最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第54話 提案

「人が増えてるけどこれは……?」

 マルセールギルド協会。この街の中で唯一無事だった建物。
 とは言っても、倒壊の可能性は高い。
 まだ付近にガリウスも潜伏している。
 そして、優達が危惧(きぐ)している事。他のクラスメイトがここに攻めてくる。
 その不安がまだ残っていた。
 辺りを見渡すと助かった人も絶望している。それは、この後の生活の事もあるのだろう。

 住む場所も失い、故郷も荒地となった。
 イレイザーによる突然のガリウスの襲撃。
 到着しなかった騎士団や憲兵団。
 被害は拡がるばかりであった。ここに隠れていた人達はサーニャのおかげで何とか助かっていた。

 統率は保てているがそれも時間の問題。
 肉体的にも精神的にも限界は近付いていた。

 一人一人が紹介をしていく中。
 一般人が主に憲兵の制服を着ている人達に近付いて来る。

「貴方達は、憲兵のお方ですか? はぁ、よかった!」

「あ……いや」

 先頭に立っていた出水が反応する。
 髭の生えた親父ともらしき人物。
 希望に満ちた表情をしながら、憲兵の出水らに訴えかける。
 内容は、自分の息子が生きているかどうか。
 飛野と出水は顔を見合わせる。生きているはずがない。
 両肩を掴まれ、出水は圧迫させられる。口が動かせない。

「もう、ここに居る人達以外……全員死んでるわぁ」

「……! おい! 御門、てめぇ!」

 出水が乱暴に御門の胸ぐらを掴む。
 はっきりと言い過ぎた。親父の心情は希望から絶望に切り替わる。
 膝から倒れこみ、両手を顔で覆い隠す。
 泣きたいのだろう。しかし、泣き顔を見せてはいけない。
 周りには子供もいる。せっかく助かって嬉しいはずなのに。悲しませてはいけない。

 泣けない所が大人の辛い所。飛野は目の前でこの光景を見せられ絶句する。

「てめぇには人の気持ちが分かんねえのか?」

「……そうねぇ? けど、現実を教えてあげる事も大切よ」

「言い方ってもんがあるんだよ! こんな事、はいそうですかって認められるわけねえだろ!」

「いつかは分かる事でしょ? そっちこそ? 甘いんじゃないのぉ?」

 出水と御門。互いの意見が衝突する。
 止めようと白土と沼田が割り込む。
 優は白土の側にいながら、考え込んでいる。

「喧嘩はもうやめて! これじゃあ、何も変わらないよ」

「……ごめん、白土さん」

「御門さんには助けて貰った恩はあるし、それにこれから協力していかないと駄目だと思うから、だから」

 白土は御門と話しながら。本音も漏らす。
 自分が生きていく為に。恩を返していく為に。
 やるべき事はまだまだある。だから、白土は受け止める事にした。
 それに、隣にいてくれる大切な人の為に。
 優の方をチラッと見て白土は強く御門の瞳を見た。

 御門も、メイドのシーファの死を目の前で見た。
 正直、受け入れたくない。今だって生きていると信じたい。
 奴隷から這い上がってやっとまともな生活を出来たのに。
 自分を守る為に死んだ。だから、御門自身も変わらないと。強く心の中ではそう思っている。

 理想だけでは生きていけない。現実を受け入れて前に進んでいかなければと。

 お互いが無言で頷き、手を取り合う。優も隣で見ていて少し反応を示した。

「おい、落ち着けって」

「沼田……ち! お前は何とも思わないのか?」

 一方で。沼田は出水を宥めている。興奮仕切っている出水を抑制するように。
 冷静沈着の沼田。あまりにも自分と状況が違って出水は怒りが鎮火する。
 溜息をつきながら沼田は質問に答える。

「御門の言い方も悪いけどな、お前がキレてもしょうがねえだろ!」

「けど、言っておかないと駄目な事だ! だから、俺は……」

「それは分かっているさ、けど、お前らには戦う力があるだろ!」

「……っ!」

「まず、口で喧嘩するよるその力を使ってまだ望みがある奴を助ける! 違うか? これ以上もう……無駄な犠牲増やす訳にもいかねえだろ」

 自信無さげに沼田は出水に。そして、他の能力のある人達に向ける。
 あくまで自分は口でしか応戦する事が出来ない。
 出水や優のように高い戦闘能力がある訳でもなく。白土や御門のように特別な力がある訳でもない。
 園田や飛野のように特殊なエンド能力がある訳がない。
 ただ、言っておかなければならない。出水が言ったように。

 現状を突破するには、全員が協力しなければならない。

「ちょっと……本当に貴方、あの沼田なの?」

 御門が沼田に近付いてくる。
 感心しているのか。それとも、驚いているのか。
 現実世界にいた時よりも変化する沼田についていけなかった。
 ただ、その後ろにいた園田は沼田の隣で。

「貴方達には分からないかもしれないけど、もうクラスのカーストとかないのよ、ここからは……生きるか死ぬかの問題」

「そんなことぉ? 分かっているつもりよ? ふふ、下らない事で気にしてるのは貴方の方じゃない?」

「やめろ、いや、クラスのカーストとかはないにしろ……どの世界に居たって自分の立ち位置ってものはある! んで、俺はこの中で……一番低いと自覚してる」

 周りを見渡しながら沼田は判断する。
 客観的に見てこれは分かっている。
 その中で模索して自分に成すべき事をするだけ。
 歯ぎしりしながら。沼田は拳に力を込める。

「笹森、今度は俺がお前の立場だ、だから、好きな用に使ってくれ」

「おいおい……自分から言うのかよ」

「お前にはまだ生きて貰わないと困るからな! うざったい他のクラスメイトをバンバン殺してくれよ!」

「いや、それは」

「こいつだ! こいつのせいだ!」

 一人の一般人が指を差して優に怯えている。
 優はそちらを振り向いて応答する。
 だが、言葉を発せずに無言のままだった。
 冷静さを欠いており、まともな判断が出来ていない。

「白い悪魔! お前が憲兵団を襲ったせいで……俺の家族も友人も」

「あぁ、あの時か」

「ちょ、ちょっと待ってくれ! それについては俺達から説明」

「あんた達は憲兵団なんだろ! こいつを庇うのか!」

 優は見られていたと軽く視線を逸らす。
 出水が前に出て説明しようとする。だが、その男は聞く気がない。
 飛野は暴れる男を制止させながら、事情を軽く話す。
 ただ、信じる事はしなかった。
 憲兵団の出水や飛野が言っても仕方がない。すると、ララが立ち上がり否定する。

「違います! スグルは……私の父親の為に憲兵団の人から奪い返してくれました! それに、スグルがいてくれたから……私達はこうやって助かっているんですよ!」

 ララの力強い発言。泣いている。胸をきゅっと締め付けられるように。
 男は黙り込み、優もララの方を見る。
 ありがとう、と言いたかった。しかし、遮るように問題はさらに大きくなっていく。

「憲兵団……私は知ってる、風間君と夏目さんに脅されている組織だって」

「そ、それは」

「まぁ、それは合っているわね! 実際ぃ? 葉月さんと霧川さんはそうだった訳だし? 貴方達もそうだったんでしょ?」

「はぁ? お前もその憲兵団だっただろ! というか、これを言い出したらキリがないだろ」

「落ち着いてよ! みんな!」

 白土が大声で叫ぶ。
 全員の視線が白土に集まる。
 もう、争いは白土にとって嫌だと主張しているかのように。
 ギルド協会内に静寂が走る。
 そして、間を開けた後。言葉を考える。叫んだのはいいが、何を言うか考えていなかった。

(どうしよう、どうしよう、私が何か言わないと)

 背中に冷や汗を感じながら。追い込まれる白土。
 ただ、隣にいた優は手を握る力を強くする。

 ――――安心する。重圧と緊張から解放される。
 もう怖くない。何も感じない。
 二人ならどんな困難も乗り越えていける。
 優は白土に無言で頷き、周りを見渡しながら口を開く。

「落ち着けよ、どんな理由があろうと、俺を生贄にした事は事実なんだから」

「お、おい、それは」

「とは言っても、あの壺がある限り、例えあの時俺じゃなくても他の人がなっていたと思う」

「……考えたんですけど」

 優の発言にララが口を挟む。現状の全員の敵はあの【狂化の壺】。
 そして、ラグナロの勇者と同胞。
 この街の人も苦しみ、何度も何度も辛い想いを体験してきた。
 ララは、真っ直ぐな瞳で、優達に訴えかける。

「やっぱり、まずは狂化の壺の破壊が先決なんじゃないんですか?」

「俺もそこの緑髪の子と同じ意見だ! あの壺がある限り俺も……安心出来ないからな」

「うーん、まぁ、私もかなぁ?」

「……うん、それがいい」

 ほぼ全員がララの意見に賛同する。
 成長したのは剣術だけではない。
 ララにも目的がある。精神的にも成長し、全員に提案する。
 優はじっとそれを見ながら。師匠として鼻が高い。
 そして、このやり取りを見ていたサーニャが優達にある事を言い出す。

 それは、優にとって。復讐しか生き甲斐がなかったあの頃にはなかった考え。

「いっそのこと……ここにいる人達で【冒険者】のチームを組むのはどうかしら?」

 サーニャの何気ないこの一言。
 全員の運命は急速に動く事になる。

「最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く