君が見たものを僕は知っている
第22話 突然の不幸
楽しかった夏休みもあっという間に終わり、また同じような日々の繰り返しが始まっていた。ただ、僕と鈴佳の中では確かに何かが変わっていた。それも目に見えるようなものではないけど、僕達の心の中でしっかりと育んでいかなければならない。
「あー、夏休み終わって、もう一週間たったのか~」
信也はべたりと机に突っ伏している。
「なんか、あっという間だよ。そうこうしてるうちに受験のシーズンになっちゃうよ」
凜はハァーとため息をついている。凜ならきっと大丈夫だろうけど。
「なんか、楽しいことねぇかな~、楽しみがあれば頑張れるのにな~」
信也は腕を組ながらうーんと考えている。
「じゃあ、こういうのは?春は花見。夏はキャンプ。秋はまぁ文化祭ってことにして、季節にあったことをするの!だから冬はクリスマスパーティーとか!?」
凜は宝石を見ているかのように目をキラキラとさせている。
「クリスマスパーティーか。ちゃんとやったことはないかも」
僕もみんなとのクリスマスパーティーを思い浮かべてウキウキとしている。
「よし!じゃあ!決まりだな!細かいことはこれから少しずつ決めればいいな。まだ9月だし」
信也はスマホのカレンダーにメモをしている。
こうしてまた一つ楽しみが増えた。なによりも聖夜に鈴佳と過ごせることが嬉しかった。
「あ、でもその前に鈴の誕生日があるね。今月は凜の誕生日もあるし」
そうだ。凜の誕生日もだけど、鈴佳の誕生日は何か考えなくちゃ。僕の誕生日に遊園地に誘ってくれたんだ僕も何か。
それからの日々はあっという間だった。凜の誕生日をみんなでお祝いして。文化祭も楽しい思い出へと変わった。気づいたらカレンダーは11月を示していた。
あれから、僕は必死になって考えた。鈴佳の誕生日は何処に行こうか。何をしようか。何をあげようか。でもその時間は意味のないものになった。
11月2日。その日は土曜日で学校は休みだった。僕はのんびりとテレビを見ていた。すると、遠くからサイレンの音が聞こえてくる。その音はどんどん近づいてくると、僕の家の前を通り過ぎて、少しして止まった。
え?近所?さっきのサイレンの音は救急車のものだ。つまりこの近くで誰かが、急病か事故かで救急車を呼ぶ状況になったってことだ。もちろん知り合いはたくさんいる。僕は少し気になって家を出てみた。
家を出ると僕と同じような人たちが救急車の付近に群がっている。そこで、僕は気づいた。その救急車が止まっているところは鈴佳の家だ。僕は急に怖くなって急いで走った。
救急車に近づくとちょうど車に乗せられるところだった。その担架の上に寝ている人を見て僕は頭が真っ白になった。
担架で運ばれていたのは鈴佳だった。
「す、鈴!!」
僕は周りの目なんて気にせずに叫んでいた。何度も何度も叫んでいた。何も考えられず、ただ名前を呼んでいた。鈴佳はそんな僕の声も聞こえていないようだ。目を瞑って動かない。
鈴佳とお母さんを乗せた救急車は病院へと向かって走り出した。
僕はその間もずっと叫んでいた。喉が裂けてしまうんじゃないかと思うぐらい叫んでいた。
それから、周りの人たちは何かをボソボソと話ながら去っていく。僕はその場に立ち尽くすだけだった。
異変に気づいて母が僕のもとへ走ってくるまで、僕はボーッと救急車が走っていった方を見つめていた。
僕はリビングのソファーに座っていた。どうやってここに戻って来たかも分からない。母の声が聞こえてそれから僕は……。
気がついたら僕は泣いていた。子供のように声をあげて泣いていた。さっきの光景が頭から離れない。信じたくなかった。昨日まで一緒に居たのに。いつものように笑っていたのに。どうして!
すると、急に温かいものに包まれた。母だ。母が僕を抱き締めてくれている。その温もりが優しくて、僕はもっと泣いた。
母は僕が泣き終わるまでずっと抱き締めてくれていた。僕が落ち着くと母は温かいコーヒーを淹れてくれた。
「蓮。さっきね鈴佳ちゃんのお母さんが電話をくれてね、蓮くんが心配してるだろうからって、鈴佳ちゃん、急に胸を押さえて苦しんだらしくて、今は落ち着いたって。原因は今調べているところらしいわ」
母は僕を気遣いながら、ゆっくりと説明をしてくれた。僕はとにかく無事だと聞いて安心した。
「昨日まで、あんなに元気だったのに。どうしてこんなことになったんだろう?なんで鈴が?」
僕は母にも分かるわけのない質問をぶつける。きっと誰にも分からない。
「分からないわ。でも今はそんなことを考えても意味ないわよ。昔、蓮が事故にあって生死の境をさ迷ったときあったでしょ?あの時ね鈴佳ちゃん、ずっと蓮くんが無事でありますようにって願っていたんだって。涙流しながら必死に願っていたんだって。蓮。今あたながすることは、そしてこれから出来ることは、鈴佳ちゃんが回復できるように祈ることなんじゃない?」
母の言葉に僕はハッとした。そうだ、今することは僕が事故にあった時に鈴佳がしてくれたみたいに祈るそれだけだ。
それから僕はくる日もくる日も祈り続けた。常に想い続けた。その願いを神様が聞いてくれたのか、一週間後、鈴佳は目を覚ました。
僕は病室の前に立っていた。手には来るときにかったフルーツバスケットを持っている。たった一週間ぐらい会っていないだけでこんなに緊張するなんて。僕はドクドクとなる心臓の音を静めながら病室のドアをノックする。
すると中から「はーい!」と元気な声が聞こえてきた。
僕はスルスルとドアを開く。
「あ!蓮くん!久しぶり!元気そうだね!」
「あ、うん。久しぶり。てかそれはこっちの台詞だよ」
僕たちは笑い合う。なんでだろう。いつもなら当たり前なこの感じも、今日は特別に思える。それに鈴佳の笑顔が見れてホッとした。
「もう。ビックリしたよ。救急車が来たから出てみたら、まさか鈴佳だとは夢にも思わなかったよ」
「えへへ、ごめんね。心配かけちゃった?」
鈴佳に久しぶり見つめられてドキッとする。
「うん。当たり前じゃん!心配するよそれは……」
「ふーん。そうなんだ~、もしかして泣いてくれたりした?」
鈴佳は悪戯な笑みを浮かべる。
「そ、それは泣いたりもするよ!だって鈴は僕の……」
僕はそこまで言って口ごもる。
「え~何々?蓮くんは私のなんなのかな~?」
鈴佳は僕をからかって楽しそうにしている。そんな余裕もあるようで心から安心した。
「ねぇ、蓮くん続きは?早く~?」
鈴佳は僕にその後の言葉を言わせようと急かしてくる。
もうこうなったら仕方ない。言ってやろうじゃないか。そう思って口を開いたその時だった。
「うわぁーー!」
いきなりドアの方から声が聞こえたと思ったら、声の主が病室へと倒れこんでくる。一瞬何があったか分からなかったが、その主には見覚えがあった。
「信也!?何やってんだよ!?」
僕は病院だと言うのに大きな声を出してしまう。その声に驚いて看護師さんが走ってくる。
「どうしました?大丈夫ですか?」
僕は必要に説明をして謝った。本当に申し訳ない。いや、元はといえば。
「信也、何やってんだよ」
僕は少し怒った口調で問いかける。
すると信也の後ろにずっといた凜が口を開いた。
「ごめんね!お見舞いに来たらさ、なんかラブラブしてるから入りづらくなってね、それで待ってたの」
凜は後頭部を右手で掻きながらえへへと笑う。
「つまり、僕達の会話を盗み聞きしてたってことだよね?」
僕は笑顔で話す。笑顔といっても目は笑っていない。
「すいませんでした!」
僕の顔を見るなり信也はスパッと土下座をする。ちょっと懲らしめるつもりだったけどやり過ぎたかな?
僕はそう思って直ぐに普通の笑顔に戻る。
「ごめん。冗談だよ、でも今度から盗み聞きはやめろよ」
僕の言葉に「はい 二度としません」と信也は僕の舎弟のような態度をとる。
それを見て鈴佳が笑う。その笑顔にみんなもつられて笑った。久しぶりにみんなで笑い合えて、みんなといる時間が改めて幸せなんだと感じた。
「あー、夏休み終わって、もう一週間たったのか~」
信也はべたりと机に突っ伏している。
「なんか、あっという間だよ。そうこうしてるうちに受験のシーズンになっちゃうよ」
凜はハァーとため息をついている。凜ならきっと大丈夫だろうけど。
「なんか、楽しいことねぇかな~、楽しみがあれば頑張れるのにな~」
信也は腕を組ながらうーんと考えている。
「じゃあ、こういうのは?春は花見。夏はキャンプ。秋はまぁ文化祭ってことにして、季節にあったことをするの!だから冬はクリスマスパーティーとか!?」
凜は宝石を見ているかのように目をキラキラとさせている。
「クリスマスパーティーか。ちゃんとやったことはないかも」
僕もみんなとのクリスマスパーティーを思い浮かべてウキウキとしている。
「よし!じゃあ!決まりだな!細かいことはこれから少しずつ決めればいいな。まだ9月だし」
信也はスマホのカレンダーにメモをしている。
こうしてまた一つ楽しみが増えた。なによりも聖夜に鈴佳と過ごせることが嬉しかった。
「あ、でもその前に鈴の誕生日があるね。今月は凜の誕生日もあるし」
そうだ。凜の誕生日もだけど、鈴佳の誕生日は何か考えなくちゃ。僕の誕生日に遊園地に誘ってくれたんだ僕も何か。
それからの日々はあっという間だった。凜の誕生日をみんなでお祝いして。文化祭も楽しい思い出へと変わった。気づいたらカレンダーは11月を示していた。
あれから、僕は必死になって考えた。鈴佳の誕生日は何処に行こうか。何をしようか。何をあげようか。でもその時間は意味のないものになった。
11月2日。その日は土曜日で学校は休みだった。僕はのんびりとテレビを見ていた。すると、遠くからサイレンの音が聞こえてくる。その音はどんどん近づいてくると、僕の家の前を通り過ぎて、少しして止まった。
え?近所?さっきのサイレンの音は救急車のものだ。つまりこの近くで誰かが、急病か事故かで救急車を呼ぶ状況になったってことだ。もちろん知り合いはたくさんいる。僕は少し気になって家を出てみた。
家を出ると僕と同じような人たちが救急車の付近に群がっている。そこで、僕は気づいた。その救急車が止まっているところは鈴佳の家だ。僕は急に怖くなって急いで走った。
救急車に近づくとちょうど車に乗せられるところだった。その担架の上に寝ている人を見て僕は頭が真っ白になった。
担架で運ばれていたのは鈴佳だった。
「す、鈴!!」
僕は周りの目なんて気にせずに叫んでいた。何度も何度も叫んでいた。何も考えられず、ただ名前を呼んでいた。鈴佳はそんな僕の声も聞こえていないようだ。目を瞑って動かない。
鈴佳とお母さんを乗せた救急車は病院へと向かって走り出した。
僕はその間もずっと叫んでいた。喉が裂けてしまうんじゃないかと思うぐらい叫んでいた。
それから、周りの人たちは何かをボソボソと話ながら去っていく。僕はその場に立ち尽くすだけだった。
異変に気づいて母が僕のもとへ走ってくるまで、僕はボーッと救急車が走っていった方を見つめていた。
僕はリビングのソファーに座っていた。どうやってここに戻って来たかも分からない。母の声が聞こえてそれから僕は……。
気がついたら僕は泣いていた。子供のように声をあげて泣いていた。さっきの光景が頭から離れない。信じたくなかった。昨日まで一緒に居たのに。いつものように笑っていたのに。どうして!
すると、急に温かいものに包まれた。母だ。母が僕を抱き締めてくれている。その温もりが優しくて、僕はもっと泣いた。
母は僕が泣き終わるまでずっと抱き締めてくれていた。僕が落ち着くと母は温かいコーヒーを淹れてくれた。
「蓮。さっきね鈴佳ちゃんのお母さんが電話をくれてね、蓮くんが心配してるだろうからって、鈴佳ちゃん、急に胸を押さえて苦しんだらしくて、今は落ち着いたって。原因は今調べているところらしいわ」
母は僕を気遣いながら、ゆっくりと説明をしてくれた。僕はとにかく無事だと聞いて安心した。
「昨日まで、あんなに元気だったのに。どうしてこんなことになったんだろう?なんで鈴が?」
僕は母にも分かるわけのない質問をぶつける。きっと誰にも分からない。
「分からないわ。でも今はそんなことを考えても意味ないわよ。昔、蓮が事故にあって生死の境をさ迷ったときあったでしょ?あの時ね鈴佳ちゃん、ずっと蓮くんが無事でありますようにって願っていたんだって。涙流しながら必死に願っていたんだって。蓮。今あたながすることは、そしてこれから出来ることは、鈴佳ちゃんが回復できるように祈ることなんじゃない?」
母の言葉に僕はハッとした。そうだ、今することは僕が事故にあった時に鈴佳がしてくれたみたいに祈るそれだけだ。
それから僕はくる日もくる日も祈り続けた。常に想い続けた。その願いを神様が聞いてくれたのか、一週間後、鈴佳は目を覚ました。
僕は病室の前に立っていた。手には来るときにかったフルーツバスケットを持っている。たった一週間ぐらい会っていないだけでこんなに緊張するなんて。僕はドクドクとなる心臓の音を静めながら病室のドアをノックする。
すると中から「はーい!」と元気な声が聞こえてきた。
僕はスルスルとドアを開く。
「あ!蓮くん!久しぶり!元気そうだね!」
「あ、うん。久しぶり。てかそれはこっちの台詞だよ」
僕たちは笑い合う。なんでだろう。いつもなら当たり前なこの感じも、今日は特別に思える。それに鈴佳の笑顔が見れてホッとした。
「もう。ビックリしたよ。救急車が来たから出てみたら、まさか鈴佳だとは夢にも思わなかったよ」
「えへへ、ごめんね。心配かけちゃった?」
鈴佳に久しぶり見つめられてドキッとする。
「うん。当たり前じゃん!心配するよそれは……」
「ふーん。そうなんだ~、もしかして泣いてくれたりした?」
鈴佳は悪戯な笑みを浮かべる。
「そ、それは泣いたりもするよ!だって鈴は僕の……」
僕はそこまで言って口ごもる。
「え~何々?蓮くんは私のなんなのかな~?」
鈴佳は僕をからかって楽しそうにしている。そんな余裕もあるようで心から安心した。
「ねぇ、蓮くん続きは?早く~?」
鈴佳は僕にその後の言葉を言わせようと急かしてくる。
もうこうなったら仕方ない。言ってやろうじゃないか。そう思って口を開いたその時だった。
「うわぁーー!」
いきなりドアの方から声が聞こえたと思ったら、声の主が病室へと倒れこんでくる。一瞬何があったか分からなかったが、その主には見覚えがあった。
「信也!?何やってんだよ!?」
僕は病院だと言うのに大きな声を出してしまう。その声に驚いて看護師さんが走ってくる。
「どうしました?大丈夫ですか?」
僕は必要に説明をして謝った。本当に申し訳ない。いや、元はといえば。
「信也、何やってんだよ」
僕は少し怒った口調で問いかける。
すると信也の後ろにずっといた凜が口を開いた。
「ごめんね!お見舞いに来たらさ、なんかラブラブしてるから入りづらくなってね、それで待ってたの」
凜は後頭部を右手で掻きながらえへへと笑う。
「つまり、僕達の会話を盗み聞きしてたってことだよね?」
僕は笑顔で話す。笑顔といっても目は笑っていない。
「すいませんでした!」
僕の顔を見るなり信也はスパッと土下座をする。ちょっと懲らしめるつもりだったけどやり過ぎたかな?
僕はそう思って直ぐに普通の笑顔に戻る。
「ごめん。冗談だよ、でも今度から盗み聞きはやめろよ」
僕の言葉に「はい 二度としません」と信也は僕の舎弟のような態度をとる。
それを見て鈴佳が笑う。その笑顔にみんなもつられて笑った。久しぶりにみんなで笑い合えて、みんなといる時間が改めて幸せなんだと感じた。
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