捻くれ男子とボクっ娘
5話目
朝の一悶着が終わり、その後も細々とした事が起きながらも何とか放課後になった。
「おい、葵」
「やぁ、どうしたんだい流唯」
僕が自身の机で座りながら帰る準備をしている葵に声をかけた。
「一応クラスメイトはいなくなったぞ」
「そうか
ーーふぅ……つ〜か〜れ〜た〜」
クラスメイトがいないと分かった瞬間、先程までのピシッとした体勢から机に上体を倒す葵。
いつもの凛とした声のトーンも今では言葉の1つ1つが伸びており完全に声にも疲れが滲み出ている。
朝の一件以降、葵の元にクラスメイトや他のクラスの連中が集まり質問責めにあっていた。だからと言って教室を出れば教室の比では無いほどの人が集まるので、多分彼女は今日は気を休める場所が無かったと思う。
「一気に力抜けたな、というかここまで抜けるか普通」
「それは毎時間、質問されたら疲れるさ……流唯の方には来なかったのかい?」
「……僕に話しかける奴はいないだろ、普通」
葵とは対照的に僕の元には誰もこなかった。
「なんか話振ってごめん……」
「ふん、今更何を言う。帰るぞ」
「分かったから……少し休ませてもらえないか?
ボクしばらく、う〜ご〜き〜た〜く〜な〜い〜」
「だろうな。しばらく休んでおけ」
「た〜す〜か〜る〜……」
と葵が動けるぐらいに復活するまで俺は彼女の隣で昨日家で考えたお菓子の新メニューのレシピを見直すのであった。
その後、葵が動けるまで復活した後僕達は一緒に帰っていた。
「なぁ葵」
「何だい流唯?」
「ーーお前、どこまで着いてくるんだ?」
何故か葵は僕の後ろをついてくるのである。
「どこって? ボクはボクの家に行くだけだよ」
「あのな……もう僕の家そこなんだが」
僕の家がもう近くに見えていたのだが、この地域からだとあまり今の高校にいく人間はいないため、葵がここまで来るのはおかしいと思い、そう聞いた。
「あぁそうだね」
「あぁそうだね、じゃなくてだな……」
「大丈夫、キミの言いたい事は分かるから。ボクの家はキミの家を超えた向こうにあるマンションだ」
と葵は向こうにある1棟のマンションを指さした。確かあのマンションは結構高級マンションだった気がする。
……というか僕の家からそこまで距離は無い。歩いても3分もしないぐらいの距離だ。
「あれか?」
「そうだね、ご名答。ボク自身が入学前にこっちに引っ越してきたんだ。だからキミとは高校が初対面だよ」
「……よく僕の言いたい事が分かったな」
確かにここまで近い距離にあったら中学までに会っているのでは? と思ったのだが先に葵に言われた。
「家が近いって言ったら真っ先にキミは怪しんでくるだろうと思ってね」
「ある意味すげぇな、お前」
「見直したかい? どうだ? どうだい?」
「……調子に乗んなよ、ったく。とりあえずお前を家まで送るとするーー」
「お帰り流唯ちゃん〜!!」
ーー今一番見たくない人物が出てきた。
「げっ……」
「流唯ちゃん?」
葵は今母さんがいった発言に対してだろうか不思議そうに首を傾げた。
「……深く聞かないでくれ。母さん一体どうした?」
「いや流唯ちゃんが中々入ってこないから気になって見てみたら……あらあらまぁまぁ〜」
「面倒な場面見られた……ちくしょう……」
「貴方、名前は何て言うのかしら!? 」
「初めまして、ボクは夏川葵と言います。彼、流唯君とお付き合いさせていただいている者です」
葵はまるで本当の事の様に事実を捻じ曲げた報告を、ましてやそれを僕の母親にしてきた。
「おい葵!? テメェ何言ってやがる!!」
「何を言っているんだ流唯、何も間違った事を言っていないだろボクは?」
「間違いだらけで指摘出来ねぇんだよ!?」
「はっはっはっ、照れなくていいんだよ? こんな美少女が彼女なんだからさっ!!」
「あら〜本当なの!? 流唯ちゃんに遂に彼女が!?」
母さんはさっきよりもテンションが更に高くなる。
「だから母さん“ちゃん”付けはやめてくれって言っているだろう!? ここに葵いるからな!?」
「まぁまぁ落ち着きたまえ流唯ちゃん」
母親が“ちゃん”をしているのを見た葵はニヤニヤしながら僕を母親が呼ぶように言ってきた。
「……テメェは次言ったらタダじゃおかないからな」
なんか久しぶりに本心からイラっときた。
どうやらそれは僕の表情に身でていたらしく葵は若干怯えながら
「ヒッ……わ、分かった……頭に入れておこう……後今のキミの顔、歴代で一番怖いからね」
「誰のせいだったく……どうした母さん?」
そん感じで僕と葵が話しているとふと、母さんが葵の顔を見て不思議そうに
「葵さんかしら? 前、会った事ある?」
と言ってきた。
「い、いえ、無いと思います……多分ボクと似た方とお会いしたんだと……」
珍しく歯切れが悪い葵。
まぁまだ話し始めて数日なのでこいつの全てを知っている訳ではないが僕が知っている彼女はいつも無駄に自信満々だったので今回の答えには少し不思議に思った。
「そうよね〜あらやだ私ったらもう歳かしらね」
そんな葵の返答に対して、頭をかいて恥ずかしそうに言う母さん。
「何を言いますかお母さんはまだお若いですよ〜」
「そうかしら〜若い子に言われると嬉しいわ〜!!」
「ほら母さん、親父困っているから早く戻れ」
と僕は店の方を指差した。
そこでは親父が困った表情でこちらを見ていた。親父は見た目はあんなに厳ついが人と話すのが苦手なので、接客は専ら母さんが行なっている。
「あらやだ、あの人困ってるみたいね。葵ちゃん、今度よかったら家に上がってちょうだい〜!!」
とこちらに手を振りながら母さんは店に戻っていった。
「キミのお母さん、本当に若い人だね……一児の母とは思えない美貌を持ってるよ……」
「それはよく近所で言われているのを聞くから知ってる」
「で、そのお母さんから産まれたのがキミか」
「……悪りぃなこんな顔で」
そんな事言われなくても自分が一番理解している。なんせ母さんとは毎日食事をするのだから否が応でも毎日顔を見なければいけない。
「まぁまぁそんなに捻くれるな。キミも少し笑う様にすればそこまで怖く無いと思うけどね」
「前笑ったら、周りが一斉に悲鳴をあげた」
「何故だい!?」
「そんなん、僕の顔が笑顔であっても周りからすれば恐怖でしたないんだろうな」
「まぁ怒る時の表情は本当に怖いからね」
……僕を怒らせた回数が多いのお前だがな。
昨日と今日で記録更新した。
「じゃあ僕怒らんせんなと言いたい。
ーーとりあえずマンションの前までは送る」
「おぉ〜嬉しい事言ってくれるじゃないか〜ボクも一応こんな喋り方だが女子なんだよね」
「そんなん見れば分かるだろ……」
「ちなみにボク脱げば凄いよ?」
「……痴女か?」
「キミって容赦無いね!? ただボクはキミの緊張を和らげようと思って言った冗談のつもりだがね!?」
「女子がそんな事簡単に言うな。お前は見てくれだけはいいんだから」
「お、おぉ……キミってなんか本当捻くれているよね」
「うるせぇ痴女」
「だからボクは痴女じゃないって!?」
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