冷酷無比な殺し屋が一人の高校生となって異世界転生するとこうなる

Leiren Storathijs

ギアリッグ解放

ギアリック解放の為に身支度を終えた俺は、最深部坑道を塞ぐ岩を退ける準備が出来ているだろう、最深部広場へ向かう。

最深部広場まで道を下ると、既に百人から二百人以上のベリックの住人と最も後ろ奥に車椅子に座ったカードルの姿があった。

全て住人は、隊列を組んでいるという訳では無いが、広場にぎっしり詰まった光景を見て、天野や霧咲は驚く。

天野「すっげぇ……まるでこれから戦争でも起こんのかよ……」

霧咲「ベリックの住人が責任者の一声でこうなる程だ。という事は本当に凄まじい戦いになるんだろう……」

俺は後ろ奥にいるカードルに手を振り、準備が整った事を合図する。すると直後、カードルはベリックの住人全員に聞こえる程の大声で叫ぶ。

カードル「皆の者ッ!これより、ギアリック解放作戦を行う!全員、気を引き締めて行くぞ!」

ベリック住人「うおおおお!!」

カードルの声によってベリックの住人達は雄叫びを上げると、各々武器を持ち上げ、遂に坑道を塞いでいた岩が退かされる。

それに続いて俺もクロスボウを出し、仁道と天野も剣を抜く。霧咲、神月、瑠璃川は直ぐに後衛へ回る。

岩が退かされると、其処は先も見えぬ暗闇の坑道が続いていた。それから暫く静寂が入ると、小さい地響きを感じる。

その揺れは地震の揺れでは無い。小刻みな揺れから段々強くなる揺れ。俺はじっと暗闇の坑道の奥に視線を送ると直後、無数の赤い目が徐々に近づき、増えながら俺を睨み返して来た。

葛城「来るぞッ!!」

地面の揺れが俺の体を揺らす程強くなった時、遂に暗闇から大量の化け物が姿を現わす。

魔物「グオオオォ!」

その姿は長年地面の中に住んでいた所為か、黒い鱗で身を包み、体長はどれを見ても三メートルは超える。鋭い爪と牙をむき出しにし、中には俗に言うドラゴンと呼べる物まで居た。

ベリックの住人達が叫び声をあげながら、化け物の大群に突っ込む中、俺は瞬時に情報分析をする。


狼型 Lv 30
岩石型 Lv 50
仔竜型 Lv 35

竜型
【スティールドラゴン】
Lv 85

体力:65000/65000
魔力:20000/20000
攻撃力:4500
防御力:5000
俊敏力:100


やはりあのドラゴンは強い……。一匹だけ桁違いの力を持つ。もしかするとアレが坑道を岩で塞ぐ事になった原因なんだろうか?

そう考えていると仁道は誰よりも最前線に行き、化け物とのレベル差がある所為か倒せてはいないが、後衛による支援がしやすい様に、前へ前へ敵を吹き飛ばして行く。

仁道「オラオラオラオラァッ!!奥には行かせねぇぞ!」

天野「俺も行くぞおおお!」

やはり、天野と仁道を前衛に選んで正解だった。霧咲も一応近接攻撃組ではあるが、普段頭しか使わない頭脳系には、自分より遥かに強い相手に対し、突っ込む事は出来ても一度腰を抜かせばその場から動けなくなるだろう。

さて、俺の持つ武器は、召喚出来る実弾銃とクロスボウのみ。拳銃で使えるHSクリティカルは最低でも相手とレベルが10開いている必要がある。又、クロスボウも肉を貫通出来るは強度を持っても、硬い鱗を貫通する事は難しい。

そこで俺がやる事は、別に拳銃もクロスボウも使う必要は無い。最も強いドラゴンを仕留めるのは難しいが、ほんの数分時間があれば、一気に周りの雑魚を片付けられる。

これは、鉱石が豊富に取れるベリックだからこそ出来る作戦だ。

葛城「仁道ッ!その場であともう少し耐えてくれ!」

仁道「当たり前だぁ!幾らでも掛かって来いやあああぁ!!」

仁道の体力は計り知れないが、幾ら筋肉と力が有っても、自分の身長よりも大きい武器を振り回し、更に自分より遥かに重い物をその武器で薙ぎ払う事は、尋常では無い体力の消耗が見て分かる。

仁道はああは言っているが、体力の限界も近い筈だ。

俺は、仁道にそう指示を出すと、一番後ろにいるカードルに作戦内容を言う。

葛城「カードル!後衛に十分に体を動かせる者はどれくらいいる!」

カードル「十分に……?何がしたいんだ?」

葛城「岩を一人で持ち上げられる程度で良い。ありったけの掘った岩を投げまくってほしい」

カードル「ほぉ?お前さんにしては、なかなか野蛮な作戦だな」

葛城「あの化け物が体に持つ鱗は俺たちが持つ武器では切る事さえも出来ない。しかし、それと同等の硬さを持つ岩であれば、外装とも言える鱗を破壊する事は出来る筈だ」

カードル「なるほどな……良いだろう。まだ動ける者に、岩を持って来させよう」

葛城「助かる。出来れば急いで欲しい」

俺はカードルに作戦を言うと仁道の様子を見る。

仁道「はぁ……はぁ……っ!クソがあああぁぁ!!俺はこんなんじゃぶっ倒れねぇぞっ!」

予想した通りだ。あれ程の大群を一人で吹き飛ばすのは、誰だって体力は保たない。

俺は攻撃を与えられなくても、味方が居ない方向へ化け物の注意を引く。

十分後、漸く岩の準備が出来たカードルは遠くから俺に声をかける。

カードル「出来たぞおお!」

俺は、カードルは耳が遠い事を知っているので、岩を投げろとジェスチャーで伝える。

葛城「やれっ!」

すると、岩は化け物の大群に小さくとも雨の様に降り注ぐ。

魔物「ガッ!ギィ!ガァッ!!」

化け物の大群は、岩石の雨に為す術も無く、前進が止まる。そして遂に鱗が砕け、中の肉が見える。

俺は戦い中の全員に伝わる位の大声で、攻撃の指示を出す。

葛城「全員ッ!鱗が砕けた隙を突けぇッ!!」

ベリックの住人「うおおおお!!」

仁道「そう言う事かああ!!」

俺の指示によって一気に前進したベリックの住人達は、化け物に武器を振るうと、剥がれた鱗の中の肉に刃が食い込み、体重を掛ける事で刃が鱗を内側から剥がし、大きな傷を一撃で与える。

又、その傷に武器を突き刺し振り切る事で、肉と骨を抉り、容易に化け物の体を切断する事に成功する。

魔物「ボギャアアッ!!??」

こちらの攻撃が通る事を確信したベリックの住人達は、更に攻撃の勢いを上げ、一気に戦況を劣勢から優勢へ持ち込む。逆転だ。

仁道「ラストスパートだああああ!!」

数分後、この前進によって遂に雑魚の掃討が終わる。

しかし、優勢だと思った束の間、まだドラゴンは残っていた。

ドラゴン「グオオオォォォォ!!!」

そのドラゴンの咆哮は、ベリックに地震を起こす程響き、ベリックの住人達の士気は一気に下がる。

するとドラゴンは、口の中で炎を溜め始める。

今士気が最低まで落ちた此処に炎が吐き出されれば、地獄絵図を見る事になるのは間違いない。

更に俺は雑魚を片付ける方法は思い付いても、ドラゴンを仕留める方法までは考えて居ない。

しかし俺は、方法が無くとも一つ試したい事はあった。それは、各々味方が持つスキルだ。俺は断じてでは無いが、非現実的な攻撃は好まない。だが今はそんな事を言っている暇はない。一撃では無いものの恐らく重傷を与える事は出来るだろう。

そのスキルの名は、束縛スキル。コントロールチェーンという物だ。これは、対象を完全に鎖で縛り上げ、その間凡ゆる行動を制限・制御出来る。持続時間は十秒。再発動には使った事が無いため、何分掛かるか分からない。

但し、持続時間十秒と言えど、使うタイミングさえ見極めれば、この効果が本当であれば、凄まじい力を発揮出来るスキルだと俺は見ている。

そう考えていると、ドラゴンの口の中の炎は、今にも吐き出されそうな程、大きく膨れ上がる。

もう考えている暇は無い。一か八か決めよう。

ドラゴンは遂に炎を吐き出す、体を仰け反らせる予備動作に入る。この瞬間を狙って俺は、ドラゴンに手をかざす様にコントロールチェーンは発動する。

すると瞬時にドラゴンの足下から黒い鎖が無数に飛び出し、完全にその姿勢のまま、ドラゴンの体だけ時間が止まった様に動きが止まる。

葛城「炎を飲み込めッ!」

俺がやりたかったのはこれだ。

ドラゴンは俺の言う通り炎を飲み込む。その瞬間、最大限まで威力が膨れ上がった炎は、ドラゴンの腹の中で大爆発を起こす。

この動作に六秒。残り四秒一切の抵抗が出来ないドラゴンの体は、炎の爆発によって身体が丸々と膨れ、その直後、持続時間十秒は切れる。

しかしもう遅い。丸々と膨れ上がる身体では、炎を吐き出す事も、またのたうち回る事も出来ない。その先にある物は、死のみ。

ドラゴン「ッッッ!!??」

そして、ドラゴンの体は、炎の爆発に耐えきれず、爆風と砂塵を巻き上げ、風船の様に割れる。

葛城「まさか一撃で終わるとは……」

ドラゴンの爆発によって一瞬静寂が生まれるが、ベリックの住人達は、一人から二人、二人から四人と勝利の雄叫びを段々と上げる。

ベリックの住人「うぉ……おおぉ!うおおおお!勝ったぞおおお!!嘘だろ!?あんなドラゴンを一撃でやりやがった!!」

そんな大歓声が上がる中、俺は無言でカードルの下へ向かう。

カードルは俺を見ると大きな声で笑う。

カードル「ハッハッハ!お前さんは何者なんじゃあ!勝てる訳が無いと思えば、ドラゴンを一撃で葬るとは!ガハハハ!」

葛城「これはスキルの力だ。もし俺が発動タイミングを間違えていれば、戦況は変わらなかっただろう」

カードル「そう謙遜するな!お前さんは此処ベリックの英雄だ!」

葛城「そんな事はどうでもいい、報酬を受け取りに来た」

カードル「ほほぉ……お前さんには喜びという物は無いのか……まぁ、良い。報酬は、ベリックの施設、店の利用を無料及び、ギアリックからの武器贈呈。そして……一億金貨じゃ!ガハハハ!」

葛城「確かに受け取った。ギアリックから武器贈呈は、ギアリックに行けば良いのか?」

カードル「おう。話を付けておこう。お前さんがやった事はギアリックにとっても良い事だからな」

葛城「分かった。世話になった。じゃあな」

カードル「はぁ……なんと素っ気ない別れなんだ……」

こうして、地下坑道に潜む魔物を殲滅し、ベリックとギアリックを繋ぐ坑道を解放した。

俺は仲間を集め、次の目的地、ギアリックへ行く事にした。

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