。
ついさっきまでファストフード店でポテトを咥えながらスマホを弄っていたはずなのに、謎の白い空間にいつの間にかいて目の前には美女がいた。
ライトノベル的にも一周回って新しい急展開なんじゃなかろうか。
何の前触れも感じなかった。
「…………」
美女とは言ったものの、それだけの言葉で言い表すのは不敬であると自身で確信できてしまうほどに、途轍もない美貌だった。
100人いたら100人は振り返り、1000人いれば1000人は一目ぼれするであろう程の美人と言えば俺の拙い語彙でも少しくらいは通じるだろうか。
目元とか鼻とか口とか、この上なくこれ以上なく整っている。
絹のような……いや、絹の何千倍も滑らかであろう艶のあるブロンドの髪とか、そこらのグラビアアイドルがこけしに見えるくらいのナイスバディとか。
通じるかな。
人間、度を越えた美を前にするとこうも表現できないのか。
もっと勉強しておくんだった。
きっと芥川賞受賞者辺りならうまくこの美貌を言い表すことが出来るのだろうが、残念ながら俺は普通の高校生だ。
帰ったらすぐに国語の勉強を始めよう。この人の美しさを表現できるだけで芥川賞なんてちょちょいのちょいでとれてしまうだろう。
あぁ、だが果たしてこの美しさ――いや、神々しさを果たして人間ごときの発明した言葉で表現しきる事が出来るのだろうか。
いや、不可能だ。
「あの……流石にそんなべた褒めされたら、照れちゃいます……」
彼女は流れるように綺麗な金髪を一房、顔の前に持ってきて自らの口元を隠しながらそう呟いた。
かわいい。
かわいい。
なんというかかわいい。
アホ毛が頭のてっぺんにちょんと生えてる辺りとかまじ萌える。
「……緑崎 優斗さん、ですよね?」
二度目の名前呼びに、はっと現実に引き戻される。
いや、ここが現実かどうかが分からないんだけどさ。
ともかく本題に移ろう。ぐだぐだしてても仕方ないのだ。
「そうですけど、ここはどこで貴女は誰なんですか?」
初対面の美女には敬語が礼儀だ。
初対面の醜女や男はどうなるんだって?
そりゃぁいきなりこんな訳分からないところにいきなり連れてこられて、出てきたのが美女以外だったらキレるさ。温厚なことに定評のある俺だって怒らないわけではない。
「ここは優斗さんの精神世界です。あなたの精神――心に直接話しかけている形になりますね。
それから私は……そうですね、分かりやすく言えば女神、のようなものです」
「女神様」
確かに美しさは女神級だ。
だが、精神世界ってなんだ。心に直接話しかけているってどういう事なんだ。
ちくわ大明神。
「ちくわ大明神……」
「心を読めるんですね」
なるほど、言ってることはあながち嘘じゃなさそうだ。
「それで、女神様が俺に何か用があるんですか? 交際の申し込みなら喜んで受けますけど。
むしろそれ以外なら全て断ります。話はまず付き合ってからです」
「私を女神的な存在だと認識して真っ先に脅しにかかってくるのはあなたぐらいでしょうね……」
頭痛を堪えるように額を押さえる女神様。
「心を読めるなら言っても同じだと思って」
「言って良い事と言っちゃ駄目な事ってありますよね?」
ボケ役の俺とツッコミ役の女神様という図式が今ここに成り立とうとしている。
思惑通りだ。
「なんて恐ろしい思惑……」
「目指せ夫婦漫才です」
「一ミリもブレませんね……」
でも、と女神様は続ける。
「そういう一途な人は嫌いじゃないですよ」
「ぐはっ」
カウンターだった。
顎先を砕くくらいのアッパーだ。脳が揺れる揺れない以前に普通に重症である。
「もう、せっかく威厳のある感じを出そうとしてたのに台無しです。そろそろ本題に移らないと、この世界を維持できるのもあと僅かなんですからね」
「女神様なんですからそこら辺どうにかしてくださいよ」
「……私でも、出来ないことってたくさんあるんです」
おっと。
本題に入りそうな雰囲気を感じ、佇まいを直す。
視線を伏せた彼女は、しかしすぐに俺の目をまっすぐに見て、言う。
「優斗さん。あなたには、私と一緒に世界を救って欲しいんです」
「よしきた任せろ」
「即答しちゃうんですか!?」
ずっこける、までは行かなくとも明らかに気勢を崩されたのであろう女神様は、信じられないとばかりに目をまん丸に見開いて俺を見る。
いやだって、断る理由ないし。
『私と一緒に』の時点で拒否する理屈はこの世界には存在しない。これまでも、これからもだ。
「説得するために一生懸命考えた時間は無駄だったんですね……」
安心したのかがっかりしたのかよく分からない風に脱力する女神様。
心なしか金髪のアホ毛もへたれているように見える。
「でも、言うまでもなく俺って普通の男子高校生ですよ。特別頭も良い訳じゃないですし、運動だって苦手ではないけど得意でもないってくらいです。
そのあたり込みで、俺を選んだ理由と具体的に世界を救うってどういう事なのかは知りたいですね」
「はい、それは勿論。
端的に言えば、優斗さんを選んだのはたまたま偶然です。……露骨に残念そうな顔しないでくださいよ。私が悪いことしてるみたいじゃないですか。
偶然、とは言っても誰でも良かった訳じゃないんです。実は一緒に世界を救ってくれそうな人を探している時に、ここが偶然なところなんですが、あなたが車に轢かれそうになってるご老人を助けたのを見たんです。
気になってその後もちょくちょく見てましたが、それで確信しました。
きっとこの人となら、世界を救える――って」
両手を巨大な胸の前で握り、優しく微笑む女神様。
という描写をした辺りで若干引き気味の笑顔になったが。
それはともかく、確かに爺さんを助けた事はある。物凄い勢いで突っ込んできた車を避けさせるために思い切り蹴とばして。
我ながら綺麗なドロップキックだったと思う。ちなみにその爺さんは蹴りの衝撃でぎっくり腰になったがそこはご愛敬。余裕なんてなかったんだから仕方ないじゃないか。
ちなみにそれが大体一年前。
つまりはこの一年間、俺は女神様に動向を見張られてた訳だ。
……普通に恥ずいな。
この一年のあれやこれや全て見られてたと思うと。
まぁ、女神様が俺を選んだ理由は分かった。
本当に偶然だったんだな。良かったーあの時あの爺さん助けてて。良い事もするもんである。
「世界を救うってのはどんな感じでやるんですか?」
「世界、と言ってもあなたが今いる世界……あ、この精神世界の事じゃないですよ。あなたが暮らしている世界の事です。その世界を救う訳じゃなくて、いわゆる異世界ってところです。
ライトノベルや漫画に出てくるあんな感じを想像してもらえればそれで正解です」
「ほほう」
核戦争を止めるとかいう内容じゃないのか。
アメコミのヒーローみたいな役割ではない、と。
「核戦争でこそないですが、それ並み……いえ、それ以上の悪意が異世界を襲うことになります。
それこそ、全人類が絶滅してしまうような」
「…………」
それって俺なんかが行って解決することなのか。
「私が力を授けます。その世界の古の英雄たちが備えていた力を。
一つは不死の力。一つは伝説の聖剣。それから――」
自身の胸に手を当て、続ける。
「私自身――古の英雄は先代の女神でしたが――つまりは、女神の力と知恵を」
不死に聖剣に女神ときたか。
至れり尽くせりと言うか、俺的には女神様だけで充分で十全なのだが。
「でも、俺にそんな凄い力を授けることが出来る上に女神様自身がその世界に行けるんなら、一人でも大丈夫なんじゃないですか?」
ていうかむしろ俺がお荷物になるんじゃ。
「実は、女神の力と知恵、と言ったものの下界に降りてしまうと、その力の大部分を消失してしまうのです。
残るのは強い魔法適正くらいで、私自身にはほとんど不死性もないですし、扱える聖剣も存在しません。
それならもっともっと強力な力を優斗さんに授けられればと思うのですが、さっきも言った通り、私にも出来ないことはたくさんあるんです……。
むしろ、お荷物になるのは私かもしれません。
でも――それでも、私はあの世界を救いたいのです。先代が愛したあの世界を。先代が愛する人と過ごした、あの美しい世界を」
「…………」
「私の我儘です」
…………。
話を聞き終えた俺は口を開く。
ふむ。
「色々聞きたい事言いたい事はまだたくさんあります。
けど、まぁそれは今は置いときましょう。
女神様と俺は今日初めて会いました。貴女は俺の事を知ってたかもしれませんが、俺は今まで神様なんていないと思ってましたからね。
今でももしかしたら夢なんじゃないかと思ってるくらいです。俺の想像力で女神様レベルの美女を思い浮かべることができないであろう事が辛うじて現実である可能性を高めています。
で、初めて会った人……神? めんどくさいんでここは人って事で話進めますね。初対面の人に、世界を救ってくれ。だとか足手纏いになるかもだけど異世界に連れてってだとか言われてもなんだそりゃってなるわけですよ」
淡々と続ける。
「でも」
思った事をそのまま口に出す。
「女の子が泣いて縋ってくるのを突っぱねるような人間にも、なりたくないんです」
女神様はそこでようやく――恐らく知らず知らずのうちに流れていたのであろう、涙を拭った。俺の話を聞く今も、未だ目は潤んでいる。
あぁ、卑怯だよなぁ。
女の涙って凶器だよ。
ずっぷりと刺さるぜ。
急所なら一撃だ。
「という訳で、世界を救う第一歩として一つ、俺の我儘を聞いてください」
まったく。
人に名を尋ねる時は自分から――なんてよく言ったものだ。
「女神様――名前はなんて言うんです?」
この日の事を、俺は一生忘れないだろう。
輝くような――照らすような笑顔と共に知った、彼女の名前と、その時の彼女の美しさを。
ここが俺と、女神セレンの物語のスタートだ。
突然だった。
ついさっきまでファストフード店でポテトを咥えながらスマホを弄っていたはずなのに、謎の白い空間にいつの間にかいて目の前には美女がいた。
ライトノベル的にも一周回って新しい急展開なんじゃなかろうか。
何の前触れも感じなかった。
「…………」
美女とは言ったものの、それだけの言葉で言い表すのは不敬であると自身で確信できてしまうほどに、途轍もない美貌だった。
100人いたら100人は振り返り、1000人いれば1000人は一目ぼれするであろう程の美人と言えば俺の拙い語彙でも少しくらいは通じるだろうか。
目元とか鼻とか口とか、この上なくこれ以上なく整っている。
絹のような……いや、絹の何千倍も滑らかであろう艶のあるブロンドの髪とか、そこらのグラビアアイドルがこけしに見えるくらいのナイスバディとか。
通じるかな。
人間、度を越えた美を前にするとこうも表現できないのか。
もっと勉強しておくんだった。
きっと芥川賞受賞者辺りならうまくこの美貌を言い表すことが出来るのだろうが、残念ながら俺は普通の高校生だ。
帰ったらすぐに国語の勉強を始めよう。この人の美しさを表現できるだけで芥川賞なんてちょちょいのちょいでとれてしまうだろう。
あぁ、だが果たしてこの美しさ――いや、神々しさを果たして人間ごときの発明した言葉で表現しきる事が出来るのだろうか。
いや、不可能だ。
「あの……流石にそんなべた褒めされたら、照れちゃいます……」
彼女は流れるように綺麗な金髪を一房、顔の前に持ってきて自らの口元を隠しながらそう呟いた。
かわいい。
かわいい。
なんというかかわいい。
アホ毛が頭のてっぺんにちょんと生えてる辺りとかまじ萌える。
「……緑崎 優斗さん、ですよね?」
二度目の名前呼びに、はっと現実に引き戻される。
いや、ここが現実かどうかが分からないんだけどさ。
ともかく本題に移ろう。ぐだぐだしてても仕方ないのだ。
「そうですけど、ここはどこで貴女は誰なんですか?」
初対面の美女には敬語が礼儀だ。
初対面の醜女や男はどうなるんだって?
そりゃぁいきなりこんな訳分からないところにいきなり連れてこられて、出てきたのが美女以外だったらキレるさ。温厚なことに定評のある俺だって怒らないわけではない。
「ここは優斗さんの精神世界です。あなたの精神――心に直接話しかけている形になりますね。
それから私は……そうですね、分かりやすく言えば女神、のようなものです」
「女神様」
確かに美しさは女神級だ。
だが、精神世界ってなんだ。心に直接話しかけているってどういう事なんだ。
ちくわ大明神。
「ちくわ大明神……」
「心を読めるんですね」
なるほど、言ってることはあながち嘘じゃなさそうだ。
「それで、女神様が俺に何か用があるんですか? 交際の申し込みなら喜んで受けますけど。
むしろそれ以外なら全て断ります。話はまず付き合ってからです」
「私を女神的な存在だと認識して真っ先に脅しにかかってくるのはあなたぐらいでしょうね……」
頭痛を堪えるように額を押さえる女神様。
「心を読めるなら言っても同じだと思って」
「言って良い事と言っちゃ駄目な事ってありますよね?」
ボケ役の俺とツッコミ役の女神様という図式が今ここに成り立とうとしている。
思惑通りだ。
「なんて恐ろしい思惑……」
「目指せ夫婦漫才です」
「一ミリもブレませんね……」
でも、と女神様は続ける。
「そういう一途な人は嫌いじゃないですよ」
「ぐはっ」
カウンターだった。
顎先を砕くくらいのアッパーだ。脳が揺れる揺れない以前に普通に重症である。
「もう、せっかく威厳のある感じを出そうとしてたのに台無しです。そろそろ本題に移らないと、この世界を維持できるのもあと僅かなんですからね」
「女神様なんですからそこら辺どうにかしてくださいよ」
「……私でも、出来ないことってたくさんあるんです」
おっと。
本題に入りそうな雰囲気を感じ、佇まいを直す。
視線を伏せた彼女は、しかしすぐに俺の目をまっすぐに見て、言う。
「優斗さん。あなたには、私と一緒に世界を救って欲しいんです」
「よしきた任せろ」
「即答しちゃうんですか!?」
ずっこける、までは行かなくとも明らかに気勢を崩されたのであろう女神様は、信じられないとばかりに目をまん丸に見開いて俺を見る。
いやだって、断る理由ないし。
『私と一緒に』の時点で拒否する理屈はこの世界には存在しない。これまでも、これからもだ。
「説得するために一生懸命考えた時間は無駄だったんですね……」
安心したのかがっかりしたのかよく分からない風に脱力する女神様。
心なしか金髪のアホ毛もへたれているように見える。
「でも、言うまでもなく俺って普通の男子高校生ですよ。特別頭も良い訳じゃないですし、運動だって苦手ではないけど得意でもないってくらいです。
そのあたり込みで、俺を選んだ理由と具体的に世界を救うってどういう事なのかは知りたいですね」
「はい、それは勿論。
端的に言えば、優斗さんを選んだのはたまたま偶然です。……露骨に残念そうな顔しないでくださいよ。私が悪いことしてるみたいじゃないですか。
偶然、とは言っても誰でも良かった訳じゃないんです。実は一緒に世界を救ってくれそうな人を探している時に、ここが偶然なところなんですが、あなたが車に轢かれそうになってるご老人を助けたのを見たんです。
気になってその後もちょくちょく見てましたが、それで確信しました。
きっとこの人となら、世界を救える――って」
両手を巨大な胸の前で握り、優しく微笑む女神様。
という描写をした辺りで若干引き気味の笑顔になったが。
それはともかく、確かに爺さんを助けた事はある。物凄い勢いで突っ込んできた車を避けさせるために思い切り蹴とばして。
我ながら綺麗なドロップキックだったと思う。ちなみにその爺さんは蹴りの衝撃でぎっくり腰になったがそこはご愛敬。余裕なんてなかったんだから仕方ないじゃないか。
ちなみにそれが大体一年前。
つまりはこの一年間、俺は女神様に動向を見張られてた訳だ。
……普通に恥ずいな。
この一年のあれやこれや全て見られてたと思うと。
まぁ、女神様が俺を選んだ理由は分かった。
本当に偶然だったんだな。良かったーあの時あの爺さん助けてて。良い事もするもんである。
「世界を救うってのはどんな感じでやるんですか?」
「世界、と言ってもあなたが今いる世界……あ、この精神世界の事じゃないですよ。あなたが暮らしている世界の事です。その世界を救う訳じゃなくて、いわゆる異世界ってところです。
ライトノベルや漫画に出てくるあんな感じを想像してもらえればそれで正解です」
「ほほう」
核戦争を止めるとかいう内容じゃないのか。
アメコミのヒーローみたいな役割ではない、と。
「核戦争でこそないですが、それ並み……いえ、それ以上の悪意が異世界を襲うことになります。
それこそ、全人類が絶滅してしまうような」
「…………」
それって俺なんかが行って解決することなのか。
「私が力を授けます。その世界の古の英雄たちが備えていた力を。
一つは不死の力。一つは伝説の聖剣。それから――」
自身の胸に手を当て、続ける。
「私自身――古の英雄は先代の女神でしたが――つまりは、女神の力と知恵を」
不死に聖剣に女神ときたか。
至れり尽くせりと言うか、俺的には女神様だけで充分で十全なのだが。
「でも、俺にそんな凄い力を授けることが出来る上に女神様自身がその世界に行けるんなら、一人でも大丈夫なんじゃないですか?」
ていうかむしろ俺がお荷物になるんじゃ。
「実は、女神の力と知恵、と言ったものの下界に降りてしまうと、その力の大部分を消失してしまうのです。
残るのは強い魔法適正くらいで、私自身にはほとんど不死性もないですし、扱える聖剣も存在しません。
それならもっともっと強力な力を優斗さんに授けられればと思うのですが、さっきも言った通り、私にも出来ないことはたくさんあるんです……。
むしろ、お荷物になるのは私かもしれません。
でも――それでも、私はあの世界を救いたいのです。先代が愛したあの世界を。先代が愛する人と過ごした、あの美しい世界を」
「…………」
「私の我儘です」
…………。
話を聞き終えた俺は口を開く。
ふむ。
「色々聞きたい事言いたい事はまだたくさんあります。
けど、まぁそれは今は置いときましょう。
女神様と俺は今日初めて会いました。貴女は俺の事を知ってたかもしれませんが、俺は今まで神様なんていないと思ってましたからね。
今でももしかしたら夢なんじゃないかと思ってるくらいです。俺の想像力で女神様レベルの美女を思い浮かべることができないであろう事が辛うじて現実である可能性を高めています。
で、初めて会った人……神? めんどくさいんでここは人って事で話進めますね。初対面の人に、世界を救ってくれ。だとか足手纏いになるかもだけど異世界に連れてってだとか言われてもなんだそりゃってなるわけですよ」
淡々と続ける。
「でも」
思った事をそのまま口に出す。
「女の子が泣いて縋ってくるのを突っぱねるような人間にも、なりたくないんです」
女神様はそこでようやく――恐らく知らず知らずのうちに流れていたのであろう、涙を拭った。俺の話を聞く今も、未だ目は潤んでいる。
あぁ、卑怯だよなぁ。
女の涙って凶器だよ。
ずっぷりと刺さるぜ。
急所なら一撃だ。
「という訳で、世界を救う第一歩として一つ、俺の我儘を聞いてください」
まったく。
人に名を尋ねる時は自分から――なんてよく言ったものだ。
「女神様――名前はなんて言うんです?」
この日の事を、俺は一生忘れないだろう。
輝くような――照らすような笑顔と共に知った、彼女の名前と、その時の彼女の美しさを。
ここが俺と、女神セレンの物語のスタートだ。
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