捻くれ男子とボクっ娘
3話
夏川と揉めた?次の日、俺はいつもの様に家を出ようと玄関のドアを開けた。が……
「行ってきまーー
何をしている」
「い、いや、おはよう」
玄関の先には何故か昨日揉めた張本人である夏川葵がいた。昨日の自信満々の表情では無く、どこか申し訳無さそうな顔をしていた。
「挨拶を求めたつもりは無い。何をしている」
俺はドアを閉めた後、威嚇する様に夏川を見た。
俺のその表情を見た彼女はビクッとしながらもぎこちない笑みを浮かべ
「な、何を言っているんだい? クラスメイトなんだから挨拶ぐらいするのは当たり前じゃないか」
と言ってきた。
……そもそもクラスメイトでもお前を登校中に見たのは今回が初めてなのだが。
「行くか」
よく分からんクラスメイトはほっといて俺は学校に行こうとした。ここで止まったらまた夏川の変な事に巻き込まれかねないので早くその場を立ち去りたかったからだ。
「ま、待ちたまえ」
だが後ろで僕を呼び止める声が聞こえた。
声の主は紛れもなく夏川だろう。
「あぁ?」
無視する事も出来たのだが、何故か僕は振り向いてしまった。そこには先程までのぎこちない笑みすらなくなり、悪い事をした後の子供の様な表情を浮かべた夏川だった。
「その……昨日はだな……すまなかった」
「何がだ」
「だから昨日の発言はキミの辛い過去を思い出させる様な事を言ってしまって……」
「あぁあれか」
「すまなかった、許されるとは思ってないが本当にすまない事をしてしまったと思う」
と言うと頭を深く下げた。
どうやら本当に悪い事をしたと思っているみたいだ。もし夏川が凄く演技が上手い人物なら話は別だろうが、何となく彼女の本心からそう思っている気がした。
「……別にいい」
「ほ、本当か?」
「今更僕がお前に怒って過去が変わる訳でもないからな。要件は以上だな」
昨日の事でわざわざ謝りにくるなんて律儀な奴だなと思いながらも、じゃあ先に自分の発言考えておけとも思ってしまうがどうやら彼女は要件はそれだけでは無い様である。
「ま、待ってくれ、今日キミの家の玄関の前まで来たのには理由があってね、せめて話だけでも聞いてもらえないか?」
「……随分低姿勢だな。人の弱みを握ってまで言う事を効かせようとした昨日とは大違いだ」
僕がその様に言うと夏川はバツの悪い顔をしながら
「くっ……中々鋭い指摘を
してくるじゃないかキミは」
「事実を言ったまでだ」
「ボクを精神的に虐めて快感を得るなんてキミも中々ーー」
……こいつは人をイライラさせるのが得意なのだろうか?
「要件は済んだな。行かないと遅刻する」
「ーー待ってくれ!!」
「あぁ?」
「待ってくれお願いだから
話は聞いてくれないかね?」
と手を合わせて前に出してきた。
僕はため息をつきながらも
「一気にまくし立てるな、
歩きながらでもいいか?
いい加減行かないと遅刻する」
結局彼女の相談に乗る事にした。
僕の返答に満足したのか先程までの申し訳無さそうな顔から一変して昨日の自信有り気な顔に戻った。
「うむ、 いいだろう」
「……何故上から目線なんだお前は」
そして高校入ってから初めてクラスメイト、そして同年代の女子と登校しながら夏川の話を聞いていた。
「ーーということがあるのだよ」
夏川が話し終えると僕は先程までの彼女の話を頭の中でまとめて、彼女に返した。
「はぁ……つまり要約すると
①クラスの男子に言い寄られている
②1度断っている
③だがしつこいし、クラスの雰囲気がその男子を後押ししている雰囲気で面倒くさい
④どうにかして断りたい
……って感じでいいか?」
「そうだ、キミって学年で成績上位のだけあって頭の回転が早くて助かるね」
「こんなん誰でもまとめる事できんだろうが
まぁまとめたところで……僕には程遠いイベントだな」
僕は若干呆れの意味で言ったつもりなのだが夏川は僕が羨ましく思っていると勘違いしたのか口元をニヤッとしながら
「羨ましいかい? そうかい、そうだろ?」
と言ってきた。
……ウゼェ、とりあえずめんどくさい。
やっぱりこいつのこういうとこと嫌いだと再び認識しながらも僕は本心を伝えた。
「厄介事は嫌いだ。そんな事に巻き込まれるなら1人でいる方が楽だ。関わらなければ何も起きない」
僕1人だけなら誰からも楽しい誘いごとに誘われないがその代わり、面倒事にも関わらなくて済む。そう思いながら僕はこの3、4年生きてきた。
……まぁそれが正解なのかは未だに不明だが。
そんな俺の返答に夏川は若干声のトーンを落としながら
「……なんかキミは悲しい性格をしているね。
で、そんなキミに頼み事があるんだ」
「嫌な予感しかしないけど言ってみろ」
とりあえず言わせてみる事にした。
……変な事を言ったら全力で否定してやろう。
夏川は立ち止まり、左手を腰に当てて、右手を僕の方に向けて決めポーズ?をしながらその頼みごとを言ってきた。
「ボクが考えた天才的な考えはね……
ーーキミとボクが付き合っているフリを
すればいい!!」
「お前馬鹿だろ、いやアホか」
先程の心での宣言通り、全力でバカにした。
僕とこいつが付き合う……だと。
……こいつは何を言っているんだろうか?
「早速罵倒かいキミは!?  というか言い換えた意味あまりない気がするけどね!?」
夏川が珍しく騒いでいるがそんな事は無視して俺は気になった事を彼女に尋ねた。
「だって僕とお前が付き合ってそれで納得するか周りは?」
もし、その男子に付き合っている事を見せたいなら他のクラスの男子でもいいはずだ。それなのに何故僕の様なヤンキーと勘違いされてばかりの強面を選んだのか?
「そりゃ納得するさ!! 
だってキミだからね!!」
と親指を立てて、満面の笑みを浮かべた。
それで全て納得がついた。
ーーそのついでに怒りがふつふつと湧いてきた。
「……おい、なんか言い方に悪意があるが?」
わりかし本気で睨みながら言うと夏川は朝声をかけた時よりも大きく驚きながらも僕の方を見て
「き、キミ本当に表情怖いよ?ほ、ほらリラックスしないと周りに誰も近づいてこないよ!? リラックス、リラックス〜」
と前に出した両手を上下に動かして“落ち着いて”のジェスチャーをしていた。
……怯えるなら最初からその問題発言を言うなと思う。
「はぁ、全くお前は……とりあえず僕はお前の提案を拒否したいんだが? 
何せメリットはないから」
「まぁまぁそうとは言わずに試しにって感じで
ーーこんな美少女と仮にでも
付き合えるんだよ?」
確かに夏川は美少女だろう。
彼女はこの学年飛び越えて、この学校全体から見ても美少女であると言える。
「まぁ見てくれだけは良いからなお前は」
……まぁ僕の場合は昨日夏川には古傷を掘り返されるという前科があるので素直に頷けない。
彼女も僕の発言から昨日の事だろうと察したのかまた頭を深く下げてきた。
「……昨日は本当にすまなかった」
「もういい……分かった付き合っているフリをすれば僕はいいんだな? 期限はいつまでだ」
「そうだね……大体半年過ぎればあっちも諦めるだろうから大体それぐらいを目処にだね」
今が4月なのだから半年と言えば10月だろう。
……結構な長期間だなと思うが、まぁその半年は普通の男子高校生が過ごすであろう“青春”とやらを楽しんでみようと思った。
「分かった、半年な」
「全くキミはこんな美少女が目の前にいるのにいつもと変わらない表情とは贅沢だね〜もっと僕に感ーー」
「……あぁ?」
「ゴメン、次から気をつけよう。だからその怖い表情やめて欲しいな……本当に怖いから」
「僕も気をつける、お前もな」
「とりあえず半年よろしく頼むね、約束だよ」
「分かった約束だ」
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