捻くれ男子とボクっ娘

きりんのつばさ

2話目









その日は前日新メニューの考案を夜遅くまで親父と考えていたため、放課後少し寝てから帰ろうと思った。
……授業中に何度うたた寝をしたか覚えてない。
そのため、帰りのホームルームが終わった瞬間に机に突っ伏し夢の世界に入っていった。

「……ミ」

「……」

「……キミ」

「……あぁ?」

誰かが僕の肩を揺らしていた。正直誰がこの様な事をしているのかを知りたい様な気もしたが今は何よりも自身の睡眠を優先したかった。
そのため再び目を閉じ夢の世界に行こうと……

「ねぇってば」

「……」

「ボクを無視しないで欲しいな?
キミ聞こえているんだろ?」

「ったくなんだよ……」

僕は観念して上体を起こして身体を揺らしていた張本人を見てみると、そこにはクラスメイトの夏川なつかわあおいがいた。

「確か夏川葵だな……俺に一体何の用だ?」

僕は家族と話す以外は基本的に一人称は“俺”を使っている。これには昔の事が絡んでいるのだがまた後にでも。

「ほほぅ、キミでもボクの名前を知っているんだね?」

「……逆に聞くがお前の事を知らない奴はこのクラスにいるのか?」

ーー夏川葵

一人称は“ボク”を使う珍しい女子だが、見た目や性格もありクラスのカーストでは最上位にいる。

「まぁいないだろうね。
ーーというかキミは酷いな、こんな可愛いボクが話しかけいるんだから素直に鼻をのばしてくれていいんだよ?」

と胸に手を当てて自慢げに言ってきた。
まぁ確かに夏川に話しかけられて大半の男子が鼻の下を伸ばしているのはよく見ている。

「お前のその自信はどこからくるんだ?」

自身で“可愛い”と自信満々にいうものだからその根拠がどこから来るのか気になった。

「何を決まっているのさ、日頃のカロリー制限からつまらないクラスの雑談に合わせる為の情報取集に至る努力からに決まっているじゃないか」

「今さりげなくつまらないクラスの雑談って言ってるからな、本音漏れているぞ?」

「おっと、これはつい言ってしまったか
失敬、失敬」

「その割には全然反省している表情じゃないけどな」

「ハハッ、気のせいだよ、キミのね」


「で、俺に何の様? 理由も無しに俺を起こしたりはしないだろう普通は?」

クラスの連中は僕が寝ていても絶対起こさない。
……理由は簡単、僕が寝起きは機嫌が悪いと思われているからだ。 寝起きだと僕の怖い目つきが更に細くなり、見る人に恐怖を与える……と母さんに笑顔で言われた。

「ーーボク、キミに興味があるんだ」

「はぁ……?」

僕は彼女の発言に開いた口が塞がらなかった。
僕に? 興味がある?
……こいつは何を言っているのだろうか?
そんな僕の疑問など気にせず夏川は話し続ける。

「キミ、見た目はオブラートに包んで言って強面だよね」

「オブラートに包んでそれって、包まなきゃどうなっていたんだよ俺は……」

というかオブラートに包んでいない気がする。

「えっ、聞きたい? 聞きたいかな?」

と僕の方に身を乗り出して尋ねてくる。

「いややめておくどうせロクでも無いだろうし」

「なんだつまらないなぁ」

「つまらない男ですまないな」

「まぁまぁ捻くれないでくれたまえ。男の捻くれはただただ見苦しいぞ?」

「るっせえ……というか面倒くせぇ」

「クラスの男子陣はボクから話しかけられただけで喜ぶのにキミという人間は勿体ないな」

「で、要件は終わりか? なら帰るぞ」

僕が鞄を持ち、帰ろうとすると夏川は再び前に立ち

「まぁまぁ落ち着きたまえ少年。人の話は最後まで聞くべきだよ?
とりあえずキミの金髪は地毛だろ?
確かお母さんがフランス人だっけ?」

「……何故知っている? 俺はクラスで話した記憶がないぞ?」

「ふん、そんなの調べれば分かるからね。
ーーまぁそれよりもこれ見てよ?」

と夏川は制服のポケットから一枚の写真を見せてきた。

「……ん? 俺か……」

そこには小学生の頃の僕が写っていた。

「この写真のキミって今とは大違いだね?
聞いた話だとキミ昔いじめられていたらしいな。
今の強面の巨体からは信じられないね」

「……何を言っているんだ?」

声こそはいつも通りに出していたが、内心“何故知っている”という疑問だらけでやや混乱していた。

「表情をいかついわざと様にしているのは自身がいじめられたくないからかい?
違うかね?」

半分は正解だった。
昔の僕は今の風貌とは逆で体格は細く髪も金髪ということもあり小学生の間はいじめられていた。
持ち物がなくなるのは当たり前
暴力も当たり前。
いじめで思いつく様な事は全てされていた。

「……」

「ボクはキミの沈黙を肯定と捉えるけど?
何か反論あるなら聞くよ?」

「……勝手にしろ、僕には関係無い」

「ほう、キミは一人称は僕なのか。
これは奇遇だねボクと同じじゃないか」

夏川にそう言われ、はっと思ったが反論するのも面倒になったので“僕”で通す事にした。

「で、何? 僕がそういう人物だからどうした?」

「いや皮肉な事だなと思って、虐められたくないから表情と身体を鍛えたら、逆に学校では不良扱いになると」

中学生になり、僕の身体が一気に成長し始めたのをキッカケに僕は身体を鍛え始めた。そうしたら父の遺伝もあるのかどんどん大きくなっていき、現在に至る。

目つきの方も最初はいじめっ子を威嚇する理由でしていたのだがいつの間にかいじめっ子だけでは無く、他の連中まで怖がらせていた。

「……で、さっさと要件言え」

彼女の話を聞きながらも僕はイライラしていた。

ーー何故今更その話を持ってくるのだろうかと
僕にとって忘れたい過去なのに

「キミが昔そんな人物だったとクラスメイトにバラされたいかい? もしバレたら昔みたいに戻るかもね?」

昔とは僕がいじめられていた頃だろう。
彼女の人望ならその事も可能だし、こんな事も調べてくるぐらいだから実際に実行しかねない。

「……脅しか?」

「いやいやこれはれっきとした交渉だよ。
キミは人聞きが悪いな〜? 
もしもバラされたくーー」

「ーー勝手にしろ」

「えっ」

「お前が僕を昔と同じ様な状況にしたいなら勝手にしろ。別に今更1つ2つ増えたところで変わらない」

「ち、ちょっと」

「というか僕が地毛が金髪やこの体格になった理由を調べた上でやってくるって性格悪いなお前」

いじめられて嫌だったから、身体を鍛えたら逆に“不良”のレッテルを貼られた僕の気持ちをこいつは分かっているのか?

ーーいや、分かるはずがない
どうせクラスの中心にいた人物なのだから

ーー僕のような人間の気持ちなど分かるはずがない分かったらこの様な事はしないろう

「ま、待ってくれ。ボクが悪かった。
だからーー」

僕の答えが予想しなかったものだったのか後ろで夏川が何かを言いかけているが構わず僕は教室のドアまで歩く。だが彼女もしぶといのか僕がドアに近づく前に先回りをしてきた。

「結局、お前は僕を虐めた連中と同じなんだな。
人の過去を知った上で人の傷に塩を塗るなんて」

そんな彼女に僕はいつもよりも鋭い目つきで睨みながらそう言った。

「ゴ、ゴメン、だからーー」

彼女は若干たじろぎながらも僕に何かを言おうとしていた、だがそれの行動は余計に僕のイライラさせた。

「話す事は何もない、とっと帰れ。
ーーいや、そこどけ僕が帰る」

と僕は夏川を出来る限り弱い力でドアの入り口からどかし、そのまま帰路についた。

「あぁ……くそッ!!」

だが僕は家に帰るまで終始気分が晴れなかった。

ーー昔の事を盾に、脅そうとしてくる夏川
そしてそれに対してイライラする自分

果たしてどっちに対してイライラしているのかは自分でも分からなかった。





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