冷酷無比な殺し屋が一人の高校生となって異世界転生するとこうなる

Leiren Storathijs

自分の力

ギアリッグに入ると、遠くから見えた下層部の幅広い所は、多くの施設が、俺を囲むように円状に壁に埋め込まれていた。

並ぶ施設は、ベリックより豊富で、アクセサリー屋とその素材屋、仕立て屋と魔物から革を作る店又、防具屋から防具精錬に防具強化の店というように、対象の商品に関連する店が小分け小分けに立ち並んでいる。

それ故か、この下層部の商店街ともなる場所はかなり広いスペースがあるのにも拘らず、全の施設が高段差を付けて階段やエレベーターを付けても壁に埋めれている為、見るからにもう新しい店が開けない程、壁が埋まっている。

そこで何処に行ってもいつも落ち着いた様子を見せていた神月はその光景を見て興奮に目を輝かせる。

神月「わぁあ……凄ーい!」

霧咲「どうしたんだい?麗奈?」

神月「見てみて!綺麗なネックレスが沢山あるわよ!」

そういう事か……今回はベリックとは違い大都市とも言える街の広さだ。似ている景色が多い為、集合場所も分かりにくいだろう。

それにこの街に来た理由は報酬の武器を貰うためだ。いずれも全員居なくてはならない。あまり長くなるようであれば引き剥がすが、少し様子を見るか……。

神月が興奮気味でアクセサリー屋の商品を眺めていると、奥から店主らしき小太りの男が現れた。

装飾屋「お嬢ちゃん、俺の店を見に来るとは良い目を持ってるじゃねぇか。ここのアクセサリーは、全て俺の自作だからな!」

霧咲「自作!?凄いですね!」

店主は、神月の姿を一瞬目で全身を
眺めるとニヤリと笑う。

装飾屋「おうよ!夜は此処を閉めて、隣のシャッター閉まった工房を開けるからよ、良かったら見に来ると良い。それと……お嬢ちゃん興奮してる所悪いが、此処は単なるアクセサリー屋じゃねぇ」

神月「え?どういう事?」

装飾屋「お嬢ちゃんは、形からして魔術師だな?それに、まだ一発も魔法を撃ったことがねぇ事が見るからに分かる。その手にずっと抱き抱えてる魔導書も実は持っているだけで、読んだ事もねぇと見た」

神月「な、なんで……そんな事分かるのかしら?」

装飾屋「へっ、その誤魔化しは図星と同じだぜ?魔法ってのはなぁ、少量の力なら、イメージでもぶっ放せるが強大な力は、魔導書を用いて詠唱を挟む事で、凄まじい力が出せるようになる。更に、魔導書は一ページに付き使い捨てなんだよ」

神月「な……さっきからそれで私に何を言いたいの?」

装飾屋「続きはこれを買え!俺はアクセサリー屋の店主であり、学校の先生じゃねぇからな。授業料は特別料金として、この『魔道の腕輪』を買え。金貨五万枚だ!」

神月「ご、五万……!?」

装飾屋「おっと、今なら半額だ。買うなら今だぜ?」

どうやらぼったくりという訳では無い様だ。恐らく、煽られても尚興味津々に話を聞く神月の様子をみて店主は、買うと良い・  ・  ・  ・  ・物を授業料として取る。そう言う事だろう。

もしそうではなく、本当にぼったくりなら、店の中にはこれ以上に遥かに高い物が置かれている。それなのにわざわざ魔道の腕輪を勧めると言うならば、此処は買った方が、神月の成長に繋がるという事だろう。

俺は神月の横からアクセサリー屋のカウンターに金貨五万枚入った袋を置く。

装飾屋「うぉっ、兄ちゃん太っ腹だねぇ」

葛城「さっき億単位の収入あったからな」

装飾屋「お、億!?へ、まぁいいや毎度」

葛城「まったく、商売という物は大変なんだな?どうせ半額なんて物は口だけなんだろ?元々、五万という物に半額という言葉を付ける事で、客に元の値段は十万だと思わせ、安い間に買わせるという作戦。客を引き留めるまで買わせようとするとは、お前の店。実はあまり売れていないんだろう?」

装飾屋「おうおう兄ちゃん。それは禁句っていうやつだぜ?」

そう言うと神月が会話に割りこむ様に聞く。

神月「で、で?続きは何なの?」

装飾屋「へっ、そんなに聞きたかったのか?続きなんて無えよ」

神月「はぁ!?貴方、私を騙したわね!?」

装飾屋「へいへい。その今買った腕輪は、装着者が魔術師か魔導師だった場合、魔力の増強と、詠唱が短くなる効果を持つ。これで十分だろう?」

神月「へ、へぇ〜。なかなか良い腕輪ねぇ……?」

葛城「もう用は済んだか?そろそろ行くぞ。時間は無限にある訳じゃない。それと……店主に聞きたい事がある。この街の一番偉い奴は何処にいる?」

装飾屋「一番偉い……?あー、アヴァン将軍の事かな?その人ならこの街の最上部にいるよ。と言っても最上部も此処と同じくらい広いからな。友達に案内役やってる人いるから、伝えておこうか?」

葛城「あぁ、頼む」

そうして俺は、アクセサリー屋を後にし、その案内役が上の階層へ続くエレベーターで待っているという事なので、全員で向かった。

エレベーター前まで行くと、薄い無地の白Tシャツに半ズボンと裸足の、如何にも良い生活をしていない雰囲気を醸し出している、痩せ細った十代くらいの青年がこちらを見つけ、手を振ってくる。

本当にアクセサリー屋店主の友達なのだろうか?

青年「やぁ、君達が最上部のアヴァン将軍に会いたいって人達かな?」

葛城「あぁ、そうだ……」

ギッド「僕の名前はギッド。この街の案内役をしているんだ。君達がどんな人か知らないけど、アヴァン将軍はこの街の中で最も強く、街の皆んなから最も信頼が厚い人なんだ!」

そうギッドが誇らしげに言うと、仁道は疑いの目で聞く。

仁道「最も信頼が厚い?ならてめぇのその貧乏そうな服はどうにかならねぇのか?そんな奴だったらすぐにタダで服を渡してくれてもおかしかぁねぇだろ」

普通ならあまり聞かない方が良い話題だろう。しかしギッドは明るい声で口籠る事なく答える。

ギッド「ううん。良いんだ。例え僕がどんなに貧乏でも、皆んな自分の力で働いてお金を稼いでいるんだ。それにそんな事でアヴァン将軍を頼る人なんてみた事が無い。アヴァン将軍が信頼が厚い理由は絶対にこの街は如何なる魔物の大軍でも絶対落とされないって言う信頼なんだ」

仁道「そうかぁ、でもてめぇの皆んな自分の力でやってるから自分だけ贅沢はしないなんて考え俺は反対だ。まだてめぇは餓鬼だ。まぁ、俺らと三〜四歳くらいしか差はねぇけど、自分の力って言いながらおめぇは何にも出来てねぇじゃねぇか」

ギッド「いや?出来てるさ!毎日この街に来た人を案内してお金を稼ぐ。自分の力でね」

仁道「それじゃあ、自分の力で出来てるとは言わねぇんだよなぁ……。おい、今お前の稼いだ金見せてみろ」

ギッド「へへへっ、ほらっ!こんなに稼いでるんだよ!」

ギッドは両手の平いっぱいに約銅貨百枚を仁道に見せつける。すると、仁道はその銅貨をはたき落とし、銅貨を拾うと、自分のポケットにしまう。

ギッド「え?それ僕のお金!返して!」

仁道「あ?いつてめぇの金って決まったんだ?俺は落ちていた金を拾っただけだ」

ギッド「なんで!?今お金を僕からはたき落として……」

仁道「うるせぇな!ほら?自分の力で奪い返してみろ?」

ギッド「ぐううう。返せえええ!このおおお」

恐らくこれは、『自分の力』という物を試しているんだろう。ギッドにとっての自分の力とは、自分の頭で考え、生きる方法と金の稼ぎ方を知る者の事の様だが、仁道にとっての自分の力とは、そんな事を知っておきながら、生き延びる事を常に考えている者の事を指しているのだろう。

しかし、そんな光景をみる天野は仁道を止めようとする。

天野「いい加減返してやれよ!」

葛城「仁道。お前のやっている事は分かるが、それは時間の無駄だ。時間短縮の為、ギッドの案内は必須だ。金を返せ」

仁道「ったくしょうがねぇなぁ……おらよ」

ギッドは、仁道からお金を返して貰うと、下を向き黙り込む。

全く意味の無い事を……。仕方が無い。金を奪われただけであれだけ必死なる青年だ。金をちらつかせれば直ぐに機嫌を取り戻すだろう。

葛城「ギッド、今自分の力と言ったな?ならそのまま案内を続けろ。少ない稼ぎで必死に生きているようだが、そんな事も地道にやる事で必ず幸運が来る。しっかり案内を終わらせれば多額報酬を約束しよう。これは取引だ。良いな?」

ギッドは顔を上げ、俺の目を見ると、少し疑う表情をしているが、うんと頷く。

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