君が見たものを僕は知っている
第14話 結婚式前夜
翌朝、僕達は何事もなかったように朝食を食べていた。いや、実際に特に何かあったわけでもないけど。ただ少しだね密着をしただけだ。
「おっはー!よく眠れたかお二人さん」
一足遅く起きてきた信也が、何を想像しているのかニヤニヤとリビングに入ってくる。
「おはよー!うん!よく眠れたよ!」
そうキッパリと言い切る鈴佳。それに拍子抜けする信也。
「え?そ、そうなの?あ、そうなんだ」
信也はなにやら府に落ちなさそうに頷く。
この後の予定は朝食を済ませ、お世話になった別荘の掃除をしてそれからバスに乗り帰宅。こんな感じだ。
僕達は朝食を終えて早速、分担をして掃除を開始した。掃除といっても僕達が使った部屋、書斎、リビング、キッチン、お風呂場、トイレだけだ。それぞれの部屋は各々でやるとして、キッチン、リビングを鈴佳と凜が。お風呂を信也。書斎とトイレを僕が担当することになった。
僕は先にトイレ掃除を素早く済ませて書斎へと移った。書斎もそんなに長い時間居たと言うわけでもないので、さほど汚れてはいなかった。というよりもともと手入れがキチンとされているので、僕達が掃除をする場所も全体的に少ない。
僕は掃除機を一通りかけて本棚の整理などをすることにした。1時間たったぐらいには、僕とそれからみんなも掃除が片付いたみたいだ。後は自分の持ち物の整理をしてバス停に向かうだけ。
僕は帰る支度をして一番早くに外に出て別荘というか館をながめていた。あっという間だった。こんなに楽しい夏は始めてかもしれない。大袈裟だけど、僕は産まれてきて良かったと本気で思った。
僕達は全員揃うとバス停へと歩きだした。
「いや~、明日から何してやろうかな~、何でもできるもんな」
信也はまだ午前中だというのに、明日のことを考えている。課題もなくなって、心が軽くなっているのだろう。
「そういえば、結婚式ってなんか旨いもん食えんの?」
するといきなり信也が結婚式の話題をもってくる。しかも結婚式と披露宴がごちゃ混ぜになってるらしい。もちろん模擬の結婚式なので披露宴などない。
「結婚式だけなんだからないでしょ」
凜がしっかりと訂正してくれた。
「あ、でもお礼に美夜が美味しいものをご馳走してくれるって言ってたよ」
美夜さんとは鈴佳のいとこの名前だ。
「え?本当に!楽しみだな~」
その言葉に信也はパアッと明るい笑みを浮かべる。
そんなこんなで僕達はバスに乗り自分たちの町へと帰ってきた。バスを降りて僕達はいつものように歩いてそれぞれの家に帰っていった。
「ただいま-」
僕は玄関の扉を開けて大きな声で帰宅を知らせる。今日は土曜日だったので父と仕事が休みで家にいた。
「おう!帰ったか!」
僕がリビングに入ると両親が笑顔で迎えてくれた。
「どうだった?楽しかった?」
「うん!楽しかったよ!」
母との会話が少し久しぶりな気がする。たった2日なのに。なんだかんだでやっぱり両親の声を聞くとホッとする。
「おう!楽しかったか!良かった良かった!ところで進展したか!?」
父が前のめりで僕に詰め寄る。キッチンで作業をしてた母もその会話を聞くと急いで出てきた。
「え?進展ってなんのこと?あぁ、読書感想文?うん!全員無事に終わったよ」
「いやいや、そうじゃなくてよ!鈴佳ちゃんとだよ。どこまでいった?」
父の質問に飲み込んだ唾が気管に入って噎せってしまう。
「な、なに言ってんの!?何もないよ!」
まったく帰ってきて早々にこの二人は。
「なんだ~、せっかくのチャンスだったのにな~」
父はハァーとため息をつく。なぜか一番残念そうだ。
「いや、まだ大丈夫ですよ。なんたってこれから結婚式やら遊園地やらあるんですから、チャンスはいくらでもあります」
母がそう言うと、父も「そうだな」と同意して二人であははと笑う。
僕は二人に付き合わされるのにも疲れるので自分の部屋に逃げこんだ。
僕はベッドに仰向けに寝転ぶ。
「チャンスかぁ………」
思えば確かに想いを伝えるチャンスはいくらでもあった。でも言えなかった。言ってしまえば楽なのかもしれない。でもその後を考えると怖くて行動にうつせないのだ。
もし、オッケーだったとしても恋人どうしで、ダメだったとしたらどんな顔で会えばいいかわからない。いずれにしても今までの関係が終わってしまうのだ。
確かに恋人として新しい二人になれるのなら問題はない。むしろそれを望んでいる。でも、もしダメだった時のリスクを考えるととても怖い。リスクが大きすぎる。僕はやっぱり情けないやつだ。
その日は僕は疲れを取るためにゴロゴロと過ごした。
夏休みは始まるころには長く感じるのだけど、始まってしまえばあっという間だ。あっという間に8月4日になってしまった。そう。明日はいよいよ模擬結婚式。
あくまでも模擬だ。実際には結婚はしない。それは知っている。知っているのにどうしてこんなに緊張しているのだろう。僕はまだ前日の午前中だというのにソワソワとしていた。
タキシードも式場が用意してくれし、指輪交換のための指輪は鈴佳が用意してくれるらしい。とはいってもちゃんとした物ではなく、アクセサリーのようなものだ。
僕は特に準備するものはない。あるとすれば心だろうか。でもその準備が一番大変なのだ。僕はじっとしてられずリビングへと向かっていた。
父は今日は仕事で家にいない。明日は有給を使って式に参加するようだ。母はキッチンで昼食の準備をしていた。
「あら、蓮、まだお昼できないわよ」
「ねぇ、母さん。父さんと結婚するときってどんな気持ちだった」
何でかはわからない。でも不意に気になって質問をしてみた。
「どうしたの急に?うーん。結婚か。特にこれと言って考えなかったかな。でも、この人ならきっとどんな事があっても大丈夫って思えた。お金がなくても、この人がいれば平気って思えたわ。そしてあなたが産まれた。大切なものがまた増えた。父さんもそうだと思うけど、私も大切な息子の幸せを誰よりも願っているのよ。だから、蓮も自分に素直にこの人だって思える人を見つけなさい。もう、見つかってるかもしれないけどね」
母は料理をしながらこんな話をしてくれた。いつもは僕を冷やかしたり子供みたいなところもあるけれど、こんなに僕を思ってくれていたのだ。きっと父もそうなんだろうな。僕は改めてここにある幸せを感じていた。
僕はその夜、窓を開けて星空を眺めていた。昼間の母の話のおかげか少し気持ちも落ち着いている。
僕は気持ちいい夜風にあたりながらある決心をした。
8月12日。僕の誕生日。遊園地に行く日。僕は告白する。見上げた星空がいつもより輝いて見えた。
―――結婚式前日の夜。私はベッドに座りながら窓の外の夜空を見つめていた。明日はいよいよ結婚式。模擬だけど。それでも私にとっては大切な思い出になることに間違いはなかった。
私はずっと考えていたことの答えをやっと見つけていた。私は蓮くんの誕生日に全てを伝える。そして、この関係にピリオドを打つんだ!私は強く強く決心をする。
とにかく明日の結婚式はいつものように自然体で。私は机の上に置いてあった2つの指輪を手にとって眺めた。その片方はあの時、蓮くんに貰ったものだった。そう、事故があったあの日に。それ以来ずっとこの指輪は私の大切なお守りで宝物だ。
この指輪を明日、蓮くんにつけてもらおう。私は強く指輪を握りしめた。
「蓮くん。私は………」
気づいたら私はまた涙を流していた。
「おっはー!よく眠れたかお二人さん」
一足遅く起きてきた信也が、何を想像しているのかニヤニヤとリビングに入ってくる。
「おはよー!うん!よく眠れたよ!」
そうキッパリと言い切る鈴佳。それに拍子抜けする信也。
「え?そ、そうなの?あ、そうなんだ」
信也はなにやら府に落ちなさそうに頷く。
この後の予定は朝食を済ませ、お世話になった別荘の掃除をしてそれからバスに乗り帰宅。こんな感じだ。
僕達は朝食を終えて早速、分担をして掃除を開始した。掃除といっても僕達が使った部屋、書斎、リビング、キッチン、お風呂場、トイレだけだ。それぞれの部屋は各々でやるとして、キッチン、リビングを鈴佳と凜が。お風呂を信也。書斎とトイレを僕が担当することになった。
僕は先にトイレ掃除を素早く済ませて書斎へと移った。書斎もそんなに長い時間居たと言うわけでもないので、さほど汚れてはいなかった。というよりもともと手入れがキチンとされているので、僕達が掃除をする場所も全体的に少ない。
僕は掃除機を一通りかけて本棚の整理などをすることにした。1時間たったぐらいには、僕とそれからみんなも掃除が片付いたみたいだ。後は自分の持ち物の整理をしてバス停に向かうだけ。
僕は帰る支度をして一番早くに外に出て別荘というか館をながめていた。あっという間だった。こんなに楽しい夏は始めてかもしれない。大袈裟だけど、僕は産まれてきて良かったと本気で思った。
僕達は全員揃うとバス停へと歩きだした。
「いや~、明日から何してやろうかな~、何でもできるもんな」
信也はまだ午前中だというのに、明日のことを考えている。課題もなくなって、心が軽くなっているのだろう。
「そういえば、結婚式ってなんか旨いもん食えんの?」
するといきなり信也が結婚式の話題をもってくる。しかも結婚式と披露宴がごちゃ混ぜになってるらしい。もちろん模擬の結婚式なので披露宴などない。
「結婚式だけなんだからないでしょ」
凜がしっかりと訂正してくれた。
「あ、でもお礼に美夜が美味しいものをご馳走してくれるって言ってたよ」
美夜さんとは鈴佳のいとこの名前だ。
「え?本当に!楽しみだな~」
その言葉に信也はパアッと明るい笑みを浮かべる。
そんなこんなで僕達はバスに乗り自分たちの町へと帰ってきた。バスを降りて僕達はいつものように歩いてそれぞれの家に帰っていった。
「ただいま-」
僕は玄関の扉を開けて大きな声で帰宅を知らせる。今日は土曜日だったので父と仕事が休みで家にいた。
「おう!帰ったか!」
僕がリビングに入ると両親が笑顔で迎えてくれた。
「どうだった?楽しかった?」
「うん!楽しかったよ!」
母との会話が少し久しぶりな気がする。たった2日なのに。なんだかんだでやっぱり両親の声を聞くとホッとする。
「おう!楽しかったか!良かった良かった!ところで進展したか!?」
父が前のめりで僕に詰め寄る。キッチンで作業をしてた母もその会話を聞くと急いで出てきた。
「え?進展ってなんのこと?あぁ、読書感想文?うん!全員無事に終わったよ」
「いやいや、そうじゃなくてよ!鈴佳ちゃんとだよ。どこまでいった?」
父の質問に飲み込んだ唾が気管に入って噎せってしまう。
「な、なに言ってんの!?何もないよ!」
まったく帰ってきて早々にこの二人は。
「なんだ~、せっかくのチャンスだったのにな~」
父はハァーとため息をつく。なぜか一番残念そうだ。
「いや、まだ大丈夫ですよ。なんたってこれから結婚式やら遊園地やらあるんですから、チャンスはいくらでもあります」
母がそう言うと、父も「そうだな」と同意して二人であははと笑う。
僕は二人に付き合わされるのにも疲れるので自分の部屋に逃げこんだ。
僕はベッドに仰向けに寝転ぶ。
「チャンスかぁ………」
思えば確かに想いを伝えるチャンスはいくらでもあった。でも言えなかった。言ってしまえば楽なのかもしれない。でもその後を考えると怖くて行動にうつせないのだ。
もし、オッケーだったとしても恋人どうしで、ダメだったとしたらどんな顔で会えばいいかわからない。いずれにしても今までの関係が終わってしまうのだ。
確かに恋人として新しい二人になれるのなら問題はない。むしろそれを望んでいる。でも、もしダメだった時のリスクを考えるととても怖い。リスクが大きすぎる。僕はやっぱり情けないやつだ。
その日は僕は疲れを取るためにゴロゴロと過ごした。
夏休みは始まるころには長く感じるのだけど、始まってしまえばあっという間だ。あっという間に8月4日になってしまった。そう。明日はいよいよ模擬結婚式。
あくまでも模擬だ。実際には結婚はしない。それは知っている。知っているのにどうしてこんなに緊張しているのだろう。僕はまだ前日の午前中だというのにソワソワとしていた。
タキシードも式場が用意してくれし、指輪交換のための指輪は鈴佳が用意してくれるらしい。とはいってもちゃんとした物ではなく、アクセサリーのようなものだ。
僕は特に準備するものはない。あるとすれば心だろうか。でもその準備が一番大変なのだ。僕はじっとしてられずリビングへと向かっていた。
父は今日は仕事で家にいない。明日は有給を使って式に参加するようだ。母はキッチンで昼食の準備をしていた。
「あら、蓮、まだお昼できないわよ」
「ねぇ、母さん。父さんと結婚するときってどんな気持ちだった」
何でかはわからない。でも不意に気になって質問をしてみた。
「どうしたの急に?うーん。結婚か。特にこれと言って考えなかったかな。でも、この人ならきっとどんな事があっても大丈夫って思えた。お金がなくても、この人がいれば平気って思えたわ。そしてあなたが産まれた。大切なものがまた増えた。父さんもそうだと思うけど、私も大切な息子の幸せを誰よりも願っているのよ。だから、蓮も自分に素直にこの人だって思える人を見つけなさい。もう、見つかってるかもしれないけどね」
母は料理をしながらこんな話をしてくれた。いつもは僕を冷やかしたり子供みたいなところもあるけれど、こんなに僕を思ってくれていたのだ。きっと父もそうなんだろうな。僕は改めてここにある幸せを感じていた。
僕はその夜、窓を開けて星空を眺めていた。昼間の母の話のおかげか少し気持ちも落ち着いている。
僕は気持ちいい夜風にあたりながらある決心をした。
8月12日。僕の誕生日。遊園地に行く日。僕は告白する。見上げた星空がいつもより輝いて見えた。
―――結婚式前日の夜。私はベッドに座りながら窓の外の夜空を見つめていた。明日はいよいよ結婚式。模擬だけど。それでも私にとっては大切な思い出になることに間違いはなかった。
私はずっと考えていたことの答えをやっと見つけていた。私は蓮くんの誕生日に全てを伝える。そして、この関係にピリオドを打つんだ!私は強く強く決心をする。
とにかく明日の結婚式はいつものように自然体で。私は机の上に置いてあった2つの指輪を手にとって眺めた。その片方はあの時、蓮くんに貰ったものだった。そう、事故があったあの日に。それ以来ずっとこの指輪は私の大切なお守りで宝物だ。
この指輪を明日、蓮くんにつけてもらおう。私は強く指輪を握りしめた。
「蓮くん。私は………」
気づいたら私はまた涙を流していた。
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