最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第55話 深い愛

 優は現在。このマルセールの端に来ていた。
 形のない街は移動するだけで一苦労だった。

「優君……大丈夫?」

 目的地に着くと隣にいる白土は心配そうに声をかけてくる。
 背負ってきた白土を降ろして開口一番はそれだ。
 別に、優は疲弊はしていない。むしろ、乗り心地が最悪だった為。そちらの方が優にとって心配だった。
 しかし、優しい表情で大丈夫だと伝えて、本来の目的に移行する。

 ――――冒険者としてチームを組む。

 サーニャの突拍子のない一言で展開は大きく変える。
 しかし、彼女は至って真剣だった。いつものふざけた物腰とは違う。
 あの時の、全員が唖然としていた。優も含めて、それは同じ。

 沼田が言った提案より遥かに難しい事。合流したクラスメイトとの共闘。
 確かに、冒険者としてなら憲兵団や騎士団と違って制約が少ない。報酬なども受け取れる。
 それに、今の自分の状態で他の組織に属する事は困難。

 賛否両論はある。もちろん、これが正解ではない。
 でも、何かを変える為には普通のやり方では駄目だ。

 今後、優一人で復讐をやり遂げるのは不可能。いや、晴木に辿り着くのも難しいだろう。

 シュバルツもこれに賛成のようだった。左腕から口を酸っぱくするほどにその根拠を説明される。

 そして、優に付いて来た白土も大賛成のようだった。

「冒険者としてみんなでまた戦えるのなら……私は嬉しいかな?」

「あぁ、けど、やっぱり僕は……」

「うん、分かってるよ、優君の言いたい事……あの時、私も君の事を助けられなかったから」

 柔らかく温かい手が優を掴む。白土の手はきゅっと優の手を握る。
 これだけで力が湧いてくる。心地がいい。
 周りの景色は残酷なのに、この瞬間は至福だった。
 白土は優と、そして、付いて来てくれるクラスメイト。
 失った青春を取り戻し、またみんなと笑いたい。

 優しい彼女だからこその意見。本当なら、優も前面に支えたい。彼女の美しい考えを。

 でも、それは優には出来なかった。

「それはもう気にしなくていいよ、僕にも原因があるんだし、君が気にする事でもないよ」

「でも、私は優君の力になりたい、ずっと傍にいたい、だから、優君の望む事は何でもしてあげたい」

「白土、さん」

「だから、これからは私も一緒に罪を被るよ! 苦しい時とか辛い時も……でもね! 同時に楽しい時や嬉しい時も二人なら二倍になるよ!」

 明るくて、素直な彼女。
 優は自分とは違い過ぎて眩し過ぎた。
 ひまわりのように日の当たる方向に常に向くような。
 優も白土となら一緒に歩いて行ける。そう、強く思った瞬間だった。

 そして、空間魔術で保管していたある人物をここに出す為に。
 いや、正確には情報を引き出す。
 白土に最終確認を貰って優はシュバルツにお願いする。

 マルセールの端に移動した理由。他のクラスメイトと別行動をしている理由。

 光と共にそこからある人物が登場する。
 大分治りきったが傷跡が目立つ顔。
 呼吸を荒くしながら、地面に落ちて優を見るなり、とても安心する。

「す、優……」

「よぉ、元気そうだな、楓」

「あははは、そっちこそ、元気そうで」

 乾いた笑いを浮かべながら。楓は優を見るなり、壊れた人形のように笑う。
 念のためエンド能力を発動させ、蜘蛛の糸【スパイダー】で体を縛る。
 これで動けないし、抵抗も出来ない。白土は、哀れにその姿を見ながら優の背中に隠れる。

 楓は手を伸ばして優の手を取ろうとする。
 だが、優は距離を少し離れて警戒する。
 もう、信用が出来ない。そして、優は怒りを抑えながら質問する。

「ここに連れて来た理由は昔話をする為じゃない、今後の話だ」

「寂しかったのよ、あの作られた空間の中は誰もいなかったし、私一人でずっといたから」

「俺は今すぐにでも殺したいんだけどそれじゃあ駄目だ、だからこうして尋問をする」

「でも、嬉しかった! またこうして会ってくれるって事は、まだ私の事が好きなんでしょ?」

「おい」

「私の方がそこの女よりずっと優の事を知ってるし、愛せる自信があるんだから! だから、私の傍に来て」

 会話が噛み合わない。狂気を感じる表情で。
 楓の中にはまだ優がいる。あの優しくて自分の事が好きな優。
 絶望的な状況でも、楓にとって優だけが唯一の希望。
 顔を上げて優の瞳をじっと見る。
 それに対して優は吐き気を感じた。

 何故、そんな風に思えるのかと問いたい。

「ふざけてるの?」

「ううん! 私は本気で優の事が!」

「まだそんな事を言っているのか! 殺されたいなら、そう言えよ! まぁ、まだまだお前には苦しんで貰うけどね」

 低く冷たい声で優は楓に宣言する。
 他のクラスメイトや仲間にはそれぞれの目的がある。

 ララは父親との話し合い。ギルド協会の中で久しぶりに空間魔術の内から出してあげた。
 色々と話し合う事があるだろう。それに、もしかすると壺の事を知っている可能性もある。
 貴重な情報源でもある。

 出水と飛野と沼田は三人でガリウスを殲滅や救出作業。
 まだまだ助け出してない人。そして、ガリウスが潜伏している可能性がある。
 落ち着くまでは三人で暴れ回って貰うことにした。

 御門と園田とサーニャはギルドの見張り。
 正直不安だったが、サーニャがいるから大丈夫だろうという判断。
 それにまだ二人の間の溝は解消していない。沼田の指示もあって、こうなった。

 そして、優には楓との話し合い。話し合いというには少し意味合いが違う。

 白土は優の隣で遂に発言をする。
 色々と苦しめられた。正直、許すつもりはない。だけど、彼女が優の事をここまで想う理由。
 それを知りたかった。同じ女として気持ちを知りたい。

「ねぇ、何で貴方はそんなに優君の事が好きなの?」

「はぁ? そんなのどうして聞くの?」

「関係ないかもしれないけど、ここでもう一度気持ちを知っておきたいのよ」

「……はは、あっは、あはははははははははは! ちょっと、何それ」

 楓は頬の筋肉を緩ませて、表情を軽くする。
 しかし、狂ったように笑う。白土の発言がそんなに可笑しかったのか。
 それとも、楓も白土の事を哀れに思っているのか。
 意見も話も噛み合わない。優は、無言で白土の事を見守る。

 かつての幼馴染で好きだった相手。今までの事を考えれば憎しみの方が増している。
 だが、優もその真意を知りたい。探求心が優の心を動かす。
 楓は落ち着いた後。ゆっくりとその唇を動かす。体中が痛む中で、楓も最後に伝えたい事があるようだ。

「そうね、好き、だけど、本当にそれだけだったのかもね」

「……え」

「ずっと傍にいたから、ずっと隣にいたから、だから、いつの間にか当たり前の存在になっていたのかも」

「だったら、なおさら大切にすべき存在だったんじゃないの? あの時、貴方が優君の事を止めていれば、私も」

「そうね、好きな相手の為ならそうするべきだったのかも」


 沈黙が走る。楓は悔しそうに目の前の白土を見つめている。
 本来ならあの場所に自分がいるはずだったのに。
 選択の結果、この現状がある。
 裏切って、苦しませて、もう引き返せない。
 楓は言葉を考える。しかし、もう迷う必要もない。

 ただ、伝えたい事だけを言うだけ。

「ずっと優を支えて、それで好きになって貰えたと思っていた」

「それは」

「けど、いつの間にか、それが辛くなったのかもしれないわ、これだけ支えてもし自分の元から離れていったら、そう思ったら怖くて」

「そんなの分かる訳がないじゃない! 考え過ぎよ」

「何処までも楽観的ね、愛って深ければいいってものじゃないの……お互いの距離感がちょうどいい方が長続きするものよ」

 距離感と聞いて。優は、楓と晴木の関係を思い出す。
 二人は自分と違って深くは付き合っていなかった。
 必要なときだけ求め合う関係性。二人が一緒にいる時は大体優がいる時だった。

 ――――優は楓の方を見る。そうか、とは言いたくない。
 でも、完全に否定はしない。
 優は楓の考えに踏み込む事にした。

「距離感って楓と晴木の関係の事を言っているのか?」

「気になるの? 優のお願いなら教えてあげるよ」

「……あぁ、一応聞いておく」

「ふふ、晴木とはもう色々したわ、優も見たと思うけどキスから始まって何度も、何度も体を重ねて……」

「やめてよ! そんな事聞いていない!」

「いや、いいよ、続けろ」

 短剣の鞘に手をつけながら。優は白土を制止する。
 だが、少しずつ沸点が低くなる。
 でも、ここで目を背けたらまた繰り返す。痛みを知って先に進む。
 優は楓に話を続けろと命令する。

 若干、嬉しそうにしながら。楓は言葉を続ける。

「最初は私も戸惑っていた、優を裏切って、生贄にして、晴木と共に行動して、絶対に駄目だなと思っていたの、けど……晴木との時間はとても楽しかった! 優の時はずっと与え続ける関係だったけど、晴木の時はずっと与えて貰ったの……正直、凄い楽だった」

 隣で白土が優に寄り添ってくる。自分がいるから安心しろ。そう主張している。
 手を握る力が強くなる。同時に離れていく。
 楓との思い出。すぅーと風が吹くように。遥か遠くに消えていく。
 優は白土に感謝しながら。もう、何も感じない。
 そして、楓はもう吹っ切れたのか。全てを打ち明ける。

「本当に、馬鹿だと思う、でも、私は晴木にはまっていったの……晴木との会話、遊び、日常、それで、夜の情事の時も……」

「……」

「ベッドの上で酷い事ばかり言ったわ! 優に見せた事のない蕩けた顔で、【優より晴木がいい】とか【やっぱり優を生贄にして正解】とか……ねぇ、優どう思う?」

「もういいでしょ! 余計な事言って優君をまだ苦しめるの!?」

「だって、事実だもん、けど……優の事はその時も想っていたわ! 今でも好きな気持ちは変わらない」

 激高する白土の横で優は瓦礫の上に座り込む。
 気持ちの整理が曖昧なようだ。
 知ってはいたが本人の口から言われると精神的に辛かった。
 頭を抱えながら、優は楓を睨みつける。
 立ち上がり短剣を勢いよく取り出し、楓の首を掴み。

 刃を首元に突きつけながら。軽くそこから出血する。

「今でも……好きな気持ちは変わらない、だと?」

「す、優君! 抑えて!」

「晴木と色々とやってたんだよな? もうその時点で気持ちなんて関係ないんだよ! その行為自体が俺を裏切り、みんなを裏切った」

「あ、あう! い、痛いよ」

「……だったら、軽い気持ちで俺の事を好きと言うな! この糞女!」

 力尽くで地面に叩き落とす。短剣を地面に刺して優は大きく息を吐く。
 こんな所白土に見せたくないのに。
 やはり、付き合いが長い分。感情任せに行動してしまう。
 優はそんな自分を責めながら。もう一度、深呼吸をして落ち着きを取り戻そうとする。

 そして、楓は起き上がり泥だらけになりながら。

「そう、ね、そもそも私が何故こうなったか、教えてあげよっか?」

「あ? どういう事だ?」

「前に言ったでしょ? お姉ちゃんが死んだって、でも、それから……私の運命は大きく変わったの」

 混沌とする中で。様々な考えや意見が入り混じって。遂に楓の過去が暴かれる。
 優は白土に頷かれ、仕方なく聞く事にした。
 しかし、それは優の知らない。衝撃的な事ばかりであった。

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