君が見たものを僕は知っている
第26話 君の笑顔
僕はケーキ屋でケーキを受けとると病院へと向かっていた。少し早く出たこともあり、信也と凜とはまだ会っていない。恐らく僕が一番最初に病院にたどり着くだろう。
僕は鈴佳の驚いた顔を想像しながら、ウキウキとした足取りで病院に着いた。
着いてもまだ入るわけにはいかない。院内で鈴佳に会ってしまえば台無しだ。それに、窓からでも僕の存在を確認されたらそれも台無しだ。だから、見つからないように病院の入り口の付近にある、大きな木の下のベンチに座って二人を待つことにした。
ツリーやイルミネーションライトなどの飾りはすでに、病院の中に運んである。18時になったら看護師さんが鈴佳を連れ出して、別の看護師さんたちが病室に運んでくれることになってる。ご協力に感謝いがいの言葉はない。
そうこうしているといつものように仲良く二人がやってくる。凜は流石というべきだろう、気を聞かせて暖かい缶コーヒーを途中で買ってきてくれていた。正直、今日は寒い。これはありがたい。
時間まではあと15分ぐらいと言ったところだろう。僕達はそわそわとしていた。人にサプライズをするってこんなにドキドキするもんなんだなと実感していた。
時間は着々と進んでいく。
「そういえば、昨日あれからラストクリスマスを久しぶりに聞いてさ、またドはまりしちゃった」
唐突に信也がそんなことを言うので、飲んでいたコーヒーを吹き出してしまった。
「なんだよ、急に」
僕と凜はあははっと笑う。
「仕様がないだろ!めっちゃいい歌なんだから!それにお前らが昨日思い出させるから悪いんだぞ!」
確かに昨日話したし、いい歌なのは知っているけど、なんとも単純というか純粋というか。本当に面白いやつだ。
「あはは、ありがとう。ちょっと緊張が解れた」
凜も僕と同じく変な緊張をしていたらしい。僕も笑ったら少し楽になった。
そんな話をしているとスマホの時計が18時を指した。
「よし!じゃあ!いくか!」
信也の合図で僕達は立ちあがり鈴佳の病室へと向かった。
病室に着くと予定通りに鈴佳はいなかった。病室には先に入れといたツリーと飾りがある。これも予定通り看護師が持ってきてくれたのだ。
「じゃあ、始めようか!」
僕は気合いを入れて作業に取りかかった。
凜はツリーの飾りを綺麗につけている。やっぱりセンスというか常に凜は僕達の上にいる。配色やらをうまくバラつかせてとても綺麗な見栄えになっている。
僕達は部屋の周りにイルミネーションライトや飾りをつけていた。これが中々大変で、時間との勝負ということもあり焦ってしまう。
「そっちもっと引っ張って、そこはもうちょっと上に」
ツリーの飾りつけを終えた凜は、まるで現場監督のように、番組のプロデューサーのように指示を出している。
僕達はその指示通り作業をする。驚くことに凜が入ってからはすんなりと作業が終わった。やっぱり凜は凄い。
作業が終わったので後は鈴佳を待つだけだ。部屋を真っ暗にしてスタンバイする。鈴佳が入って来たら、信也がツリーとイルミネーションのコンセントを入れて点灯させることになっている。
僕達はその瞬間を今か今かと待つ。話していると話し声でバレるので話すこともできない。時間に経つにつれて、変な緊張やワクワクとした感情が高まってくる。
しばらくすると、廊下から話し声が聞こえてくる。看護師さんと聞き慣れた声だ。足音と声が近づいてくる。そして、部屋の前で止まるとガラガラとドアが開いた。
その瞬間、信也がコンセントを入れる。そうすると部屋中がまるで星空のように輝いて、ツリーも飾りに反射した光がとても綺麗だ。凜はこの反射も頭に入れて飾りつけをしていたようだ恐るべし。
鈴佳は目の前の光景にただ見とれてゆっくりと病室に入ってくる。鈴佳が完全に病室に入ると、後ろの看護師がドアをガラガラと閉めた。
そうすると、廊下の光が無くなり、真っ暗な中にイルミネーションが輝く。その光景は準備した僕達もサプライズを忘れて見とれるぐらい綺麗だった。
「え?みんな?」
鈴佳は光景を一通り見て、驚いた表情で僕達を見る。
「メリークリスマス!1ヶ月早いけどね」
僕の言葉に続いて信也と凜も「メリークリスマス!」と言って、手に持っていたクラッカーをパンっ!と鳴らす。
そこで信也は部屋の電気をつける。これでお互いの顔がよく見える。鈴佳はきっとびっくりしているだろう。そう思って鈴佳の顔を見る。
でも僕の予想とは違って鈴佳は泣いていた。
「みんな。ありがとう。凄い綺麗だよ。本当にありがとう」
鈴佳は何度も何度も「ありがとう」と言っている。きっと毎日不安だったのだろう。それでも涙を見せずに頑張っていたんだ。
今の鈴佳に必要だったのは、我慢しないで泣くことだったのかもしれない。そう思えば最高のサプライズになったのかな?
「鈴佳ちゃん!さぁ、こっちに来て!ケーキもあるんだよ!一緒に食べようよ!」
凜は鈴佳の頭をポンポンの撫でながら優しく話す。
「わぁー!凄い!美味しそうなケーキ!これってフラッフィーのやつ?食べたかったんだぁ~」
フラッフィーとはケーキ屋の店名だ。いつもあのケーキ屋とかで通じるからあまり口にはしない。
「よし!じゃあ!切り分けるぜ!」
包丁と皿、フォークも病院が用意してくれていた。何から何まで申し訳ない。後でなんかお礼をしないと。
信也は丁寧にケーキを切り分けている。こういうところは井街に器用だ。とても綺麗に切り分けた。
その間に僕は準備しておいた紅茶を淹れてみんなへと配る。
みんなにケーキと紅茶が行き渡ると信也が口を開く。
「それでは食べますか!いっただきまーす!」
信也の合図でみんなも「いっただきまーす!」と挨拶をしてケーキを食べ始める。
「うーん!美味しい!」
鈴佳はいつものように、目を細めて体を小さく震わす。美味しい時のあの仕草だ。久しぶりに見れて嬉しい。
「めっちゃ旨いなこれ!なんかいつもより更に旨く感じるよ!」
信也も口一杯に頬張って幸せそうだ。
「あーもう、口についてるって!ほら止まって!」
凜は信也のお母さんみたいに、口についたクリームを拭き取っている。
そんな二人を見て鈴佳はあははっと笑っている。良かった。この笑顔を見るために今日は頑張ったのだ。もうこれ以上になにもいらない。
僕ははケーキを食べ終えると紅茶を片手に談笑をした。
「でも、本当にビックリしたよ。開けた瞬間は何が何だか分からなかったし、信也くんはなんか不審者に見えた」
「おい!俺がナイスなタイミングで点灯させたんだぞ!それを不審者扱いはないよ」
こんな会話をするのはいつ以来だろう。もしかしたら、数日ぐらいぶりなのかもしれないが、とてつもなく長い時間、こんな瞬間から離れていた気がする。
「あ、ちなみにこれ信也が言い出したんだよ」
凜の言葉に少し恥ずかしそうにする信也。
「え!?そうなの!?ありがとうね!信也くん!」
鈴佳はニコッと可愛い笑顔を見せる。
「え、まあ、別に大したことないよ」
その笑顔に信也は少し頬を染めている。
「あれれ?私という女がいながら、何、その反応は?」
その様子を見ていた凜が信也に悪戯な笑みを浮かべる。
「え?な、何言ってですか!?凜様が一番ですよ!それに鈴佳ちゃんには本命がいるし!」
その言葉に僕と鈴佳はチラリと目が合う。久しぶりのこのむず痒い感じになんだか照れてしまう。
鈴佳も僕と同じ気持ちらしく、恥ずかしそう笑みを浮かべながら、下を向く。
それから僕達は下らない話で盛り上がったり、信也のラストクリスマスの熱唱を聴いて、楽しい時間は終わりを告げた。
僕達は片付けをして病院を出た。ツリーと飾りはまた病院で使いたいということで、今回のお礼を込めて譲った。
鈴佳は病室の窓から僕達が帰るのを手を振って見送ってくれた。鈴佳の笑顔を見れて、寒かったはずの心と体がポカポカとしていていた。
僕は鈴佳の驚いた顔を想像しながら、ウキウキとした足取りで病院に着いた。
着いてもまだ入るわけにはいかない。院内で鈴佳に会ってしまえば台無しだ。それに、窓からでも僕の存在を確認されたらそれも台無しだ。だから、見つからないように病院の入り口の付近にある、大きな木の下のベンチに座って二人を待つことにした。
ツリーやイルミネーションライトなどの飾りはすでに、病院の中に運んである。18時になったら看護師さんが鈴佳を連れ出して、別の看護師さんたちが病室に運んでくれることになってる。ご協力に感謝いがいの言葉はない。
そうこうしているといつものように仲良く二人がやってくる。凜は流石というべきだろう、気を聞かせて暖かい缶コーヒーを途中で買ってきてくれていた。正直、今日は寒い。これはありがたい。
時間まではあと15分ぐらいと言ったところだろう。僕達はそわそわとしていた。人にサプライズをするってこんなにドキドキするもんなんだなと実感していた。
時間は着々と進んでいく。
「そういえば、昨日あれからラストクリスマスを久しぶりに聞いてさ、またドはまりしちゃった」
唐突に信也がそんなことを言うので、飲んでいたコーヒーを吹き出してしまった。
「なんだよ、急に」
僕と凜はあははっと笑う。
「仕様がないだろ!めっちゃいい歌なんだから!それにお前らが昨日思い出させるから悪いんだぞ!」
確かに昨日話したし、いい歌なのは知っているけど、なんとも単純というか純粋というか。本当に面白いやつだ。
「あはは、ありがとう。ちょっと緊張が解れた」
凜も僕と同じく変な緊張をしていたらしい。僕も笑ったら少し楽になった。
そんな話をしているとスマホの時計が18時を指した。
「よし!じゃあ!いくか!」
信也の合図で僕達は立ちあがり鈴佳の病室へと向かった。
病室に着くと予定通りに鈴佳はいなかった。病室には先に入れといたツリーと飾りがある。これも予定通り看護師が持ってきてくれたのだ。
「じゃあ、始めようか!」
僕は気合いを入れて作業に取りかかった。
凜はツリーの飾りを綺麗につけている。やっぱりセンスというか常に凜は僕達の上にいる。配色やらをうまくバラつかせてとても綺麗な見栄えになっている。
僕達は部屋の周りにイルミネーションライトや飾りをつけていた。これが中々大変で、時間との勝負ということもあり焦ってしまう。
「そっちもっと引っ張って、そこはもうちょっと上に」
ツリーの飾りつけを終えた凜は、まるで現場監督のように、番組のプロデューサーのように指示を出している。
僕達はその指示通り作業をする。驚くことに凜が入ってからはすんなりと作業が終わった。やっぱり凜は凄い。
作業が終わったので後は鈴佳を待つだけだ。部屋を真っ暗にしてスタンバイする。鈴佳が入って来たら、信也がツリーとイルミネーションのコンセントを入れて点灯させることになっている。
僕達はその瞬間を今か今かと待つ。話していると話し声でバレるので話すこともできない。時間に経つにつれて、変な緊張やワクワクとした感情が高まってくる。
しばらくすると、廊下から話し声が聞こえてくる。看護師さんと聞き慣れた声だ。足音と声が近づいてくる。そして、部屋の前で止まるとガラガラとドアが開いた。
その瞬間、信也がコンセントを入れる。そうすると部屋中がまるで星空のように輝いて、ツリーも飾りに反射した光がとても綺麗だ。凜はこの反射も頭に入れて飾りつけをしていたようだ恐るべし。
鈴佳は目の前の光景にただ見とれてゆっくりと病室に入ってくる。鈴佳が完全に病室に入ると、後ろの看護師がドアをガラガラと閉めた。
そうすると、廊下の光が無くなり、真っ暗な中にイルミネーションが輝く。その光景は準備した僕達もサプライズを忘れて見とれるぐらい綺麗だった。
「え?みんな?」
鈴佳は光景を一通り見て、驚いた表情で僕達を見る。
「メリークリスマス!1ヶ月早いけどね」
僕の言葉に続いて信也と凜も「メリークリスマス!」と言って、手に持っていたクラッカーをパンっ!と鳴らす。
そこで信也は部屋の電気をつける。これでお互いの顔がよく見える。鈴佳はきっとびっくりしているだろう。そう思って鈴佳の顔を見る。
でも僕の予想とは違って鈴佳は泣いていた。
「みんな。ありがとう。凄い綺麗だよ。本当にありがとう」
鈴佳は何度も何度も「ありがとう」と言っている。きっと毎日不安だったのだろう。それでも涙を見せずに頑張っていたんだ。
今の鈴佳に必要だったのは、我慢しないで泣くことだったのかもしれない。そう思えば最高のサプライズになったのかな?
「鈴佳ちゃん!さぁ、こっちに来て!ケーキもあるんだよ!一緒に食べようよ!」
凜は鈴佳の頭をポンポンの撫でながら優しく話す。
「わぁー!凄い!美味しそうなケーキ!これってフラッフィーのやつ?食べたかったんだぁ~」
フラッフィーとはケーキ屋の店名だ。いつもあのケーキ屋とかで通じるからあまり口にはしない。
「よし!じゃあ!切り分けるぜ!」
包丁と皿、フォークも病院が用意してくれていた。何から何まで申し訳ない。後でなんかお礼をしないと。
信也は丁寧にケーキを切り分けている。こういうところは井街に器用だ。とても綺麗に切り分けた。
その間に僕は準備しておいた紅茶を淹れてみんなへと配る。
みんなにケーキと紅茶が行き渡ると信也が口を開く。
「それでは食べますか!いっただきまーす!」
信也の合図でみんなも「いっただきまーす!」と挨拶をしてケーキを食べ始める。
「うーん!美味しい!」
鈴佳はいつものように、目を細めて体を小さく震わす。美味しい時のあの仕草だ。久しぶりに見れて嬉しい。
「めっちゃ旨いなこれ!なんかいつもより更に旨く感じるよ!」
信也も口一杯に頬張って幸せそうだ。
「あーもう、口についてるって!ほら止まって!」
凜は信也のお母さんみたいに、口についたクリームを拭き取っている。
そんな二人を見て鈴佳はあははっと笑っている。良かった。この笑顔を見るために今日は頑張ったのだ。もうこれ以上になにもいらない。
僕ははケーキを食べ終えると紅茶を片手に談笑をした。
「でも、本当にビックリしたよ。開けた瞬間は何が何だか分からなかったし、信也くんはなんか不審者に見えた」
「おい!俺がナイスなタイミングで点灯させたんだぞ!それを不審者扱いはないよ」
こんな会話をするのはいつ以来だろう。もしかしたら、数日ぐらいぶりなのかもしれないが、とてつもなく長い時間、こんな瞬間から離れていた気がする。
「あ、ちなみにこれ信也が言い出したんだよ」
凜の言葉に少し恥ずかしそうにする信也。
「え!?そうなの!?ありがとうね!信也くん!」
鈴佳はニコッと可愛い笑顔を見せる。
「え、まあ、別に大したことないよ」
その笑顔に信也は少し頬を染めている。
「あれれ?私という女がいながら、何、その反応は?」
その様子を見ていた凜が信也に悪戯な笑みを浮かべる。
「え?な、何言ってですか!?凜様が一番ですよ!それに鈴佳ちゃんには本命がいるし!」
その言葉に僕と鈴佳はチラリと目が合う。久しぶりのこのむず痒い感じになんだか照れてしまう。
鈴佳も僕と同じ気持ちらしく、恥ずかしそう笑みを浮かべながら、下を向く。
それから僕達は下らない話で盛り上がったり、信也のラストクリスマスの熱唱を聴いて、楽しい時間は終わりを告げた。
僕達は片付けをして病院を出た。ツリーと飾りはまた病院で使いたいということで、今回のお礼を込めて譲った。
鈴佳は病室の窓から僕達が帰るのを手を振って見送ってくれた。鈴佳の笑顔を見れて、寒かったはずの心と体がポカポカとしていていた。
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